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243話 本番の日程は……




   夜になり、静寂に包まれた神殿内、郁人は

   用意された部屋のベッドに座っていた。


   「明後日が本番か……」

   〔唐突よね、まったく……!

   せめて1週間前に言いなさいよ!〕


   ーーーーーーーー


   エンウィディアが目を覚ましたあと

   頭痛に眉をさらにしかめながら告げる。


   『歌はまあまだマシになっている。

   あとは場に慣れろ。今のテメェなら

   舞台に立つことも目をつむってやれる

   レベルだからな』

   『旦那様、それって!』


   アマポセドが両眉をあげるなか、

   エンウィディアは続ける。


   『明後日、テメエには舞台で歌を披露して

   もらう。客は面倒くせえから入れねえが、

   あの反則野郎らには来させる。客がいねえ

   からって気を抜いたらその場で噛み砕くから

   な』


   と、郁人に本気の口調で告げたのだ。


   『あぁ、クソ! 頭が痛え……!! 記憶も

   食ってからあいまいなのが頭に

   くる……!!』

   『旦那様! マナフィが来るんでもう少し

   待ってね!』

   『明後日……本番……』


   その後、マナフィがやってきて、

   エンウィディアの治療をし、郁人は

   しばらくぽかんとしていた。


   ーーーーーーーー


   〔あれ、ガチだったわよ。気を抜いたら

   本当に頭ごとバリバリ噛み砕かれるわ〕

   (目も怖かったからな……失敗できないな)


   郁人が顔を強張らせていると、ユーが

   その頬をつついた。擦り寄り、大丈夫

   だと伝える。


   「ありがとう、ユー。本番前とかにギュッと

   していいか? 緊張が解けそうだからさ」


   尋ねると、勿論と言いたげに尻尾の先を

   手に変えて親指を立てた。


   「本当にありがとう、ユー。

   そろそろ寝ようか。明日も早いだろうから。

   あと、ちゃんと伝えたほうがいいよな……」


   どのタイミングで伝えようかと郁人は

   布団にくるまり、ユーも郁人に抱っこ

   されて寝ようとする。


   が……


   「邪魔するぞ」


   ドアを足蹴で開けたエンウィディアが

   入ってきた。


   「エンウィディア?! どうかしたのか!?」


   突然の来訪に郁人は目をぱちくりさせた。


   「来い」

   「へ? ちょっと?!」


   郁人の言葉など聞いていないと、

   エンウィディアは郁人を担ぐと

   そのまま窓から出ていった。


   ここは海の中なので落ちることはない。

   エンウィディアはそのまま空を飛ぶように

   海の中を進んでいく。


   練習でいつも部屋に着いたら風呂に

   入ってベッドにダイブしていたので

   郁人は気づいてなかった。


   「夜の海って綺麗なんだな……!」


   窓の向こうにあった、眼下に広がる

   夜の景色に郁人は目を輝かせる。


   プリグムジカの周囲を囲うサンゴが淡く光り

   国の上をたゆたうクラゲ達も蛍のように

   光っていてとても幻想的な光景だ。


   「本当に……綺麗だ……!!」


   あまりの綺麗さに郁人は感嘆の声を

   もらした。


   「ここは月の光なんて特定の場以外は

   届かねえからな。サンゴや光れる連中は

   夜の間、ずっと光ってんだよ。防犯対策の

   意味もある」

   「暗さに乗じて悪さを働く人がいるのか?」

   「そこは陸の奴と変わらねーからな」


   エンウィディアが面倒そうに呟くと、

   光っていたクラゲ達がフヨフヨと

   こちらへ向かってくる。


   「こっちに来てるな」

   「……めんどくせえ」


   クラゲ達はエンウィディアにキラキラと

   淡い光を向ける。まるで挨拶している

   ようだ。


   「今日はオレが歌うわけじゃねーよ。

   明後日はこいつが歌うから来い」


   エンウィディアが告げるとクラゲは

   フヨフヨと郁人の周りを泳いだあと、

   淡く光ってまたふわりと去っていった。


   「期待してるだとよ」

   「喋ってたのか?!」

   「あいつらは光でコミュニケーションを

   とるんだ。何度も光ったりしてただろ?」

   「たしかに。あれってモールス信号

   みたいなやつか?」

   「あぁ。だから話しているとわかる」

   「なるほど」


   郁人はどんなことを話しているのだろう

   と去っていったクラゲを見つめていると   

   エンウィディアが口を開く。


   「着いたぞ」

   「どこに? ここって……!!」


   着いたのはあのパール座だった。


   「明後日、テメエが立つ舞台だ。

   あんときしっかり見れてなかっただろう

   からな」


   エンウィディアはそう言いながら

   パール座の前に進む。


   「この舞台はこの国の中では1番マシな

   舞台だ。設備も他より揃ってるからな」


   告げながら、エンウィディアはパール座の

   扉を開けた。


   「わあ……!」


   郁人は思わず声を上げた。


   パール座の内観は入り口からまるで

   別世界に迷い込んだかと思うほどに

   綺羅びやかだったからだ。


   中世のヨーロッパ、バロック様式の

   外観も壮麗だったが、内観も引けを

   取らないほどの豪華さだった。 


   大階段には見事な彫刻が彫られており、

   贅沢なほど真珠が埋め込まれていた。


   天井にも絵が描かれており、郁人は思わず

   見惚れてしまう。


   「わあ……! お城の中だと言われても

   おかしくないくらいに豪華だな!!

