ドラケネスのバレンタイン
遅れましたが、ハッピーバレンタイン!
今回はドラケネスのお話になります!
郁人がこの世界に来る前の話です!
ー バレンタイン。
とある錬金術師が広めたイベント。
チョコで感謝の気持ちや日頃の想いを
伝えることができるもの。
錬金術師が広めてから、ものすごい勢いで
伝わったイベントである。
そのイベントは空にあるドラケネスにも
広まっていた。
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郁人がこの世界に来る前のこと、
ドラケネスではバレンタイン文化が
根づき始めていた。
「ヴィーくん! 久しぶり!」
城にてサイネリアは塔へと戻る
ヴィーメランスに声をかけた。
「いきなり迷宮に行ってくるって
言ってまさか3日間もいるなんて思いも
しなかったよ!
で、どうして迷宮に突然行ったの?」
「……あのイベントがここに根付いて
しまったからな」
ヴィーメランスはため息を吐いた。
「バレンタインが近づくごとに予定を聞かれ
たり、視線を感じることが増えたからな。
警戒するに越したことはない。だから、
迷宮へブレイズと向かい、バレンタインが
過ぎた頃合いで帰ってきたんだ」
塔には念の為、炎で囲って侵入を防ぐ
ようにもしたがとヴィーメランスは
告げた。
「バレンタインを回避するために迷宮に
行くなんてヴィーくんしかしないよ!
しかも炎の壁を張って守ることも
ヴィーくんだけだろうね!
……でもね、ヴィーくん。残念なお知らせ
なんだけど」
サイネリアはヴィーメランスが拠点と
している、現在炎で囲われている塔を
指差す。
「逃げれてないよ」
「………………………」
塔、いや炎の周囲を囲むように
バレンタインのプレゼントの山があった。
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なんとかプレゼントの山を塔の1室へと
運びこんだヴィーメランスは客間にて
席に座りながら、向かいのサイネリアを
睨みつける。
「……貴様らの国はプレゼントに
なにか仕込む文化があるのか?」
「そんなの無いからね?! あれは例外
だから!!」
君がそう言いたくなる気持ちはわかるけど
とサイネリアは抗議した。
じつは、運びこむ前にヴィーメランスは
プレゼントに異物混入のものがないか
ブレイズやサイネリアと塔の裏で調べて
いたのだ。
途中、検査の手伝いにとサイネリアが
呼んだドラケネス王国専属の魔術師も
参加した結果、プレゼントの中に媚薬やら
魔術のかかったチョコ、盗聴の魔道具が
仕込まれたものなどたくさん見つかった。
『わあ〜こんなに怪しいものが見つかる
なんて! さすがこの国1番のモテ男と
言うべきかな? このナイスハンサム!
まあ、この怪しいのは全部あたしが
引き受けよう! あたし、チェリンちゃんは
アーティストでもあるからこれらを芸術へ
昇華しようじゃないか!』
と魔術師ことチェリンは怪しいものを
全て引き受けてくれたので、今ヴィーメ
ランスの塔内に仕込まれたものはない。
「チェリン、作品のタイトルはもう
決めてるそうだよ!タイトルは"妄執"
だって!」
「………とんでもないタイトルだな」
「僕は的を得たタイトルだと思うよ。
手紙付きもあったけど内容が凄まじ
かったもん」
サイネリアは苦笑したあと、
ヴィーメランスに声をかける。
「ヴィーくん、チェリンと会ったこと
あったんだね! 彼女、忙しくてあまり
城にいることないから意外だったよ」
「以前、俺がこの塔に移る前にブレイズに
会わせてほしいと懇願してきたんだ。
ブレイズにワイバーンとの仲介をして
ほしいと頼むためにな」
「あぁ〜……彼女、ワイバーン大好き
なんだけど、魔物に近寄られない体質
なんだよね。その体質をなんとかしようと
魔術を研究し続けた結果、王国所属の
魔術師になったぐらいだしね」
体質をどうにかはまだ出来てないけど
とサイネリアは呟いた。
「ヴィーくんのブレイズは特に賢いし、
他のワイバーンからも一目置かれてる
もんね。彼女がワイバーンとの橋渡し役を
頼むのもわかるなあ」
「ブレイズが嫌がる素振りを見せたから
近寄るのはここまでと決めているが。
……あいつどれだけワイバーンが好きなん
だ? 見ていて引くぞ、あれは」
狂気に近いとヴィーメランスは
眉をしかめた。
「ヴィーくんも見たんだね……。
あの熱量は端から見ても怖いよ……」
仕事が終わったらワイバーン探しに
迷宮に行くからねとサイネリアは告げた。
「もうちょっと控えたらまだ近寄っては
もらえるんじゃないかな?」
「ちょっとでは無理だろうな。
で、貴様は懐に何を隠している?」
「……バレちゃったか」
鋭いなあヴィーくんはとサイネリアは
懐から2つ取り出す。
「この青いリボンでラッピングされて
いるのは僕からのチョコ。
で、このフリードゥリリィがモチーフの
プレゼントは陛下からだよ」
サイネリアは2つをテーブルに置き、
ヴィーメランスに説明する。
「このバレンタインは感謝の気持ちを
伝える日でもあるでしょ?
