逆鱗に触れた経緯
これはサイネリアが郁人へとコンタットを
送る数時間前のこと……
山を突き抜けるトンネルの先にある国、
地底に住む竜人族の国グラーンド王国に
ドラケネス王国の者達は招かれていた。
ドラケネス王国の状況が完璧に落ち
着いたため、外交で招かれたのだ。
ドラケネス王国からやって来たのは
女王リナリア、女王の筆頭護衛騎士で
あるサイネリアとドラケネスの精鋭の
騎士達。
そして、客将のヴィーメランスだ。
ヴィーメランスは同行する気は無かったの
だがグラーンド王国側から招待されたので
仕方なく同行している。
「お久しぶりでございますね、
リナリア女王陛下」
「こちらこそ、お久しぶりでございます」
グラーンドの王がリナリアと挨拶している
間、ヴィーメランスはリナリアの隣にいる。
ヴィーメランスは後ろに控えているつもり
だったのだが、リナリアとサイネリアから
『ヴィーメランス様は客将であられる身。
それに、指名されて招待されております
ので、私の隣にいらしてください』
『ヴィーくんはイクトくんに忠誠を
尽くしているからね。ヴィーくんが
陛下に忠誠を尽くしていないって
証明にもなるから。これは王族の竜人に
とって礼儀、常識なんだ』
『そうか。では、俺は会合が本格的に
始まるまで女王の隣にいるとしよう』
と納得したヴィーメランスはリナリアの
隣にいるのだ。
そんなヴィーメランスに王が声を掛ける。
「リナリア女王、この方がもしや……!」
「はい、こちらが客将であられます、
ヴィーメランス様です。
我が国を救った英雄であり、私の命の
恩人でもあられます」
「おぉ! 貴方の話はこちらにも届いて
おります! 会えて光栄です!」
王は目を輝かせ、ヴィーメランスに
握手を求める。
グラーンド王国側の騎士にも目を輝かせて
いる者がいるため、ヴィーメランスの
武勇伝がこちらまで伝わっているのは
明らかだ。
英雄の登場に浮足立つ姿を鋭い目で
見つめる者が1人。
「…………」
グラーンド王国の第3王子テイルである。
彼は気に入らなかった。
なぜ、王族でもない者がこの場にいるのか。
騎士達ならまだ許せるがそうではない様子。
しかも……
(なんであの女は堂々と隣に立たせている!!
ずっと後ろに控えさせてろ! お前の夫でも
ないんだろ! そいつはたとえ英雄だろうが
庶民に過ぎない! この場にいるべきじゃ
ない!!)
僕は王族でもなく近衛ではない者を
呼ぶべきではないと反対したのに!
とテイルは不満そうだ。
(だいたい、本当にあいつが1人で
魔物の大群を倒したのかも怪しい!
噂に尾ひれが生えまくっただけじゃ
ないか? あと、なんだよヴィーメランス様
って! 様付けすんな! なにより……)
テイルの1番の不満は……
(あの女! 僕がいるのになぜ気にかけな
い! 僕と婚約するはずだったんだぞ!!
それに護衛騎士達も王族以外が近くに
いるのを止めないのが腹が立つ!)
そう、嫉妬だ。テイルはヴィーメランスに
嫉妬しているのだ。
婚約の話は遠い昔、彼らが5歳の頃に
政略結婚でリナリアがグラーンド王国へ
嫁ぐ話があったのだ。
しかし、ドラケネス王国の邪竜問題など
いろいろあったため無かった話となった。
たとえ、問題がなかったとしても
リナリアがドラケネスの女王となった
段階で話は無効となっているのだが……。
(こうなったら僕が言ってやる……!!)
