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263話 カーネリアン公の屋敷にて




   地下世界の広がるグラーンド王国。


   カーネリアン公の居住区、屋敷があるのは

   星空のように鉱石が頭上で輝いている場所

   だった。


   「まるで満点の星空の下にいるよう

   でしょう? この下でのんびり過ごすのが

   私は好きなのよ」


   その屋敷の中庭にて、郁人達をもてなすのは

   背筋がピンとした品の良い婦人、グラーンド

   王国の元王妃であり、カーネリアンの妻

   "クオーツ"だ。


   (まさか、あの常連さんが本当に王族

   だったなんてな……)

   〔あの元王様、隠居してから観光に

   行ったりして楽しんでるそうよ。

   奥さんは体が弱いから一緒に行けなくて

   そのためにお土産とか大量に買ってる

   みたいね〕


   隠居生活を満喫してるようね

   とライコは告げる。


   〔てか、なに堂々と街中を歩いてるのよ。

   普通にあんたの店に通ったりしてるけど、

   元王族だから結構な数の護衛とか付けないと

   危なかったりするのに。自由すぎない?〕


   ライコは思わず呟いた。 


   〔あと、猫被りは危険がないか見てくる

   って俺様人魚を引きずってどこか行った

   し〕

   (もしかしたら、2人で話したいことでも

   あるんじゃないか? プリグムジカでは 

   かなりバタバタしてたし、アマポセドさん

   についてくるなって言ってたから)

   〔それは一理ありそうね。

   ……あんたのそばを離れるとなにか

   仕出かしそうで怖いのだけど〕

   (危ないことはしないって言ってたから

   大丈夫だと思うぞ)


   ライコが考え込んでいると、クオーツが

   郁人に話しかける。


   「貴方が作ったパンケーキ、あの人が

   無理言って持ち帰り出来るようにさせた

   のでしょう? ごめんなさいね」

   「いえ、気になさらないでください。

   そこまで言っていただけるほど気に

   入っていただけたという事ですから」


   郁人は答えながら、紅茶を飲む。


   「そう言っていただけるとありがたい

   わ。紅茶のおかわりはいかが?」

   「奥様! 注ぐことなどは私達が……!」

   「いえ、させてちょうだい。

   孫が大変失礼なことをしたんだもの。

   しかも戦争一歩手前だったところを

   救ってもらったんだから」


   あわてる執事やメイド達に告げ、

   クオーツは郁人のカップに紅茶を注いだ。


   「それにしても……まさか禁句を言う

   なんてね。好きな子に見てもらえない

   からといって、そんな事してはいけない

   わ」


   クオーツはため息を吐いたあと、

   頭を下げる。


   「改めて、私からも謝罪をさせて

   ちょうだい」

   「あの、頭をあげてください!

   俺はもう気にしておりませんから。

   それに……彼はもう罰を受けてるん

   ですよね? たしか地下牢に入れられて

   いるとか……」


   郁人が告げるとクオーツは頷く。


   「えぇ。あの子はこの国を滅ぼして

   いたのかもしれませんから。

   たとえ、王族であろうと……いえ、

   王族だからこそ責任を果たさねば

   なりません。ですから、今は地下牢に

   入れられています」


   あの子は王族としての自覚がなかった

   とクオーツは告げる。


   〔まさか地下牢とはね……。

   たしかに、国を巻き込んだ戦争になった

   可能性は高いし、王子を守って燃やされた

   騎士のためでもあるんでしょうけど〕


   あの俺様人魚がいなけりゃ城も燃えて

   たものとライコは呟いた。


   「本当なら命をもって償うことの

   ものなのだけど、貴方は気にされる

   でしょ? 」

   「……はい。俺が侮辱された訳では

   ありませんし、リナリア女王も命を

   かけて償ってほしいとは考えていない

   ですから」

   〔あの女王も命まで奪うことは

   考えてないものね。もうあの王子と

   顔を合わせるのは嫌みたいだけど〕

 

