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遅れたハロウィン


   こちらハート・オア・トリート!の

   ジークス視点となります。



 

   ー これは郁人がチイトに出会う前の話……



   ソータウンから離れたところにある村。

   その近くにある洞窟にて魔物と対峙する

   男がいた。


   「ここにいたか」


   並の者ではとうてい持てない大剣を

   振りかざし、魔物を一刀両断。


   「ーーーーーー!!!!!」


   魔物は聞くに堪えない断末魔をあげ、

   地面に伏した。


   「……これで大丈夫だろう。

   もう村が襲われることはない」


   男は魔物が息絶えたことを確認し、

   魔物に襲われてピンチに陥っていた者達を

   見る。


   「本当にありがとうございます……!!」

   「依頼が出された時より、強くなって

   いたんで俺達じゃどうしようも

   ありませんでした……!」 

   「救援に孤高が来てくれるなんて!」

   

   ピンチに陥っていた者達は孤高、ジークスと

   同業の冒険者だ。

   このパーティはギルドから依頼を

   受けたものの、魔物が強くなっていたので、

   自分達では手に負えないとギルドに

   救援要請を出していたのだ。


   「本当に助かりました!」

   「村に魔物が来てしまって、僕達が

   囮になろうとここまで引き付けたのは

   よかったのですが、もう少しで……」

   「あの! よかったら孤高も一緒に

   ご飯どうですか? 村の人達もお話したいと

   思いますし……」

   「すまないが遠慮させてもらおう。

   早く行かなくてはいけないんでな」


   パーティメンバーの1人である

   女性に誘われたものの、ジークスは

   断るとそのまま去って行った。


   「……一緒にお話したかったのに!」

   「孤高さんの武勇伝聞きたかったなあ……」

   「まあ、孤高さんも忙しいんだろ。

   あの実力は滅多にいないんだからさ」

   「そうだよなあ。また誰かを救いに

   行ったんだろうなあ」

   「孤高に救われた人って多いしな」

   「本当にカッコいい……!!」 


   救われたパーティメンバー達は去っていく

   ジークスの背中を見守った。


   そんな話の中心になっているジークスは

   全力で走っていた。


   (早く帰らなくてはイクトとハロウィンを

   過ごせない!!)


   パーティメンバーは世の為、人の為と

   思い込んでいるが孤高(ジークス)は現在

   私欲の為に全力だ。


   ーーーーーーーー


   ジークスは本来、郁人や女将さんと共に

   ハロウィンを過ごす気だった。

   

   しかし、救援要請がきて魔物の強さも

   段違いなためジークスをとギルドから

   指名されてしまったのだ。

   その為、ジークスは後ろ髪をひかれながら、

   一緒に過ごしたかった気持ちを振り切れない

   まま依頼に向かったのである。


   (魔物が移動していたのは想定外だった。

   そのため、探すのに時間がかかって

   しまったな)


   ソータウンに向かう馬車に間に合った

   ジークスは胸を撫で下ろした。


   「あの人……孤高だよな?!」 

   「本物をこの目で見られるなんて!」

   「握手してもらえないだろうか」

   「いや……なにか考えているようだから

   やめておけ」

   「物憂げな表情も素敵だわ……!」


   馬車に乗っている者達はジークスに

   話しかけたそうだが、思いを馳せる

   ジークスの姿に話しかけれないようだ。


   そんな事など知らないジークスは息を吐く。


   (だが、この馬車で移動すればギリギリだが

   ハロウィンを彼と一緒に過ごせる。

   バレットスパイダーの停留所があれば

   1番良かったんだが……)


   言っても仕方ないとジークスは

   外の景色を眺める。


   (そういえば、イクトはハロウィンだからと

   特別な菓子を作ると言っていたな。

   どんな菓子を作ったのだろうか。

   私も手伝いたかった……)


   ー「大変です! 前に魔物がっ!」


   御者が悲鳴をあげた。

   

   ジークスは急いで見ると、前方に魔物が

   いた。しかもこちらに近づいてきている。

 

