260話 ヴィーメランスを止めるために
同じく画面を覗き込んだジークス達は
思わず声をあげる。
「なにがあったんだっ?!」
「自撮りしてる場合じゃねえだろ!!」
「これ、サイネリア殿も怒ってません?
あの方でしたら止めそうですから。
なにより、自撮りされてるサイネリア
殿の目が怒ってるようにも見えますし……」
〔一体なにがあったのよ?!〕
「ん〜〜……どっかで見たなあ」
ライコも慌てふためくなか、間延び
した声が響く。同じく覗き込んだ
アマポセドの声だ。
「あ~これ、地竜人のとこじゃない?
たしかグラーンド王国だっけか?
そこの炎に逃げてる人の服に紋章が、
グラーンド王国のだしさ」
「たしかに……! この紋章はそうだ!
王族を守る騎士達の紋章だ!」
ほら、これとアマポセドが画面を指差し、
ジークスは声をあげた。
その言葉に郁人は目をぱちくりさせる。
「じゃあ、ヴィーメランスはその
騎士達を攻撃してるってこと?!
下手したら戦争になるんじゃ……!!」
「……だとすれば、ますますサイネリア殿が
撮影しているのはおかしいですな。
国家間の問題になりますし、マスターの
言うように戦に発展しますでしょうから」
ポンドはおかしいとあごに手をやり
考えていると、チイトが提案する。
「パバ、気になるなら行ってみる?
この近くなら俺行ったことあるから、
すぐに転移出来るよ」
「うん! お願いしてもいい?」
郁人がその提案に頷くと、チイトは
笑う。
「もちろん! じゃあ、俺の手を握って」
「わかった!」
〔こういうとき猫被りがいてよかったと
思うわね……。転移なんてそう簡単に
出来るものじゃないもの〕
ライコは呟き、郁人は言われた通り
チイトの手を握る。
「俺達ももちろん同行しよう」
「転移なんて気安く出来るものじゃ
ないんだがな」
「チイト殿には出来ないことのほうが
少ないのかもしれませんな」
「まさかこの時代に転移出来る子が
いるなんてねえ。こいつは驚いた!」
ジークス達もそれぞれチイトのマントを
掴んで準備万端だ。
アマポセドはチイトの言葉に目を丸くした。
「すいません、アマポセドさん。
俺達、グラーンド王国に行ってきます。
エンウィディアやフメンダコ達にも
挨拶したかったんですけど……」
申し訳なさそうな郁人にアマポセドは
気にしないでと笑う。
「いいよいいよ。国が燃えちゃって
るのを見過ごせとはさすがに言えない
からね。旦那様達には僕から説明しと
くから」
「ありがとうございます!
プリグ厶ジカにいた間、本当にお世話に
なりました! また遊びに来ます!」
「そのときはまた公演とかすると思う
からちゃんと旦那様に教えてもらった
ことを出来る範囲でやっときなよ。
下手になってたら旦那様キレちゃうから」
「そのときは神殿にも俺が行くからな」
「了解でーす。君が来ても問題ないように
ちゃんとしときますよ」
チイトの言葉にアマポセドはヘラっと
笑った。
「じゃあ、行こっか」
「お願い、チイト」
「あれ? いつの間に?! ちょっ待っ……」
チイトが転移した瞬間、アマポセドの
慌てる声とともに、郁人は誰かに腕を
掴まれる。
「うそっ?!」
〔いつの間にいたのよ?!〕
ーーーーーーーー
山を突き抜けるトンネル、いや洞窟は
ある国へと続いている。
その国は地底に住む竜人族の国
“グラーンド”だ。
エメラルドグリーンの湖に、淡く光る
鍾乳石が幻想的だと有名で、太陽の
代わりになる魔石は”地底の光”と呼ばれ、
常にグラーンドを照らしている。
その地底の光が国全体を照らせるように
地底の光は中央にある城に設置され、
その城は"白夜城"と呼ばれ、国民の尊敬の
対象であった。
ー が、その城の内部は炎で埋め尽くされ
ていた。
「お許しをっ……!! どうかっ……!!
