明後日の招待状が届いた彼ら
チイトは届いた招待状を見る。
「ほう、どうやら開く気になったか」
「ついに開くのか!」
「ようやくあいつに会えるな」
招待状を見るチイトの後ろから
ジークスと篝は覗きこみ、口を開いた。
「離れろ。パパ以外と近づく気はない」
チイトは眉をしかめて、すぐに離れた。
「君が招待状らしきものを見ていたからな」
「お前のことだ。その事実を独占しそうだ」
「パパに怒られるからする訳がない!」
((怒られる可能性が無かったらしてたな))
苛立ちをあらわにするチイトに2人は
同じ感想を抱いた。それを察知した
チイトは舌打ちし、口を開く。
「明後日、パール座でパパの公演がある。
が、少し懸念事項がある」
「懸念事項?」
「……呪いに関してか?」
頭の上にはてなマークを浮かべる篝、
顎に手をやったジークスは尋ねた。
「あぁ。現在は落ち着いてきている
ようだが、それに違和感を覚える。
もしかしたら、出方を伺っている可能性が
あるからな」
「お前が言うと実際にありそうだな……」
「たしかに、その可能性もある。この呪いは
長期的な、時間をかけたものだ。それを突然
阻止されているのに、最近相手方の動きが
見られないのは気になる」
チイトの言葉に篝は頭をかき、ジークスは
一理あると頷いた。
「だから、パパの公演だからといって
油断するなよ」
「了解した。彼の身に何かあっては
いけないからな」
「あいつの初公演だからゆっくり
聞かせてほしいもんだ」
ジークスは頷き、篝はため息を吐いた。
「失礼。入ってもいいかな?」
そこへノックの音とともに、クフェアが
声をかけてきた。
「お前か。入るといい」
篝は向かうと、扉を開けた。
クフェアは挨拶しながら入ってくる。
「こんにちは。いつもの顔ぶれは揃って
いるようだね。君達も調子は良さそうだ」
「おい、周囲の様子はどうだ?」
篝が尋ねると、クフェアは答える。
「薬の効果は問題ないよ。みんなゆっくりと
だけど健康になってきている。薬の後遺症も
見られないとも」
「ならいい。悪いな。薬を配ったはいいが、
医者じゃねえ俺達が診て回っても怪しまれる
からな」
篝はクフェアに郁人のこと以外にも
お願いしていたことがある。
それは"薬を飲んだ者のその後の様子を
診てほしい"といった内容だ。
薬を持ってきたとはいえ、その後の経過
観察は医者ではないジークスと篝には
出来ない。チイトは出来るようだが
"歩く災厄"と名高い相手に診られては
恐怖で人々が倒れてしまう。
なので、クフェアに頼んだのだ。
「別に構わないよ。これは医者の
仕事だからね」
当たり前のことだからとクフェアは
ウインクする。
「それにしても、病と思っていたものが
まさか呪いだったとはね……。
道理でここの医者がどれだけ手を
尽くしても効果がない訳だ」
「うまく病に見えるようになっている
呪いだからな。この呪いのことはあいつや
住人には言ってないだろうな?
