ピクニック
子供の日が近いので、郁人が子供の頃の
お話を書きました!
郁人達が小さい頃のお話……
新芽の匂いが鼻をくすぐる昼下がり。
公園の原っぱ、大きな木の下で
郁人は1人、シートを広げてお弁当を
食べている。ようするにピクニックだ。
「うん、これも美味しく出来てる」
自分で作ったBLTサンドを頬張る姿は
いつもより元気がない。
「………大丈夫かな」
ぽつんと呟く郁人の後ろから声がかかる。
「ここにいたか」
「篝!」
声をかけたのは篝だ。
篝は靴を脱ぐとそのまま郁人の隣に座り、
話しかける。
「お前の家に行ったら、じいさんから
ここにいると聞いてな。で、なんで
お前はここにいる?」
「なんでって?」
「お前の妹、熱を出して倒れてるんだろ。
お前ならそばにいて看病すると思った
からな」
篝が理由を話すと、郁人は眉を下げながら
答える。
「付きっきりで看病し過ぎて俺も
倒れそうだって言われちゃってさ。
"あたしよりお兄ちゃんのほうが
ヤバくなりそうだから治るまで離れてて!
気分転換に外にでも行ってきたら?
すぐ帰ってきたら怒るわよ!" って」
「お前らしい理由だな。
妹はお前にうつる可能性も考えて
言ったんだろう。それでここで
ピクニックか」
篝は納得しながら郁人の持ってきた
サンドイッチを見る。
「うん。ばあちゃん達もこのままだと
俺が倒れそうだからって公園にでも
遊びに行ってきたほうがいいって
言われて。昼ご飯まだだったから、
どうせならピクニックしようと思って」
「なるほどな。それにしても、お前が
いつも食べる量より多くないか?」
篝はサンドイッチの入ったバスケットを
見て不思議そうにしている。
「種類も多いが……」
「それはじいちゃんがあとから
誰かさんが合流するだろうから多く
作っとけって言われたから」
「…………それであんな表情してたのか、
お前のじいさん」
篝は郁人の家に遊びに行ったときの
ことを思い出し、顔をしかめる。
「"やっぱり来たか。君なら絶対に
来ると思っていた。君のお目当ての
ほうの孫は近所の公園に行っておるから
行っておいで"と言われたんでな」
「じゃあ、じいちゃんの言ってた
誰かさんは篝だったんだね」
「なぜか微笑ましい目で見られたし、
じいさんの予想通りだったのも
なんか納得がいかないがもごっ?!」
むっとするか篝の口へ郁人が
サンドイッチを突っ込んだ。
「俺は篝が来てくれて嬉しかったよ。
1人でぼーっと過ごしててもやっぱり
妹のこと考えたら心配で頭の中ぐるぐる
しちゃって気分転換にもならなかったから。
たくさん作ったし、食べてくれる人が
来てくれて助かるよ」
「…………………そうか。ならいい」
ふにゃりと笑う郁人に気にすることを
やめた篝は口に突っ込まれたサンドイッチを
頬張る。
「相変わらず美味いな、お前の料理。
このだし巻き玉子サンドもいける。
だし巻きの風味も良い、俺好みだ」
「よかった! 俺もだし巻き好きなんだ!
ご飯にも合うけど、サンドイッチにも
良いよね!」
篝はもりもりと食べ、郁人も
嬉しそうに食べている。
「で、食べたあとはどうするんだ?
