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252話 元神である




   「……え?」


   チイトの言葉に郁人は口をぽかんと

   開けてしまう。


   「……元神?」 

   「本当なのか?! いや、彼がイクトに

   嘘を言う訳がない……! ということは

   真実なのか……?!」

   「道理で……あの方は神殿内でも

   染まることなく過ごせていたのですな」

   「あの神が生きていたのかい!?

   これは驚いた!! 本当にびっくりだよ!!」


   他の皆も呆然としている。


   《あちゃ〜隠していたつもりはない

   としても、言われると困るなあ~。

   皆さんご内密によろしくね。

   もう僕、神でもないからさあ〜》


   プリグムジカが混乱しちゃうから

   とアマポセドが告げたあと尋ねる。


   《で、君はいつ気づいたんです?》

   「最初に会ったときからだ。

   貴様だけ気配が違うからな」

   《マジかぁ……!! 旦那様に君のことも

   あとで聞いたけどさあ、これほどとは。

   まったく、恐れ入っちゃうよ》 


   もう笑っちゃうくらいだわ

   とアマポセドは笑う。


   〔は……? マジ??〕


   バタンっと何かが倒れた音が聞こえ、

   ライコの慌てた声とともにバタバタと

   忙しない音も聞こえた。


   〔……本当じゃない?! なんで気づかなかった

   のあたし?! もう1つの気配はこいつの

   ものじゃない!! こいつがあたしが干渉

   したことによって発生した歪みだわ!!

   てか、まずなんであの巨大人魚の出現も

   確認出来なかったのよあたしはあ!!〕


   なんでなのよー!! という心からの叫びと

   ともにライコは慌てふためく。

  

    (ライコ、落ち着……)

   「おい。次はテメエの番だ」


   郁人が落ち着かせようとする前に、

   エンウィディアが声をかけた。


   「え?」  

   「テメエの歌はまだ途中だった。

   だから再開だ。歌はこれを歌え」  


   エンウィディアは楽譜をみせると、

   郁人を俵抱きして舞台へと進む。


   「オレが伴奏してやる。光栄に思え」


   郁人を舞台の中央に立たせると、

   エンウィディアはパイプオルガンの

   もとへ進んだ。


   「テメエ等は演奏聞いてろ」


   チイト達に向かって言うと、どこからか

   メンダコ達が現れて案内をする。


   《旦那様、演奏場所はどうします?》

   「国の真上にしろ」

   《了解》


   アマポセドの声とともに、上に上がる感覚

   を覚えた。アマポセドがプリグムジカの

   真上まで泳いでいるからだ。

   近くにいたユーが郁人が倒れないように

   支える。


   「ありがとう、ユー。あそこに行こうか」


   郁人の視線の先、舞台にはいつの間にか

   楽譜台が置いてあり、そこに先程見た

   楽譜があった。郁人は進むと、確認する。


   (これは……初めて見る楽譜だな。

   文字や内容はわからないけど、

   リズムはわかるから問題ないかな?)


   歌いやすいようにふりがなもふってあるし

   と郁人はメロディを読み取る。


   「用意はいいか?」


   エンウィディアはパイプオルガンの前に

   座り、準備万端だ。


   「うん。大丈夫だ」


   郁人が頷くのを見ると、エンウィディアは

   パイプオルガンに視線を戻す。


   エンウィディアの伴奏がはじまる。

   郁人は楽譜に目をやり、歌った。



   ーーーーーーーー 



   「なんで気づかなかったのよ!

   あたしは!!」


   ライコは髪をかきむしりながら、

   自分の鈍さに悶絶していた。


   「こんなに堂々と近くにいたのに!!

   あたし油断し過ぎじゃない?!

   気が緩みすぎだわ!! 本当に情けない!!

