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雨の七夕

※郁人が幼い頃のお話です。




   郁人はリビングにて天気予報を

   見ながらため息を吐く。


   「明日も雨かあ……しかも、1日中……

   天の川見たかったなあ」

   「そんなに見たかったのか?」


   声をかけたのは篝だ。2人は宿題を一緒に

   やろうと集まっており、宿題を終えて

   リビングでのんびりしていたのだ。

   

   「うん。いつもここの縁側で見てたから。

   家の近くに大きい建物がないから空が

   ちゃんと見えるんだよ」

   「たしかに、ここは平屋が多いからな」


   遮蔽物が無いからなと篝は頷いた。

   郁人は見たかったなぁとため息を吐く。


   「それに、見ながら食べるゼリーも

   美味しいんだよ! 星空見ながら食べると

   また違うというか……!!」

   「お前、絶対にそれがメインだろ。

   花より団子だな」


   おばあちゃと一緒に作るんだけど

   美味しいんだよ! と郁人は絶賛する。

   そんな郁人を見た篝はあごに手をやり

   少し考えたあと口を開く。


   「俺にいい考えがある。明日も遊びに

   来るから」

   「いい考え?」


   きょとんとする郁人に篝は胸を張る。

  

   「ゼリーを用意して待ってろよ」

    「? わかった!」


   篝の言葉に不思議そうにしながら

   郁人は頷いた。


   ーーーーーーーー    


   次の日、大雨の中、篝は父親に車で

   連れてきてもらっていた。


   「いつも息子がすいません」

   「気にしなくてもいいとも。

   ほら、君もあがりなさい。

   せっかく来たのだから茶でもどうだ?」 

   「では、お言葉に甘えて……」


   篝の父親は郁人の祖父と会話している。

   玄関で出迎えられた篝は呟く。


   「俺1人でよかったのに、親父が

   送るって聞かなくてな……」

   「こんな土砂降りだから心配したんだよ。

   しかも、大きいの持ってるし。

   その両手で持ってるのはなに?」

   「お前の部屋で見せる。用意するから

   ここで少し待ってろ」

 

   そう言うと、篝は自分の家のように

   郁人の部屋へ行った。

   

   「どうしたんだろ?」

   「こんにちは。君が郁人くんだね?

   俺は篝の父親の(ほむら)です。

   篝といつも遊んでくれてありがとう」


   篝の父親、焔はきれいな笑みをみせた。

   郁人はぺこりとお辞儀する。


   「こんにちは、俺が郁人です。

   こちらこそありがとうございます。

   篝と遊ぶの楽しいですから」

   「そうかしこまらなくてもいいよ。

   これからもっと遊ぶことになると

   思うから。篝のことよろしく頼むよ。

   あの子、独占欲とかかなりあるから」

   「? はい!」

   

   独占欲? と首をかしげる郁人の頭を

   焔は優しく撫でた。

   

   「準備できたぞ!」

   

   そこへ篝がやって来た。

   頭を撫でる焔の姿を見て、駆け寄ると

   焔の手を篝が叩き、郁人を背中に

   かばって威嚇する。

  

   「郁人にさわんな!」

   「篝! お父さん叩いたらダメだよ!」

   「……だって、俺の許可なしに触った」

   「? 許可が必要だったら、篝の許可

   じゃなくて俺の許可じゃない?」

   「あはは! 我が子ながら独占欲が

   強いなあ!」


   不満そうな篝に郁人は正論を告げ、

   焔は楽しそうに笑う。

   それを見て、篝はむっとすると郁人の

   腕を掴む。


   「ほら、行くぞ」

   「待ってよ、篝! すいません!

   失礼します!」

   「気にしないで。遊んでらっしゃい」


   郁人は焔に頭を下げ、焔はひらひらと

   手を振った。

   

   「こら! ちゃんと謝らないとダメだよ!」

   「あとでやる。それより、ほら。

   見ろよ」


   篝は郁人の部屋のふすまを開けた。


   「わあっ!!」


   郁人は思わず目を見開く。

  

   「すごい! プラネタリウムだ!!

   とっても綺麗……!!」


   篝が持ってきたのは家庭用のプラネタ

   リウムだったのだ。

   プラネタリウムは部屋の中心に置かれ、

   星空を映し出している。

   天井と壁1面が星空で覆われて、

   とても幻想的な光景だ。


   「まるで星空の中にいるみたいだ!!」


   郁人は目をキラキラと輝かせた。

   そんな郁人を見て、ホッと息を吐いた

   篝は口を開く。


   「姉貴が持ってたから借りてきた。

   これなら天の川も見えるぞ。

   ほら、寝っ転がって見てみろ」

   

   篝は部屋に入って畳に座ると自分の

   隣をぽんぽんと叩いて寝転んだ。

   郁人は言われた通り、篝の隣に

   寝転がる。


   「本当だ! 天の川だ!! 今日は見れない

   って諦めてたから嬉しいよ! 見せてくれて

   ありがとう! 篝!」

   「……礼なんていい。姉貴が持ってるのを

   思い出しただけだからな」


   満面の笑みを浮かべる郁人に

   篝は頬をかきながら告げた。


   「こうやって見るのも悪くないだろ?

   星の名前とか教えてやるよ」

   「いいの?! じゃあ、あの星は?」  

   「あの星は……」


   郁人が指をさして篝が教えていった。


   

   ーーーーーーーー


   しばらく経って部屋をのぞいた祖父と

   焔は微笑む。

   

   「ぐっすり眠っているようだね」

   「本当に気持ちよさそうだ」


   部屋ですーすーと寝息をたてながら

   寝ているのは篝と郁人だ。

  

   「あの子、喜んでもらえるか緊張して

   眠れてなかったんですよ」

   「そうだっのかい?」

   「はい。しかも、教えられるようにと

   星空の図鑑まで引っ張り出して読み込んで

   ましたから」

   「あの様子だと郁人に喜んでもらえたん

   だろう。寝顔が晴れやかだ」 


   お互いに嬉しそうな顔で寝ているので

   見ればわかると祖父は微笑んだ。

 

   「もう少し寝かせておいてやろうかね。

   妻と郁人が作った特製七夕ゼリーは

   あとで渡すとしようか。

   君もどうかね? 2人は料理がとても

   上手なんだ」

   「ぜひ、相伴させていただきたく」


   祖父の誘いに焔は微笑むと、

   ゆっくりふすまを閉めた。


   雨が降ってしまったが、とても楽しい

   七夕になったのは言うまでもない。

   

   

  

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーー


リビングでゼリーをいただきながら

焔は質問する。


「ところで、郁人くんには双子の妹さんが

いるとお伺いしていたのですが……」

「あぁ、あの子ならたぶん……」


祖父は立ち上がると、郁人の部屋へと進む。

そして、ふすまをゆっくり開けてのぞき

こむとやっぱりと笑う。


「ほら、あそこだよ」

「……なるほど」


焔ものぞきこむと、そこには寝ている篝から

少し離れたところで寄り添う郁人と妹の姿が

あった。おそらく、妹は部屋で寝る2人を

見て郁人を篝から引き剥がしたあと、

郁人に寄り添って寝たのだろう。

その顔は誇らしげだ。


「あの子、友達との通信対戦が終わって

郁人に結果を言いに来たんだろう。

そしたら、仲良く寝てたものだから

割り込んだんだろうね」 

「お兄ちゃんを取られたくない妹ですね。

……もう少し寝かせておきますか。

たぶん、篝が起きたらうるさくなるので

それで起きたかわかりますから」


起きたあとの篝を予想できた焔は

楽しそうに笑った。




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