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幼い頃のクリスマス


皆様、少し早いですがメリークリスマス!



ちなみに、このお話は篝がバレンタインに

郁人に薔薇を渡す前の出来事になります。

なので、篝のお母さんは郁人のことを

知りません。





   雪がしんしんと降るホワイトクリスマス。

   家というより屋敷と呼ぶのがふさわしい

   邸宅にてクリスマスパーティが行われて

   いた。


   「本日はお招きいただきありがとう

   ございます。桃山会長のパーティに

   招待いただけて本当に嬉しいです」

   「いつも君の会社にはお世話になってる

   からね」

   「お世話になってるとはとんでもない!」

 

   クリスマスパーティの主催である桃山、

   篝の父は営業先の者と会話している。

 

   このパーティには篝の父が社員達や

   長年付き合いのある営業先の者を招き

   交流を深める懇親会のようなものだ。

   社員や営業先の者の家族もいるため

   とても大きなパーティとなっている。


   「あっ! 篝くん! 一緒にお話しま

   しょ!」

   「……悪い。ちょっと呼ばれているんだ」


   いつもの篝なら招待客に対して愛想よく

   振る舞っているのだが今回は違った。

   篝はパーティを抜け出し、1人ため息を吐く。


   (郁人(あいつ)……今頃楽しんでるのか?)

   

   篝は2階のバルコニーから外を眺め、

   物思いにふける。


   (あいつ、クリスマスだからって婆ちゃんと

   ケーキ作って家族で食べるって言ってたな。

   俺のことも誘ってくれたけど……。

   俺は親父主催のがあるから行けなかった。

   ……今までなんとも思わなかったが、

   今回はなあ……)


   あいつの作ったの全部うまいんだよなあ

   と篝は呟く。


   (あいつの妹が言うには、甘さも程よくて

   何個でも食べれるって自慢してたからな……。

   しかも、プレゼントもあるとか……)


   篝は郁人の妹が誇らしげに自慢していた

   様子を思い出す。


   『あっ、あんたは来れないんだ!

   残念だったわね! お兄ちゃんと

   おばあちゃんが作ったケーキはほっぺが

   落ちちゃうほど美味しいんだから!

   あと、おじいちゃん達にプレゼント

   買ってもらえるんだけど、お兄ちゃん

   ともプレゼント交換するの!

   しかも、お互いに手作りしたやつ!

   ふふ! 本当に楽しみだわ!』


   羨ましいでしょお? と自慢げにしていた

   妹は笑っていた。


   (あいつ絶対に自慢したかっただけだろ!

   俺が来れないって言ったら隠れて

   ガッツポーズしてたの見えてたからな!)


   あのブラコン! と篝は拳を握るがやめて

   外を見る。


   「……行きたかったな」

   「やっぱりそうだったの!   

   だったら、行ってきなさいな」

   「!? おふくろ!?」


   振り向くと篝の母親が立っていた。

   手にはなぜか紙袋を持っている。 


   「いつもと様子が違うからもしかしてと

   思っていたけど、やっぱりね。

   友達に誘われたけど、このパーティが

   あるから断っちゃったんでしょ?」


   あの人ったら家族全員参加するものだと

   思ってるから参加したいか聞かないもの

   と母親はため息を吐く。


   「せっかくのクリスマスのお誘い

   なんだからいってらっしゃい。

   これに手土産用のお菓子とか詰めたから

   持っていって」

   「………いいのか?」

   「もちろん! お友達を優先してちょうだい。

   あの人にはお母さんが説明しとくから」

   「……ありがとう、おふくろ」


   篝は紙袋を受け取ると、バルコニーに

   足をかけ、ジャンプして木に飛び移った。

   

   「いってきます!」

   「いってらっしゃい!

   遅くなるなら連絡してちょうだいね!」


   そのまま篝はずば抜けた身体能力を

   活かして木から飛び降りると、   

   庭園を駆け抜けていく。


   「相変わらずお猿さんみたいね。

   ぱるくーる? だったかしら?

   習いたいって言ってからなにも

   言わなかったからわからなかったけど

   しっかり習得していたのね」


   篝の母親は駆け抜けていく篝の背中を

   眺める。


   「あの子をあんな風に動かす子は

   どんな子なのかしら?

   会ってみたいわ!」

   

   上着も忘れるほど早く会いに行く子に

   と母親は嬉しそうに呟いた。



   ーーーーーーーー


   「積もらないかなあ?」


   家で家族とクリスマスを過ごしている

   郁人は半纏(はんてん)を着て縁側から雪を眺めている。


   「積もったら雪だるま作りたいなあ。

   カマクラとかも作ってみたいし」


   しんしんと降る雪を見て積もらないかな

   と頬を赤らめていた。


   「雪合戦もしてみたいなあ。

   妹と篝も誘ったらしてくれるかな?」


   雪が積もったらとワクワクしている

   郁人は思い出す。


   (篝もパーティ楽しんでるかな?