   ……とにかく歪みで元神が生きてしまって

   いたのは事実。生死の関係だから、

   上に提出するべきかしら?」


   とりあえず、調べて資料として

   まとめないと……とライコは調べに入ると


 

   ー 《ごめんねえ。それは困るんだわ》



   突然、脳裏に声が聞こえた。

   聞き覚えのある声にライコは目を見開く。


   「この声……まさか?!」

   《ご想像通り、アマポセドさんだ。

   神同士の通信回路に介入させてもらって

   ますよ。いやあ、こうやってこちらから

   管轄の神に関わるのは初めてだ。

   たいていはそっちからだからさあ》


   アマポセドは笑っているが、その声は

   ひどく冷たい。


   《管轄してる神だかしんないけどさ。

   こっちに許諾も得ずに勝手に介入した

   挙げ句に僕の能力、三叉槍を奪うとか

   横暴じゃない? そのおかげで僕は戦う

   手段が無くなって頭を使う羽目になった

   しさあ。しかも、その盗品を自分が指名

   した神に渡してるとかマジどんだけだよ》


   人のものを盗んどいてそれはないわ〜

   とアマポセドは告げる。


   《まっ、その所業は前の神だ。

   君には関係ないからそこは触れないで

   おいたげる。

   で、君さあ僕に関わるのやめない?

   お互いに利益はないから》

   「訳わからないことばっかり話して

   るんじゃないわよ! あんたがあたしの

   せいで発生した歪みなんだから、

   後々になにが起こるかわかったもの

   じゃないの! 歪みは修整しないと!」

   《わあ〜お役所のお決まり文句だ〜。

   まあ、言う前に僕の話を聞いてからに

   したらどう? 結構君にメリットある話

   なんだぜ?》


   アマポセドはライコの態度に笑いながら

   続ける。


   《僕さあ、神に戻る気はないんだわ。

   全部旦那様にあげてるから。

   見てみたら? 僕のステータスとやら》

   「…………たしかに、あんたは再び神の座に

   戻る気はないのね。ステータスを見たら

   神に戻るための力を全てあいつに捧げてる。

   なにより今の神、楽神と呼ばれている

   あいつの眷属になったから神に戻りたくても

   戻れない」


   ライコはアマポセドのステータスを

   見て判断する。


   《そう! 僕は旦那様の眷属!!

   しかも契約で僕の力は全て旦那様に

   捧げているから神に戻ろうとしても

   その力は旦那様のものでもあるから

   僕にはどうにも出来ない!!》

   

   僕の全ては旦那様のもの!

   とアマポセドは誇らしげに語る。


   《僕は旦那様のおそばにいたいだけ!

   息を吹き返した僕は旦那様のためにある!

   僕は旦那様の音楽をただ聞きたいだけ!》


   あの至高の音を聞き続けたい!

   とアマポセドは告げた。


   《あぁ、話がそれたかな?

   それで君のメリットなんだけど……

   旦那様が君に気付きかけてるんだよね。

   旦那様自身は認めてないけど旦那様は

   楽神と崇められているからか、神として

   の力が高まったせいか君の気配に気づい

   てる節がある。イクトちゃんのそばに

   自分の知らない気配があるって》

   「……嘘っ?!」


   ライコは顔を青くし、アマポセドは

   理由を述べる。


   《嘘じゃあない。本当だ。

   旦那様ってば妖精であるメパーンとか

   使って探りを入れてたんだよ。

   おかしいと思わなかった?

   神殿でメパーンの姿が見えなかったの?》


   あれ、誰なのか探させてたんだぜ?

   とアマポセドは告げた。


   《今、旦那様はイクトちゃんの演奏に

   意識を向けてるからまだ本腰入れて

   ないけど、演奏か終われば縁を辿って

   くるんじゃない?

