27話 風の護り
透き通るような青空をブレイズは
上を目指して風をきっていく。
ブレイズに乗った郁人は風がすさまじい
速さで頬を撫でていくのを感じていた。
(速すぎるだろ……!)
ジェットコースターにも比毛をとらない
速さに驚きで口を開けそうになるが、
少しでも開ければ空気の塊が喉を
直撃するのは目に見えているので郁人は
口に力を入れる。
このままでは振り落とされるのでは?と
頭を過るが、ヴィーメランスの逞しい腕が
支えてくれているので杞憂となった。
そんな事を露とも知らぬブレイズは3人を
乗せ、風や雲を切りながら飛んでいく。
ある一定の高さまで飛ぶと
平行移動に変わった。
(まるで飛行機の離陸の瞬間だ……)
気圧の変化に耐えれなかったのか、
耳鳴りがするので慌てて唾を飲み込む。
「大丈夫ですか父上?」
ヴィーメランスが心配して声をかけた。
「大丈夫だ。
……空を飛ぶってこんな感じなんだな」
郁人は体中に風を感じながら
感嘆の息をもらす。
飛行機に乗ったときとは
比にならないくらいの臨場感と景色だ。
視界いっぱい、その先までずっと広がる
青い空。
下に目を向ければ白い雲が流れている。
雲に映る自分達の影に、
切れ間から様々な街や山などが見えた。
空を飛んでいるからこそ見られる絶景に
郁人は心を弾ませる。
(本当に綺麗だ……!!
俺がいた世界じゃ絶対に見れないな。
ワイバーンに乗るのもないけど。
……空を飛ぶ練習でもしようかな?)
チイトから貰ったジャケットに
その機能があることを思い出し、
顎に手をやる。
「パパも飛びたいの?
練習ならいくらでも付き合うからね!」
左から声がしたので見ると、
いつの間にか隣に飛んでいたチイトが
無邪気に笑顔で話しかけてきた。
マントをはためかせ飛ぶ姿から余裕が
うかがえる。
「追いついたか」
「これぐらい簡単だろ」
「飛行魔術は魔術師が死ぬまでに
習得したいと言われる魔術で、
とても難しいと本で読んだことあるが
君には関係ないのだな」
チイトが鼻で笑う姿にジークスは
苦笑する。
「飛行魔術って難しいのか?」
「あぁ。
とても難しい代物だ」
尋ねられたジークスは答える。
「飛行魔術は風を操るための魔力操作が
大変難しく、見合った魔道具を探すのにも
ひと苦労な代物だ。
なぜなら、空を飛ぼうとする者は
大抵従魔か、スキル保持者を頼るからだ。
魔道具を作ろうとする者がまず少ない」
あってもピンキリだと説明していく。
「魔道具が見つかったとしても、
安定して飛ぶために、飛んでいる間は
ずっと術を行使しなければならないため
集中力がかなり必要になる高度な
魔術なんだ。
彼は魔道具無しの魔法だから
最早伝説クラスだ」
凄さを理解し、魔道具も無しだというのに、
余裕綽々で隣を飛ぶチイトに
郁人は目を輝かせる。
「そんなに難しいんだ……。
スゴいなチイト!」
「えへへ。
パパも飛べるうになったら
空の散歩しよう!
ねっ!ねっ!」
頬を紅潮させながら、チイトは郁人に
提案した。
「そのときは俺が父上の供をしよう。
俺も飛べるからな」
「俺はパパと一緒がいいんだ。
貴様は邪魔だ」
郁人を独占したい2人は睨み会う。
「お前のほうこそ、邪魔の1言に尽きる。
父上と供にいる時間は俺より多い。
ゆえに年長者の俺に譲るべきだ。
いや、献上しろ」
「断る。
貴様が俺に献上すればいい」
両者ともに譲るつもりは更々なく、
火花を散らせている。
「落ち着いて2人共。
まず、俺が飛べるようになってからだから」
「練習なら任せて!!
