255話 神殿にいた間のことを聞く
城から離れ、神殿に戻った郁人はチイト達
からこの国でなにがあったのかを聞いて
目をぱちくりさせた。
「そんなことが起きてたんだ……!」
〔病だと思わせるような呪いってなによ!
しかも音を媒介にするとか聞いたこと
ないわっ!!〕
そんな呪いがあったなんて……?!
とライコは声を震わせた。
「全然知らなかった……!! 俺が神殿に
いた間そんなことがあったなんて!」
「パパが知ったら心配するかと思って
言わなかったんだ」
練習どころじゃなくなるでしょ?
とチイトは告げ、篝が続ける。
「俺達が城で恩恵とか言われていたのは
その呪いの抗体を渡したからだろうな」
「呪いに気づき対応した災厄と抗体を
精製してくれたオーナー達には感謝して
いる」
「パパが褒めてくれると思ったから
したまでだ。礼はあの2人にしろ」
ジークスの言葉に眉をしかめたチイトは
郁人に抱きつく。
「ねえ! パパ! 俺いろいろ頑張ったよ!
俺エライ?」
「うん! とてもエライぞ! 本当に
ありがとうな!」
「パパに褒められた!」
郁人はチイトを抱きしめ、頭を撫でる。
チイトはご満悦だ。
〔まじでこいつなんでもありね……!!
滅亡っていう最悪の結末が薄れた
もの……! ……きちんと見てるつもり
なのだけどいつも変化していくから
見てても気付かないのよね……〕
じっくり見ててもいつの間にか変化して
いるしとライコはぼやく。
(それ、アハ体験みたいだな)
〔そう! それそれ!〕
郁人の言葉にライコが同意するなか、
篝が尋ねる。
「結局、あの女王はどこへ行っていたんだ?
あのまま解散になったが、あの後見つかった
のか?」
「無事、ちゃあんと見つかってますよ。
今は神官に怒られてる最中でしょうね。
勝手にしたみたいだからさ」
そこへ人数分のコーヒーを用意した
アマポセドがやってきた。
「いやあ、まさか下にあんなデカい人魚が
いたなんて僕も思いもしなかったよ!
でも、演奏会は負傷者0で終わってイクト
ちゃんも歌えたし、大団円!
みんなお疲れ様でーす!」
それぞれにコーヒーと茶請けのタルトを
置いていく。
「僕からお疲れ様の気持ちを込めて、
プリグムジカの迷宮産のベリーをふんだんに
使った特製タルトをどうぞ」
「すごい綺麗!」
「青色とは変わったタルトですな」
〔トッピングも可愛いわ!〕
そのタルトは貝の形をしたマカロンが
乗せられ、ピンクのサンゴのアイシング
クッキーや、青いゼリーなどといった
トッピングや海を連想させる青いクリーム
とこだわり抜かれた綺麗なタルトだ。
「青色のクリーム初めて見た! ゼリーは
泡みたいだし、サンゴや貝もあって
海みたいだ!」
まるで海のようなタルトに目を輝かせる
郁人にアマポセドは説明する。
「迷宮産のベリー"ムジカベリー"って
いうんだけど、それが甘すっぱくて美味しい
んだ。しかも、クリームに混ぜるとこんな
綺麗な青色も出せるんだよ。僕が考えた
タルトでさ。どうぞ召し上がれ」
「ありがとうございます! いただきます」
郁人は目を輝かせながらフォークを
タルトに入れ、口に含む。
「…………すっごく美味しい!」
タルトの味にも郁人は目を輝かせる。
苺のような酸味とクリームの甘さが
マッチしている。クリームチーズも
入っているのか、チーズの甘さもあって
食べていて飽きさせない。
ユーも気に入って尻尾を振りながら
もりもり食べている。
「これはとても美味しいですな!」
「甘さも程よい感じで食べやすい」
「見た目が青だから、奇抜な味かと思ったが
いい意味で裏切られたな」
ポンドやジークス、篝も目を丸くしながら
食べている。チイトも黙々と食べている
ため、美味しいのは明らかだ。
「アマポセドさん! これ本当に美味しい
です!! また食べたいくらいです!」
「そう言ってもらえて光栄だねえ。
旦那様ってば味の感想言ってくれないから
ほんとうに嬉しいよ」
アマポセドはへらっと笑うと、思い出した
ように口を開く。
「そういえば、旦那様から聞いたけど
イクトちゃんって料理好きなんでしょ?
