25話 目指すはドラケネス王国
門が開くと同時に、
ヴィーメランスが郁人の元へ駆けつける。
「おはよう、ヴィーメランス」
「おはようございます、父上。
お迎えに上がりました」
ヴィーメランスは郁人に1礼すると、
装備に気付き、声をかける。
「……そのホルダーらしきものは?
なにやら術が施されているようですが」
顎に手をあてるヴィーメランスに
郁人はホルダーに触れながら口を開く。
「ジークスからのプレゼント。
術はチイトが施してくれたんだ」
「そうですか……」
声を弾まながら郁人が説明すると、
ヴィーメランスは眉を少ししかめた。
「あの者からというのが少し癪ですが、
とてもお似合いです」
一瞬、ジークスを睨んだ後、
自身の感想を述べた。
そして、郁人の横に立つ
じっと動かないアマリリスを横目で見る。
「ところで、この者は?
怪しい者に見えますが……」
警戒し、腰にかけた剣に手をかける。
動きを見て、郁人は慌てて説明する。
「この人はアマリリス先生。
俺が世話になってる先生なんだ。
怪しい人じゃないから!」
「そうだったのですか……」
ヴィーメランスは剣にかけた手を戻し、
アマリリスに口を開く。
「嫌疑をかけ、すまな……」
「きゃあああああああああああああああああ
あああああああああああああああああ!!」
アマリリスの野太い黄色の声が響いた。
あまりの大声量に、郁人は心臓が止まりかけ、
ヴィーメランスも思わず目を丸くする。
「ふんっ!」
アマリリスはなんと、自力で拘束を解き、
頬を火照らせながら、ヴィーメランスの周囲を
走り回る。
「なにこのハンサムガイッ!?
ジークスちゃんには劣るけど
細身ながらもがっしりした肉体!
筋肉のバランス良すぎじゃない?!
チイトちゃんのときも思ったけど、
筋肉完璧過ぎるわよ!!
まるで絵に描いたような
パーフェクト!!ボディ!!
ムキムキ過ぎず、けれど
筋肉はバッチリとか……
乙女の理想像過ぎないかしらっっ!!」
ぐるぐる走り観察した後、
黄色い声を更にあげる。
そして、ヴィーメランスの手をとり
勢いよく縦に振った。
その姿はまるで、
憧れのアイドルに会ったファンのようだ。
「……父上」
困惑したヴィーメランスが
眉をひそめながら郁人を見つめる。
ただ者ではない雰囲気を醸し出す、
体格の良い伊達男が突然、
黄色い声を上げて走り回り、
熱狂的なファンのような
対応をされれば、誰しもが
困惑するだろう。
その様子に郁人は落ち着かせようと
動く。
「先生、落ち着い……」
「落ち着きなさい貴方!」
が、その前にストロメリアが動いた。
自身の片腕を横方向へ突きだし、
真っ直ぐアマリリスへ……
正確には喉を目掛け、思いきり叩きつけた。
ーそれはそれは見事な
"ラリアット"であったと。
1部始終を目撃した門兵の1人は後に語る。
そんなラリアットを決められた
アマリリスは悲鳴をあげることもできず、
そのまま地面に伏した。
ー見事な1発KOである。
決めたストロメリアは
ヴィーメランスに頭を下げる。
「夫が失礼しました。
健康優良児なイケメンを見ると
いつもこうなってしまいます」
体格差をものともせず、
アマリリスを細腕で担ぎ上げる。
「あの……先生大丈夫ですか?」
「問題ありません。
脈拍異常なしですから」
度々見てきた場面だが、
今回はあまりに綺麗に決まっていたので
郁人が心配して尋ねたが、
ストロメリアは表情1つも変えずに答えた。
「それでは失礼いたします」
こちらに1礼するとライラック達の元へ
向かう。
まるで嵐が去った後のように静かだ。
「……父上の医師はその、
変わっておられますね」
「最初はびっくりするけど、
良い先生だから」
「パパー!門開いたから行こう!」
2人がストロメリアの後ろ姿を
見送っているとチイトが駆け寄って来た。
「先生や奥方は相変わらずだな」
ジークスも苦笑しながら歩み寄る。