   いつも遊んでくれるからクリスマス

   一緒に遊ばないか誘ったけど、

   おうちでクリスマスパーティをやるから  

   って言ってたもんな)


   やっぱりケーキとか食べてるかな?

   と郁人は考える。


   (妹はてっきり来ると思ってたから驚いて

   たっけ。じいちゃんやばあちゃんも

   ビックリしてたな)


   3人の驚く顔を思い出した。


   (来れなかったのは残念だけどまた来年

   誘えばいいかな?

   ……ケーキどうしよ)


   郁人は祖母と一緒にクリスマスケーキを

   作った際にいつものクセで篝の分まで

   作っていたのだ。


   (ケーキは流石に日持ちしないもんなあ)


   冬で寒いとはいえ、日持ちしないものを

   食べずに置いておくのは食中毒になる

   可能性だってあるからだ。


   「残すのはもったいないから

   ケーキ食べちゃおう」

   「まだあるなら俺がもらう」 

   

   そこへ紙袋を片手に持った篝がやって来た。


   紳士服を着ており、髪型もいつもより

   整えられたいかにもパーティに出ていた

   服装だ。 

   だが、雪が降る中の服装ではない。

   ジャケットなどの上着はなく、鼻が赤く

   なっていることから寒空のなかここまで

   来たのがすぐわかる。


   「篝!? お家のパーティに出てた

   んじゃ!?」

   「パーティは抜け出した。これやる」


   篝は持ってきた紙袋を渡す。


   「これ、手土産」

   「手土産って別にいいのに。  

   てか、雪降ってるなかコートも

   着ないで来たのか?!」

 

   郁人は急いで着ていた半纏を篝に着せ、

   頬に触れる。

     

   「わあ! すごく冷たい!」  

   「で……その……途中参加はありか?」

   

   自分の頬に触れる郁人の手の温かさに

   目を細めながら篝は尋ねた。

   郁人は笑顔で頷く。


   「もちろん! 早く入って!」

   「靴を脱ぐから待て! 引っ張るな!」


   郁人は篝の手を取り、縁側から

   篝を家に招待する。

   篝はあわてて靴を脱ぐ。


   そこへ祖父、祖母、妹がやって来る。


   「おや、やはり来たのかい」

   「寒かったでしょ?  

   温かいの用意するからコタツに

   入りなさい」

   「げっ?! やっぱり来たんだ!

   てか、玄関から来なさいよ」


   祖父はやっぱりと笑い、祖母は微笑み

   ながら温かい飲み物を用意しに行く。

   妹はため息を吐き、篝の靴を持つ。


   「はあ……来たなら仕方ないわね。

   おばあちゃんが言うようにコタツに

   入れば? 靴は玄関に置いといてあげる」

   「悪いな」


   妹は靴を置きに玄関へ進む。

   その背中に篝は礼を告げ、郁人と

   コタツのあるリビングへと進む。


   「篝と過ごせると思ってなかったから

   嬉しいよ」

   「お前以外は俺が来るの想定していた

   みたいだけどな」

   「そうみたいだな。コタツでちょっと

   待ってて」


   郁人は少し離れたあと、ある物を

   持ってくる。


   「メリークリスマス、篝。

   これ、俺からのクリスマスプレゼント」

   「!? 良いのか?!」   

   「妹の作ってたときに篝の分もって

   思ったから」       

   

   郁人が手渡したのはミサンガのストラップ

   だ。緑と黄色で編まれており、カバンや

   携帯に付けるのにちょうどよいサイズだ。

   

   「ばあちゃんが作り方教えてくれたんだ。

   貰ってくれると嬉しいな」

   「貰うに決まってる! ありがとう!」


   篝は目を輝かせ、ありがたく受け取る。

   

   (今までパーティの参加者からいろいろと

   貰ったが……これが1番嬉しいかも)


   篝は今まで貰った物、高級店のお菓子や 

   筆記用具、靴など思い出したが目の前の

   郁人から貰ったプレゼントが1番だと

   確信する。思わず顔がニヤついてしまう

   からだ。


   「本当にありがとう! 次の年は

   俺も用意する!」

   「俺が渡したかっただけだから

   気にしなくても……」

   「俺も渡したいだけだ!

   だから受け取ってくれ!」

   「……わかった。じゃあ期待してるね」


   篝の勢いに郁人は目をぱちくりさせた後、

   ふふと微笑んだ。


   「あぁ。期待してろよ。

   このプレゼントに釣り合うものを

   用意するから」


   篝はミサンガのストラップを掲げ、

   笑った。


   彼が郁人達とクリスマスパーティを

   心の底から楽しんだのは言うまでもない。


   ー ただ、彼がとんでもない量の

   プレゼントを用意して驚かせたのは

   また来年のクリスマスの話だ。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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