261話 激流は炎もろとも呑み込んだ
どこからかあふれ出した大量の水、
激流がすべてを呑み込む。
「なんだこの水は?!」
「いったいどこから?!」
「流される……!」
「うわああああ!!」
炎で満ちていた城内は消火され、
燃えていたグラーンド王国の
騎士達はそのまま流されていく。
「私から離れるでないぞ!!
しっかり掴まるんだ!!」
王は王妃とテイルを守るように
抱きしめると自身の体を魔力で強化し、
流されてそのまま壁に打ち付けられる
ことを防ぐ。
「この水は……あいつか!」
ヴィーメランスはすぐ炎の壁を作り、
流されることを、濡れることも防いだ。
「なぜあいつがここにいる?!
いや、それよりも……!!」
が、ヴィーメランスが気になるのは
水の出処ではなく、声の主だ。
「ヴィーメランスやめて!」
声の主である郁人はヴィーメランスの
もとへ走る。
「パパ! 突然走ったら危ないよ!
足元水浸しなんだから!」
「あの水量をどこからともなく出せる
とは凄まじいものだ。おかげで火が
消えた」
「まずなんで城の中でこんな事に
なってるんだよ」
「それは私も気になりますな。
ヴィーメランス殿は無闇矢鱈と
危害を加える方ではありませんからな」
「ヴィーくんの炎を消しちゃう、
しかもあれだけの激流を魔道具無し
操るって……!! 彼、何者なんだい?!」
「氷ではなく、水を操るのは至難の技と
聞いたことがあるのですが……!!」
後ろにはチイト、ジークス、篝、ポンド、
サイネリア、リナリアだ。
サイネリアとリナリアはヴィーメランスの
もとへ向かっている途中で合流したのだ。
「相変わらず炎が凄まじいもんだ。
軽めとはいえ水を炎の壁で蒸発させ
自身を守ったか」
「あれ軽めなんです!? 人がそのまま激流
に呑まれて流されたんですけど!!
てか、旦那様いきなり現れて驚いたん
ですからね! しかも、移動するイクト
ちゃんの腕を掴んで同行するとか……!!
僕もとっさに旦那様の服を掴んだから
同行出来ましたけど、出来なかったら
旦那様が消えたと大騒ぎになってま
したよ!! 連絡したから大丈夫です
けど!」
そして、転移の間際に郁人の腕を掴み
同行したエンウィディア、そのエンウィ
ディアの服を慌てて掴んだアマポセドだ。
「父上?! なぜこちらに?!」
だが、ヴィーメランスは郁人しか
目に入らない。
「このような場にどうしていらっしゃ
るのです?!」
ヴィーメランスは郁人のもとへ駆け寄る。
「サイネリアからコンタットが来て、
チイトに連れて来てもらったんだ!
なにがあってこうなったのか教えて
ほしい!」
「…………サイネリア」
ジークス達と共にいるサイネリアを
ヴィーメランスは睨む。
睨まれたサイネリアは弁明する。
「いやだって、イクトくん後から知ったら、
絶対に気にするだろうなって思って。
イクトくんは気にするタイプでしょ?」
「……父上なら、たしかに気にかけられ
るか」
一理あるとヴィーメランスは息を吐く。
郁人はサイネリアに感謝し、ヴィーメランス
に尋ねる。
「教えてくれてありがとう、サイネリア。
で、ヴィーメランスはどうしてこうなった
んだ?」
「理由はあれが父上を侮辱したからです」
「ひっ……!!」
ヴィーメランスはテイルを睨む。
睨まれたテイルは縮み上がり、
父親である王の陰に隠れる。
「竜人族は尊敬する方を侮辱されたら、
即開戦でしたな……」
「……成る程」
ポンドは説明に納得し、チイトは辺りを
見渡したあと、呟く。
「パパ、こいつ止めなくてもいいよ。
自業自得だから、開戦も仕方ない。
むしろ、開戦してないほうがおかしいよ」
「どうしてだ?」
「だって、そこの地竜人の王子は
ドラケネス女王を侮辱したつもり
だったんだよ。竜人の気質が薄いのか、
ただ馬鹿なのか侮辱されたら開戦の
ことも忘れてね」
本当馬鹿だよねとチイトはあざ笑う。
「で、ヴィーメランスの尊敬するのが
女王だと勘違いしたまま侮辱したんだ。
ヴィーメランスが尊敬しているのはパパ
なのにね。客将とも伝えてあったのも
忘れてさ。それで、ヴィーメランスが
キレて燃やしまくったみたい」
「だから、サイネリアも止めなかった
んだ」
「陛下を侮辱されて止めるなんて
ことはしませんよ、僕。
陛下が止めてなかったら僕も参加
してますから。止めるなんてねえ?」
ありえないよとサイネリアは告げた。
「まあ、イクトくんは気にするだろうな
って思ったからコンタットで連絡したんだ。
気づかなかったらそのときは放置で」
〔放置されてたら、国ごと滅んでたん
ですけど……〕
サイネリアの言葉にライコは思わず呟いた。
「エンウィディアも火を消してくれて
本当にありがとう」
「この俺を火消しにするなんざ
テメエぐらいだろうよ」
「本当にね。プリグムジカの国宝、
楽神に火消しさせるなんて、イクト
ちゃんくらいだよ」
エンウィディアはわざとらしく息を吐き、
アマポセドはハハハと愉快そうだ。
「おい、なぜお前はドラケネス女王を
侮辱した? 相手が竜人でなくとも国との
間に亀裂が入るだろ、国際問題だ」
篝は今も父親の背で震えるテイルに
気に食わねえなと質問した。
「特に言動など王族は気にしなくては