「以前、あの奥方の見目から
"アイスドール"と呼んでいた者がいたが、
今の動きを見れば呼び方を
変えるかもしれないな」
「ストロメリアさんは
クールに見えるけど性格は熱い……
いや、苛烈というべきかな……?」
郁人は頬を掻いた。
ストロメリアの外見は、
綺麗過ぎて冷たさを感じられるが
性格は正反対である。
治療を最優先とし、邪魔するものなら
魔術で凍らせる、もしくは肉体言語で
黙らせてしまう。
郁人がしんどくても心配させないため
黙っていたら、夫婦にバレて、
説教を受けた事がある。
その際……
「またこのような事をするなら……
両足を凍らせる、もしくはへし折ってでも
病と縁遠い身体になるまで診療所に
留まらせます」
ストロメリアが冷気を纏いながら
発言した。
ーこの人ならやりかねない
と郁人はストロメリアの瞳から
感じ取った。
ゆえに、少しでもしんどくなったら
すぐ診療所に向かうようになったのだ。
(良い人だけど容赦がないんだよな……)
怪我を放っておいたローダンに、
ストロメリアが鳩尾に拳を入れ、
強制的に診療所へ連行していた姿を
思い出す。
「ねえねえパパ!早く行こう!」
チイトが焦れたのか頬を膨らませ
郁人の腕を引っ張る。
「父上に対する態度とは思えないな」
ヴィーメランスはその態度に
眉をひそめる。
そんなヴィーメランスに、
チイトは鼻で笑う。
「貴様のような態度ではパパに
甘えられないからな」
見せつけるように郁人の腕に抱きつき、
嘲るように口を歪める。
「貴様にはこういうのは出来ないだろう?
パパとスキンシップとれないとか……
哀れだな」
「……良い度胸だクソガキ」
こめかみから額に青筋を走らせる
ヴィーメランス。
チイトは人を食った態度で答えた。
2人は睨み合い、火花を激しく
飛び散らせる。
ヴィーメランスは火の粉が舞っており、
郁人は慌てて2人の間に入る。
「2人とも落ち着いて。
一緒にドラケネス王国に行くんだろ?
ほら、行こう!なっ!」
郁人がチイトをひっつかせたまま
ヴィーメランスの腕を掴むと
門前まで歩いていく。
ジークスも後に続いた。
門から外の景色は、ただ広い大地が
続いていた。
障害物は何もなく、自然のみが存在し、
そこからはもう別世界だと告げていた。
「いってらっしゃい!」
振り返ると、ライラックが優しさを
滲ませた笑みを浮かべ手を
振っていた。
「気を付けろよ!」
フェランドラは歯を見せ、
快活に笑っている。
「怪我に気を付けるように。
決して無理は禁物です」
アマリリスを背負いながら、
ストロメリアは1礼する。
「いってきます!!」
「気を付ける」
郁人は手を振り、ジークスもそれに倣った。
チイトとヴィーメランスは振り向く事はない。
そして、4人は門から1歩出る。
瞬間、空気が違うように郁人は
肌で感じた。
ここから先、なにが起こるかは
誰にもわからない。
しかし、先がわからなくても、
怖がる必要などない。
わからないことを楽しむといい。
ーそれが旅なのだから。
振り返り、閉まる直前まで、
再びライラック達に手を振る。
ドラケネス王国に関する土産話を
たくさん持って帰ってこよう。
そしてみんなで語り合い、笑いあうのだ。
(絶対に帰ってくるんだ)
門が閉まるのを見ながら、
郁人は決意を固めた。
「行こうか!」
郁人は広がる大地に目を向け、
歩きだす。
「君の事は俺が守ると誓おう」
ジークスは郁人に誓い、ついていく。
「パパは俺が守る。
お荷物が世迷い言をほざくな」
チイトは抱きつきながら、
ジークスに舌打ちする。
「父上、こちらへ。
ドラケネス王国へ行く準備は出来ています」
ヴィーメランスは先導するため、
抱きつくチイトを払いのけ、
郁人の手を取り、エスコートする。
郁人達の旅はここから始まる。
行き先はドラケネス王国。
ー天空に存在する気高き"竜の国"。




