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28話 疑問の花が咲く



風の護りを抜け、役割を終えたと

炎のドームは霧が晴れるように

消えていく。


ドームが消えると、郁人の目には

様々な景色が飛び込んできた。


「すごい……!?

本当に浮かんでる…!!」


現実では有り得ない、

太陽に照らされ、雲と共に浮かぶ島。

小島も周囲に浮かび、空が海のようだ

と思わせる。


近づくことに見えるは、島の中央に

そびえ立つ、息を止めてしまう程の

美しさと高潔さを感じる、

世界遺産に登録されていてもおかしくない、

白亜の城。


賑わう声に下を見れば、

重厚な赤レンガが使われた

ゴシック建築の家が並ぶ城下町が見えた。


上空から見てもわかるくらい活気に溢れ、

ワイバーンを連れた人々も多数見える。


「あっ!ブレイズじゃないか?!」

「ヴィーメランス様もいらっしゃる!」

「見回りでしょうか?

いつもお疲れ様です!」


人々はブレイズの姿を視認すると、

恐れる気配は微塵もなく、歓迎するように

手を振る者やヴィーメランスを呼ぶ声が

聞こえた。


「ここがドラケネス王国……」


郁人は眼下に広がる景色を堪能していると、

ヴィーメランスが声をかける。


「父上。

今から拠点としている塔前に着地します。

衝撃に備えて俺から離れないように。

頭巾の貴様は自力でなんとかしろ」

「わかった」

「もとからそのつもりだ」


郁人は腰にまわされた腕に掴まり、

ジークスは股がる足に力を込めた。


ブレイズは白亜の城上空まで飛行し、

1番高い塔を目指す。


近づいていくごとに、

塔の周囲に人影が見えてきた。


人影は塔の前に集まっており、

着地しやすいように空間を空けている。


1部はヴィーメランスを見て目を

丸くしていた。

正確に言えば、頭部辺りを見てだ。


(……軍帽がないからかな?)


郁人は検討がついた。


(ヴィーメランスは軍帽を

着用していたからな。

俺が描くとき、ヴィーメランスの髪型を

描き慣れる為に帽子無しの姿を

よく描いてたっけ)


描き慣れるのに苦労したことを

思い出しているとスペースが空けられた

塔の前にブレイズは静かに着地する。


ブレイズが気を配ったのだろう、

衝撃もあまりなく、一瞬体が

少し浮いた程度だ。

チイトも隣に舞い降りる。


「ブレイズありがとう」


郁人はブレイズの頭を撫でていると、

先に降りていたヴィーメランスが

手を差しのべる。


「高いですから、どうぞ」

「ヴィーメランスもありがとう」

「当然のことをしたまでです」


郁人は手を取り、降りると感謝を告げた。

礼を言われたヴィーメランスは1礼する。


「そういえば……」

「お帰りなさいませ、ヴィーメランス様」


帽子の所在を聞こうとした矢先、

鈴を転がしたような声が耳に入った。


声の主はヴィーメランスの後方にいた。

騎士達を引き連れ、中央に立っている。


ヴィーメランスで隠れて見えなかった

郁人はのぞきこみ、息を呑んだ。


咲いたばかりの百合のように清楚で、

雪のように白い髪に王冠を乗せている。

肌も白く、新緑の大きな瞳を縁取(ふちど)

長い睫毛。

ドレスの上からでもわかる、体つきは

華奢そのもの。


触れれば溶けてしまいそうな程、

か弱く思えるが、瞳から意志の強さが

感じられ、アンバランスさを感じさせる。


彼女がいる場だけ空気が澄んでいる

と思わせる美しさがあった。


(綺麗な人だな……)


