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244話 本番当日




   ついに本番当日。

   パール座は現在貸し切られており、

   周囲には久しぶりにエンウィディアの

   顔を見たいという人々で溢れていた。


   「楽神様はいらっしゃるのだろう?!

   ひと目だけでも……!!」

   「いけません!」

   「そこ! 押さないでください!」

   「現在、貸し切りとなっておりますので

   楽神様の客人しか入れません!

   無理に入ろうとしないように!」

   「楽神様あああ!!」

 

   押しかけそうな者もいるが、パール座の

   警備の者がきちんと仕事している。


   「ついに歌うんだな、あの人!」


   その中でも集まっている人々の

   興味の矛先の1部は郁人の公演である。


   「たしか、あの歩く災厄がいる

   パーティメンバーの1人なんだよな?」

   「楽神様の神殿に滞在していたそうだが

   本当に! うらやまし過ぎる……!!」

   「遅い気もするが、ココ最近状況が

   バタバタしてたから歌うに

   歌えなかったんじゃないか?」

   「あのどんどん気がおかしくなるのよね?」

   「そうそう! あの病気よ! うちの旦那が

   かかったときはもう終わりかと思ったわ!」

   「あの孤高と蛇の獣人さんが協力して

   くれたおかげで落ち着いてきたわよね」

   「孤高ってあんなにカッコ良かったのね!

   あたしファンになっちゃった!」

   「蛇の獣人さんもかっこよかったわよ!

   あたしの友達がおかしくなっちゃった時

   なんてさっそうと助けてくれて……

   もう最高よ!」

   「あの歩く災厄も協力したってマジ?」

   「うさぎのお医者さんも綺麗で

   カッコよかったわ!診察も丁寧だったし!」   

   「早くエンウィディア様の歌が聞きたいの!

   早くあの客人歌ってちょうだい!」

   「エンウィディア様ー!」

   「お顔を見せてくださいー!」


   と、それぞれが話しており

   祭りがあると思いそうなほど賑やかだ。


   「……………………うるせえ」


   そのおかげかパール座の中にいる

   エンウィディアはとても機嫌が悪い。


   「ガタガタうるせえんだよ。

   本当にクソうぜえ」

   「まあまあ、旦那様。前もって言ってたので

   混乱してないですし、押しかけて来るよりは

   マシだと思いますよ。いざとなれば僕が

   動きますんで」


   苛立つエンウィディアにアマポセドは

   まあまあと宥める。


   「でも、仕方ないんじゃないですか?

   旦那様の歌を聞きたい方々は大勢います

   んで。なんたって、楽神と謳われる旦那様

   ですし」  

   「今回歌うのは俺じゃねえ」

   「イクトちゃんが歌ったら旦那様は

   コンサートを再開しますから」

   「俺が納得できなかったら歌うつもり

   ねえぞ」


   エンウィディアは呆れて息を吐いた。


   「俺も準備に入る。あいつらを適当な席に

   案内させとけ」

   「かしこまりました、旦那様」


   エンウィディアは舞台のほうへと去って

   いった。アマポセドはその背中に手を振る。


   「おい。パパはどこだ?」


   すれ違いでチイト達がやってきた。

   アマポセドはヘラっと笑う。


   「皆さん! お久しぶりで!

   プリグムジカを苦しめていたやつの

   特効薬を作ってくれて本当にありがとう!

   僕もかからないか心配でしたんで……」


   どれだけ対策してもかかるって聞いてたもん

   ですからとアマポセドは告げたあと、

   また感謝の言葉を紡ぐ。

  

   「本当に助かったよ! ありがとうね!

   しかし、短期間で特効薬を作るなんて

   驚いたよ。しかも対策もしてくれてさ」

   「礼など必要ない。パパがこの国に滞在して

   いるからしただけだ」


   パパの安全が1番だからなとチイトは

   告げた。その姿にアマポセドはジークスと

   篝にこっそり尋ねる。


   「……彼ってやっぱイクトちゃんが

   最優先なタイプ?」

   「あぁ。彼はイクトがなにより1番だからな。

   薬を作ったのはイクトに褒められたいのも

   あるだろう」

   「こいつは郁人以外興味ねえからな。

   で、肝心の郁人はどこにいるんだ?」


   篝は辺りを見渡し、郁人を探すが姿がない。

   その問いにアマポセドが答える。


   「イクトちゃんは今準備中だよ。

   衣装もバッチリ用意してあるから、

   ここでお披露目だよ」

   「あのとき見た衣装か?」

   「あのひらひらしたのか?」


   ジークスと篝が尋ねると、アマポセドは

   首を横に振る。


   「あれを更に改良したものだよ。

   彼が着た姿を見て、フメンダコ達は

   アイデアがわいたようでね。

   ほら、席も用意してあるからそちらへ。

   おーい! お客様の案内よろしく〜」


   アマポセドが声をかけると、フメンダコが

   フヨフヨとやってきて、こちらへと

   小さな触手で意思表示している。


   「このフメンダコ達は君の使い魔なのか?」

   「いや、みんな旦那様の眷属だよ。

   僕が旦那様に仕えてるからこの子達は

   話を聞いてくれてるだけ」


   アマポセドは違う違うと手を振りながら、

   笑って告げた。


   「これだけの数をっ?! 彼はすごいな!」

   「そうなんだ! 旦那様はすごい人なんだよ!

   見た目も完璧だけど、なにより音楽の技量と

   その情熱がすごいんだよ!