   外交の場をめちゃくちゃにする奴が

   これからもいるのは嫌だものね

   とライコは呟いた。


   「あの子はもう王族ではなくなり、地下牢

   から出たあとは第1王子の下で厳しく

   鍛えられることになりますから。

   第1王子はそれはもう激怒していて

   徹底的にするでしょう。ですから、

   もう顔を合わせることはないわ」

   「それは王位継承権から外れるという

   ことでしょうか?」

   「ええ。もともと可能性は低かったの

   だけど、もう皆無になったわね。

   第2王子の補佐になる可能性もあったの

   だけどそれもなくなったわ」

   「話に割り込んですまない。

   では、第2王子が王位を継承することで

   間違いないだろうか?」


   ジークスが気になったのか話に入ってきた。

   ジークスの問いにクオーツは頷く。


   「えぇ。第2王子が継承することになって

   いるの。第1王子は軍事面での補佐にあたり

   たいと志願したから。もともと第2王子が

   有力候補だったのだけど、第1王子が辞退

   したことで確定になったわ」 

   「では、第3王子をあの場に連れてきた

   のは外交や政策などの補佐にしたかった

   からか?」

   「えぇ。本人はまだ継承できるとは考えて

   いたようだけどね。周囲はもう第2王子を

   王にと決めていたの」


   あの子だけ気づいてなかったようね

   とクオーツはため息を吐く。


   「軍事方面は第1王子がいるから

   今回の外交を勉強にもと思っていた

   みたいだけど……」

   「結果は国の滅亡を招きかねない事態に

   なってしまった」

   「本当に残念だわ。あの子は自分を 

   過大評価していたわね」  

   「……あの、少し気になることがあるの

   ですが」

   「構わないわ。なにかしら?」

    

   郁人は気になることを尋ねる。


   「第3王子はリナリア女王との婚約が

   流れたと思っていたようですけど

   本当に婚約しそうだったのですか?」

   〔そういえば、猫被りは婚約が流れたと

   "思ってる"って言ってたものね〕 

   (そうなんだ。だから少し気になって……)


   郁人はチイトの言葉でそこが気にかかって

   いたのだ。尋ねられたクオーツは目を

   ぱちくりさせる。

   

   「あら、そんな婚約は無いわよ。

   リナリア女王との婚約があったのは 

   第1王子ですもの。あの子との婚約の

   話があった事なんて全く無いわ」 

   「ということは……」

   「完全な思い込みね。あの子が

   そんな思い違いをしていたなんて。

   どこでわかったの?」


   クオーツの言葉に郁人は素直に答える。


   「チイトが記憶を読んだみたいで

   それで教えてもらいました」

   「まあまあ!! 本当なの?!」

   「チイト殿は出来ますな」  

   「あいつには出来ないことのほうが

   少ないだろうよ」


   ポンドは頷き、篝はなんでもありだと

   呟いた。 

 

   「あなたの周囲には驚きが満ちている

   わね! そんな貴方を尊敬する客将さんも

   とんでもない実力者ですし!」


   あなたは惹きつける才能があるのかしら?

   とクオーツは首を傾げる。


   「しかも、あの歩く災厄や孤高のいる

   パーティメンバーの1人であり、美味しい

   パンケーキを作れるシェフなんだもの!

