彼らの出会い
ー 4年前、マルトマルシェ郊外の
森にある洞窟から2人の少年が出てきた。
「兄様、いい感じに回復したからそろそろ
街にでも行かない? 僕、流石にこの光景に
あきちゃった」
1人は柔らかな金髪をハーフアップし、
サイドをピンで留めた一見、深窓の御令嬢に
見える美少年"ルフェベル"。
「たしかに。自然を愉しむのもありだが、
ずっと同じではな。では、其方の言う通り
街へ行くとしよう」
もう1人は青に近い緑髪をし、額と
左側頭部に黒い角を生やした、王の風格
が漂う、只者には見えない美少年、
"マモン"だ。
「やった! ここの街はどんな感じだろう?」
「……そうさな。余の国の雰囲気では
ないことはたしかだろうよ」
「それはそうだよ。ちらっと歩いてる
人見たらいかにもファンタジーな感じ
だったから。……それにしても」
ルフェベルはマモンをじっと見る。
「兄様が僕と同じ視点って新鮮だ。
いつも見上げていたからさ」
「そのままの姿では少し騒ぎになり
そうだからな。民草をいたずらに
騒がすのはいただけないゆえな」
「普段の兄様の姿はたしかに騒がれそう
だからね。兄様は本当に気遣い上手いよ」
「なに、上に立つ者として当たり前の
ことをしたまでよ」
マモンはフハハと笑う。
そこへ……
「おい。こんなとこにガキがいるぜ」
「あのなり、どっかの金持ちの子供だろ」
「もしくは国が探してる奴じゃねえ?」
「ねえ、ボク達〜。こんな森でなに
してるのかなあ?」
下卑た笑みを浮かべた盗賊だろう男達が
やってきた。
「……ふむ。アレは盗賊とやらか?」
「見た目からしてそうだろうね。
兄様は見たのは初めて?」
「余が見るのは礼儀を知らぬ無作法者や
命を狙う輩が多いゆえな」
「立場が高いと大変なんだね」
「狙われるのもステータスの1つとやらだ。
今は休暇中ゆえ、それはごめんだが」
「それはたしかに」
マモンとルフェベルは世間話しており、
盗賊達を気にも留めない。
「僕達わかってるかな? 今の立場?」
「このあとどうなるかわかってんのか!」
あまりの無視っぷりに盗賊は腹をたてる。
「予想するに僕達を誘拐して身代金を
獲得しようとすることかい?」
「もしくは稚児趣味の輩に売っぱらって
金を獲るか?」
「わかってるじゃねえか」
「現実逃避でもしてたのかなあ?」
2人の回答に頷き、ギャハハと笑った
盗賊達はそれぞれ武器を取り出す。
「さて、大人しくしてもらおうか?」
「怪我でもしたら大変だからねえ〜」
「キズモノにするには惜しいツラだから
よお」
盗賊はナイフなどをチラつかせるが
2人はびくともしない。
「ねえ、こいつらでいいんじゃない?」
「肩慣らしになるかもわからんが……
いいだろう」
「おい! なにコソコソと……」
ー 2人の気配がガラリと変わった。
「ここじゃ初の戦闘になるかな?
データの1部くらいにはなるといいけど」
ルフェベルはまるで実験のモルモットを
見るように、ただ盗賊達を物体としか
見ていない。命ある者とすら見ていない
目に盗賊達はゾワリと背筋が凍る。
「余の初陣を飾るのだ。
興じさせるよう力を示すとよい」
そして、盗賊達はマモンを畏れた。
この者は自分達より遥かに上、相対すること
すら畏れ多い。話しかけること、目の前で
呼吸することすら無礼千万。
圧倒的強者、王者の風格に男達は足を
ガクガク震わせる。先程の威勢は微塵も
ない。
「さあ、始めようか」
「ほうら、かかってくると良い」
そこからもはや圧倒的である。
目も当てられないとはこのことを指す
だろう。
先程まで威勢よかった盗賊達はただ2人の
手により遊ばれる。
ルフェベルが地面に手をかざせば土は
盛りあがり、男達はボールのように
宙へと打ち上げれる。
武器を持っていた腕は瞬間、風で刻まれ
体が動かなくなる。
まさに"蹂躙"とはこのことだ。
悲鳴をあげることすら出来ずに、
蹂躪された者達はただ地面に伏すのみ。
あまりの手応えの無さにルフェベルは
ため息を吐く。
「君達、手応えがなさ過ぎるよ。
もうちょっと頑張ってくれないかな?」
「余に対し地面に伏すのは良い。
だが、せめてうつ伏せに倒れんか」
「そこまで気を回せないんじゃない?