   天井の絵もすごいし、もっと近くで

   見れたらなあ!」

   「ゴチャゴチャ言ってねえでとっとと

   行くぞ」


   目を輝かせ、つい足を止めてしまう郁人の

   腕を掴み、エンウィディアはずんずんと

   進む。


   「ここがテメェが立つ舞台だ」


   告げると、まるで自分の家のように

   扉を開けた。


   「ここが……!」


   郁人の視線の先にある荘厳な舞台は

   今にも幕があがり、コンサートが

   はじまりそうなほど、雰囲気が張り詰め

   られている。


   (あのときはバタバタしてたから

   ちゃんと見れてなかったけど……

   こんな感じなのか……!!)


   舞台に立った者は自然と背筋を伸ばす

   だろう。見ている郁人でさえもつい

   背筋を伸ばしてしまっている。


   舞台は天井の窓から差し込む淡い光で

   照らされており、神聖さすら感じてしまう。


   「ここは月の光が届く場所だから。

   なんなら、この光を浴びてみるか?」


   エンウィディアは一応尋ねているが、

   郁人の腕を掴んでそのまま舞台に進んで

   いるので浴びせようとしているのは

   明らかだ。


   「勝手に立っていいの?!

   まず勝手に入ってるし」

   「俺が良いって言ってんだ。問題ねえ」


   大丈夫なのかと慌てる郁人をよそに

   エンウィディアは舞台の上に郁人を

   放り投げた。


   「うわあ!?」


   郁人は舞台に顔から着地しそうになるが、

   ユーがクッションとなり顔から着地せずに

   すんだ。エンウィディアは舞台が見渡せる

   真ん中の席に堂々と座る。


   「ユーありがとうな。

   なんでいきなり投げるんだよ?!」

   「テメエがさっさと行かねえからだ。

   試しに歌ってみろ」

   「本当にいきなりだなあ……」


   郁人はエンウィディアの無茶ぶりに

   悩んでいると、ユーが楽譜を取り出し

   手渡した。

  

   「あれ? この楽譜……

   俺がリズム変えちゃったのじゃないか!

   なんでユーが……?」

   「そいつ、勝手に持ってきやがったな。

   ……まあ、いい。それを歌え」

   「うん、わかった。ユー、次に持ってくる

   ときは持ち主にちゃんと許可とってからな。

   えっと……」


   郁人は楽譜に目を通し、変更点がないかを

   確認した。ユーは郁人の胸ポケットで聞く

   態勢に入っている。


   「うん、変更点は無さそうだ」

   

   郁人は読み込んだあと、思い出す。

     

   (今のタイミングならいいかな?)


   郁人は口を開く。 

 

   「あのさ、エンウィディア……

   今までごめんな」

   「は?」


   唐突な謝罪にエンウィディアは目を見開く。


   「その、自分の好きなものを否定され

   続けるのは辛かったし、嫌だったよな。

   それも好きなものを持っている本人に

   否定されてたんじゃ、そりゃ怒るよな。

   ……本当にごめん」

   「テメェなにを……まさかっ!」


   エンウィディアは酔ったときのことを

   思い出してしまったのか両目をカッと開き、

   次第に耳が赤くなる。

   郁人はそのことに気付かないまま、

   告げる。

  

   「そして、ありがとうな。

   俺の音楽を、才能を俺以上に愛してくれて。

   だから、感謝を込めて歌うよ。

   今も、本番のときもさ。



   本当にありがとう、エンウィディア」



   郁人は目をつむり、深呼吸をして

   気持ちを整える。


   〜♪〜〜♪♪


   感謝の気持ちを込めて、歌う。

   舞台の上で、月明かりに照らされながら

   心をこめて郁人は歌を紡ぐ。



   「……………ったく、悪くねえな」



   席に座り、聞いていたエンウィディアの

   左の口角は自然とあがっていた。


 



ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーー

  

郁人は感謝をこめて歌を紡いでいると

アイデアが浮かんだ。


(歌うのは楽しいな。

そういえばこの舞台……

そうだ! エンウィディアに

感謝を込めてあれも描こう!)


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