俺いっぱい付き合うから!!」
「いえ、俺にお任せを。
最上の結果を父上に」
任せてくれオーラ全開の2人に郁人は
口を開く。
「……2人に教えてもらおうかな。
それと、皆にお願いがあるんだ。
1回あのスキルを使ってみようと
思っていてさ。
それに付き合ってもらってもいいかな?」
郁人は3人にお願いした。
ライコが言っていたように、
使えるにこしたことはないと思ったからだ。
それに1人で喚んだ場合、
相手が攻撃してきたら郁人では対処
出来ないので立ち会ってもらいたいと
考えたのだ。
「父上のお望みならば」
「俺も構わないが……」
「いいけど、パパって契約してたの?」
ヴィーメランスとジークスは快諾し、
チイトも快諾するも、首を傾げ郁人に
近づいた。
「ちょっとごめんね」
指輪に触れ、スクリーンを出し調べ始める。
スクリーンには契約状況が表示される。
【契約済み:???】
「本当だ。
契約済みになってるね。
けど、パパがなにと契約したのか
分かってないから名前が表示されないや」
「行動する前に父上の許可をとれ!
……しかし、勝手に契約できるとなると
上位の魔物であることは違いないな」
「そうなのか?」
ヴィーメランスがチイトに注意した後、
スクリーンを見て呟く。
その呟きに郁人は反応した。
「はい。
本来契約とは両者の同意を得て
初めて成立します。
しかし上位の場合、相手の魔力を使い
勝手に契約することも稀にあるのです。
父上が気付かぬ間にとなると
尚更、上位の魔物でしょう」
郁人の質問に丁寧に答えていった。
聞かれたのが嬉しいのか、
眉間のシワが少し緩んでいる。
「上位の魔物を1人で喚ぶのは
絶対に危険だ。
君の身に危険が及ぶ可能性があると
いうなら尚更、その場に立ち会おう。
君は俺が必ず守る」
ジークスは落ち着いた声で
郁人に意思を示した。
2人はジークスに殺気を向ける。
「肉壁にしか使えないような奴が
ほざくな」
「貴様の力など必要ない」
「2人は勿論だけど、
ジークスもいてくれたほうが嬉しいな!
ジークスも強いし、頼りになるからさ!」
このままでは危ないと、
郁人がフォローに入った。
「俺だけで十分なのになあ……」
「勝手に俺を省くなクソガキ」
ムッとするチイトにヴィーメランスが
睨みつける。
その時、ブレイズが1鳴きし顎で
何かを示す。
「あれは……竜巻か?!」
示されたほうを見ると巨大な竜巻が
存在した。
地上にまで達していないため、
正確に竜巻とは呼べないかもしれないが
表現するとしたら“竜巻“の1言に尽きる。
猛烈な風の向こうに見えるものはなく、
覗きこもうと近付けば風の刃により
八つ裂きになることは容易に想像がつく。
「もしかして……あれが……」
「父上の察しの通り。
あれがドラケネス王国を護る"風の壁"
となります」
「すごいな……。
あれが風の壁か……。
そういえば、ジークスって
ドラケネス王国から墜ちたんだよな?
あの風の壁に当たらなかったのか?」
ふと、郁人は思い出して聞いた。
話を聞いた通りなら、
あの壁に直接ぶつかったことになる。
「あの壁は王家には無害化される
仕組みなんだ。
だから、王家の血が流れている俺は
無傷で通ることができる」
「だから大丈夫だったのか。
……でも、この高さから墜ちて生きてるって
スゴいなジークス」
下を見ると、地面が見えないくらいだ。
自分なら即お陀仏だなと
郁人はジークスの凄さに息を呑んだ。
「竜の血と俺の生命力のおかげだろうな」
照れたのか、ジークスは首の後ろに
手をやる。
「しかし……どうやって通るんだ?