あいつに心労はかけたくない」
それに混乱を招く羽目になる
と篝は告げる。
「分かってるとも。言えば大混乱は
間違いないからね。それと彼が歌い、
楽神と謳われるMr.エンウィディアが納得
すればまた彼のコンサートは開かれる。
そうすれば、病……いや、呪いは薄まり
患者達、国ごと助かるのだから」
言う訳がないともとクフェアは微笑む。
「そういえば、彼の公演があるそうだね。
みんなこれでMr.エンウィディアの
演奏が聞けると喜んでいたとも」
「それはどこから?」
「Mr.アマポセドがパール座の掲示板に
貼って、チラシも配っていたからね。
"いきなり公演なんてしたら、旦那様に
一目会いたいと押しかける輩がいるから
事前に告知しないと!"と言っていたよ」
ジークスの問いにクフェアは答え、
続ける。
「当日、周囲はMr.エンウィディア
目当てで押し寄せるかもしれないよ。
君達も気をつけてね。君達目当ての子も
いるかもしれないから」
「……面倒な」
君達も有名だからねと告げたクフェアに
チイトは舌打ちした。
(群衆が押し寄せるのは厄介だ。
再び強力な呪いが施されれば群衆が
操り人形と化す恐れもある。
……あいつらに声をかけておくか)
チイトは最近、馴染みのある気配が
プリグムジカに来ていることを知っていた
ため、静かにイービルアイを放った。
ーーーーーーーー
プリグムジカの冒険者もよく使う、
値段もお手頃なホテルの1室。
そこには王者の風格を持つ、黒い角を額と
左側頭部から生やした、顔の左半分を仮面で
隠す少年がいた。
「……………」
黙々と本を読む姿でさえ、声をかけること
すらためらってしまうオーラが少年には
ある。部屋の雰囲気とは一致しておらず、
少年だけが周囲から浮いている印象を
持つほどだ。
「ん?」
少年は本を読んでいたがなにかに気づき
顔をあげた。
「これは……あ奴のか」
自身の影に潜んでいるイービルアイに
手を伸ばす。
「遣いをよこすとは珍しい。
なにかあったか?」
イービルアイはじっと少年を見たあと、
また影に消えていく。
「ほう……成る程……」
「おい、帰ったぞ。
……あんた本当に部屋と合ってないな」
「兄様、ただいま! とても良い情報を
持ってきたよ」
そこへ大量の荷物を持った長身痩躯で
狼の耳の青年と、チラシを持った星々を
散りばめた金髪で初々しさの残る少年が
やって来た。
「おぉ、帰ったか。して、良い情報とは?」
「明後日に公演があるそうなんだ!」
「パール座の前で胡散臭え奴がその事を
知らせるチラシを配っていた」
「そうか。外が騒がしかったのは
これも理由か」
「あれ? 驚かないのかい?」
そのチラシを見せた金髪の少年は
大きな目をぱちくりさせた。
驚かない理由を黒い角の少年は告げる。
「いやなに、先程我が末弟からその事に
関しての連絡があったのでな」
「真っ黒くんから!? あの子から連絡して
くるなんて……! でも、あの子のこと
だからお願いがあってかな?」
腕を組み、あごに手をやる金髪の少年は
尋ねた。黒い角の少年は頷く。
「あぁ。親父殿が公演する日程と
その公演にこっそり来いと書いてあった」
「こっそり?」
きょとんとする金髪の少年。
荷物を仕舞い終えた狼耳の青年は
不思議そうに尋ねる。
「なんでこっそりなんだ?」
「どうやら、エンウィディアには
バレたくないそうだ」
「え? でも、エン兄様の耳なら
バレてるんじゃないかい?」
今にもバレてそうだけどと金髪の少年は
呟いた。
「だって、エン兄様が本気になれば
この国の情報を全部あの神殿で聞き耳を
立ててるだけでわかるじゃないか」
「どれだけ耳が良いんだよ……」
金髪の少年の言葉に狼耳の青年が
顔を引きつらせる。
「それは問題ない。音が聞こえぬように
余の力ですでに遮断しておる」
「さすが兄様!」
「相変わらず用意周到だな」
黒い角の少年の言葉に金髪の少年は
目を輝かせ、狼耳の青年は頭をかいた。
「それで、兄様。僕達はこっそり
向かうのかな?」
「あぁ。可愛い末弟の頼みだ。勿論、
聞いてやるとも。まあ、文面からして
他にも頼みがありそうだが……。
それも聞いてやろうではないか。
我が同胞の頼みゆえな」
黒い角の少年は口角を上げた。
そんな少年に狼耳の青年は尋ねる。
「てか、あんたらこっそりなんて
出来るのか? そのまま行けばその弟以外、
住人に気づかれるだろ」
「問題ない。余達はどこからどう見ても
ただの冒険者。目立つとなれば、ソロで
B級となった"黒狼"の其方ぐらいだ。
だから、劇場に入る前に余の術で
気配を消せば良い」
「君だけ気をつければいいんじゃ
ないかな?」
「……どうやら自分を客観的に見た事が
ないらしいな、あんたらは。
ここを出る前にやれ。絶対に目立つ。
あんたらは風魔王と黄金の錬金術師の
異名持ちだろうが」
外見だけでも十分目立つんだよ
と狼耳の青年、黒狼はため息を吐いた。
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