   旦那様ってばイクトちゃんのそばに

   誰か居るの嫌がってるのに、君が近くに

   いるって気付いたら間違いなく…… 

   殺しに行くよ? 旦那様なら会わずに

   音で殺すことだって出来る》

   「……………」

   《どうする? 僕はもう神に戻る気もないし、

   このまま大人しく旦那様のそばで隠居生活

   しとくよ? だから、これからの世界に

   影響を及ぼすようなことをする気はない》


   僕は旦那様のために生きていたいから

   とアマポセドは述べる。


   《正直、神として戻る気ならサンゴが

   汚染された段階で戻ってる。

   今まで守ってきた海の1部が汚染された

   んだから。僕の神としての功績を

   知ってるでしょ?》

   「……えぇ。あんたは殺されるまで

   海を守ってきた。武力が無かったその分、

   知恵を絞って話し合いで全て解決していた。

   だから恵みと平和の神として尊敬されて

   いたんだから」

   《そうそう。だから、神として動くんなら

   とっくに動いてた訳よ》

   「でも、あんた……少し残してるわよね。

   神としての力」


   ライコは調べた結果を告げた。

   それにアマポセドは肯定する。


   《うん。ほんのちょっとだけね。

   今、神の力を使って君に話しかけてる。

   その力を旦那様と君の縁を切るのに使って

   もいい。君は今、旦那様と神としての縁が

   あるから、旦那様も勘づいたわけだし。

   僕は旦那様のそばで隠居生活できるし、

   君は旦那様に殺される可能性は0となる》


   Win-Winってことだとアマポセドは笑う。

   アマポセドの言葉にライコはしばらく

   考えたあと、口を開く。


   「………………本当でしょうね?」

   《うん。僕はこの生きている奇跡を

   旦那様の隣で過ごすことに使いたい。

   神としての力は正直、邪魔なんだよね。

   また僕に海の神としての降臨してほしい

   とか言われたら勘弁だし》

   「…………いいわ。あんたの存在を認める。

   神の力が無ければ問題ないはずだから」


   誰にも言わないでよと口止めは忘れずに

   ライコは告げた。


   《そうこなくちゃ。君はいい子だ。

   あの前の神に比べたらだけど》 


   あの前の奴はまじで気に食わねーわ

   とアマポセドは笑った。


   《んじゃあ、まあ。そういうことで

   お互い干渉しないっつうことで。

   そのまま真っ直ぐ育ちな。

   あんまり前の神のこと信用しちゃダメだよ。

   前の神は本当に最悪だったから》


   まじでありえない奴だったと告げる

   アマポセドの声は氷のように冷たい。


   《つまんないからって僕を殺させた

   くらいだしさあ。

   そんじゃあ、話はここまでってことで!

   この世界の管理をよろしくね。新米ちゃん》


   アマポセドの通信は途絶えたと同時に、

   なにかがブツリと切れる音が聞こえる。


   エンウィディアとの神同士の縁が切れた

   音だ。


   ライコはその類の書類を急いで確認し、

   無事に約束が果たされたとわかる。


   「…………まさかここまで辿り着かれる

   可能性があったなんて」


   緊張の糸が切れたライコは床に座り込む。


   「しかも、あたしが原因で元神の

   復活とか……なんで気づかないのよ!」


   あたしの目は節穴か! と自分を叱る。


   「……とにかく、歪みの件に関しては

   どうにか説明して、神の復活を誤魔化

   さないと」


   ライコは書面をどう書くか頭を抱えた。


   


ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!



ーーーーーーーー


(まじで素直な神だったな。

気配からしてそんな感じはしたけど)


アマポセドはポツリと心のなかで呟いた。


(だからか、ちょいと心配だなあ。

僕のことを歪みとか言ってたし、あの子が

なにかしちゃったおかげで僕は息を吹き

返したようだけど。その歪みをここまで

気づかないのは変だ。あの神になにか

施されてる可能性はあるな)


あいつなら絶対にやるとアマポセドは

舌打ちする。


(あの子自体に施したらいろいろ面倒そう

だから道具とかに仕込んでるかもなあ。

そのせいで気づかなかった可能性が高い。

あの性悪なら絶対にやる。

気付いたら面白くないとか言って)


あいつは慌てる姿を見るのが好きそう

だしとアマポセドは呟いた。


(まあ、これで僕は完全に旦那様のもとに

つくことができるな。隠居生活バンザーイ!)


これからもお仕え頑張るぞー!と

意気込み、郁人とエンウィディアの

演奏に耳を傾ける。


(それにしても……流石旦那様の認めた

というべきか、上手いねえ。

旦那様が言うにはまだまだらしいけど、

僕からしたらかなり上手いんだけど)


僕が旦那様の演奏以外で耳を傾ける

なんてねとアマポセドは郁人の歌を

聞いた。



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