郁人は思わず口を開ける。


「突然出ていかれましたので、

何かあったのではと心配でしたのですが……

ご無事で安心しました」


彼女はヴィーメランスに軽くお辞儀する。


「貴様は客将相手に軽々しく

頭を下げるな」

「客将の前に貴方様は(わたくし)の恩人ですから」


ヴィーメランスは振り返り、

態度に眉をしかめるが、

彼女は気にせず優雅に微笑む。


周囲の反応から見ていつもの事だと

察せた。


「ヴィーメランス、この方は……?」


騎士を引き連れ、王冠と雰囲気から

明らかに別次元の人だとわかった

郁人は尋ねた。


ヴィーメランスは問いに答える。


「この者はドラケネス王国女王

"リナリア"です」

「はじめまして。

私はリナリア・フォン・ドラケネス

と申します」


ヴィーメランスに紹介されたリナリアは

ドレスの裾をつまみ優雅に礼をする。

映画の1シーンを思わせるようだ。


「はじめまして、郁人と言います!

ヴィーメランスがお世話になっている

みたいで……」


郁人も慌てて礼をする。


(母さん達で綺麗な人は見慣れていた

つもりだったけど、女王様も綺麗な人だな。

……ジークスの妹だし美人じゃない訳

ないか)


左に立つ頭巾を被った美丈夫、

ジークスを見て納得する。


(でも、顔つきとか雰囲気が違うな。

ジークスが父親、女王様が母親似

なのかな?)


見ただけでは、兄妹とは思えない2人を見て

郁人は考えていると右隣に居るチイトが

答えを告げる。


<こいつら母親が違うみたいだよ>

(そうなのか?!)

<うん。

でも、竜人は一夫多妻制じゃなかった筈……。

ジジイの母親は体がかなり弱かった

みたいだし、血を繋ぐためにかな?

王族とかは、特に血を絶やすの

嫌がるから……。

国ごと滅ぼされたら意味無いのに>

(それ出来るのチイトくらいだから)


無駄な労力だと言うチイトに、

郁人はチイトの異名の由来を思い出した。


「貴方様がヴィーメランス様の…」


リナリアは名前を聞き、郁人を見て

すばやく(まばた)きをすると一瞬、

胸を撫で下ろした。


郁人はそれを見過ごさなかった。


(なんで安堵したんだろ……?)


脳に疑問の花が咲くなか、

リナリアは口を開く。


「お話はヴィーメランス様から

お聞きしておりました。

どうぞ、ドラケネス王国を

楽しんでくださいね。

イクト様」


丁寧にお辞儀され、郁人は更に慌てる。


「あの!俺に様は必要ないですので……!」

「いえ、ヴィーメランス様が尊敬し、

唯一無二の存在と認められている御方。

そのような御方に無礼はできません」


郁人が訂正するもリナリアは首を

縦に振らず、態度を改めるつもりは

全くないようだ。


チイトとヴィーメランスはリナリアに

同意する。


「そうです父上。

父上こそ、この者達に対し敬語は不要です」

「そうだよ。

パパが1番なんだから」


ヴィーメランスの言葉に

チイトも頷きながら郁人の右腕に

抱きつく。


リナリアはチイトをしばらく見た後、

雪のような肌を更に白くする。


「黒の髪に赤い瞳、頬の紋様に

黒いマント……

ヴィーメランス様……!!

この方はもしや……?!」

「察しの通りだ、こいつはチイト。

"歩く災厄"と言ったほうが

わかりやすいか?」

「やはり……あの……?!」


リナリアは体を(こわ)ばらせた。


他の者達と同じ反応から、

ドラケネス王国でもチイトの異名が

知れ渡っていることが見てとれる。


ヴィーメランスは気にせず話を続ける。


「父上は勿論、チイトもしばらく

俺の塔で過ごす。

ゆえに宿とかの心配は無用だ。

あと、話があるのだが……」

「わかりました。

では、晩餐(ばんさん)のときに聞かせていただきます」

「言っておくが他は招かぬように。

人がいるほど混乱を招く恐れがある。

なにより、こいつの機嫌を少しでも

損ねたら面倒だ」

「かしこまりました。

私と護衛騎士1名のみ同席させて

いただきます」


ヴィーメランスが視線でチイトを示すと、

リナリアは息を呑み、頷いた。


これではどちらが上の立場かわからない。


前の光景を見て、異議を唱える者や、

違和感を抱いている者は誰もいない。


その光景にまた、疑問の花が咲き誇る。


(竜人は忠義に厚いと聞いていたけど……

女王様に対して無礼と思われても

おかしくない態度をとっている

ヴィーメランスに誰も注意しない

なんて……)


郁人は顎に手をやる。


(客将は勢力に属していない客の立場の

将軍で、完全な味方ではない。

世話になりつつ、自由に行動できる

とはいえ、女王様に対してあの態度は

まずいのでは?)