   もう惚れ惚れしちゃうくらいさ!」


   旦那様の魅力は語りきれないよ

   と目を輝かせながらアマポセドは告げる。


   「そんな旦那様が選んだ衣装だから、

   イクトちゃんの歌はもちろん、衣装も

   楽しみにしててよ!!」


   僕も準備があるからまたあとで!

   とアマポセドは去っていった。


   フメンダコ達は早く来いと3人の周りを

   フヨフヨしている。


   「早く行くぞ。あいつがネチネチうるさい

   からな」


   チイトは舌打ちしながら、フメンダコの

   あとに続く。


   「ネチネチと言う事は、また君にだけ

   聞こえているのか?」

   「さっきからずっとな。早く行け、席に

   座れ、そこでじっと見てろ、ガタガタ

   騒ぐんじゃねえだのぐだぐだとな」

   

   耳障りにもほどがあるとチイトは

   眉をしかめる。


   「それにしても……パール座を貸し切っての

   公演か。郁人は緊張していないだろうか?」

   「あいつは本番に強いから問題ない」


   心配するジークスに篝は断言した。


   「郁人は本番になるとかなり集中する

   からな」

   「たしかに、パパはそんなタイプだからな」


   雑談しながら、3人は案内された席、

   中央の舞台を見渡せる席についた。

   フメンダコは席についたのを見ると、

   フヨフヨと去っていった。


   「パール座……クラーケンのときに見た

   程度だが、座るとまた違うな。迫力が

   桁違いだ」

   「音楽家なら1度は行きたい聖地、パール座。

   聞いたことはあったが、まさかそこで

   聞くことになるとはな」


   ジークスと篝は興味深そうに周囲を見渡す。


   「静かにしろ。始まるぞ、パパの公演がな」


   キョロキョロする2人にチイトは

   眉間をしかめながら注意した。


   瞬間、開演のブザーがパール座に響く。


   舞台の下にはフメンダコや音符ウミウシ

   などが楽器を持ち、準備している。

   それを指揮するのはエンウィディアだ。


   エンウィディアが礼をし、舞台のほうを

   見ると幕が上がった。


   「わあっ……!」

   「イクト……なのか?」

   「……前と雰囲気が違うな」


   赤い幕が上がると、そこには郁人がいた。


   郁人は白いヴェールをかぶり、白を

   基調とした神秘さを感じる衣装を

   身にまとい、郁人がいる場だけ空間が

   違うと思わせる。


   前は出ていた二の腕や背中などは

   レースで覆われており、青い薔薇の他に

   黄色の薔薇もアクセントとして飾られ、

   澄み切った水のような純粋さ、触れては

   いけない神聖さが感じさせた。

   まるでパール座が神殿の1部になったと

   思わせるほど。   


   「!」

   

   郁人はチイト達に気づき手を軽く振る。

   そのあと目を閉じ、歌に集中する。


   「…………」


   ー 郁人の空気が一変する。


   まぶたをあげた郁人はもう音楽の世界に

   入っているからだ。


   全員の視線を浴びながら、郁人は

   綺麗な礼をし、歌を紡ぐために口を開ける。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーー


風魔王の力でこっそり侵入した3人。  

チイト達とは離れた場所、舞台を上から

見渡せる2階席にて公演が始まるのを

待っている。


「兄様の力って本当に万能だよね。

音や気配も遮断出来るし、侵入するのも

空間を移動して簡単に出来るんだから」

「瞬間移動ならコツを掴めば問題ない。

其方の能力ではたしかに難しいかもしれぬが 

工夫次第では出来るぞ?」

「……魔道具無しでやるか普通?」


兄様はすごいなあ! と目を輝かせる

錬金術師の頭を撫でながら風魔王は告げる。

そんな姿に黒狼は額に手を当てる。


「いい加減に慣れたらどうだい? 

僕と兄様はいつも魔道具無しで

しているだろう?」

「慣れたらいけないんだよ。

俺の常識が崩れるからな」

「そんな常識など捨て置け。

余が常識であるのだからな。

それに、我が同胞達は魔道具無しが常だ。

相まみえたとき間抜け面を晒すことになるぞ」

「………お前らの兄弟はどうなってんだよ。

あんたらを描いたお父様とやらに聞きたい

くらいだ」


黒狼は思わず頭を抱えてたが、

ふと気づいて尋ねる。


「で、ここでいいのか?

近くで見なくてよかったのか?」

「可愛い末弟はただ余達を親父殿の公演に

招きたかった訳ではない。 

公演中になにかあると予想し招いたのだ。

なら、見渡せるここがよい」

「ようするに、今回僕達は裏方ってことだ。

影でこっそり対処するんだね」

「そうだ。エンウィディアに気づかれずは

苦労しそうではあるが、弟の頼みだ。

全力でいこうではないか」


風魔王は口角をあげる。

その姿はとても嬉しそうだ。


「兄様、弟に頼まれると嬉しそうだよね。

そんなに嬉しいものなのかな?」

「弟からお願いされる、これは長兄の特権ぞ。

嬉しくない訳がなかろう」

「兄様以外にも自分が長男では? って

思ってる兄弟がいるのにかい?」

「それが誠に不思議よな。

余が長兄であるのは当然のこと。

なぜ不思議がる」

「おい。そろそろ始まるぞ」


黒狼は舞台を指差した。


「おお、そうか。教えてくれて感謝する」

「お父様の公演……とても楽しみだ!」


3人は舞台に視線を向けた。




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