よいしょ」
ルフェベルが指をくるりと回せば
地面が1部盛り上がり、倒れていた男達
は全員うつ伏せになる。
「これでいいかな?」
「うむ。これでよい。良くやった」
「兄様はいっぱい褒めてくれるから
大好きだよ」
マモンは微笑むルフェベルの頭を撫でた。
「よし、では此奴らの荷物も預かると
しよう。あちらに馬車があるからな」
「兄様、本当に目がいいよね。僕には
さっぱりだ」
ルフェベルはマモンが指差す先を
目を細めて見るが木々しか見えない。
「あちらまで行くのは面倒よな。
では、こちらに持ってくるか。
盗品ならばきちんと返さねばならぬし。
手伝えよ、"其方"もな」
マモンが森を見やり、来いと手を招く。
「なっ?!」
すると、空から馬車とそれをひく馬が飛んで
くるのと同時に、別方向から男が1人。
まるで糸で引かれたようにマモンの元まで
飛んできて、そのままマモンの前に落ちる。
「どうなってんだ?! こいつは!!」
飛んできた男は長身痩躯で品の良い顔立ちを
しているが威圧感で台無しにしている。
それよりも目を引くのは黒い狼の耳と
尻尾だ。
自身に起きた出来事に訳が分からないと
目を見開きながら狼の男は立ち上がる。
「其方、先程から見ておったろう?
覗き見とは関心せんな」
「見られている気はしたけど彼か。
敵意は無いから無視していたよ」
「敵意は勿論無いだろうよ。此奴は余達が
盗賊共を倒している様子を目を見開いて
見ていただけだからな」
「最初から気づいていたのか」
マモン達の言葉に狼の男は頭をかき、
口を開く。
「助太刀もせずに見ていたのは悪かった」
「別に構わぬ。このような小物相手に
助太刀などいらぬからな。
それに、良いものが見れたろう?」
「……まあな。あれだけ一方的なのは
見たことねえ」
「言っておくけど、僕達はちゃんと
加減はしていたんだよ」
「魔法で地面を盛り上げて打ち上げたり、
風で斬ったりしてたのにか?」
あんなもの見たことがねえと狼の男は
告げた。この2人が魔道具を持っていないのは
見てもわかる通りだが、直感でも狼の男は
わかっている。
“あれは魔法。とてつもない領域のものだ”
と……。
「あれでも加減はしているのだがな」
「僕達は少し感覚がズレてるのかも
しれないね」
「あぁ。他からしたら魔道具無しなんて
できないからな。できるのは余程の奴だけ
だ」
長いこと冒険者してるが初めて見た
と狼の男は告げた。
「ふむ。魔道具……冒険者……」
興味深いとマモンは告げると、狼の男に
声をかける。
「其方、2週間ほど余に雇われよ」
「は?」
突然のことに口をポカンと開ける狼の男。
「余達はここのことを詳しく知らぬ。
ゆえに、其方を現地の案内人として雇う。
内容はここの情勢、観光案内、冒険者に
なるための付き添い。と、今はこのような
ところか」
「……タダでやると思ってるのか?」
「きちんと金ならある。先程手に入れた
ものだがな」
マモンは盗賊達から奪った馬車の中にある
金品を見せる。
「あれらの1部は見たところ盗品ではない
からな。あと、此奴らを警備の者に
引き渡せば報酬も出るだろう」
「いろいろと盗んでたみたいだからね。
それともこちらのほうがいいかい?」
「なっ?!」
ルフェベルの手が少し光ると、
手の中から様々な宝石が現れた。
錬成するには本来、その物を作るための
材料と補助するための魔道具のペンが
必要だ。そのペンで術式を書き、物を
使って錬成していくのだがルフェベルは
補助など無しで錬成したのだ。
(おいおい……!? これはとんでもない
技じゃねえかっ?!)