このあと、雨が降ると携帯に出てるぞ」
「そうなの?!」
篝は携帯で本日の天気を見せた。
そこには午後から雨の確率が90%だと
表記されている。
「わあ……どうしよ……。
図書館は閉まってるし、今帰っても
妹のとこ行きそうだしなあ……」
「なら、俺の家に来たらいいだろ」
郁人がどうするか悩んでいたら
篝が提案した。
「なんなら泊まっていけ。
明日も休みで今日も入れたら4連休だ。
泊まっても問題ないだろ」
「でも、いきなりだし、お泊り用の
セットも持ってないから……」
着替えとかも持ってないしと郁人は眉を
下げると篝は大丈夫だと告げる。
「着替えとかは俺の貸すし、なんなら
お前用のあるから。おふくろが俺がお前を
連れてきたとき用にって着替えとか
いろいろ買ってんだよ」
「えっ?! なんで?!」
目をぱちくりさせる郁人に篝は説明する。
「お前に庭を見せたときにベランダから
俺達のことを見てたみたいでな。
俺が家に連れて来るの初めてだから、
お前と話したくてまた遊びに来ないか
ずっとそわそわしてるんだよ」
好きな食べ物とかいろいろ聞いてくるし
と呟き、続ける。
「着替えの服とかタオルとか勝手に
購入しているくらいにな。しかも俺が
お前の家に行くたびにこっちに遊びに
連れてきたら? とうるさいんだ」
最近は姉貴達もうるさいと篝はぼやく。
「だから、俺を助けるためにも来てほしい。
あと、ホラーゲームを買ったから一緒に
しないか? 推理要素もあるやつでお前と
したら楽しいだろうなって思ってな。
その……どうだ?」
篝は不安そうにしながら尋ねた。
じつは、泊まりに誘うのは初めてなのだ。
いつも遊びに来ては泊まりに来ないか
誘おうとしてるのだが緊張して今まで
誘えていなかった。
今回、連休でもあるので誘っても
大丈夫なのでは?と考えたのだ。
「気が乗らないならまた別の機会でも……」
「ううん。ぜひ行かせてほしい!
俺も友達の家に泊まりに行くの初めて
だから誘ってくれて嬉しいよ!
ありがとう!」
「俺も……来てくれてありがとうな」
郁人は満面の笑みを見せた。
とても嬉しいとオーラでもわかる。
その表情に篝はホッとした。
「じゃあ、じいちゃんに泊まること
伝えないとね」
「連休の間、泊まるとちゃんと言っとけよ」
「そんなに泊まっていいの?!」
「お前、連休の間ずっと公園とかで
気を紛らわそうとするのがわかるからな。
だったら俺の家で過ごしたほうがいいだろ?
天気にも左右されないからな」
「俺はありがたいけどいいの?」
「問題ねえよ。姉貴なんていきなり合宿
だといって4日間、友達といたからな」
「……じゃあ、お邪魔させてもらうね!」
大丈夫だと胸を張る篝に郁人は
よろしくと笑った。
そんな2人にポツリと水滴が当たる。
「ん? 降ってきたようだな」
「急いで片付けないと! 篝も手伝って!」
「わかった」
2人は急いで片付けを始める。
その顔はこのあとが楽しみだと
告げるように晴れやかだった。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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よろしくお願いします!
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「おや、どうやら郁人は篝くんの
おウチに遊びに行くようだ。しかも
お泊りするみたいだね」
「あの子、ここにいたらずっと看病して
つきっきりでいそうだったからねえ。
これであの子も心労で倒れることは
ないわね」
郁人の祖父は郁人から来たLINEを見て
胸を撫で下ろした。
祖母もホッとしているが……
「おにいちゃんがとられるううう!!!」
妹だけは心配で今にも立ち上がって
部屋を飛び出そうとしている。
が、祖母と祖父に止められる。
「こら! あなたは寝てなさい!!」
「ちゃんと安静にしないと回復するものも
回復しないぞ。いいのか?」
「うぅ〜…………ちゃんと寝ます」
妹は鼻をすすりながら、ベッドに戻った。
「それだけ動けるなら回復も近いだろう。
しばらくはちゃんと寝ときなさい。
治ったら篝くんのおウチに行こう。
篝くんのお父さんがこちらに来たときに
教えてくれたからの」
「え? 来たことあるの?」
妹は目をぱちくりさせた。
祖父は質問に答える。
「篝くんがこれほどまで一緒にいたがる
子は初めてだったようでの。それで気に
なってこっそり見に来たんじゃよ。
たまに茶を飲みに来るぞ」
「どうやらここが落ち着くみたいでね。
今では茶飲み友達と言うのかしら?」
奥さんも連れてきたいとも言っていたわ
と祖母はふふふと微笑む。
「じゃから、安心して寝なさい。
ちゃんと治れば連れて行ってやるから」
「うん!」
妹は安心したように微笑むとそのまま
ぐっすり眠った。
妹が連休の間に治して、突撃するまで
あと……