そんなことも気づかず、嫉妬からくる
苛立ちを隠せないままテイルはヴィーメ
ランスに話しかける。
「おい、そこのお前。ここは王族と
近衛以外がいていい場所ではない。
平民はさっさと出ていけ」
「テイル!!」
「お言葉ですが、この方は貴方達に
招待されて来た御方です」
王はあまりの言動に声を上げてしまい、
リナリアが告げる。
「そして、この御方は私の恩人であり、
我が国を救ってくださった、現在も我が
国に尽力していただいている御方です。
この場にいても問題ございません。
そのような言葉遣いはおやめください」
「……!!」
リナリアにハッキリと言われたテイルは
歯を噛みしめる。
そんな態度を見たヴィーメランスは
リナリアに告げる。
「やはりこういった者はどこにでも
いるものだな。話が進まなくなる可能性が
出かねない。俺は退室してもいいか?」
「ですが、貴方様は招待されておりますし、
なにより、我が国にとってとても重要な
御方。貴方様無しでは我が国はこんなにも
早く復興していなかったでしょう。
ですから、貴方様はここにいなくては
なりません」
ため息を吐くヴィーメランスになにも
おかしくはないのですとリナリアは
断言する。
たしかに、本来ならヴィーメランスは
この場にいては不自然だろうが、
今回は招待された側であるのでいても
おかしくはない。
「そうですぞ、客将殿。我々が貴方様を
招待したのですからここにいても問題は
ないのだ」
グラーンド王国の王もリナリアの
言葉に太鼓判を押した。
グラーンド王国側がヴィーメランスを
招待したのは1人で国を救ったことが
本当なのか会ってみて探るためだ。
グラーンド王国側はじつはヴィーメラ
ンスの実力を計れないかとも会談など
のときに話を持ち込もうとしていたが
必要ないと確信している。
ヴィーメランスが入ってきた瞬間に
理解したからだ。
ー この者ならばあの噂は本当だと。
グラーンド王国側の将軍は見た瞬間、
今までで会ってきた中で1番の強者だと
理解し、すぐ王に伝えたのだ。
ー "この者ならばあの噂は本当でしょう。
合同訓練などすればこちらが一方的に
倒されること間違いありません。
私でもあの者に傷をつける想像すら
できないほどの強者であります"
グラーンド王国の中でも1番強いと
言われる将軍から言われた王はすぐさま
認識を改めた。
ゆえに、自らとんでもない者を招待
してしまったことを後悔しつつ、
穏便に済ませようとしているのだが、
勉強のためにと付き添わせた第3王子が
先程からとんでもないことを仕出かし
そうで内心冷や汗をかいている。
「だから、貴殿はこちらにいても
問題ない。どうか第3王子の発言は
気にしなくて構わないとも」
「父上! なぜそのような態度なのです!?
まずこいつが本当に1人で救ったとは
本当とは思えません!! それに!!」
「テイル、お前は頭を冷やしてこい。
先程からその態度は目に余る」
「なぜ僕が出ないといけないんです!」
テイルは感情的にヴィーメランスを指差し、
騒ぎ立てる。王も落ち着かせようとして
いるがあまりに感情的になっているため
聞く耳を持っていない。
「……いいか?」
「構いません。これ以上長引くのは
良くありませんから」
ヴィーメランスは念の為、リナリアに
声をかけた。
理解したリナリアは了承すると、
グラーンド側の王妃と宰相に声を掛ける。
「このままでは会談どころではありません。
ですから、落ち着かせても?」
「えっええ、穏便にお願いします」
「あのままでは双方の不利益になります
でしょう」
グラーンド王国側の了承を得た瞬間
「………っ?!?!?!」
テイルは膝をついた。足が震え、涙が
こぼれて歯を鳴らし、肩を抱きしめる。
テイルはヴィーメランスに威圧されて
いるのだ。
威圧されたテイルは顔を蒼白させ、
嗚咽を漏らしている。
「対象を絞っての威圧とは、本当に
すごいですね」
「軽めに一瞬だがな。気絶されて危害を
加えたと思われても面倒だ」
リナリアは目をぱちくりさせ、
ヴィーメランスは面倒そうに呟いた。
その光景からグラーンド側は理解する、
ー 彼がやろうと思えばこの場で全員の
意識を刈り取ることが可能だと。
この場にいるグラーンド王国側の全員が
穏便に対応し、早めに会談など終わらせ
ようと 動こうと決めた中……
「認めない……!!」
1人だけ違った……違ってしまった。
第3王子のテイルだ。恐怖を感じた
悔しさから負け惜しみで叫ぶ。
「僕は絶対に認めない! さっきのだって
軽めとか言ってたが全力なんだろ!!
都合よく危機だった国に現れたのも
おかしい! お前が仕組んだんだろ!!」
「テイル! 口を慎め!!」
「どうせ実力も大したことないんだろう
な! 客将だって聞いたが、それも嘘で
こうやって招待されるために考えた
小細工に違いない!! 僕は騙されない
からな!!」
「聞こえないか!! テイル!!」
父の言葉、王の言葉すらも完全に
耳に届いていない。
彼はそのまま逆鱗に触れてしまう。
竜人族のタブーを犯してしまう。
「そんな小細工に気づかないなんて
お前が敬っている奴も大したことない
ただの馬鹿だな!!」
テイルはリナリアを指差し、ヴィーメ
ランスに言ってしまった。
なんと彼はヴィーメランスが忠誠を
尽くしている相手がリナリアだと
勘違いしていたのだ。
「……父上が大した事のない馬鹿だと?」
第3王子はヴィーメランスの地雷を
踏み抜いてしまった。
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