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251話 とんでもない事実




   その歌は魂を揺さぶる歌であった。


   鼓膜を通り抜け、心、魂にまで届く。

   道具に頼ることなく、自身に最初から

   備わっている歌声だけで人々の魂を掴み

   決して離さない。


   彼、エンウィディアは自身の声と

   今まで怠けることなく、ずっと磨き上げ

   続けた音楽の才能と技術だけで人々の魂を

   捕まえることができるのだ。


   極上の重低音、その歌声はまさに

   "楽神"と呼ぶにふさわしい。


   (……すごいっ!)


   郁人は目をキラキラと輝かせる。

   身体中の細胞がいっせいに湧き立つような

   心が揺さぶられる感動を覚える。


   (本当にすごすぎないかっ……!!!)


   言葉で表現しようとしても出てこず、

   すごいとしか郁人は言えなくなっている。


   (エンウィディアの歌は……!!

   こんなにすごかったのか……?!)

   <パパがそう設定したのもあるけど、

   あいつはずっと努力してたからね>


   パパに描いてもらってからもずっと

   休むこと無く頑張ってたよとチイトが

   告げた。


   <あいつの音楽は俺にも再現出来ない。

   あいつにしか出来ない……極上の音色だよ。

   本当にすごいよ、本当に>

   〔この猫被りが素直に聞き入って、

   称賛してる段階で凄さは理解できるわね。

   あたしも聞き入ってるんだけど……〕


   この歌をいつでも聞けるようにしたいわ

   とライコはこぼした。


   そんな歌にダメージを受けているものがいる。


   〜〜〜〜〜〜〜!?!?


   ー あの人魚だ。


   人魚だけが、苦しそうにのたうち回り、

   耳を抑えている。


   (エンウィディアの歌は敵に対しては

   苦痛でしかないからな)

   <電気も混ざってるから、なおさら苦痛

   だろうね>


   郁人達が見守る中、エンウィディアは歌う。

   高らかに、至上の歌を歌う。


   人魚にとっては地獄でしかない歌を歌う。

   奏でる。


   なんとかして状況を打破したい人魚は

   あるものに目がいった。


   大切に守られている"郁人"だ。


   あれを手に入れれば打破できるはずた。

   それに、何故かあれが無性に欲しくて

   たまらない。たまらない。たまらない。


   ほしいほしいほしいほしいほしいほしいほし

   いほしいほしいほしいほしいほしいほしいほ

   しいほしいほしいほしいほしいほしいほしい

   ほしいほしいほしいほしいほしいほしいほし

   いほしいほしいほしいほしいほしいほしいほ

   しいほしいほしいほしいほしいほしいほしい


   人魚は巨体をゆらし、波を生み出すと

   その波の流れにのって、それに向かう。


   そのままそれに手を伸ばしたが……



   ー 「触れさせるわけがないだろ」



   その手に杭が突き刺さる。


   背筋が凍えるほどの深い黒。

   深海のさらに奥に似た、すべてを

   呑み込んでしまいそうな闇があった。


   チイトが手を伸ばそうとした人魚の

   手に自身が作り出した杭を刺したのだ。


   「おい、まだ動けてるぞ。とっととやれ」


   舌打ちしたチイトはエンウィディアに

   向かって告げた。


   エンウィディアは目を鋭くしたあと、

   指をパチンと鳴らす。


   !!!!!!!


   瞬間、人魚は雷の檻に閉じ込められた。


   《大人しく聞いてたらよかったのに》

 

   ありゃまあと言いたげにアマポセドは

   息を吐く。


   《旦那様は観客を押え込んでまで

   聞かすタイプじゃなかったから

   檻までは無かったのにねえ》


   自ら首を締めに行くとかと冷笑した。


   歌は終盤に入り、エンウィディアの 

   歌の威力は更に増す。


   逃げようとしても檻があるから逃げられず、

   耳を塞ごうにも杭が床に固定しているため

   不可能だ。


   エンウィディアは高らかに歌い、

   極上の音色に人魚はさらに追いつめ

   られる。


   なんとか杭を外そうとむりやり手を

   動かそうとしても動かない。

     

   まるで杭は碇のように重く、動かない。


   ーーーーーー!!!!!!!


   そんな人魚に歌は響き、ダメージを与える。


   〔……えげつない威力ね、歌もあの杭も。

   あの杭、呪いが込められてるみたいだもの〕


   調べたライコはえげつなさに息を呑む。


   <パパを狙ったのだから当然だ。

   あの人魚は気づいてないようだがな>


   ダメージを負いすぎて気づいてない

   とチイトは鼻で笑う。


   (……なんで俺は狙われたんだろ?