だから、僕と陛下は君に心からの感謝を
形にしたくて、これらを用意したんだ。
陛下は直接渡したかったけど、今日は
前王の行方を探している者達と会談が
あってね……」
僕に渡してほしいとお願いしたんだ
とサイネリアは伝えた。
「だから、受け取ってほしい。
検査の魔道具を借りてるから今検査
を……」
「必要ない」
ヴィーメランスはハッキリと告げると、
2つを受け取る。
「これらは受け取ろう。礼を言う。
女王にも感謝を伝えておけ」
紅茶を飲むからそれの茶請けにしよう
とヴィーメランスは紅茶を淹れに行く。
その背中をサイネリアはあわてて呼び
止める。
「そんなあっさり受け取っちゃって
いいの?! さっきみたいに検査とか……!」
「? 貴様らは異物混入などするような
者ではないだろ。今食べるから感想も
女王に伝えろ」
ヴィーメランスは断言したあと、
そのままキッチンへと向かっていった。
「〜〜〜〜〜〜〜!!!!」
サイネリアは喜びから踊りだしそうに
なるのを必死に我慢した。
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「もうあのとき嬉しくて踊りたく
なるのを必死に抑えましたよーー!!」
紅茶をいただいたサイネリアはその後、
執務室で事務作業するリナリアに報告しに
来ていた。
伝えるサイネリアは思い出して頬が緩む
のを止められない。
「だってだって! あのヴィーくんが
ですよ!! 態度じゃ全然わからなかった
けど、じつは僕達を信頼していて、
検査もせずに食べてくれたんですよ!!」
ちゃんと食べてるところも見ましたから!
とサイネリアは身振り手振りで伝える。
「僕のチョコと陛下のチョコ、
ちゃんと食べてくれましたよ!!
美味しかったって! ホワイトチョコで
フリードゥリリィを表現したことも
褒めてましたよ陛下!!」
こだわりポイントが伝わってましたよ!
とサイネリアは自分のことのように
嬉しそうだ。
「次は陛下自ら渡しましょう!!
もっと親密になるチャンスですから!!
ヴィーくんもそのほうが嬉し……はず……」
サイネリアはリナリアの様子に気付いた。
リナリアが報告してから1度も話して
いないこと、いや、微動だにしていない
ことを。
「もしかして……?!」
サイネリアはリナリアに駆け寄り、
目を見開く。
「……やっぱり気絶されてる!!
思いの外、御自身がヴィーくんに
信頼されていることが嬉しくて!!
キャパオーバーで気絶されてる……!!」
サイネリアはあわてて書類を移動させ、
リナリアが持っていたペンを仕舞い、
机に倒れても怪我しないように
クッションを机の上に置く。
「陛下……! 良かったですね!
ヴィーくんが毎晩色んな人に押しかけ
られて国から出ていこうとしたときから
誰も信頼されていないのでは? と心配
されてましたもんね……。
それが、陛下御自身はちゃんと信頼
されていることが嬉しかったんですね!
気絶してしまうほど……!!」
出ていこうとするヴィーくんを
引き止めるの大変でしたもんね
とサイネリアは涙ぐむ。
「本当に良かったですね陛下……!!
次はちゃんと手渡ししましょう!
そのほうが陛下の気持ちも伝わりやすい
と思いますから!
勿論! 僕も応援しますからね!」
ヴィーくんともっと仲良くなりましょう!
とサイネリアは笑った。
このとき、サイネリアとリナリアは
ヴィーメランスがきちんとホワイトデーに
お返しをくれることをまだ知らない……。
ここまで読んでいただき
ありがとうございました!
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ヴィーメランスはチョコの山を見上げ、
呟く。
「これだけ貰うことになるとはな……。
それにしても……このバレンタイン。
絶対にあいつが広めたな。
いつか父上に自信作のチョコを渡したいと
言っていたからな」
イベント好きなあいつなら絶対にやる
とヴィーメランスは断言した。
「いつか父上にお会いした際に、
俺も感謝の気持ちを込めて作るべきだな。
失敗作など渡せる訳がない。
なら、父上もされていた料理をしてみるか」
いつも父上は楽しそうに作っていたな
とヴィーメランスは思い出す。
「それに、チョコを貰ったからには
返しの品も作らないといけないな。
父上ならそうするだろう」
ホワイトデーまでになにを作るか
考えておくかとヴィーメランスは呟いた。
「……まずはこのチョコの消費が目先の
問題だが」
まず消費期限が近いものから食べるか
とヴィーメランスは再び紅茶を淹れに
行った。