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238話 説教は響くはずもなかった




   温かなぬくもりに包まれて郁人は

   目を覚ます。


   (あれ……そういえば俺……歌ってから……)


   記憶を辿ろうとすれば、頬をペチペチと

   叩かれる。


   「あっ、ユー。おはよう」


   ぬくもりは抱きしめていたユーのおかげかと

   思ったが、背中も温かい。


   「ん?」


   見ると自身を包む、海のように青く、

   鱗がところどころ生えた腕が1本あり、

   その腕は郁人の頭の下にもあった。   

   しかも、その腕は見覚えがある。

   人魚の特徴が特に腕に現れていると

   設定したものだからだ。   


   「やっぱり……」


   視線を横にやれば腕の持ち主は

   エンウィディアであった。


   周りを威圧する眼光は目蓋で伏せられ、

   穏やかな寝息が聞こえる。


   ユーは郁人から離れると、携帯を取り出して

   静かに写真を撮り、どのような状況なのか

   郁人に見せる。


   「俺、完璧抱きまくらになってるな……。

   しかも、エンウィディアいつのまにか

   着替えてるし……」

 

   改めて自分がどのような状況か写真から

   よくわかる。

  

   いつもの肌を一切見せない服装とは違い、

   上は脱いでおり、ゆったりとしたカーゴ

   パンツを履いている。

   そんなエンウィディアはガッシリと

   郁人を抱えて離さない。


   「本当になんでこんな状況に??

   俺なんで腕枕されて抱き枕にされてるの?」


   膝枕以降の記憶はなく、こうなった覚え

   もない。ユーも不思議そうにしている。


   「……とりあえず、起きようか」


   郁人は体を起こそうとするが、ガシリと

   ホールドされているので動けない。


   「力強っ! 腕1本なのに全然動けない!

   あっ、そっか! エンウィディアは

   結構力があるタイプだった……」


   びくともしない腕に郁人は思い出した。


   「腕1本でこれくらいか……俺の力がない

   だけ?」

   「うるせえな」


   耳許で声がした。


   「俺が寝ているときは静かにしろ」


   寝起きで不機嫌そうなエンウィディアだ。

   舌打ちし、眉をしかめめながら郁人を

   見ている。


   「いや、その、なんでこの状態なのか

   気になって……。なんで一緒に寝てるのかも」

   「俺の勝手だ。まだ寝かせろ」

   「え? このまま寝るの?」


   郁人の問いを無視してエンウィディアは

   目をつむる。


   「あの、エンウィディア……」

   「うるせえんだよ」

   「うぇっ?!」


   プツリと皮膚を貫通する音がした。

   郁人は驚きで声を上ずらせてしまう。


   なぜなら、エンウィディアに首筋を

   噛まれたからだ。


   「俺はまだ眠い。だからテメエも寝てろ」

   「噛む必要あった?! っで?!

   また噛んだ!!」


   五月蝿いとエンウィディアは郁人を

   また噛んで、寝ろと言うように腕に

   力を込める。


   ユーは大丈夫? と心配そうに郁人を見つめ

   噛まれた首筋を尻尾で撫でる。


   「大丈夫だよ、ユー。

   あれ? もしかして治してくれたの?」


   首筋の違和感が消えたので尋ねると、

   ユーはエリクサーを持っていた。

   これで治したと主張している。

   

   「ユーありがとう。ってまた?!」


   感謝していた途端、エンウィディアが

   再び噛みついたのだ。

   しかも、血がでるくらいにだ。


   エンウィディアはその血をなめて、

   少し目を見開く。


   「………テメエあの軍人野郎以外にも

   竜の奴の血肉喰ってんな?」

   「え……? なんで知ってるの?   