   「誰か……!!」

   「俺が対処してこよう! 君達はここで待機

   しているように!」   


   御者が助けを求めるより早く、ジークスは

   すぐさま馬車を降りて、魔物のもとへと

   走り出す。


   「邪魔だ!!」


   ジークスは魔物が攻撃してくる前に

   斬り捨てた。


   「……近くにはいないようだな」


   周囲を警戒し、問題ないと判断した

   ジークスは馬車へと戻ろうと足を進める。


   

   ー「金目のものを置いていけ!」


  

   すると、品のない声が聞こえた。

   声は先程降りた馬車のほうからだ。


   見れば5人の盗賊が馬車を襲っていた。

   盗賊の1人の手には魔物を使役するための

   魔道具が見える。

  

   「先程の魔物はあの盗賊の従魔か。

   魔物に襲わせ、戦える者を馬車から

   引き剥がし、抵抗できない者だけにして

   荷物などを奪う算段か」


   最近、聞いたことがあるやり口だ 

   と、ジークスは落ちていた小石を

   いくつか拾う。


   「以前、女将さんがイクトに近づいた

   不埒者にしていた事を真似をしてみるか。

   氷は無いし、これでいいだろう」


   女将さんのように指で弾いて当てるのは

   次の機会があれば……

   と、ジークスは小石を盗賊目掛けて

   思いきり力を込めて投げていく。


   「ぎゃあ?!」

   「ぐがっ?!」

   「びぶ!?」

   「ほげっ!?」

   

   小石は盗賊の眉間に見事命中し、

   当たった盗賊は次々と倒れていった。


   「いきなり何が……?! なんでもう戻って

   きてるんだよ?! 俺の従魔は?!」


   最後の1人になってしまった盗賊は

   ジークスを見て顔を青ざめる。


   「おい! お前こっちに……ぐあっ?!」


   人質をとり、ジークスの動きを止めようと

   したがもう遅い。


   「大人しくしてもらおうか」


   足に小石が命中し、痛みに膝をついた

   ところをジークスに抑えられたのだ。


   いくらもがいてもびくともしない。

   まるで体が地面と一体化したのではと

   思うほどだ。


   「離……せ! 仲間が黙っちゃ……」

   「俺は急いでいるんだ。これ以上、時間を

   押してしまうのはまずい。だから、このまま

   捕まってもらおう。君だって五体満足で

   いたいだろう?」


   ジークスの瞳は本気だ。

   これ以上抵抗すれば、腕の1本や2本は

   軽く獲られることは間違いない。


   「…………!!!!」


   盗賊は恐怖に歯をガチガチと鳴らし、

   気絶してしまった。    


   「そこの君、縄を用意してもらえる

   だろうか? この者達は最近噂になっていた

   盗賊だろう。ソータウンに着き次第、

   憲兵に引き渡す」

   「はっはい!!」

   

   御者はすぐにジークスの指示に従った。


   「これが孤高の実力……!!」

   「魔物と盗賊を一瞬で片付けるなんて!」

   「孤高様が一緒にいて本当に良かった!」

   「全員無傷なのは孤高さんのおかげだ!」

   

   馬車に同席していた者達は感謝の

   視線をジークスへと向ける。


   「さあ、ソータウンへと向かおう」  


   ジークスはそんな視線を浴びながら

   馬車へと乗り込んだ。


   ーーーーーーーー


   「私が何をしたんだ……」


   ジークスはソータウンにて精神面で

   疲労困憊になりながらも、大樹の 

   木陰亭へ進んでいた。 


   あのあと、捕縛した盗賊を乗せたまま

   ソータウンへと向かっていたのだが……


   「孤高さま! 空から魔物の群れが!!」

   「巨大な石に道が塞がれて進めません!」

   「俺達の仲間を返せ!」

   「お助けください! 子供が魔物に!!」


   などなど様々なトラブルに遭遇したからだ。


   ジークスは魔物の群れを全て斬り、

   巨大な石も斬り捨て、仲間を助けにきた

   盗賊を圧倒的実力で捕まえ、さらわれた

   子供を魔物の手から助けたりと短時間で

   八面六臂(はちめんろっぴ)、1人で数人分の活躍をして

   みせたのだ。 


   ー その影響でハロウィンはとっくに

   過ぎてしまっていたが……。


   (もうハロウィンの飾りは仕舞われ、

   料理なども普通のものに戻っているか……。

   しかも、夜も更けているからな……)