いけないだろう。言葉1つで国を巻き
込んでしまうのだから。どうして君は
そのようなことをした?」
ジークスも同意し、尋ねた。
ジークスはグラーンド王国で顔が割れて
いないので顔無し頭巾を被らなくても
今は問題ないのだ。
「……………」
全員に見られてもテイルはうつむいて
答えない。
「なぜ侮辱したの?」
「答えぬか!」
親である王妃や王に尋ねられても答える
気はないようだ。
「………ふーん。成る程」
チイトは目を細めると、郁人に以心伝心で
伝える。
<パパ、あいつの頭を見たけど女王に
惚れてるそうだよ。そんな女王と幼い頃
婚約しそうだったけど、邪竜騒ぎで
その婚約は流れたって思ってる。
前までは姫だったけど、今では国を持つ
女王になったから尚更無理だ>
婚約なんて夢のまた夢とチイトは伝える。
<今王族は女王しかいないからドラケネス
王国に婿入りは確定。だから地位だけじゃ
なく能力もないと婚約は無理。今のままじゃ
ドラケネス王国が損するだけだもん。
ドラケネス王国とグラーンド王国は
対等な関係だから無理言って婿入り、
ましてや嫁に貰うなんて出来る訳が無い>
ドラケネス王国が下だったらまだ出来た
かもしれないけどとチイトは呟く。
<で、そこの馬鹿は地位にあぐら
かいてたから能力は全然無い。
第1、第2王子が優秀だから尚更
能力の無さが際立つ。だから今、
死にものぐるいで頑張ってるそうだよ。
で、そこに明らかに能力のある客将が
現れた。しかも、女王が自分を見ずに
客将を気にかけてる。自分が死にもの
ぐるいでやってるのにお前はなに別の
男に目移りしてるんだ!!……みたいな?>
(……ようするに、八つ当たり?
やきもちみたいなやつか?)
<プラス好きな子をいじめるあれじゃない?
なんで嫌われるのに悪口言うのかわから
ないや>
変だよねとチイトは呟いた。
〔……で、どうするのよ? 頭の中を見て
王子が女王に惚れていて、やきもち
みたいなあれで悪口を言いましたって
伝える? 面倒なことになりそうだけど〕
素直に認めるガラじゃないでしょ
とライコは告げる。
(たしかに……どう伝えようか?
ヴィーメランスも八つ当たり、嫉妬から
でしたって言われて納得しないよな)
ヴィーメランスが悪に堕ちたのも
王からの嫉妬が原因でもあるから
そこに触れるとマズイ気が……
と郁人が悩む。
<え? ヴィーメランスには伝えたけど?>
(え?)
きょとんとしたチイトに郁人は
目を丸くした。
<こいつにも伝えたほうが楽かなっと
思って、パパに以心伝心で伝えるときに
同時に伝えたよ>
にこやかなチイトだが、目が笑っていない。
本心ではないにしても、郁人が馬鹿に
されたことを許せなかったのだ。
「……………」
聞いたヴィーメランスの目が据わり、
髪の先がメラメラと燃えている。
〔絶対にわざと伝えたでしょ! こいつ!〕
ライコは慌てる。
「ヴィーメランス、落ちつい……」
「なんだ?! この騒ぎは……!!」
そこに、郁人に聞き覚えのある声が
聞こえた。
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ドラケネス王国の騎士達は燃やされ
負傷したグラーンド王国の騎士達に
エリクサーをかけて治療している。
『その、彼らを治療してもらっても
いいですか? 治療にはこれを使って
ください。ヴィーメランスも本気で
彼らの命を奪うつもりは無いと思います
から。でなければ、彼らは燃やされた
段階で消し炭になってると思いますので』
『わかりました、我が国の騎士達に
治療をさせましょう。
貴方達は今からグラーンド王国の騎士達の
治療を。彼らはイクト様を侮辱しておらず、
職務を全うしたに過ぎません。
私の護衛にはサイネリアがいます。
それに、ヴィーメランス様の尊き御方が
いますから危険はありませんので』
郁人は治療をお願いし、エリクサーを渡した。
リナリアは受け取ると騎士達に指示し
渡したからだ。
「さすが、ヴィーメランス様の尊き御方。
ヴィーメランス様の考えを把握し、
治療を託されたのだから」
「リナリア女王陛下はこの世で1番
安全な場におられる。御身の安全は
確実だ。だからこのように治療を
行える」
「エリクサーって……あのエリクサー
だよな? それを治療のためとはいえ簡単に
差し出すとは。心が広すぎるのでは?
心配になるくらいだ」
「以前、俺達が倒れたときも使った
そうだが……」
「どうやら、あの歩く災厄が製造し、
あの御方に渡してるそうだぞ」
「あの歩く災厄までも尊敬している方
なのか……!!」
「そんな御方を侮辱するとは……
なんと愚かな」
「あの王子が侮辱したのは女王陛下
のようだが……」
「よく、あのサイネリアが耐えたよな」
「我らの中で最も尊敬しているのは
サイネリアだからな」
「……我らも腹が煮えくり返っているが」
「今すぐにでもあの王子を斬りたい
くらいだ」
「お前達、グラーンド王国はヴィーメランス
様の尊き御方とリナリア女王陛下に感謝
してもし足りないのだからな」
ドラケネス王国の騎士達は心の底から
感謝するようにと治療している
グラーンド王国の騎士達に告げた。




