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257話 黒狼




   声はホーンサメが飛び出してきた方向

   からだ。


   「いちいち逃げ回られると面倒だな。

   槍を持ってきていて正解だった。

   ……それにしても、あいつらどこに

   行きやがったんだ?」


   いきなり消えやがってと言いながら、

   ホーンサメへと向かう青年がいた。


   その青年は鍛えられた長身痩躯に黒髪を

   ハーフアップにして、品の良い顔立ちを

   鋭い目つきと威圧感で相殺した男ぶりの

   良い青年だ。端正な顔立ちもだが、なに

   より目を引くのは夜のような色をした狼

   の耳と尻尾だろう。


   「彼は……"黒狼"か!」

   「あいつこんなとこまで来てんのか!」


   青年のことを知っていたジークスと篝は

   目を丸くする。


   「黒狼?」

   「前に聞いた方では? たしか名前は

   バゲットと言いまして、単独でB級に

   なったという……」


   郁人が首を傾げていると、ポンドが答えて

   くれた。

   すると黒狼、いやバゲットは郁人達を

   見て眉をあげる。


   「ん? お前らは……たしかあいつらが気に

   してた」


   こちらに気づいたバゲットがホーンサメから

   槍を抜き取ったあとホーンサメを軽々と担い

   で近づいてくる。


   「お前らは迷宮クリアを目指し……

   ん? お前、人魚だったのか?!」


   話しかけてきたバゲットだったが、郁人の

   姿を見て目をぱちくりさせている。


   「人間とあいつらから聞いていたが……」

   「間違いなく俺は人間ですよ。

   ただ、ちょっと事情があってこのような   

   姿に……」

   「どんな事情で人が人魚になんだよ」

   「本当ですね……」


   呆れた様子でバゲットは郁人を見た。

   郁人は頬をかくことしか出来ない。

 

   (どうやって戻ればいいんだろ?

   もしかしてもう戻らないのか?!)

   

   顔を青くする郁人にチイトは以心伝心(テレパシー)

   教える。


   <大丈夫。今はあの魚野郎の力に

   迷宮が反応してるのもあって人魚に

   なってるだけ。戻りたいなら戻れるよ。

   ほら、頭の中で自分の足をイメージして>

 

   チイトは大丈夫だと微笑むと郁人の手を

   握る。


   <俺も手伝うから。パパはイメージして>

   (俺の足……)


   郁人は目をつむり自分の足を思い出し、

   イメージする。

   

   (俺の足……人魚じゃなくて、ちゃんと陸を

   走ったり歩ける俺の足……)

   <そう! その調子だよ! パパ!

   それじゃあ俺は魚野郎の魔力を……>


   チイトが郁人のもと足、今は人魚のヒレを

   軽く撫でる。


   「戻ったよ、パパ!」 

   「え? 本当だ! 戻ってる!!」


   声をかけられ目を開けると、ちゃんと

   足があった。


   「服装も戻ってるし、本当に良かった!」

   「マスターがもとのお姿に!」

   「人魚のままでは陸に上がるのは大変

   だからな。戻って良かった」

   「どうやって戻……あぁ、チイトが

   戻したんだな」


   ポンドが目をぱちくりとさせ、ジークスは

   ほっと息を吐き、篝は横のチイトを見て

   納得していた。

   

   「いきなり戻ったな! どんな仕組みだ?

   あいつらも知って……っと、いけねえ。

   早く血抜きしねえと身が劣化して、生臭く

   なる。そうなるとあいつがうるさい」


   バゲットはハッとしたあと、ホーンサメを

   地面に降ろすと、懐から小瓶を取り出した。

   小瓶を開け、中の液体をホーンサメにふりか

   ける。


   「わあっ?!」

   「血が勝手に出てきたぞ!」

   〔いったいどうしてなの?!〕


   すると、ホーンサメの体から血がひとりでに

   出てきたのだ。まるで意思を持っているかの

   ように血はホーンサメから出ていき、液体が

   入っていた、バゲットが持つ小瓶にするする

   と入っていく。


   「あの液体はなんですかな?!」

   「魔道具か……? いや、魔鉱石などは見ら

   れないから違うか。だが、しかし……」


   ポンドは思わず声をあげ、ジークスは

   顎に手をやり考え込む。


   「……………」


   チイトだけは冷静に小瓶を観察している。


   「よし、これで問題ねえだろ。

   血を使うかわからねえが持っていって

   やるか」


   バゲットは郁人達が騒然としていること

   を気にも留めず、血の入った小瓶を懐へ

   と仕舞う。


   「ホーンサメはこのままだと邪魔になる。

   切ったほうがいいか?

   だが、下手に切ればあいつがな……。

   おい、そこのお前。たしかイクトだった

   よな? お前は料理が出来るんだろ?

   ならこいつを切ってくれねえか?

   綺麗に切らねえと食感がどうとか

   言われちまう」

   「えっ、はい。いいですけど」


   バゲットは顎に手をやったあと郁人に

   声をかけた。

   声をかけられた郁人は目をぱちくり

   させたあと、頷いた。


   「あっ、でも包丁が……」


   手元に無いためどうしようと考えていると

   ユーは背中からケースに入った包丁を出し、

   郁人に渡す。


   「持ってたんだな! ユーありがとう!」

   「なんだその生き物? 魔物……

   じゃねえな」


   バゲットはユーを観察するが、ユーは

   気にした素振りもなくバゲットが仕留めた

   ホーンサメを見て、お腹を鳴らした。


   「お腹が空いてるから食べたいんだな」

   「ユー殿、ホーンサメでしたら以前、

   私が狩ったものがありますので」


   ポンドがユーに話しかけ、空間魔術が

   施されたカバンから、容器に入れられた

   ホーンサメの切り身を差し出した。


   「鮮度などは施されてますので新鮮な

   ままです。あとで、マスターにフライに

   してもらいましょう」


   ポンドの言葉にユーは頷くと、バゲットの

   仕留めたホーンサメを諦めたようだ。


   「……フライか」


   バゲットは思いついたように口を開く。


   「お前、フリット作れるか?」

   「フリットですか? 作れますけど……」

   「よし。じゃあ、切るのとついでに作るの

   も頼む。器具とかはあいつらからセットを

   持たされてるから問題ない。

   だから、ここでも作れるだろ」


   バゲットはカバンから調理器具セットや

   コンロ、調味料など必要なものを次々と

   取り出していく。


   「そのカバンにどれだけ入っている

   んだ?!」

   「なんでこんなに持ってるんだよ?!

   迷宮で作って食う気かっ?!」

   

   ジークスと篝が思わず声を上げてしまった。


   〔わあ……全部一式揃ってるじゃない。

   簡易キッチンができたわね〕


   なんで持ってるのよとライコは不思議

   そうだ。驚く郁人達をよそにバゲットは

   尋ねる。


   「これだけありゃいけるか?」

   「はい、大丈夫です。むしろ揃いすぎる

   といいますか……」

   「じゃあ、作るの頼む。調味料が足りない

   なら追加もあるからそこの丸いのの分も

   作ってくれても構わない。むしろ多めに

   作ってくれると助かる。フリットの一部を

   持って帰るからな。あいつらが絶対に

   食べたがるだろうしよ」


   バゲットはそう述べながらホーンサメを

   大きめのビニールシートの上に乗せる。


   「ここに置いとけばいいか?」

   「はい。大丈夫です。

   えっと、じゃあ今から作りますね」


   押しに押され、流されてしまった郁人は

   準備にかかった。



   「あいつ…………」



   チイトは顎に手をやり考えていた。




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