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256話 プリグムジカの迷宮




   ゆらゆらと海に差し込む光に、透き通る

   マリンブルーの海を泳ぐ様々な種類の

   カラフルな魚、足元には揺らめく海藻や

   珊瑚や貝があり、まるで海底を歩いている

   ように感じる、海の迷宮。

   誰もが1度は行きたい迷宮だ。


   そこに郁人達はいた。


   「たしかに迷宮とは思えないくらいに

   綺麗な場所だ、本当に」

   「水族館を思い出すな……。

   そういえば、お前ジンベエザメ見て

   目を輝かせていたよな? あんなに大き

   かったとは思わなかったてな」


   ジークスは目を見開き、篝は懐かしそうに

   目を細め郁人に告げた。


   「とても神秘的で、観光目的で来たいと

   言う気持ちがわかりますな」

   「この泳いでる魚は襲ってくる類でもない

   のもあるだろう」


   ポンドは迷宮を見上げて、チイトは

   泳ぐ魚を見ている。


   「………………」


   ただ1人、郁人だけは口をつぐんでいる。


   〔本当に綺麗な場所ね!! デートスポット

   って言われるのも頷けるわ!〕

   「……なあ」


   ライコも思わずはしゃぐなか、郁人は呟く。


   「どうして俺だけ人魚になってるの?!」



   ー そう郁人だけ人魚になっているのだ。



   アマポセドが加工したエンウィディアの

   鱗は、たとえ水中でも陸のように動け、

   呼吸は勿論、話すことも出来る魔道具

   となった。


   効果はエンウィディア達のいる神殿に

   帰るまでと時間制限もなく、体に影響も

   ないので自由に動き回れるというもの。


   迷宮前で売っている魔道具は使用してから

   効果は24時間と時間制限もあり、それ以上

   の時間は体に負荷ががかり、強制的に迷宮

   の外へギルドの者に連れ出される。


   しかも、鱗は例え泳げない郁人でも

   スイスイ泳げるようになるすごい代物だ。


   ……だったのだが、なぜか郁人だけ姿が

   変わっている。

   服装もヒレを思わせるような神秘的な

   衣装で海の中を泳げば優雅な光景が

   見られるに違いない。


   「みんなは変化ないのに、なんで俺だけ?!

   なぜか服装までも変わってるし?!」


   本当にどうして?! と混乱する郁人に

   チイトは目を輝かせる。

 

   「パパとっても綺麗だよ! 服装もひらひら

   してて、いつもパパが着ない服装だから

   新鮮だし、頭の輪っかがあいつとおそろい

   みたいで気に食わないけど、俺達もあるから

   そこは仕方なく目をつむるけど!」


   害はないから大丈夫! とチイトは

   太鼓判をおす。


   「イクト、君はもとから綺麗な足だったから

   人魚になってもヒレが綺麗なのだろう」

   「そこは関係あるのですかな?」

   「本当に普段ならお前がしない格好だから

   見ていて新鮮だな」


   ジークスは感心し、ポンドは疑問を告げ、

   篝はじっと見ている。

   ユーもくるくると郁人の周囲を泳いで

   楽しげだ。


   「本当になんで?!」

   「パパはあいつのいる神殿に長時間いたから

   影響されたんじゃないかな?」

   「ポンドとユーはそのままだけど……」

   「パパはあいつに歌も教わってたからね。

   あいつの影響を受けやすいんだ。

   自認してないけど神だし、あいつ」


   あいつ楽神って敬われているから

   神としての力も結構強いんだ

   とチイトが告げた。


   「たしかに……俺だけ教わってたもんな」

   〔あいつは神でもあるから、そいつの

   側にいればいるほど、人間のあんたは

   影響されやすくなるの。あたしは手続きを

   通しているから、あんたに影響はないけど〕


   あの俺様人魚が神側の事情を知る訳ないもの

   とライコは呟いた。


   (なるほど。俺が1番エンウィディアの

   近くにいたから……)


   郁人が納得していると、腕をつつかれた。


   「ユーどうしたんだ?」


   つつかれた腕を見るとそこにはユーではなく、

   キラキラとした魚がいた。

   鱗がまるで宝石のように輝いており、瞳も

   キラキラさせている。


   「あれ? この魚は?」


   ユーではなかったことに驚きながら、

   郁人は魚を不思議そうに見つめる。


   「その魚はこの迷宮の魔物だよ。

   でも、人に怯えるタイプだから滅多に

   出てこないはずだけど……」

   「そうなのか?! この魚も魔物!!」


   チイトが魚について説明してくれ、

   郁人は魔物とは思えないので、思わず

   じっと見てしまう。 


   すると、魚達は郁人の周囲をくるくるまわり

   あとからやってきた魚達は郁人にあるものを

   かぶせる。

 

   「なに?」


   郁人は気になって頭に被せられたものを

   外して見てみる。


   「冠?」


   それは冠であった。

   貝殻や珊瑚を組み合わせた、神秘的で

   キラキラと輝いている冠。


   〔どっちかというと、ティアラみたいね!

   とても綺麗だわ!〕


   ライコも声を弾ませる。


   魚達は冠をかぶれと催促するように

   頭をつつく。


   「かぶればいいのか?」


   郁人は壊さないようにおそるおそる

   再びかぶる。

   すると、冠が輝きだした。


   「どうなってるの?!」

   「眩しいですな?!」

   「これ……」

   「ヴェールがついたのか?!」

   「まるでオーロラだな!」


   郁人が目をぱちくりさせるなか、それぞれが

   感想を言い合う。


   〔わあ……!! とっても綺麗ね!!〕


   「ねえ、パパ。それ外そう。

   あと、さらに持ってこられる可能性が

   あるから受け取らないようにね」


   ライコも声を弾ませるが、チイトだけが

   眉間にシワを寄せて忠告した。


   「わかった。受け取らないし、はずそ

   ……あれ?」


   拗ねたような姿に郁人ははてなマークを

   浮かべながら外そうとしたが外れない。


   「え? なんで?」


   何度も外そうとしてもびくともしない。


   〔もしかして呪いのアイテムだったの?!〕

   「先程は外れたのになぜなんだ?!