   あなた自身も驚きの1つね!しかも、

   噂になっていた傭兵さんも仲間に

   なっているんだもの!」

   「噂ですか?」


   郁人は目をぱちくりさせ、クオーツは

   続ける。


   「えぇ。そこの傭兵さんは護衛依頼には

   必ず指名され、専属の護衛にしたいと

   いろんな方がアプローチしているとても

   凄腕な傭兵さんって聞いていたもの。

   その反応から見て、あなたは知らなかった

   のね」

   「はい……それは初耳でした」


   知らなかったと郁人は目をぱちくり

   させた。


   〔専属にしたいって結構な腕がないと

   言われないわよ。でもまあ、あんたを

   ストーカーしてたときのこと思い出し

   たら納得ね〕


   誰にも気づかれずにあんたを守ってた

   んだしとライコは呟いた。


   「やはり君だったか。あの噂の傭兵は」

   「カガリ殿は腕が立ちますからな」


   ジークスは納得だと頷き、ポンドも

   そうでしょうなと笑う。


   「お前が知らなかったことに驚きだが……。

   まあ、どう思われようが知ったこと

   ではない」


   どうでもいいと篝は吐き捨てる。


   「が、お前がどう思うかは気になる。

   どうだ? 俺は結構腕が立つ方だと

   自負している。このパーティ内では

   下の方だが、いずれ追い抜く。

   お前にとって俺はどうだ?」


   俺についてどう思う? と篝がぐいぐい

   郁人に聞いてきた。郁人は質問に答える。


   「篝はすごいと思うよ。ずっと俺のこと

   守ってくれてたって知ったときは驚いた

   なあ。いつも守ってくれてありがとう」


   小さい頃から守ってくれてるし

   と郁人は感謝する。


   「あと、実力もあるってきいて

   変わらないなあって思った。

   篝は努力を惜しまないから、もっと

   強くなるんだろうなあ。いつも努力を

   惜しまない姿がカッコいいよね。

   努力できるのもまた才能だし、努力

   するかは本人次第だからさ」


   郁人は素直に答えた。


   「だから、篝はスゴイよ」

   「………そうか、そうか。まあ、当然の

   評価だな」


   腕組みをし口調は自慢げだが、顔は

   真っ赤になっている。嬉しかったのが

   明らかだ。


   「嬉しかったんですな、カガリ殿。

   素直に表現するのも良いかと思いますが」

   「素直さはイクトの美徳だからな。

   彼の素直さは心に響くものがあり、

   虚飾もない純粋な言葉もあってさらに

   響くものだ」


   ポンドは篝の反応から見て察し、

   ジークスは自分のことのように 

   誇らしげだ。


   そんな3人を見て、クオーツは微笑む。


   「フフ。どうやらシェフがパーティの

   欠かせない人物なのね。特に従魔さん

   は頑張って守らなくちゃいけないわ」

   「本当にそうだよね。しっかり守りなよ。

   でないと旦那様がキレちゃうし」

   「はい。そうだと私も理解しており

   ますとも」

   〔こいつが倒れたら終わりだものね、

   世界が〕


   クオーツと会話を見守っていたアマポセドの

   言葉にポンドとライコは同意した。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーー


城の1室にてある兄弟が話している。


「まったく……あの愚弟はとんでもない

事をしてくれたな!!」


眉間をしかめているのは第1王子である

"ジェネル"。


「起きた事を嘆いても仕方ありません

が……本当にとんでもないことをしてくれ

ましたよ」


ため息を吐くのは第2王子の

"サンドライト"。


ジェネルは辺境に魔物が出現したので

それの対処、サンドライトは外交へ行って

いたのだが、テイルの愚行を知り、

仕事を終えたあと急いで飛んで

帰ってきたのだ。


「外交の場で女王を侮辱など……

外交などさっぱりの俺でも禁句だと

わかるぞ!! 父様は竜人の気質が薄いから

他の国にて外交する際、竜人の気質により

発生するかもしれない問題にも対処出来ると 

考えていたようだが……もうあれは

駄目だろ!!」

「そうですね。もう外交などもってのほか。

国政に関してもなにかしでかしそうで任せる

事など到底出来ません。あれの処遇はあなた

の下でみっちりしごかれる予定ですが……。

他に任せたら命が危ないからでしょうね」

「あぁ。禁句を言った挙げ句、守った騎士に

関しての感謝や謝罪もねえからな。

しかも相手の女王が悪いだの目も当てられ

ねえぐらいに愚鈍だ。徹底的に根性もろとも

叩き直してやる……!!」


拳を握りしめ、額に青筋を走らせる

ジェネルにサンドライトは頷く。


「ぜひそうしてください。あれが

とんでもない事をしてくれたので  

ドラケネス王国に対して一生では

返せないほどの借りが出来てしまい

ましたから」

「……救国の大英雄、ヴィーメランス殿の

尊敬する御方を呼んで剣を収めてもらった

事か」

「えぇ。ドラケネス王国の近衛騎士が

連絡先を知っており、その御方が気にされる

と思い連絡しましたからね。そのおかげで

わが国は滅亡を免れましたから」

「本当にとんでもねえ借りが出来たな」


ジェネルは額に手を当てた。

サンドライトは告げる。


「しかも、その方はあの歩く災厄を

制御できるとんでもない方です。

その方がGOサインを出せば客将殿は

もちろん、歩く災厄までもが動きます。

決して下に見たり、侮辱したりしない

ように徹底的に周知しなくては」

「それはもう徹底的にしねえとな。

ついでに、あの楽神もその御方の

指示に従うようだぜ? これはとんでもない

御方のようだ」

「……本当にこの国はドラケネス王国と

その御方に大きな借りが出来てしまい

ましたね」

「本当にな」


2人は揃ってため息を吐いた。  




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