どうか!!」
「王子が侮辱したのは貴方様の
尊敬する御方では……!!」
誰かを護るようにヴィーメランスの
前に立ち、許しを請う騎士達。
「それを誰が信じられる?」
だが、その者達は赤に、炎に覆われる。
「俺は客将。女王に忠誠を尽くす者
ではない。紙面で説明をし、この国へと
招かれていたときから女王の隣にいた。
それは俺が客将であり、俺が忠義を尽くす
相手が女王ではないと示す行いだ」
ヴィーメランスの声は酷く冷たく、
歩みを止めることはない。
「竜人の王族間での立場がわかるように
定められた礼儀とも聞いている。
そのように態度でも示した俺の忠誠を尽くす
相手を侮辱したのだ。そんな言い訳が通じる
と思うか?」
声は酷く冷たいものだが瞳はマグマの
ように怒りで燃えたぎっている。
ヴィーメランスはまっすぐ郁人を
侮辱した者へと進む。
「うわああああああ!!!」
「あつ……あつい……!!」
進むヴィーメランスの炎は怒りを
表現するように、呼応するように
苛烈に燃え上がる。
炎からなんとか逃れた者達はリナリアに
地面に手をつき、額を床につけて
頼み込む。
「どうか止めていただけませんか!!」
「貴方様なら……!!」
「私には到底出来ないことです。
ヴィーメランス様が申しましたように、
あの方は客将。そのように文書にも記載
しておりますし、こちらへ来たときから
礼儀で示しておりました」
勘違いするような素振りはいっさい
しておりませんとリナリアは断言する。
「その客将である彼の尊敬する御方を侮辱
したのです。ヴィーメランス様が忠義を
尽くす方が私ではないので止められる訳が
ありません。止められるのはヴィーメランス
様が忠義を尽くす方のみ」
リナリアに救いを求めたが暖簾に腕押し。
反応に手応えはない。
「では……」
助けを求めた者はサイネリアを見やるが
サイネリアは首を横に振る。
「言っておきますが、私にも勿論止められ
ません。まず止める理由がございません。
なんせ、あの方はヴィーメランス殿が
忠義を尽くす相手を陛下と勘違いして
陛下を侮辱したのですから」
サイネリアは微笑むが、瞳は吹雪の
ように凍てつき、怒りに満ちている。
だって、そうだろう。
サイネリアが忠義を尽くす相手は
女王陛下であるリナリアなのだから。
「本当なら私もヴィーメランス殿に
加勢したいのですが、陛下に止められ
ここにいるのです。
そんな私に止めるように頼まれるとは……
ずいぶんツラの皮が厚いようだ」
これ以上話しかけるなとサイネリアは
雰囲気と瞳で告げた。
「この国はおしまいだ……!!」
「あんな相手に敵うわけがない……!!」
「あの王子……竜人の気質が薄いと
感じていたが……それが仇になるとは」
2人、とくにサイネリアの拒絶に、
すがることをやめた者達は地面に膝をつく。
そんな周囲を気にも留めず、2人は
小声で話し合う。
「……………ですが、サイネリア。
あの方はこの事態を知れば動揺します
よね?」
「はい。ヴィーくんが宰相達を燃やした
件について話したとき、顔が青ざめてい
ましたから。気にされると思いましたので、
一応コンタットで連絡はしておきました。
あとは、彼次第ですね」
バレないように自撮りして送っておきました
とサイネリアはウィンクする。
そんな2人は炎の中にいても気にしない。
自分達を害するものではないとわかって
いるからだ。
「相変わらずヴィーメラン様の剣技、
炎は凄まじいものだ」
「この目でヴィーメランス様の炎を
見られるとは……!!」
ドラケネス側の騎士達もわかっているので
平然としている。
「総員! なんとしても守……あああ!!」
「があああああ!!!!」
害するもの側の者達は必死にある者を
守っているが、ヴィーメランスを前に
為す術もなく、炎に呑み込まれるだけ。
「あ……あぁ……」
侮辱の言葉を述べてしまった者、第3王子
テイルは感じていた。
ー 自分が燃やされるタイムリミットを。
刻一刻と迫る、命の時間。
自分を護るように抱きしめる王妃、
庇うように2人の前に立つ王。
そんな家族があっけなく燃やされるのを。
ヴィーメランスは3人の前に立ち、
口を開く。
「そいつを差し出せ。でなければ、
まとめて燃やすまでだ」
「……それは出来ません。
我が子の罪は母である私も背負い
ましょう」
「我が子のことを過信していた
私達にも責任があります」
憤怒の炎で見られても、2人は
退きはしない。
我が子を守るため、我が子の過ちを
償うためだ。
「……そうか。それが答えか」
ヴィーメランスは握る剣に炎をさらに
纏わせる。
赤く輝く炎は命を奪い取る無常の炎。
助けようとした者達は皆燃やされた。
火に薪を焚べるように、よく燃えた。
燃えた。燃えた。燃えた。
逃げようにも目の前の炎が具現化した
存在に睨まれれば、ひとたまりもない。
炎をのように熱く、怒りに燃える瞳が
王子を逃さない。
炎を纏った剣は首を目掛けて振り下ろ
される。
ー「ヴィーメランス! ストップ!!」
声とともに水、いや波が炎をかき消した。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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郁人は画像を見て違和感を覚えていた。
(……ヴィーメランスの炎にしては威力
がなあ)
ふと炎で埋め尽される画像に少し不思議に
思うことがあったからだ。
(炎に埋め尽されているにしては……
こう……人が原型を留めているというか)
燃えている人も写っていたのだが郁人が
苦手である顔を青ざめるようなショッキ
ングなものではなく、すぐに冷やして
きちんと治療をすれば問題ないような
ものに見えたのだ。
(画像に写っていた人はただ邪魔をしたから
燃やされたのか……? 燃やしたい本命は
別にいるのかも……?
……とりあえず、止めに行くのは間違いない
からヴィーメランスを止めないと!)
郁人はチイトの手をさらにギュッと
握った。