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侮辱されて我慢ならないのは客将だけではない




   グラーンド王国の城にある地下牢。

   そこには頭をかきむしりながら、

   ブツブツと呟く者が1人。


   「なんでこんなことに……!!

   俺は悪くない……悪くない!!

   あいつがあんな奴を連れて来るから!

   客将だときちんと俺に伝えてくれ

   なかったからこんな事になったんだ!!

   それに、あんな弱そうな奴を尊敬

   してるのもおかしいんだよ!   

   普通は王族のあいつを尊敬してる

   のが当たり前だろ! あんなヒョロっと

   してて頼りない普通な奴を尊敬してる

   のが変なんだよ!! あいつが尊敬している

   相手もおかしいだろ!! 平然と王族に

   話しかけやがって! 頭を垂れて敬服

   しやがれ! 平民ごときが!!」


   現実を受け入れていないテイルだ。

   

   テイルはあのあとすぐ地下牢に入れられ、

   正式な処分、身元引受人であり、

   これからみっちりしごかれることになる

   相手、ジェネルが来るのを待っている。


   「ジェネル兄さんは嫌だ……!!

   王族だろうと鍛えておくにこした事は

   ないからって鍛錬に連れて行くし……!

   もっと周りを見ろとかうるさいし!

   サンドライト兄さんはこれを勉強しろ

   とうるさくて仕方ないし、自分の

   立場を考えろとかわかんないから

   ジェネル兄さんはよりはマシか……?」


   どうにかして変更できないかと 

   考えるテイルに声がかかる。


   「ここまで愚かだと笑いぐさだな。

   差し伸べられた手を全て面倒だと断った

   結果がこうなるとの勉強にはなるか?」

   「3男はあの優秀な気質を継いでいな

   かったことに誰も気づかなかったことも

   笑えるぞ。末代まで語られるんじゃね

   えか?」

   「!?」


   見れば"歩く災厄"であるチイト。

   横には"プリグムジカの国宝"である

   エンウィディアがいた。

   明らかに嘲笑を浮かべている。

   鉄格子の向こうであざ笑う2人に

   テイルは声をかける。


   「ーーーーー!!!」


   が、声が出ない。

   必死に声を出そうとするがのどから

   音は出ない。ただ口を開閉するのみだ。


   「騒がれても鬱陶しいからな。

   あいつの真似だが空気に軽く施した」

   「テメェ……俺の前でわざわざやるか?」


   チイトは呟き、エンウィディアは郁人を

   眷属にしようとした際に妨害された魔法を

   目の前で使われて不愉快そうだ。


   「と、無駄口叩いてる暇はないか。

   あとで貴様と話すことがあるから

   とっとやるぞ。それにパパの悪口も

   ずっと頭で言ってるから黙らせたい」

   「ったく、コソコソやるなんざ

   面倒くせぇんだがな」


   エンウィディアは舌打ちしたあと

   竪琴を奏でだす。


   〜〜〜〜♪


   「ーーーーー!?!?!」


   音色が耳に入った瞬間、テイルの脳裏に

   映像が浮かぶ。  

   

   「少しお節介を焼いてやろうかと思ってな。

   貴様の思い違いを正してやる。この音色は

   記憶を掘り起こす音色。貴様の思い違いを

   正す音色だ」


   チイトは意地悪な笑みをニヤリと

   浮かべる。


   「ーーーーーーーーー!?!?!?」


   だが、テイルにはチイトの言葉は

   聞こえていない。

   なんせ自分の記憶を無理やり掘り起こされ

   て頭に激痛が走っているからだ。

   テイルは激痛に床に倒れ込み、頭を

   抑えて痛みから逃れようともがく。


   「お? 痛いか? 泣きじゃくってみっとも

   ねえな」

   「本来なら痛みはねえんだが、今回は   

   特別だ。ありがたく思えよ。

   ついでに貴様の心が傷つくたびに

   痛みが走るようにもしたからな」  


   チイトは鼻で笑い、エンウィディアも

   せせら笑う。


   2人に嘲笑されているテイルの脳裏に

   浮かぶのは幼い頃の記憶。


   ー リナリアと初めて会ったときの

   記憶だ。


   いずれ婚約者となる可能性が高いからと

   グラーンド王国の城の中庭にて3国の姫君

   が集まっている。

   それぞれの国が紹介をし、3番目、

   最後に自己紹介するドラケネス王国の

   姫君にテイルの目が釘付けとなった。   


   『お初にお目にかかります。

   私はリナリア・フォン・ドラケネスと

   申します』


   幼い頃の彼女が綺麗なカーテシー、

   片方の膝を曲げ、もう片方の足を後ろに

   引いてお辞儀する。

   微笑みはとても可憐で、白百合が

   咲き誇るような優雅さもあった。

   

