240話 彼は黄色い声をあげる
「………………………」
クフェアはポンドを見たまま動かない。
まるで石像になったようだ。
(たしかとか言ってたからポンドのこと
聞いたことがあったのかな?
鎧の姿の事しか聞いてなかったから
驚いてるのか?)
〔どうしたのかしらね?〕
郁人はきょとんと首を傾げた。
「マスター、こちらの方は?」
ポンドは不思議そうにしながら尋ねてきた。
「この人はクフェアさん。
先生が探していた息子さんだよ」
「あぁ! あの医師のお子さんでしたか」
ポンドはたしかに似てますなと納得した。
「俺が倒れたから篝がクフェアさんを
呼んでくれたんだ」
「そうでしたか。それでこちらまで
来てくださったのですな」
経緯を聞いたポンドは納得し、
クフェアに挨拶する。
「はじめまして、クフェア殿。
私はポンドと……」
「きゃあああああああああああ!!!!」
クフェアが突然黄色い声をあげた。
好奇心の塊だった瞳にハートを浮かべ、
顔を赤くさせている。
「なにこのグッドルッキングガイ!!
まさに騎士って感じじゃないか!!
あの旦那や孤高みたいなのが俺の好み
だけど、ここまでドストライクが
居たなんて……本当に驚きだ!!
旦那……あっ! チュベローズの旦那の
ことだよ? その旦那に"もし仔猫ちゃんが
近くにいるなら会ってみるといい。
予想外の出会いがあるかも?"って
聞いてたけど本当に予想外だ!!」
最高だよっ!!! とクフェアはポンドの
周囲をくるくると回り、興奮している。
「サラッとした金髪に後頭部の刈り上げ……
ぜひ触りたい……!! このTHE男前って
いう、彫刻のような顔やバランスのとれた
筋肉も良い! 声を良くて、聞いてるだけで
だんだん下腹部が熱くなってくるよ……!!
しかもしかも、あの“スケルトン騎士“
なんだろう?? まさかの魔物なんて!!
あぁ!! こんな奴が居たなんて!!
解剖したい!! バラしたい!! 隅々まで
研究したい!! スケルトン騎士を相手に
したことはないから尚更だ!!
あ? ところで君って生前も含めてだけど
性交しょ……」
「言いたいことは山程ありますが、
とりあえず朝からそのような話は
やめていただけますかな!!」
郁人の耳を最後辺りで塞いだポンドは
訴えた。
(どうかしたのかポンド? なんかロック
オンされたみたいだけど大丈夫か?)
<私はなんとか大丈夫です。
今思い出したのですが、私は色んな方に
いろいろと狙われていた事もありました
ので……>
ポンドはハハハと乾いた笑いを
浮かべながら答えた。
「で、クフェア殿。マスターの体調は
どうでしょうか? 噛まれた跡以外のことも
お伺いしたいのですが」
「あぁ! その慣れた態度もいいね!!
実にいい!! えっと、体調はもう少し
見ないと断定は出来ないかな?
彼が食べ終えてから診ることにするよ。
ところで、俺もご飯を食べてないから
いただいてもいいかな?」
クフェアはたまらないという恍惚とした
表情を浮かべたが、医師としての自身に
戻って話した。
お腹も空いているようで、アハハと
笑いながらクフェアは腹をさする。
「では、こちらで食べられますか?
料理はありますので、食べられてから
診察をお願いしても?」
「いいのかい? それは助かる!
ありがとう!」
クフェアは目を輝かせながら席についた。
「いやあ~こんな驚きがあるなんて!
