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246話 下からやって来るモノ




   轟音が地響きとともにどんどん近づいて

   きている。音が聞こえてくる位置は郁人の

   真下。


   「なんで下から?!」


   近づいてくる音に郁人は慌てて

   その場から離れる。


   瞬間、舞台が割れて間欠泉のように

   水が噴き出してきた。


   「うわあっ?! 下から水が噴き出して

   きた?!」


   驚きで声をあげた郁人にライコはあわてて

   声をかける。


   〔ちょっと大丈夫?! 調べてみたら下から

   何かすごいのが来てるんだけど! 念のため

   あんたはすぐ離れて猫被りのとこに行き

   なさい!〕

   (分かった!)


   郁人はライコの言うとおり、チイト達の

   もとへ行こうとするがヒラヒラとした

   衣装が走りづらくていつもより速さが

   出ない。


   (がんばれ、俺!)


   そんな郁人に噴き出た水が意思を

   持ったかのように真っ直ぐ郁人へと

   向かってくる。


   (早くチイト達のところに……!!)


   だが、郁人はそれに気づかない。


   〔あんた後ろ!〕

   「え?」


   郁人が気付いたときにはもう遅い。

   水が郁人を容赦なく飲み込む。



   ……………ように見えたが、実際は違った。



   「遅いぞ貴様」

   「そういうテメエも遅いんだよ」


   チイトが郁人を横抱きにし、エンウィディア

   が竪琴を奏で音の壁を張り、水から郁人を

   守ったからだ。


   「………なるほど」


   チイトは水からあるものを感じ取る。


   「この水……あの音が混ざってるな」

   「テメエらがあの薬で沈静化したんじゃ

   なかったのか?」

   「俺達が沈静化して邪魔したから、

   いよいよ大本が動いたんだろ。

   ほら、来るぞ。構えろ。

   パパは俺が守るから安心してね」


   チイトはまだ状況がわかっていない

   郁人に向かって微笑む。


   「いったい何が……?」


   尋ねようとした瞬間、再び轟音が耳を

   つんざいた。

   音とともに郁人の公演をぶち壊した

   ものが姿を現す。


   「何……あれ……?」


   音の正体に郁人は目を見開いた。



   ー「人魚……?!」


   

   それは郁人が言い当てたように

   "人魚"の姿をしていた。


   透き通ったヴェールのような尾ひれに、

   鱗は光を反射して美しい。

   艶めく長い髪を波に漂わせ、人間である

   上半身は男とも女ともどちらともとれる

   風貌だ。


   そんな綺麗な姿をしている人魚だが、

   その顔は色んな絵の具をぐちゃぐちゃに

   混ぜたようになっており、見ている

   こちらを不安にさせる深淵を思わせた。


   (あれって……目……だよな?)


   それを顔だと認識できたのは

   緑色の瞳があるからである。

 

   〔なによこいつ?! 結構でかいわね!!

   クジラより大きいんじゃないかしら?!〕


   ライコはその大きさに声をあげた。


   「俺が一旦こいつの気を引く。

   その間にテメェはクソ奏者を避難させろ」

   「言われなくてもわかってる。

   パパ! 危ないから俺にひっついて!

   天井も壊れそうだから移動するよ!」


   チイトは郁人に声をかけると、人魚から

   離れるために地面を踏みしめると

   風のように一気に駆け抜ける。

     

   〔速すぎないかしら?! こいつの身体能力

   どうなってんのよ!〕

   「チイト! 瓦礫(がれき)が!!」

   「安心して、パパ。防げるから大丈夫」


   落ちてくる瓦礫に郁人は声をあげたが

   チイトはマントを蠢かせて瓦礫を弾いた

   ので問題ない。


   「ユーがいるとこで降ろすから。

   安全を確保してるみたいだし」


   見ると、ユーがこっちだと尻尾でアピール

   していた。そこにジークス達も集まって

   おり、安全なのだとわかる。


   〔あの生き物、周囲に結界を張って

   安全を確保してるわね。

   ……本当になんの生き物なのよ〕


   ライコが疑問に思うなか、チイトはユーが

   いる場所へ着くと郁人を降ろした。


   「イクト! 大丈夫か!」

   「怪我してないだろうな!」

   「マスター!!」


   ジークスと篝、ポンドは郁人達のもとへ

   駆け寄る。ユーは郁人の肩に乗ると、

   心配そうに顔を覗き込む。


   「うん。俺は大丈夫。みんなは?」

   「俺達も大丈夫だ。問題ない」

   「あのフメンダコ達もアマポセドだったか?

   そいつとポンドに誘導されて避難済だ」

   「ご安心ください、マスター。

   皆さまを避難させておりますので。

   アマポセド殿は逃げ遅れた方がいないか

   探しております」

   「そっか、よかった」


   郁人は怪我人がいないことにホッと

   胸を撫で下ろす。


   「………おい、あいつ取り込まれてないか?」


   篝が人魚を見ながら呟く。


   「あいつって……クリュティ?!」

   「なぜあんなところに?!」


   人魚の心臓部をよく見てみるとクリュティ

   がいた。膝を抱えて、まるで胎児のように

   眠っているが遠くから見てもわかるほど

   顔色は悪い。

   

   「あれを取り込んで力を補いやがったのか。

   道理で効きにくい訳だ」


   眉をしかめたエンウィディアがやって来る。


   「エンウィディア! 怪我してない?」

   「してねえよ。ただ、幻覚の音を聞かせて

   足止めしたが効きはイマイチだな。

   今は効いているが時間の問題で動くぞ」

   「皆さんご無事?