何か策でもあるのか?」
郁人はヴィーメランスに尋ねた。
「これぐらいの風なら
俺にはそよ風程度に過ぎませんが。
しかし、父上の御身になにかあれば
一大事……。
ー 炎よ!御身を守る盾となれ!」
ジークスに少し張り合いながら、
ヴィーメランスは手をかざした。
瞬間、手から炎が溢れブレイズごと
包んでいく。
場景は火山が噴火し、溶岩が流れていく
ようだ。
そして凄まじいスピードで包んでいき、
瞬く間に炎のドームが完成する。
外からみれば、巨大な火の玉だ。
「スゴい!カッコイイな!」
間近で見た郁人は目を輝かせながら、
ヴィーメランスのほうへ振り向き
素直に気持ちを口にした。
「父上にお褒めいただけるとは……
恐縮です」
素直な言葉や態度に、ヴィーメランスは
1礼した。
笑みを隠そうと唇をぎゅっと結んで
いるのがわかる。
「嬉しいなら素直に表せばいいのに……
面倒くさ」
「五月蝿い!!」
チイトはその様子を見て吐き捨て、
ヴィーメランスが睨みつける。
「あれ?チイトはいいのか?」
「俺もあれくらいの壁なら
問題なく通れるからね」
郁人の問いに、護りなしでも余裕だと
チイトは微笑んだ。
そして、炎を見て要求する。
「おい、そんな炎で大丈夫なのか?
吹き消されないとも限らないぞ。
パパをこちらに渡せ」
「蝋燭の火と同じにするな。
行くぞ!!」
チイトが郁人を渡せとせがむが無視し、
ヴィーメランスは風の壁に突っ込んだ。
全てを切り裂くような風が容赦なく
炎のドームに襲い掛かる。
しかし、炎はものともせず、
むしろ炎の勢いは増していくばかりだ。
「この風の護りをものともしないとは……?!」
「音からしてもすごい風の中を突き進んで
いるのに……なんで平気なんだ?」
ジークスは口をポカンと開け、
郁人は首を傾げる。
「父上。
火というのは大気中の酸素を消費し
燃焼することで生じているのは
ご存知ですよね?」
「知ってる。
学校で学んだからな」
尋ねられた郁人は頷く。
頷いたのを見て、ヴィーメランスは
話を続ける。
「例えば蝋燭などの火でしたら、
火の勢いに対して風のほうが強いため
酸素を燃焼するよりも前に吹き消されて
しまいます。
しかしこの炎の場合、俺の火のほうが強い為
風によって酸素が送られ、火の勢いは
更に増していくので平気なんですよ」
「なるほど。
山火事とかと同じ感じか」
「はい。
そのようなものです」
郁人はヴィーメランスの説明に納得する。
(授業を受けたような気分になるな。
懐かしい気分だ)
学生気分に浸る郁人の横、
チイトは両眉を上げる。
「戦馬鹿の貴様からそのような話を
聞けるとは驚きだ。
……パパの問いに答えられるように
独学でいろいろと勉強したのか。
戦以外興味なかった貴様が」
「勝手に人の頭を覗くな!気色悪い!!」
ヴィーメランスはチイトに
常人なら気を失う程の殺気をあてるが
あてられたチイトは全く動じない。
「チイトはなんで平気なんだ?」
強風の中を飛んでいるとは思えないほど
悠々と飛んでいるチイトに郁人は尋ねた。
「俺は魔法で風の通り道を作って
当たらないようにしているからだよ。
無くても別に平気だけど、
顔に風が当たり続けるの鬱陶しいから」
髪の毛とかもバシバシ当たるしと苦笑し、
前を向くと目を輝かせる。
「パパ見えてきたよ!!」
チイトは無邪気に指差す。
見ると、風の壁が薄くなってきたのか、
向こうの景色が見えた。
「……迎えの気配がするな。
おい、早く頭巾を使え」
「わかった」
ヴィーメランスの言葉を聞き、
ジークスは頭巾を被りボタンを押す。
炎のドームは風をものともしないまま、
勢いは衰えることなく風の護りを
突き抜けた。




