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239話 クフェア




   郁人はポンドに先に食べてほしいと

   言われていたが、一緒に食べたかったので

   ユーとともにポンドを待っていた。


   「ポンド、篝と話してるみたいだけど

   どうしたんだろ? 電話してるみたいだけど

   長引いてる感じかな?」

   〔そりゃ長引くでしょ。相手はかなり

   筋金入りのアレだし〕


   当然よとライコは呆れたように息を吐いた。


   〔あたしも本当に驚いたんだから!

   あんたは腕枕されて抱き締められてるし!

   しかも噛まれて、エリクサーを

   さも当然のように使ってるし……!!

   思わず叫びそうになったんだから!〕


   耐えるのどれだけ大変だったか!

   とライコは抗議した。


   (俺も驚いたからな。俺を噛んでも

   美味しくないのにな。……歯応えのあるもの

   作って渡そうかな?)

   〔そういう問題じゃないから〕


   歯がかゆいのかな? と見当違いの考えの

   郁人にライコはため息を吐く。



   ー 「失礼。ここに患者がいると聞いたん

   だけど」



   突然、声が聞こえた。


   「ノックしたんだけど、聞こえてなかった

   ようだからね。気配はあったから入らせて

   もらったよ」


   声のする方を見れば、歌って踊る姿が

   思い浮かぶ、まるでアイドルの言葉が 

   ピッタリな甘いマスクの青年がいた。

  

   白桃の色をした髪からのぞくフワフワ

   とした白いウサギの耳。機械的な

   ヘッドホンがそのフワフワさを際だた

   せていた。優しげなたれ目にピンクの瞳は

   好奇心でキラキラと輝いている。


   白衣にベスト、ところどころサイバー

   パンクちっくな服装をした青年は郁人に

   近づく。


   「君がその患者かな? うん、そうだね。

   話しに聞いてた通りだ」

   「あの……誰ですか?」

   〔誰よこいつ……?〕


   戸惑う郁人達をよそに青年はくるくる

   郁人の周りを歩き、じっと観察する。


   「親父には聞いてたけど思いのほか……。

   たしか……表情が動きにくいとか」

   「ふぐっ?!」


   いきなり郁人の顔を両手で掴んできた。


   「なにひゅるんでしゅ!?」

   「なるほど。これは動かしにくいな。

   体温が低いのも理由かな?

   あの薬を常備しといてこれとは驚いた」


   そのまま顔をこねくりまわす青年の手を

   ユーが尻尾で叩いた。


   「おっと……この子が“ユー"か。

   うん。面白い! じつに興味深いな!

   このような生き物、初めて見たよ!

   新種の魔物? それとも妖精かな?

   その尻尾のヘビは君が動かしてるのかい?

   それとも、別で生きていたりするのかな?」


   叩かれたことを気にせず、好奇心のまま

   ユーを観察する青年。

   ユーはなんだこいつ? と言いたげな

   雰囲気だ。


   突然やってきた青年に郁人は困惑しながら

   尋ねる。

 

   「あの……どうして俺の名前を?」

   「あぁ! そうか! 俺は知ってたけど君は

   知らなかったね」


   うっかりしていたよ と、ポンっと手を

   叩いた青年は郁人に自己紹介をする。


   「はじめまして、俺の名前は“クフェア“。

   アマリリスとストロメリアの1人息子。

   君が探していた人物さ。親父とはもう

   再会済み。コンタットで連絡もちゃんと

   取れるようにしているよ」


   よろしくとクフェアはウィンクしながら

   手を差し出す。


   〔あんたがあのクフェア?!〕

   「あなたがクフェアさん?! 会えて

   よかった!」


   郁人は立ち上がると差し出された手を

   両手で握る。


   「あなたが作ってくれた薬のおかげで

   俺、とても助かったんです!

   飲まないと朝が起きれない、体が

   動かない状態で……!! こうして動ける

   のもあなたが作った薬のおかげなんです!

   本当にありがとうございます!」


   会えてとても嬉しいと郁人はキラキラと

   目を輝かせた。


   〔本当に、こいつがあのクフェア……!?

   話を聞いて思い浮かべたイメージと

   全然違うじゃない! ドラケネスで軍人に

   せまった奴とは到底思えない……!!〕


   ライコも思わず声をあげた。


   「………こんなストレートに来られるのは

   驚いた。親父に聞いてた通り……

   いや、それ以上の素直さだね」

 

   まるで無邪気な幼子のようだと目を

   ぱちくりさせたクフェアは微笑む。


   「俺はこう見えても医者の端くれ。

   患者の力になれたのなら何よりだ。

   さて、君がいきなり倒れたから診てほしい

   とMr.カガリから頼まれたんだけど……

   あっ、食事前だったかな?」


   用意されたカトラリーを見たクフェアは

   頭を下げる。


   「食事前に失礼した。騒がしくして

   しまったね」

   「いえ、気にしないでください。

   こちらこそ、来てもらえて嬉しいですから」


   郁人もクフェアに頭を下げた。


   「そう言ってもらえると助かるよ。

   食事を済ませてから診察を……」


   頭を上げたクフェアは突然目をカッと

   見開いた。


   「? どうしました?」

   「え? 君ってお手つきだったの?」

   「お手つき?」

   「だって、ほらそこ」


   クフェアは郁人の首筋を指差した。


   「その噛み跡、恋人にされたんだろ?