錬成などの知識はないが、ただ目の前で
行われた神のごとき御業に狼の男は開いた
口が塞がらない。
そんな狼の男の驚きを気にせず、
ルフェベルは述べる。
「空気中の物質を変化させて錬成した
宝石だから、こちらでも価値があるか
どうかはわからないけどね」
「…………もう十分だ」
次々と行われる常識外の数々に狼の男は
額に手をあて、少し考えたあと口を開く。
「俺は"バゲット"。2週間雇われてやる。
てめえらの財布を空にするくらいの働きを
してやるよ」
「うむ、よい心掛けよ。
余はマモン。こちらは弟のルフェベルだ」
「よろしく、バゲットさん。
で、兄様。早速近くの街に案内して
もらおう。僕、お腹空いちゃった」
「そうだな。報酬についてもう少し
詰めていきたいからな。あとは目立たぬ
ようにしていこう」
「そうだね。目立ち過ぎると身動きが
とれにくくなるかもしれないし。
まずはこの人達を運ぼうか」
2人は自己紹介をしたあと、倒れている
盗賊のもとへ向かうと、手をかざして
空間に穴を出現させるとそこへ盗賊達を
放り込みはじめた。
「おい、待て。それは空間魔術……
いや魔法か?」
「? そうだが」
「手で持っていくのは面倒だからね」
「…………そんな風に空間を開けれる奴は
滅多にいねえ。さっきも言ったが、
魔道具無しでやってるのがありえねえ」
「これもなのか?」
「だから、この人達は驚いてたんだね」
マモンは目をぱちくりさせ、ルフェベルは
成程と頷いた。
「じゃあ、この人達を起こして運んで
もらおう」
「此奴らが使っていた馬車があるが、
馬は余を見たら逃げたので使えぬと
思っていたが、まあよいだろう。
ほれ、起きよ」
「ぐっ!? ひっ!! なっ……なんで
しょう?!」
マモンは持っていた盗賊の1人を地面に
落として起こし、他の盗賊達も蹴り起こすと
命じる。
「今から街へゆく。馬がないので其方達が
馬車をひけ」
「え……」
「おい、何を呆けておる。早く動かぬか」
「はっはいいいい!!」
マモンの圧に残りの盗賊達も命じられるまま
馬車をひく態勢に入った。
「よし、これで問題ないな」
「いや、あるわ。どこの悪徳商人だ。
奴隷売買とかを疑われるだろ」
狼の男は頭がいたいと抑えてしまう。
「まず、あんたら目立ちたくないん
だよな? 目立ちまくるだろ、これ」
「あっ、そっか。この人達は馬代わり
だからね」
ルフェベルはそうだったと頷きながら
告げる。
「今の君達は馬なんだよ。
ほら、引くなら四つん這いでやりなよ」
「違う! やめろ! 本当にやめろ!」
街に行くまでにバタバタとしてしまったのは
言うまでもない。
ー これが彼らのはじまり。
パーティを組むようになる3人のはじまりだ
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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盗賊達に馬車を引かせるのをやめて、
ルフェベルが錬成した馬型のゴーレムに
馬車を引かせ、その馬車に乗るマモン、
ルフェベル、黒狼。
黒狼は御者となり、馬型ゴーレムを
街へと操作している。
盗賊達はマモンが作った空間に放り込んで
いるため、馬車内にはマモン、ルフェベルと
盗賊達の宝だけだ。
ルフェベルは小声でマモンに話しかける。
「兄様、バゲットさん結構強いよね?」
「見てみたが強いだろうよ。だから
案内役に頼んだのだ。実力があれば
いろいろと知っていることは多いだろう
からな。それに……」
マモンは黒狼をちらりと見る。
「あ奴、いろいろと面白そうゆえな」
「兄様、経歴とかちらっと見たのかな?」
「余の目は意識など関係なく見通すゆえな。
其方もどうせしばらく共にするなら面白い
ほうが良かろう?」
「たしかに、僕も退屈なのは嫌だからね」
マモンは口角をあげ、ルフェベルは
フフと微笑んだ。