表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
291/366

元神の回想




   "恵みと平和の神"はプリグムジカ……

   いや、海において名を知らない者は

   いなかったほどに崇められ、多くのものに

   信仰されていた神である。


   その神は荒ぶる神に討たれ、ひょんなこと

   から息を吹き返し、現在はアマポセドを

   名乗っている。

  

   元神であるアマポセドはパール座を

   背中に乗せ、プリグムジカを見下ろし

   ながら思い出す。


   (あんな小さかった村がこんな大きく

   なるなんてね)


   ーーーーーーーー


   神として信仰される前は意識しかなく、

   ただ海を漂いながら見守っていた。

   名もないそれは漂っているのにあきて

   砂に潜り込み、微睡(まどろ)んだ。   


   (ん……なんか騒がしいような……

   なんだこれ?!)


   ふと起きれば、自身の上で生活する

   人魚達がいた。

   微睡んでいる間に自身の上にサンゴが

   生息し、そのサンゴ目当てに魚が、

   魚目当てに人魚が住みだし、村が

   出来てと生態系を築いていたのだ。


   (勝手に上で生活を……。

   まあ……いいか。別に痛くもかゆくも

   無いし。それにしても……)


   耳を澄ませてみれば、人魚達は

   楽しそうに歌っている。

 

   (これ……好きだなあ。

   なんていうんだろ? 聞いてみるか? 

   姿はどうしようか? どうせなら……  

   遠くの海で見たクジラとシャチを

   合わせた姿にしてみよう。

   あの2匹の姿はとても良いと感じたから) 

   

   クジラのシャチを合わせたような姿を

   魔法で構築し、姿を現す。

  

   《その音、とても良いね。

   もっと聞かせてほしいんだけど》

   

   そこから人魚達との交流がはじまる。


   突然現れたクジラらしきものに驚いていた

   人魚達だったが、圧倒的な存在感と溢れん

   ばかりの魔力に特別な御方と認識したのだ。


   (お気に入りの奏者が困っていたから

   知恵を教えていくうちに、いつの間にか

   崇められていたのには驚いたな) 

   

   神様だと信仰されて戸惑いはしたが、

   自身のために捧げられる音楽は悪くない

   と受け入れることにした。


   (平和と恵みの神か……らしくない。

   けど、彼らのおかげで力がわいてくるから

   彼らに貢献しないとね。

   なら、彼らと同じ視点でものを見てみたい。

   たまには人型になってみるのもありか)


   思い至り、どのような姿になろうかと

   彼らの自分への信仰心を見てみる。


   (……彼らは自分を女神と思っているのか。

   怖がらせては音楽を聞かせてもらえない

   かもと柔らかい口調や声色を心がけて

   いたのも原因かな? 性別の概念なんて

   自分には無かったけど、姿は女神で

   いこう。見せるのは1握りの相手にだが)


   自分……いや、わたくしはそうして

   改めて平和と恵みの神となった。


   人々から捧げられる信仰心はとても多く

   わたくし1柱の身にはありあまるもので

   あった。眷属を増やしても、なおあり

   あまる。


   だから、わたくしはその信仰心を形にし

   いろんなものを創り上げた。


   ー いつの間にか村から国へとなっていた

   土地はとても大きく、護るのも大変だろうと

   城壁のように高くそびえ立ち、害から

   人々の暮らしを護るための"サンゴ"。


   ー いつかは武力で攻められる可能性が

   あるかもしれないと、わたくし自身と

   人々を護るための雷を操る"三叉槍"。


   ー わたくし1柱だけでは国全体を見守り、

   異変を察知するのは大変だから国の現状が

   わかる"まるわかりマップくん"。

   

   他にも創り、合計で7つの神器が出来た。


   わたくしは音楽と信仰を捧げられ、

   それに応えるように知恵を授けたりして

   平和に過ごしていると外から異変が来た。


   〔君、もうちょっといろいろと起こして

   ほしいんだけどなあ。見ててつまらないよ。

   だから、これ貰うね〕


   突然、前触れもなく三叉槍を奪われた。


   (いきなりなに?! わたくしの三叉槍が

   奪われた!! いったいどこに……!?

   誰に奪われたの?!)


   わたくしは混乱したが、あわてて三叉槍の

   行方を三叉槍に宿る自身の力を頼りに探す。  


   が……


   (途中から途切れてしまった……。

   わたくしが辿れないなんてありえない!!

   だとすると……もしや"管理の神"がいる

   というあの話は本当だったの?!)


   心当たりがあるとすれば、漂っている際に

   聞いた世界を管理する神が世界の外側に

   いるという眉唾な話。


   (わたくしはこの広大な海を見守る神。

   たとえ陸地であろうとわたくしの力を

   探せない、途中で途切れることなんて

   ありえないもの……!!)


   そう推測したわたくしは嫌な予感がする。


   (気取られない内に盗むことが出来るなら

   命を奪うのだって簡単に出来るかも……!

   わたくしが倒れたら海や人々、眷属はどう

   なる! なにか手を打たなくては……!!)