   間に合わなかったと肩を落としながら

   ジークスは歩く。


   ギルドに当初の依頼の達成と道中の

   盗賊の捕縛や魔物の遭遇などを話すと

   フェランドラに……


   "お前の活躍は感謝した人から連絡きてた

   から知ってるけどよ……。

   お前、なんで1人で数人分の依頼を

   こなしてるんだ? 帰り道で偶然?

   1人でこなす量じゃねえし、帰路で

   どんだけトラブルに遭ってるんだよ。

   軽く引くわ……"  

 

   とドン引きされた。


   (私だって早く帰りたかったさ。まさか

   こんな事になるとは思わないだろう)


   せめてイクトの顔を見たいと大樹の

   木陰亭の扉を開けると、ライラックが

   声をかける。

   

   「あら、ジークスくん! おかえりなさい。

   遅くまでお疲れ様!」

   「ただいま戻りました。イクトは……」

   「いつもの席にいるわ。行ってあげて」

   「! はい!」 

   

   ジークスは郁人が起きていること、

   いつもの席にいることに驚きながらも

   足早に向かう。


   「ハート・オア・トリート!」

   

   そこには大きな布を頭からかぶって

   おばけの格好をした郁人と、ハロウィンの

   飾り付けがされた空間があった。

   テーブルにはハロウィン仕様の料理が

   並んでいる。


   「これは……!」  

   「驚いたか? 最初はお菓子だけ用意しとく

   つもりだったけど、ジークスもハロウィンを

   楽しみたかったかなと思ってさ。

   だから飾り付けもしたんだ!」


   今日ぐらいに帰ってきそうだって

   フェランドラが教えてくれたし

   と、布をかぶったまま郁人は誇らしげだ。


   「まあ、今日帰ってこなくても

   用意してたけどさ」

   「イクト……!」

   「さて、ジークスはお菓子を用意して 

   ないようだからな! 俺からのハート、

   悪戯を受けるがいい! 俺の悪戯は……

   ジークスのお腹をいっぱいにして

   動けなくしてやることだ!」


   どうだ! すごい悪戯だろう!

   と郁人は布から顔を出し、目を輝かせた。


   「あぁ……!すごい悪戯だ!

   本当に……こんな悪戯は初めてだとも!」


   嬉しさが隠しきれないジークスは

   全身に幸福が満ちている。


   郁人はあっ! と声をあげる。


   「ジークス! 決まり文句は?」

   「! イクト! ハッピーハロウィン!」

   「うん! ハッピーハロウィン!

   いっぱい楽しもうな!」


   母さんもあとで合流するからさらに

   にぎやかになるぞ! と郁人は声を

   弾ませた。


   「あぁ! 勿論だ!」


   疲れが吹き飛んだジークスは

   少し遅れたハロウィンを楽しんだ。


   

     

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーー



郁人は驚かせるため仮装を考えた。

郁人は大きな布を頭からかぶった姿を見せる。


「母さん! これとかどうかな?」

「あら、おばけの仮装ね!

いいんじゃないかしら?」


楽しげな郁人を微笑ましく見守るライラック。

そんなライラックに郁人はもう1つ見せる。


「それかこれはどうかな?

さっきのより大変だけどよりハロウィン

っぽいかと思って」


郁人が布を取って見せたのはミイラ、

包帯をぐるぐるに巻いた姿だ。

おまけに血のりまでついている。


「…………それはやめておきましょう。

ジークスくんの心臓が止まっちゃうわ」


よく倒れる郁人だから洒落にならない姿だと、

一瞬、心臓が凍りついてしまった

ライラックはそれを悟らせず制止した。


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