250話 演奏がはじまる
「えっ?! このクジラみたいなのが
アマポセドさんなのか?!」
スクリーンを見た郁人は目を見開く。
そんな郁人にチイトは無邪気に笑いながら
説明する。
「うん。今まで俺達が見ていた人型は
本体から作り出した分身みたいなもの
なんだよ。で、スクリーンで見ているのが
本体。まあ、本当はもっと大きいけど」
劇場だけとあいつに指定されたから、
その大きさに 変えたみたいだね
と、チイトは説明した。
《いやあ~、チイトくんでしたっけ?
旦那様の言うようになんでも知ってるん
ですねえ。どこで知ったんだか……》
僕、驚いちゃいましたよとアマポセドは
笑う。
《チイトくんの言う通り、人型は分身。
日常を過ごすための仮ボディみたいな
感じですかね。この姿じゃ目立ちますし、
往来を歩くには邪魔なんで。
で、今の姿が本体、僕の本当の姿だ。
僕の大きさは本来プリグムジカより
大きいけどさ》
「そもそも貴様の上に国があるんだろ」
《マジかぁ?! そこまで知ってるの?!》
こりゃたまげたわとアマポセドは
声をあげた。郁人とライコも思わず
声をあげる。
「アマポセドさんの上に国があるの?!」
〔このクジラの上にあるなんて?!〕
驚く郁人にアマポセドは告げる。
《いやあ〜彼の言う通り。本当なんだよね。
ずうっと昔に微睡んでたらいつの間にか
僕の上に魚が住み着いていてさ。
で、その魚目当てに他の生き物が来て、
その生き物目当てに人魚が来て……
とこんな具合にどんどん生態系が
出来てさ、最終的には国が出来ちゃって
たから起きたときは本当に驚いたよ》
人の上でなにやってんだか
とアマポセドはこぼした。
《まあ、驚きはしたけどそこまで
気にするほどじゃないんで。
僕も起きてからいろいろと人々と
関わったんで他人とは思えなくなってたし。
ほらほら! 旦那様をご覧ください。
そして、新しくなったパール座を
ご照覧あれってな!》
アマポセドが告げた瞬間、パール座の
内観が変貌していた。
オペラやクラシックが似合う荘厳な
内観から、黄金と赤の似合う豪華絢爛な
舞台へと変わっていた。
パイプオルガンが舞台に存在し、
そのパイプオルガンは黄金に輝き、
圧倒的な存在感を出している。
〔かなり雰囲気が変わったわね!?
ド派手でこの世の財を尽くしたような
雰囲気になってるわよ!?〕
あまりの変わり具合にライコは声をあげた。
「これ……?!」
郁人は変わり具合もだが、もう1つ
驚いていることがあった。
「俺が描いて渡した絵そのものだ!!」
コンサート前に郁人がエンウィディアに
渡したイラストそのものが表現されていた
からだ。チイトは郁人の言葉に目をぱちくり
させる。
「パパが描いたの?」
「うん。今のエンウィディアを見て、
こんな舞台も似合いそうだなって
青いバージョンと赤いバージョンと
色違いのものと一緒に渡したんだ」
「なるほど。だから気合入ってるんだ、
あいつ」
そういうことかと納得した
チイトはエンウィディアを見た。
「衣装もバッチリ変更してるし、
本当にノリノリだな」
「うるせえぞ、そこ」
チイトの言葉が聞こえていた
エンウィディアは舌打ちする。
!!!!
人魚は突然のことに驚いていたが、
チイトに話しかけているエンウィディアに
今だと襲いかかる。
「エンウィディア?!」
「大丈夫だよ、パパ」
思わず声をあげた郁人を安心させる
声色でチイトは話しかけた。
「あいつ、かなりパワーアップしてるから」
チイトが言った瞬間、すさまじい音が
響き渡る。
「マジか……!!」
《さすが旦那様! 凄まじいねえ!
あんなデカい人魚を片手で投げ飛ばすとは!》
エンウィディアが人魚を片手で
壁に投げ飛ばしたからだ。
簡単に投げ飛ばされた事実に息を呑む
人魚にエンウィディアは舌打ちする。
「テメエはただじっとしていろ。
今から演奏がはじまるからな」
邪魔すんなとエンウィディアは
投げ飛ばした人魚を睨んだ。
〔あんな細い腕で投げ飛ばしたの!?〕
筋肉あるとはいえ、英雄より細いのに!〕
どこにそんな力があるのよ?!
とライコは声をあげた。
(エンウィディアは怪力だからな)
〔そうなの?!〕
(あの竪琴、じつはいろんな楽器に
形を変えれて音を出せるんだけど、
複数の楽器の音を出したい場合は
形は変わらないけど、出したい音の
楽器の重さが竪琴の重さにプラス
されるように設定にしたんだ)
デメリットもあったほうがいいかと
思ってそう設定したんだっけ
と郁人は思い出す。
(だから、エンウィディアを怪力の
持ち主にしたんだ)
〔それ……どれだけ怪力なのよ!?