ここの迷宮はこのムジカベリーの
ほかにもいろんな食材もあるから行って
みたら? イクトちゃん達は冒険者だから、
迷宮にも挑めて一石二鳥じゃない?」
君達の実力なら余裕で挑める迷宮だし
と説明して続ける。
「しかも、ムジカベリーがある迷宮は
超綺麗なんだよね。人族が迷宮じゃな
かったらいつでも来たいくらいなのに
って、なんで観光地じゃないんだって
ぼやくぐらいだから。1度は行きたい
迷宮って言われているそうだしね」
「そんなに綺麗な迷宮なんだ。
どんな迷宮なのか気になるな……!」
〔調べたら、あんたがいた前の世界で
例えるなら水族館に似てるみたいよ。
幻想的な迷宮で、冒険者のあいだでは
デートスポット扱いされてるみたい。
本当にどんな迷宮なんでしょうね?〕
アマポセドの説明に好奇心が芽生えた
郁人はどんな場所か思いを馳せ、
ライコは調べた結果を述べた。
どんな迷宮か考える郁人にチイトが
声をかける。
「行ってみるパパ? 気になるんでしょ?」
「いいのか?」
郁人が尋ねると全員頷く。
「勿論!」
「俺も行ったことない迷宮だ。
どんな迷宮か気になる」
「海の中の迷宮、どんなものか楽しみだ」
「さっそく予定が決まりましたな。
海の中の迷宮ですが、なにか必要なものは
ありますかな?」
ポンドが尋ねるとアマポセドが答える。
「君達はエラ呼吸できないから、呼吸用の
魔道具がいるかな? 海中の迷宮だから必要
なんだよね。迷宮前でギルドが貸し出し
してるから、入る前に貸してもらう必要が
あるよ。あとは泳げたら楽かもね」
とアマポセドが説明した。
(泳げない場合どうしたら……)
〔楽ってだけだから、別に泳げなくても
問題ないんじゃないかしら?
迷宮に関して調べたときに泳げないと
攻略不可とは書いてなかったもの)
だから大丈夫とライコが郁人を安心
させていると……
「テメエらあそこに行くのか」
「旦那様! 楽器とか大丈夫でした?」
「問題ねえ。メパーン共が対処
してくれていたようだ」
そこへエンウィディアがやってきた。
神殿に戻ると人魚が下から出てきた影響で
海底が揺れたので楽器などの様子を見に
席を外していたのだ。
チイトはタイミングの良い登場に呟く。
「やはり聞いていたか盗聴野郎」
「テメエみてえに頭の中を勝手に覗く奴が
いるから警戒してんだよ」
2人は火花を散らしたあとエンウィディアは
アマポセドにあるものを投げ渡す。
「これを使えるようにしてからこいつらに
渡せ。それで迷宮へ案内してろ」
「……これって旦那様の鱗じゃない
ですか?!」
投げ渡されたものにアマポセドは目を
見開く。
「たしかに楽神と謳われる旦那様の鱗を
使えば海の迷宮なんて地上みたいにすいすい
余裕で過ごせますけど!! それほど貴重な
ものをそんな気安く……!!」
「誰にもやったことねえから実験でやる
だけだ。別にいいだろ」
「旦那様、御自身の価値を理解してます?!
本当に気安く渡すものじゃないんですよ!」
エンウィディアとアマポセドは言い合い、
エンウィディアは面倒そうに眉を寄せる。
「なら、直接渡せばいいな。どれぐらい
あればいいか不明だからな、人数分
とるか……」
「それも良くないですからね!
コラ! 腕から鱗を剥がそうとしない!!
あぁ!! もう!! 今回だけですよ!!」
頑ななエンウィディアにアマポセドは
肩を落とした。アマポセドが折れたのだ。
「……特にイクトちゃんは覚悟しといた
ほうがいいかもね?」
「どういうことですか?」
意味深な言葉に郁人は首を傾げた。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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