頭を捻らせる郁人にジークスが

声をかける。


「どうかしたのかイクト?」


ジークスを見て更に郁人は頭を捻らせる。


(さっきからだけど……

なんで見えてるの、俺?)


ジークスが頭巾を被っているのに

郁人には見えているのだ。


周囲の反応から、見えてないのに違いない。

が、郁人にははっきり見えている。


じっと見つめられたジークスは、

郁人の疑問に気づく。


「もしや、見えていることに疑問を

抱いているのか?

伝説によれば顔無し兜は、被った者が

見えてもいいと判断した相手には

見える仕組みらしい。

俺は君に見えて欲しいと判断したため、

君にしか見えないようになっているんだ」

「なるほど……」

「それに……」


ジークスは郁人の頬に触れる。


「こうして触れることも可能だ。

君に万が一のことがあっても守れるから

安心してほしい」

「どうかされましたか?!

どこか具合でも?!

雑菌が近くにおりましたか?!」


ヴィーメランスが郁人の様子を心配し、

2人の間に綺麗に割り込む。


「……いや、なんでもない。

大丈夫だ」

「そうですか……

ですが、無理はなされないように」

「そうだよパパ。

自分第1だからね」


チイトも腕から離れ、

ジークスと郁人の間に割り込む。


「君以外には見えないはずなんだがな……」


ジークスは2人を見ながら苦笑する。

反応からして見えてないとできない

割り込みだ。


<……2人ってジークスのこと

見えてるのか?>


郁人はチイトに話しかけるように意識し

心で呟くと、返答はすぐにくる。


<俺やヴィーメランスも見えてないけど、

パパに近づいたってなんとなく

勘づいたというか……>


どうやら、恐ろしいまでに2人の勘が

鋭いようだ。


「女王よ、俺達は晩餐までの間、

塔で過ごしておく。

時間になればこちらから直接向かう為、

迎えは不要だ」

「かしこまりました。

では、晩餐の時に」


リナリアはヴィーメランスの言葉に頷く。

頷く姿を見たヴィーメランスは胸に

手を当て郁人に1礼する。


「では父上、塔の中を案内させて

いただきます。

ブレイズ、ご苦労。

小屋でくつろいでおくといい」


よくやったとヴィーメランスは

待機していたブレイズに歩み寄り

頭を撫でる。


ブレイズは気持ち良さそうに目を細め、

尻尾を嬉しそうに振った。


郁人はその光景に胸が温かくなる。


(良いな……。

ペット欲しかったけど飼えなかったし

あんな風に懐かれて……)


思わず郁人は呟いた。


「羨ましいな……」

「羨ましいです」


郁人と同時にリナリアがため息を漏らした。

2人は視線を合わせる。


リナリアはなぜか目を泳がせ、

焦っているようだ。


「あの……」

「パパは羨ましいの?

あの竜みたいなのが欲しいの?」

「欲しくても飼えなかったからな……」


リナリアの言葉の意味を聞く前に

チイトが尋ねてきたので郁人は返答する。


「父上どうぞこちらへ」


ブレイズが小屋に向かうのを見届けた

ヴィーメランスにエスコートされ、

郁人達は塔の内部へ入った。


(……なにが羨ましかったんだろう?

俺とはニュアンスが違ったような……)


郁人は首を傾げる。


「あの感じは……

もしかして…………」


その後ろ姿をリナリアが見ていたことを、

郁人は知らない。



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