   もしやそのヴェールが付けば2度と

   外れない魔道具になる代物だったのか?!」

   「おい! 俺が外して……こんな細いのに

   なんで外れねえんだ!?」


   ライコは慌てて、ジークスと篝が外そうと

   試みるも無駄だ。


   「ポンド。貴様なら外せるからやれ」

   「そうなのですかな?」

   「加護持ちしか無理だ。俺がやってもいいが

   あいつがうるさい」


   チイトに言われて、ポンドが外すと先程の

   悪戦苦闘が嘘のようにあっさり外れた。


   「あっけないぐらいに簡単に取れたな」 

   「加護って?」 


   どんな仕組みだと篝が訝しみ、郁人は

   キョトンと目を丸くした。


   「こいつ、生前に加護、神から実力を

   認められているんだよ」

   「この国に来てから気づきましたが、

   そのようですな」


   ポンドは自分でも驚きましたよと笑う。

   そんなポンドにジークスと篝は声を掛ける。


   「加護を得るとなると、君は生前かなり

   腕をあげた強者だったのだろう」

   「昔でも加護を得るとなるとかなり

   大変だと聞いたことがある。

   なら、歴史書にお前の名前が載ってるん

   じゃないか?」

   「いえ、私はそれほどの者ではないと

   自負しておりますので」

   「どこに自信を持ってるんだよ」


   ポンドの謎の自信に郁人は頬をかいた。


   「……パパ、ちょっと下がってて」


   チイトがなにかに気づいたのか、郁人を

   守るように背中に隠す。

   瞬間、凄まじい音とともになにかが

   突っ込んできた。


   「でかっ?!」

   〔あれ軽く2メートルは超えてるわよ!!〕


   それはホーンサメだ。郁人が来た際に

   見たものよりかなり大きい。

   ホーンサメはミサイルのごときスピードで

   郁人達の前を通り過ぎる。


   「……なんだったんだ?」

   「こっちに来ると思ったんだが」

   「なにか逃げてるようでしたな」

   「たしかに、あれは怯えていたような……」


   みんながホーンサメを見送っていると、

   ホーンサメを追うように何かが通り過ぎた。

   瞬間、地面を抉る音が響く。


   「今度はなに?!」

   「槍だね。槍がさっきのホーンサメを

   突き殺したみたいだ」


   驚異的な動体視力で通り過ぎたものを

   見れたチイトが冷静に解説した。

   その解説通り、音の出処には槍が突き

   刺さったホーンサメがいる。


   「よし、仕留めたな」


   誰のものでもない声がした。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!



ーーーーーーーー


神殿にてアマポセドはエンウィディアに

コーヒーを淹れながら告げる。


「旦那様、イクトちゃんに自分の鱗の

魔道具を身につけてほしいなら最初から

言えばよかったんじゃない?

わざわざ全員分用意もしなくて

済むんじゃ……」

「言えばあの反則がうるせえからな。

それに全員分じゃないと他の奴らが

警戒するに決まってる」


クソ奏者サマ以外は眷属化について

知ってるようだったしなとエンウィディアは

コーヒーを飲みながら呟いた。


「あと、旦那様の魔道具を身に着けたうえ

長期間神殿に居て旦那様の魔力、いや神力が

濃いイクトちゃんが迷宮に行ったら魔物達に

旦那様の眷属と勘違いされちゃいますよ?

イクトちゃん、なにか渡されるんじゃない

です? あそこの魔物は旦那様のファン

だから」


旦那様、たまに広々とした場所で演奏

したいからって迷宮に行ってますし

とアマポセドが告げた。

エンウィディアはハッキリと答える。


「それが狙いだから問題ねえよ。

あそこの迷宮は今、俺の影響があるからな。

渡すものは俺の力が濃いため眷属になって

なくても、身につければ影響されるだろ」

「……まったく、素直にイクトちゃんに

眷属になってって言えばいいじゃない

ですか」

「あいつに言っても断られるだけだ。

眷属なんて柄でもない、人でいたいとか

絶対に抜かしやがる。あいつは妹に

会いたいだろうからな」


あいつは妹を娘同然に考えてやがるからな

とエンウィディアは告げた。


「眷属になりゃ妹のいる世界に帰れない

だろう。眷属の主の俺から離れられねえ

からよ」

「……なるほど。旦那様はイクトちゃんに

帰ってほしくないんですね」

「たりえめだ。せっかく手中に収める機会を

逃すわけねえだろうが」

「そんな事考えてることも素直に言えば

いいのに。旦那様ってばイクトちゃんが

住みやすいように神殿内でも人間が歩けて

話せるようにしたり、家具も揃えてイクト

ちゃん専用の部屋を用意したり、眷属も

神殿にいるの怖がらないように可愛いので

統一したりしてさあ。他にも……」

「うるせえよ」


フンッと眉間にシワを更に寄せる

エンウィディアにアマポセドは微笑ましく

なる。


(本当に素直じゃないんだから、旦那様は。

こんなに健気で一途な子はそうそう

いないよ)


「視線がうぜえ」

「気のせいじゃないですか?

ほら、おかわりいります?」 


アマポセドは空になったカップに

コーヒーを淹れた。



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