   わたくしは必死に考えた。


   神器の1つであるサンゴに意思を持たせ

   わたくしの力がなくても、人々の奏でる

   音楽をエネルギーとし動くようにした。  

 

   わたくしになにかあったらプリグムジカを

   守ってもらえるように海中でも自由に動ける

   加護を与え、異変を察知できるようにした。

   

   わたくしが消えたら眷属の皆が消えてしまう

   ので、少しずつわたくしの眷属ではない、

   独立した種族として生きれるようにして

   いた。


   (やっと1種族だけ独立できた。独立させる

   のにこんなに力がいるなんて……。

   他の眷属達も早く独立させ……)


   その途中のこと……


   〔力の1部奪ったのに、まだ穏やかに

   過ごせるんだ。いろいろ起きてほしいから

   君には消えてもらうよ。見てて退屈だから〕

   「お前が恵みと平和の神だな」


   わたくしの三叉槍を持った荒ぶる神に

   討たれてしまった。


   (あれはわたくしの……!! よくも盗んだ

   ものを他の神に渡したな!!

   外の神よ!! わたくしは決して許さない!)


   自身に渦巻く怒りという激しい感情を

   外の神にぶつける。


   (………プリグムジカ、わたくしの民達よ。

   どうか無事で……我が眷属よ……すまない。

   1種族しか独立させれなかった……。

   独立できたマリンリーガルズよ、

   どうかひとりぼっちになったとしても

   生きて……)


   わたくしの意識は消えた。 



   ー ように思われた。 

   

   

   とても綺麗な音に意識が覚醒する。


   (あれ!? わたくしは消えたはず?!

   それにしてもこの音……とても綺麗!!)


   初めて聞いたこのような綺麗な音。

   心が洗われるのうな、透き通った音。

   冷たさのなかに優しさも感じる音。

   心から、魂から骨抜きになる音。


   (こんな素晴らしい音を聞いたことない!

   まさに天上の音! 本当に素晴らしい!!)



   ー「おい、これテメエのだろ」



   突然、声を掛けられた。


   声をかけたのは頭上に輪を浮かべた

   見慣れない服に海を連想させる綺麗な青年。

   見惚れてしまう綺麗さにも驚いたのだが……


   (わたくしに気付いた! わたくしの実体が

   無いのに?!)


   驚いているのもつかの間、あるものを

   投げ渡される。

   それはとても懐かしい、身に覚えのある

   力を感じる。


   (これは……わたくしの三叉槍!!)

   「これは俺に戦いを挑んできたやつのだ。

   が、これからテメエの気配を感じた。

   俺は盗人になるつもりはねえ。

   だから、これをテメエに返す」


   告げると青年は去っていった。

   そんな青年に音符海牛がついて行っている。


   (待って! お礼をまだ言えて……

   行っちゃった……)

   

   感謝を告げれず、落ち込んでいると

   音符海牛が青年の裾を引っ張る。

   

   「テメエらさっき聞かせたろ?

   ……たく、うぜえな」


   言葉はキツイが声色が優しい青年は

   舌打ちしたあと竪琴を奏でる。


   (この音……! 先程の素晴らしい音!!

   あの子が奏でていたの?!

   ……本当に素晴らしい!!)


   音楽を聞いているうちに欲が芽生える。

 

   (この音をもっと近くで聞いてみたい。

   ずっと聞いていたい……! ならば!)


   わたくしは三叉槍に宿る自身の力を

   使い、実体を創り上げる。

 

   (神ではないとはいえ、わたくしが

   生きていると知れたら外の神、あいつが

   動くかもしれない。だから姿を変えよう!

   前はほとんど見せなかった人型にし、

   性別は以前と違う、男と設定する!)


   わたくしはどんどん姿を創り上げる。   


   (1度は消滅を味わったこの身、

   今世はワガママに生きようか。

   あの青年のそばに仕えるのも悪くない。

   名前は……)


   『君が海神様?! ポセイドンかい?!』


   誰もと違う気配をまとった、加護を与えた

   者が仕える少女の言葉をふと思い出す。


   (ポセイドンだったか? どうせならそれを

   少しいじった名前にしよう。もう神では

   ないしさ)


   わたくしの名前、いや僕の名前は……


   「僕はアマポセド。今回はワガママに

   生きよう。まずは、お礼を言いにいかない

   とね。待っててね、旦那様」


   足取りを軽やかに僕は青年の気配を辿り、

   向かった。

   


   ーーーーーーーー           

   

   (あの後、旦那様に仕えたいから

   とっても頑張ったなあ、偉いぞ僕!

   いかに使えるか、どれだけ旦那様の

   音に惚れ込んだか投げ飛ばされても  

   めげずに頑張ったよ!!

   そばにいてますます惚れ込んだしね!)


   身近にいればいるほどわかる旦那様の良さ!

   とアマポセドは自慢げだ。

   

   (あの旦那様が執心してる相手がいる

   ことには驚いたけど、そんな相手に

   素直になれないのもかわいいもんだ)


   音楽に向ける真摯な態度で相手すれば   

   いいのにとアマポセドは思う。


   (そんな相手、イクトちゃんも音楽を

   さらに磨けばとても良いものになるから

   頑張ってほしいもんだよ)


   舞台で歌う郁人の歌を聞くアマポセド。

   

   (あれ? この歌って……。

   旦那様ってば強硬手段に出たな。

   まあ、それくらいがちょうど良いでしょ。

   彼は結構鈍いみたいだし。

   旦那様が幸せなら僕もOK。

   旦那様の幸せが僕の幸せだからね!)


   アマポセドはにやりと笑った。

     



       

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