さっき奏でたときにドラムやギターとかの
音だってしてたわよ!?〕
ライコが驚くなか、エンウィディアは
舞台に立つ。
「……いくか」
エンウィディアが竪琴を黄金の
パイプオルガンに組み込むと変化が
見られる。
なんとパイプオルガンからドラムや
ギター、ベースなどといった様々な楽器が
生えてきたのだ。
〔どうなってるのよ、あれ?!〕
ライコが驚く中、エンウィディアは
マイクスタンド(三叉槍)を持ち、構える。
「っ! パパ!」
気付いたチイトが郁人を抱きしめ、庇う。
ー 瞬間、音が雷鳴のように襲いかかった。
雷鳴のように襲いかかった音は壁から
生えてきたアンプによって音が増幅、
振動し空気、いや空間ごと容赦なく揺らす。
「うあっ?!」
「大丈夫だよ、パパ」
その揺れに倒れそうになる郁人だったが、
チイトが抱きしめて支えていたので
問題ない。
〔なにこの音!?〕
「これ……エンウィディアの声だ」
「咆哮? シャウトって言うんだっけ?
相変わらずすごいな、この声」
その音はエンウィディアのシャウトだった。
〔シャウト?! あいつの叫び声なの?!
どれだけの声よ!? 雷と間違えそうよ!!〕
<間違えるのも当然だろ。
そのように攻撃してるからな>
〔攻撃? 本当だわ?!〕
ライコはある光景を見て驚いた。
その光景は人魚が雷に打たれたように
焦げていたからだ。
ー !?!?!?!?
人魚には何が起きたかわからない。
ただ、エンウィディアが声を上げた途端、
体に電流が走り、肌は焼かれたのだ。
またあの攻撃をされたらかなわない
と人魚はエンウィディアに迫る。
だが、エンウィディアが再びシャウトした
途端、電気をまとった水柱が地面からあがり
人魚の攻撃は妨げられる。
(エンウィディアって電気使えない
はずじゃ……)
どうしてだ? と首をかしげる郁人に
チイトが答える。
<あのクジラの仕業だろうね。
さっきの三叉槍の力をエンウィディアに
渡してるんだよ。あいつ、エンウィディアの
眷属だから>
(そうなのか!?)
<あれ? 聞いてなかったの?
見てみたけど、あいつはエンウィディアの
眷属になる契約を結んでいるよ。
力の譲渡は勿論、このステージも全て
クジラが全面的にサポートしてるみたい
だし>
〔契約してるにしてもここまで
出来ないわよ?! どれだけ力をあいつに
渡してるのよ?!〕
ライコが驚くなか、エンウィディアが
告げる。
「喉の準備は完了だ。
テメエの骨の髄まで聞かせてやるよ」
エンウィディアが指を鳴らす。
瞬間、背後にあった楽器たちが音を奏で、
メロディを紡ぎ出す。
ロックテイストな重低音とともに、
エンウィディアが歌いはじめた。
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黒狼は風魔王に尋ねる。
「さっき文献にあったと言っていたが
どんな文献なんだ?」
「余が所持している本の1部にプリグムジカ
近海の歴史について記されているものが
あってな」
じつに興味深いものだったぞ
と風魔王は説明する。
「文献によれば、あのクジラらしきものは
その当時、プリグムジカと呼ばれる前の
村に突然現れたらしい。
当初、驚いていた村人達だったが、
クジラらしきものと意思疎通が可能と知れば
このクジラらしきものは特別な存在に
違いないと判断し、交流が始まったそうだ。
それから村はクジラらしきものを次第に
祀り始め、国となってからはクジラらしき
ものの神殿まで建てたそうだ」
あのパール座もあのクジラのために
建てられたのが始まりだ
と風魔王は告げる。
「あのクジラらしきものはプリグムジカが
他の魔物に侵攻されそうになれば背中に
乗せて避難して守っていたそうだ。
他にも知恵を授けたりもしていたようで、
あのクジラらしきものは倒されるまで
それはそれは大切に崇められていたようだ」
「崇められてって……まずあのクジラは
なんなんだよ」
「このプリグムジカ周辺の海そのもの……
というべきかな?」
そこへ錬金術師が会話に入ってきた。
「あのクジラみたいなのと海に漂う魔力が
一致しているからね。
今、見ているクジラみたいなやつの大きさは
本来はもっと大きいはずだよ。
それこそ、プリグムジカを背中に乗せて
逃げれるくらいにはね。
それにしても……文献と姿がちょっと
変わってるのはなぜなんだろ?」
「討たれた影響ではないか?
もしくは……」
錬金術師と風魔王は話に花を咲かせる。
が、内容は黒狼にとっては理解できない
ものだ。
「こいつらの話をまとめると……
あのクジラは……まさか?!」
黒狼なりに理解しようと、話された内容を
頭でまとめて正体に気付き、目を見開く。
「それで合っておるぞ。正解だ。
まさか生きておったとは驚いた」
負けたと聞いていたんだが
と風魔王は笑った。