   血が目的なのか? でも、このプリグムジカで

   怪我してないんだけどなあ)


   郁人の頭に疑問符が浮かび、チイトの

   後ろから人魚を郁人は見ていた。


   〜〜〜♪♪


   歌は終盤に迫っていき、更に威力が

   上がっていく。


   それに人魚はもう抵抗する力は無かった。

   もう魂の形が泡となっていくのを感じる

   人魚。


   人魚は歌を聞きながら、あるものを見る。

   チイトの後ろで守られている郁人を見る。


   ………………………


   人魚はなぜかあれが無性に欲しかった。


   なぜなんだと疑問を持ちながら、手を

   伸ばそうとしてもやはり杭が邪魔をする。


   あの瞳はこちらを見ている。


   前に立つ人間が羨ましい。そばにいる人間が

   羨ましい。妬ましい。憎らしい。

   もっと早くに気づいて、弱る前に出てきて

   いたらあれが手に入ったのだろうか。


   あれが欲しかったなあ……


   人魚は最期まで郁人を見ながら泡となり、

   消えていった。



   「………………」



   見られていた郁人はなぜか人魚の瞳が

   印象に残っていた。


   (なんでだろう……あの瞳……

   まるで……)

  

   まるで親を探している、迷子になった

   子供のように思えたからだ。


   「パパ?」


   そんな郁人にチイトが話しかけた瞬間、

   泡となった人魚がいた場所に光の玉が

   現れる。


   「あれ!?」

   〔あのドラゴンを倒したときと同じもの

   だわ!〕


   郁人とライコが驚く中、チイトは光の玉を

   目掛けて飛び出した。


   手を伸ばした瞬間


   「またか!」


   バチンっという音とともに、チイトは

   弾かれた。


   光の玉はそのまま、再びどこかへと

   飛び去った。


   弾かれたチイトは今回はそのまま墜落する

   ことなく、舞台に着地する。


   「…………これは」

 

   チイトは顎に手をやり、考え出す。


   「大丈夫か!?」


   駆け寄る郁人にチイトは微笑む。


   「大丈夫だよ、パパ」

   「……なにかわかったのか?」


   その微笑みのぎこちなさに気付いた郁人は

   チイトに尋ねた。


   「………うん、少しだけ」


   チイトは目をぱちくりさせたあと、

   口を開く。


   「ほんのちょっとだけね。

   ただ………まだ確信した訳じゃないから」


   だから、言えないとチイトは眉を下げ

   顔をうつむかせた。


   「……そっか、わかった。言いたくないなら

   言わなくてもいいよ」


   言いたくなさそうだったので

   郁人はどこか不安そうなチイトの

   頭をなでた。


   「こっちは終わったよ」

   「そちらは大丈夫だったか?」

   「皆様に怪我がないようで安心しました」

   「ん? あいつ、姿変わってないか?」


   そこへクフェア、ジークス、ポンド、

   篝の4人が駆けつけた。


   「うん。大丈夫だ」

   《旦那様が本気出したんだから、

   こっちが勝つに決まってるでしょ?

   歩く災厄の異名持ちもいるんだからさあ》

   「……その声はもしや!!」


   ポンドは声にハッとする。

   そんな様子を見てアマポセドは笑う。


   《先程お会いした旦那様の従者でも

   あります、アマポセドですよ。

   現在、皆様は俺の上にいるんで顔を

   見て話せないのは許してほしいね》

   「お前がこのクジラなのか?!」

   「君は何者なんだ?!」


   篝とジークスは目を丸くした。


   「ほんと、何者なんだろうな?」


   郁人も首を傾げた。

   そんな郁人にチイトは答える。


   「何者って、こいつ元"海神"だよ。

   エンウィディアが倒した、荒ぶる神に

   神の座を奪われた。恵みと平和の神」


   チイトはとんでもないことを言った。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


リクエスト企画につきまして、活動報告に

詳細を書かせていただいております。

よろしかったら、お目通しいただければ

とても嬉しく思います。


ーーーーーーーー


クジラの方から響く極上の歌声に

黒狼は思わず耳を澄まし、この歌声を

聞きたいと集中してしまう。


その姿を見ながら、錬金術師は

風魔王に耳打ちする。


「兄様、この歌声って……」

「あやつだろうな。普段と違いロック

テイストだがこれもまた……

素晴らしいものだ」


風魔王は流石だと自慢げに笑うと、

魔物達を見る。


「魔物達も聞き惚れているようだ。

敵意がないなら、あとで移動させよう。

そろそろ終わりそうだからな」

「……たしかに、そうだね。

向こうにいた大きな敵意がどんどん消えて

いってる気配がするよ」


錬金術師はクジラのほうを見ながら頷いた。

 

「今はただ耳を傾けようでは無いか。

余もじっくり聞きたいのでな」

「そうだね、兄様」


2人は歌声に耳を傾けた。



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