   って、この時分に結界とは珍しい。

   しかも綺麗に練り上げられてるねえ」

   「アマポセドさん!」


   クソうぜえとエンウィディアは舌打ちし、

   確認し終えたアマポセドが目をぱちくり

   させながらやって来た。 


   「やっほー、アマポセドさんだよ。

   逃げ遅れた子もいないみたいだから

   こっちに来たんだ。   

   それにしても……取り込む対象にあのガキを

   選んだってことはそれなりに知性は

   あるようだね」

   「稚魚ちゃん!」


   リアーナが顔を青ざめながらやってきた。

   まさかの登場にポンドは声をかける。


   「リアーナ殿! どうしてこちらに?!」

   「突然あの化け物が城にやってきて

   稚魚ちゃんを拐ってたんだよお!

   だから、それを追いかけてきたの!

   稚魚ちゃん! 聞こえる?!

   聞こえるなら返事してえ!」


   リアーナが叫んで声をかけるも反応はない。


   「お願いだよ! 稚魚ちゃん助けて!」

   「…………うぜえ」


   エンウィディアの顔には面倒だと

   思いきり出ている。

   チイトも面倒くさそうにしながら

   口を開き、指を指す。


   「まず、助けるにしてもあれらを

   なんとかしないと大変だろうよ」

   「あれ?」

   「うひゃあ! こりゃまた!」


   アマポセドは思わず声をあげた。


   「嘘でしょ……」

   「これまたとんでもない光景ですな」


   郁人とポンドが呟いてしまうのも

   無理はない。


   なぜなら、目が虚ろでおぼつかない動きの

   プリグムジカの住人達、パール座に

   集まっていた者達がこちらに向かって

   きていたからだ。


   「さらに強力なのをかけたか。媒体を通して

   ではなく、直接かけられれば抗体があっても

   効いてしまうか」


   面倒だなとチイトは舌打ちする。   


   「さっき奥のほうから破壊音がしたが、  

   コイツらの仕業だったか」

   「聞こえてたなら言ってくださいよ!

   旦那様!」


   言ってくれれば僕が対処しましたのに!

   とアマポセドが苦言した。


   「とりあえず、結界をさらに強化して

   おいたほうがいいだろう。ユー」


   チイトの言葉に頷いたユーがさらに

   結界を強化した。


   「これでしばらくは持つだろう」

   「で、あいつらの相手、あの化け物の

   相手と役割を決めねえとな」

   「稚魚ちゃん助ける相手も決めてよお」

   「……あれが起きない限り助けるなんざ

   不可能だ」


   涙目のリアーナにエンウィディアが告げた。


   「そうだな。あれは今、魂ごと人魚に

   囚われている状態だ。無理に引き剥がせば

   死ぬぞ、簡単にな」

   「……うそお」


   リアーナは顔を青ざめ、エンウィディアに

   掴みかかる。


   「君ならなんとか出来るんじゃないの!!

   楽神と呼ばれてるんだし、起こすぐらい

   さあ!」

   「あれに響く音を俺は知らん。

   どうすることも出来ねえよ」

   「クリュティに響く音……」


   郁人はクリュティに響く音を考え、

   あっと思いつく。


   「エンウィディア! お願いがあるんだ!」

   「……テメェのお願いの内容を聞いてから

   やるか決めてやる」


   長いため息を吐いたエンウィディアに

   郁人は背伸びして、耳打ちした。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーー



風魔王達が瞬間移動で向かった先、

プリグムジカを覆うサンゴの向こう側に

魔物の群れがいた。

温厚であると言われている魔物もそのなかに

混じっており、全員がプリグムジカ、

パール座に向かっている。


「真っ黒くんの気を付けていた通りに

なった訳だ」

「全て呪いによって動かされているの

だろう。操られている民草は末弟達に任せ、

余達はあれを対処するとしよう」


国を攻められる前に片をつけると

風魔王は告げた。


「これはまた随分と心躍る光景だ。

全て倒していいってのも最高だな」


腕が鳴ると黒狼は槍を取り出す。


「其方、武器を変えたのか?」

「いいのを見つけたからな。

試すには丁度いいだろう」

「君、武器を壊れるまで使うからね。

ちょっとは大切にしたらどうだい?」

「武器は使い壊してなんぼだろ。

それに、使いにくくなったら

メンテナンスに出してるだろうが」

「そのメンテナンスのタイミングが

あと一歩で壊れる寸前ゆえ、武器屋の娘に

毎回叱られておるのだろう」


武器屋の娘の怒りのスパナが飛んでくるぞ

と風魔王は告げた。


「だが、今回は余が怒られぬよう便宜を

図ってやろう。存分に暴れようではないか。

余がフィールドを整えてやる」


風魔王が告げると風で魔物の群れを囲み、

そこから出れないように結界を張った。


「ふう、これでよかろう。

エンウィディアにもバレぬようにも

施したゆえ、問題ない。結界もまた

魔物が出ればさらに拡張すれば

よいからな」

「…………本当に規格外過ぎるだろ、お前」

「余が其方達の杓子定規に納まると

考えるほうがおかしいと思え」

「じゃあ、僕も兄様のお手伝いを

しようかな?」


錬金術師が片手を握ると光だし、

魔石が造り出された。

その魔石を投げると魔石は4つに割れ、

風魔王の張った結界の四隅に飛んでいき、

光りだす。


「よし、これで結界外に出現した魔物を

結界の中に誘い込むようにしたよ。

これなら拡張する手間も省けるから」

「兄思いの弟を持って余は嬉しいぞ」

「…………お前達といたら本当に常識が

壊れていくな」


あいつがいたら発狂するだろうな

と黒狼は遠い目をした。




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