   3番目に紹介された彼女が自分の

   婚約者になるのだと思った。


   ー が、実際は違う。


   見惚れていたから聞こえていなかった。

   第1王子であるジェネルに自身の父親、

   王が伝える言葉を。


   『ジェネル、彼女達がお前の"婚約者候補"

   である。きちんと交流し、将来支えあえる

   者を選ぶのだぞ』

   『はい、父上』

   

   彼女達はジェネルの婚約者候補。

   けっしてテイルの婚約者候補ではないのだ。

   

   ー 彼女が自分の婚約者候補だったことは

   1度も無いのだ。


   「ーーーーー!!!!!!!!」


   思い出してしまったテイルは目を見開く。

   自分の思い違いだったことに気づいたの    

   だから。  


   彼女は1度も自分の手の届く存在では

   なかった。

   けっして、触れることすらできない

   存在だった。

   

   そんな彼女に自分はなにをした?

   思い込みから彼女を侮辱したのだ。

   彼女からしたら顔見知り程度の人物に

   なぜそのような態度をされるのか

   理解不能だっただろう。

   そんな態度をとる自分に対して

   不愉快な思いを抱いただろう。 


   ー 好かれることなど到底あり得ない。 


   現実に気づいたテイルは頭をふりかぶる。  

   そんなテイルにチイトは告げる。


   「あの女が貴様の婚約者だったことや、

   候補にあがったことなど1度もない。

   あの女の頭を少し読んでみたが貴様と

   会ったことすら覚えてなかったぞ」


   貴様の一方通行だなとチイトは笑う。


   「貴様のことなど外交の勉強に連れて

   こられた者としか認識していない。

   そして、今回でさぞ不愉快な思いをした

   ようだ。2度と会うことがないことに

   心底ホッとしているな。こんな非常識な王族

   の意識が欠片もない輩とはもう会いたく

   ないと」

 

   ー <もうあの方と会うことがなくて

   本当に良かった。外交の場であのような

   目に余る行為をする方がいては落ち着いて

   話なんて出来ませんから>


   チイトはリナリアの心の声をテイルに

   聞かせた。


   「ーーーーーー!!!!!」


   リナリアの心底ホッとした声に

   テイルの心は引き裂かれるよう。


   ー <それにしても、ヴィー様は

   なんて素晴らしいのでしょうか……!!

   イクト様を侮辱されたにも関わらず、

   自分の感情よりもイクト様のお心を

   優先するあの御姿!!

   自分が尊敬するのはイクト様なのだと

   ダメ押しのように態度で示して2度と

   勘違いされないように配慮するご様子も

   素敵でした……!! カッコ良すぎます、

   ヴィー様!!!>


   「貴様のことなどもう忘れてあいつの

   ことを考えているな。外交は終わっている

   とはいえ、余裕だなあの女」

   「テメェのことなぞ路傍の石程度、

   それ以下の存在なんだろ」

   「ーーーーーー!!!!」  


   とくにエンウィディアの言葉が胸に

   突き刺さったのだろう。

   テイルは泣きじゃくり、痛みで

   胸をかきむしる。


   「好きな女が別の男の惚気をずっと

   考えていて衝撃が凄まじいようだな」

   「おい、チイト。ついでに今までの

   こいつの行いを客観的に見れるやつ

   出来るだろ? あの生物やレイヴン無しでも

   出来るように俺が音で補助してやる。

   さらに痛みつけるぞ」

   「……盗み聞きしてやがったのか。

   まあ、いいぞ。これは危ないことでは

   ないからな。なんせ命に危険などは

   無いからな」


   チイトは邪悪な笑みを浮かべて

   準備にかかる。


   チイトとエンウィディアは人違いとは

   いえ、郁人が侮辱されて我慢ならなか

   ったのだから。


   この行いは彼らの気が済むまで続いた。


   「……何があったんだ?! おいテイル!!

   しっかりしろ!! テイルっ!!」


   引き受けに来たジェネルが見たのは 

   生気の無い、髪を老人のように白くした

   魂が抜けたテイルの姿だった。



ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーー


「あと、貴様とはまだ話したいことが

あるからな。これが終わったら話すからな」

「……めんどくせえ」


チイトの言葉にエンウィディアは舌打ちした。


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