本当に最高の日だよ!」
「クフェアさんは若色の専属医
なんですよね? いろんなところに行ってる
みたいですけど……」
「敬語はいらないよ。君とは長い
付き合いになりそうだからね。
で、答えだけどたしかに俺は専属医だ。
けど、いろんな薬剤の材料が欲しいからね。
フィールドワークさせてもらってるんだ。
それに現地の情報というのは結構重要でね。
いろいろと為になる」
情報は薬以外のもあるけどと告げながら
クフェアは笑う。
「それにこういった出会いも大切だよ。
俺はスカウトも担当しているからね。
店にピッタリで、向こうも望むなら店に
推薦しているんだ」
「成る程。夜の国、しかも若色のような
特殊な店ならば勧誘の情報はあまり
出回らないでしょうからな」
ご飯を持ってきたポンドが頷きながら
配膳した。
「そうなんだよ。あそこは知る人ぞ知る
高級な店だからね。だから、勧誘もかなり
気を配らなきゃならないんだ。
身体の健康も大切だから、俺が勧誘
してるのもある」
体力勝負なところもあるから
とクフェアは告げた。
「と、おしゃべりはここまでにして
ご飯をいただこうか。配膳ありがとう。
うん、栄養バランスも良い」
クフェアはポンドに礼を告げたあと、
食事を見て感心する。
「ポンドが作ってくれた料理は
美味しいんだ」
「マスターの調理を見てきましたからな。
どうぞ、いただいてください」
郁人の言葉に微笑みながら、ポンドも
席につく。
「いただきます」
「いただきます」
「イタダキマス?」
手を合わせる郁人達を真似ながら
クフェアは首を傾げた。
「イタダキマスって?」
「えっと、食材に感謝してるんだよ。
ありがたくいただきます……みたいな?」
「成る程。そんな言葉だったんだ。
君の文化なのかな? 面白いね」
クフェアは納得し、微笑みながら
朝食に手を伸ばす。
今回の朝食はチーズと卵、レタスに
トマトが挟んであるベーグルサンド。
リンゴもスライスされ、クルトンも
入っているサラダ。
ドリンクにミックスジュース、
デザートのヨーグルトにベリーソースが
かかってある。
「朝食ありがとう、ポンド。
俺も作りたいんだけど……」
「エンウィディア殿が許さないでしょうな。
しばらく歌に集中してほしいでしょうから。
ここにいる間は私が作りますのでご安心を。
リクエストがありましたら、おっしゃって
ください。腕によりをかけて作りますとも」
「ありがとう、助かるよ」
郁人はベーグルサンドを頬張った。
レタスのシャキシャキ感にトマトの酸味、
卵の甘味が合わさり、そこにトロりとした
チーズが加わる。
「美味しい!! ベーグルともすごく合う!」
ベーグルのモチモチ食感もあって、
郁人は頬を上気させた。
ユーも尻尾を振りながら、ベーグルサンドを
頬張っている。
「君は料理も出来るのか……!?
これはますます調べたくなってきた……!」
クフェアは料理の出来に驚きながら、
ポンドをロックオンしたまま食べ続ける。
「診察のあとに君も診てもいいかな?
君は彼の従魔。彼に異変があれば君にも
影響があるかもしれない。
今まで診てきた患者のなかに居たからね。
マスターに異変が出る前に兆候を見せた
従魔がさ」
「その手つき、いえ、その目付きも
無ければ承諾しましたな」
獲物を見つけた瞳と手つきが明らかに
怪しいクフェアにポンドは苦笑しながら
告げた。
「ぐっ……! あふれでる俺の探求心が
なければ……!! じゃあ、質問はさせて
くれないかな?」
「質問によりますが構いませんよ」
ポンドが頷くとクフェアは目を輝かせながら
口を開いた。
「君って内臓はあるのかい?
見た目は人間そのものだけど、中身は
どうなのかな? 1回切り開いてみても
いいかな?! ぜひ解剖してみたい!!
あと! 従魔になる前ってどんな生活を
送っていたんだい? 下を使う機会はあるの
かな? ご無沙汰だったなら俺が」
「質問は終了とさせていただきますっ!!」
途中、耳を塞がれた郁人は不思議そうだ。
(どうかしたのか?)
〔あんたは聞かなくてもいいわよ。
まあ……この黒鎧が身体面を狙われてる
だけだから〕
(成る程。ポンドがスケルトン騎士で
驚いてたもんな。見た目とかあきらかに
人間だし)
郁人が納得するなか、塞がれていた手から
解放されていた。
「君もたいそう過保護なことだ。
ま、これからよろしく。
イクトくんは勿論、君とも仲良くなりたい
からね」
「それは身体目的ですかな?」
「そこも含めてだよ」
クフェアは茶目っ気たっぷりな笑みを
魅せた。
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食事中の出来事……
「マスター、先に召し上がっていても
よろしかったのですよ?」
「いや、一緒に食べたくてさ。
こうしてゆっくり話せる時間は少ないし」
「たしかに、レッスンがすごい詰め込まれて
いますからな」
このような時間は少ないでしょう
とポンドは納得する。
そこにクフェアが声をかける。
「ところで、Mr.ポンド。
君のマスター。イクトくんは少々
警戒心が足りないんじゃないかな?
あっちの知識を教えたほうが良いと
思うんだけど。どうだろうか?
君達の周囲にいないなら、旦那に教えて
もらおうかい?」
「……私もそう思いますが、チイト殿と
いった他の方々が許しそうにないです
からな。あと、チュベローズ殿は
ご遠慮します」
「……本当に真綿に包まれてるね、君は」
ポンドが首を横に振り、ユーは手を☓に
している。旦那がそう例える訳だと
クフェアは郁人を見た。
「? どうかしたのか?」
郁人は不思議そうに首をかしげた。