   相手は相当独占欲が強いと見えるよ。

   君、何も知らなそうな顔して意外とやるね。

   あの旦那が聞いたら昂りそうだ」


   俺も(たかぶ)るタイプだからさとクフェアは

   上がる口角を手で隠す。


   「? あの、これは恋人じゃなくて、

   エンウィディアに噛まれたんです」

   「えっ……その噛み跡は恋人に

   噛まれたんじゃないのかい?!」

   〔……普通はそう思うわよね〕


   目をぱちくりさせるクフェアに

   ライコはため息を吐く。


   「俺に恋人はいないですよ。噛まれた理由も

   わからないんですけど……」

   「ちなみに、どういった状況で噛まれた

   のかな?」


   訳がわからないとあごに手をやりながら

   クフェアは尋ねた。


   「いつの間にか抱き枕にされてて、

   起きようと思ったら噛まれました」

   「…………????

   抱きまくら? いつのまにか??」


   クフェアはさらにはてなマークを

   浮かべ、また尋ねる。

   

   「君はその状況に対して思うことは

   ないのかい? 俺の予測だけど、いつのまに

   かってことはベッドに勝手に入られてる

   状況だと思うのだけど?」

   「ベッドに勝手に入られる事や抱きまくらも

   されたことありますので……。噛まれたのは

   初めてなので驚きましたけど」


   そういえば、篝に抱きまくらにされてたこと

   あったなと郁人は思い出しながら告げた。


   「……………………………」


   話を聞いていくうちにフラリとめまいが

   したのかしゃがみこみ、思わず頭を

   抱えてしまうクフェア。

   そんなクフェアに郁人は声をかける。 

    

   「クフェアさん? どうしたんですか?」       

   「……………君! 本当に警戒心ないな!?

   よくここまで無事に生きてこれたよ!?

   奇跡に近いよ! 本当に!!」


   勢いよく立ち上がったクフェアは

   目を見開いたまま、郁人の肩を掴む。


   「道理で旦那が真綿でくるまれた

   仔猫ちゃんって説明した訳だよ!

   あっちの知識0、警戒心も0とは……

   いつパックリ喰われてもおかしく

   ないんだよ?!」

   「喰われるって……俺はこんなですから、

   食べても美味しくないですよ?

   肉も少ないですし、食べごたえが……」

   「そういう意味じゃないんだ!!」


   ああ! もう!! とクフェアは頭を

   抱える。


   「周囲は君が思う以上に優しい訳じゃない!

   君のことパクっといただこうとしてる

   奴がいるのはたしかなんだからさ!」

   「失礼します。なにやら騒がしいようですが

   どうされました?」


   本当に危ないんだから! とクフェアが

   説明していると、電話を終えたポンドが

   扉をノックしたあと入ってきた。


   「ポンドおかえり」

   「ポンド? たしか……イクトくんの護衛

   だったね? 君は…………」


   クフェアは振り返り、ポンドを見た。




   「…………………良い」




   なにかが落ちる音がした。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーー


プリグムジカにて篝は声をかけられる。


「おや、ここにいるとは予想外だ。

久しぶりだね、Mr.カガリ」

「げっ?! ……なんでここにいやがるんだ

クフェア」

「そう嫌そうな顔はしないでほしいな。

俺は君に対しては何もしてないだろう?」

「そうだな。お前はあの野郎が

していることをただ見ているだけ

だからな」


篝は不愉快そうに眉をしかめる。


「俺に彼が止めれる訳がないだろ?

彼は純粋に君と交流したいんだから、

止める理由もないけどね」

「あれは純粋じゃねえだろ!

……で、なんでお前はここにいるんだ?

若色所属のお前が」


いぶかしげに篝は尋ねた。

質問にクフェアは答える。


「ここで珍しい病気が流行していると

聞いてね。な゙にか手伝えないかと

来たんだよ。ここの医者から、

医療従事者もどんどん倒れてるから

助けてほしいとも言われてね」

「……そういや、お前は名医としても

有名だったな」


お前の素行がアレだから忘れていた

と篝は呟くと、告げる。


「お前に頼みがある。

原因がわからねえが突然倒れた者がいる。

今は起きているがそいつを診てやって

ほしい。診てくれれば、この国で

流行っているアレについて教えてくれる

奴を紹介する」

「突然倒れたって大丈夫かい?!

しかも、流行っているアレって

まさか……?!」

「今は大事にしたくねえから、

裏で行動してんだよ。あいつに

心労をかけたくないしな」


驚くクフェアに篝は説明する。


「……いいよ。倒れた者は俺が

責任もって診させてもらう。

アレについては、診てからでいいかな?」

「当然だ。俺から宿泊先に連絡入れておく。

だから、急いで行け」


篝はコンタットでアマポセドに連絡を

入れる。神殿関係の連絡はこちらに

入れてほしいとアマポセドに言われて

いたから連絡先を知っていたのだ。


「わかった。じゃあ、俺はその患者の

もとに行かせてもらうよ。患者の名前は?」


クフェアは了承し、篝に名前を聞いた。

瞬間、目を見開いた。


ーーーーーーーー


「まさか……こんなところで会うことに

なるとは思いもしなかったな」


クフェアはフメンダコに案内されながら

神殿内を進む。


「名前は親父達や旦那から聞いていた

からね。どんな人物か楽しみだ」


診察はいつもより気が抜けないね

とクフェアは気合を入れた。



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