   チイトから聞いたのか?」

   「テメエの血から聞いた。キューブから

   情報は得ていたが……。あのクソガキ……

   わざと竜の血肉関連の情報はふせて

   やがったな」


   きょとんとする郁人にエンウィディアは

   答える。


   「道理で思うようにいかねえ訳だ。

   なら……」

    

   エンウィディアは再び噛みつき、血を

   なめる。郁人の腹部にまわっていた手は

   腹をさすり、冷たい感覚が広がっていく。

   まるで、自分が上書きされるような感覚だ。


   「エンウィディア?! やめ……!!」


   嫌な予感に郁人は声をあげた。


   ー 瞬間


   「マスター!!」


   影からポンドが現れ、郁人をエンウィディア

   から引き剥がした。


   「ポンド!?」


   郁人は突然の登場に目をぱちくりさせ、

   エンウィディアは鋭い舌打ちをした。


   「エンウィディア殿。マスターの反応が

   面白いからといってからかうのも程々が

   よろしいかと?」

   「……興が削がれた。朝メシ食ったら

   とっとと練習するぞ」


   エンウィディアはポンドを睨んだあと、

   そのまま部屋から去っていった。


   「旦那様!! どこに居たんです!?

   部屋にもいないから探したんですよ!」

   「俺がどこに居ようが勝手だ」

   「旦那様!! ちょっとー!!」


   扉の向こうからアマポセドの声がし、

   2つの足音が遠ざかっていく。


   「大丈夫でしたか!? マス……

   これは!?」


   ポンドは郁人を振り返り、噛み跡に

   目を見開く。


   「どうされたのです?! かなり鋭利な

   噛み跡ですが!!」

   「エンウィディアに噛まれたんだ。

   そういえば、エンウィディアは

   サメみたいなギザ歯だったな」


   道理で血が出るわけだと郁人は頬をかく。


   「エンウィディア殿が?! なぜそのような

   経緯に?!」

   「俺にもさっぱりでさ……。いつの間にか

   腕枕されてて、抱き枕になってた。

   で、起きようとしたら噛まれた」

   「…………まずなぜ一緒に居られたの

   ですかな?」


   ポンドは額に手をあて、話を整理しながら

   問いかけた。


   「昨日、デルフィに電話ごしで子守唄を

   歌っていたらいきなりエンウィディアが 

   やって来たんだ」


   あのときは驚いたなとユーに言いながら

   続ける。


   「膝に頭をのせて寝る気満々だったし、

   歌えるようになったのもエンウィディアの

   おかげだから感謝の気持ちを込めて

   歌ってたんだけど、いつの間にか

   寝てたみたいで」

   「そして起きたら抱き枕状態で噛まれた

   という訳ですかな?」

   「うん。ユーが薬を塗ってくれたんだけど

   塗ったそばから噛まれちゃって……

   今思うと、俺骨ガムみたいだったな。

   もしくはビーフジャーキー?」


   俺を噛んでも美味しくないのにな

   と郁人は不思議そうだ。

   そんな郁人の両肩をポンドが掴む。


   「…………マスター、危機感を覚えましょう。

   でないと、とんでもない事態に陥る可能性が

   ございます」

   「とんでもない事態?」


   真剣な表情で告げられて、郁人はなぜと

   首を傾げる。

 

   「まず勝手に部屋に入られた挙げ句、

   一緒のベッドで寝られるのもどうかと」

   「? 篝も勝手に入ったり、いつの間にか

   布団にいたりしたけど?」


   日常茶飯事だったから違和感はないぞ

   と郁人は告げた。


   「………………」


   ポンドはその言葉に頭を抱えてうずくまる。


   「………これはヤバいですな。

   このままでは……」


   顔を青くしたあと、決心したのか

   立ち上がる。


   「マスター、朝食をご用意してますので

   先に召し上がっていてください。

   ユー殿、案内を頼みます。

   私はカガリ殿と話さなければなりません

   ので」

   「? うん、わかった。

   ちょ! ユー押さなくても行くから」


   ポンドの言葉にユーは頷くと、

   郁人の背中を押して部屋を出た。


   「………………」


   その姿を見送ったポンドはすぐに携帯を

   取り出して、篝にかける。


   《ポンドか。あいつに何かあったのか?》

   「貴方様のせいでマスターの危機感が0なの

   ですが!! どう責任をとるつもりです

   かな!!」


   ポンドは思いの丈をぶつまける。


   「まず、勝手に部屋に入るのはいただけ

   ませんな!! そしてベッドに忍び込む

   とは……!! カガリ殿のせいでマスターが

   違和感をもたなくなったのですが!!」

   《? 守るなら側に居たほうがいいだろ?

   あと、あいつの家は布団だ。ベッド

   じゃない》

   「そういう問題ではありません!!」


   ポンドの説教が篝に響いたかは…… 

   神のみぞ知る。




ここまで読んでいただき

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