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24話 出立前



ソータウン国境門前、

郁人とチイト、ジークスの3人は

出国手続きを済ませ、門が開くのを

待っていた。


ヴィーメランスはドラケネス王国へ行く

準備のため、3人より先に出ている。


「いちいち面倒なものだな」


チイトは腕を組ながら舌打ちをする。


「あいつがあの……!?」

「警報はあったけどマジだったのか?!」

「……カッコいい!!」

「お近づきになりたいけど……

近寄ったら斬られるわよね?」


“歩く災厄“を遠巻きに見る者や、

刃を思わせる、研ぎ澄まされた美しさに

うっとりした視線をぶつける者がおり、

様々な視線はチイトの苛立ちを

倍増させていた。


「俺達はギルドに入ってるから、

手の甲の証を見せたら終わりだし

楽なほうだぞ」


苛立ったチイトを視線から隠すように

観衆に背を向けながら郁人は説明した。


が、ふと疑問が浮かぶ。


「チイトはどうやって入ったんだ?」


ギルド未加入者は万能クリスタルくんに

手を当てた後、手荷物の確認をされ、

職員の質問に答えなければ

入国することは不可能である。


チイトは郁人と同じタイミングで

ギルドに加入しているため、

入国する際は未加入者がする

手続きをしなければいけないのだが、

職員の反応からみると、

手続きをしていないように思えた。


〔猫被りがちゃんと手続きをしたとは

考えにくいわね。

職員達、猫被りを見てかなり

驚いてたもの〕


ライコも気になるようで、疑わしそうだ。

2人の疑問にチイトが答える。


「どうやってって……

普通に飛び越えただけだよ?」

「飛び越えたって?」

「壁をひょーいって」


チイトは壁を指差し、その場で

軽く跳び跳ねる。


ソータウン周辺は魔物の出現エリアが

多く存在するため、他の国より

かなり高い壁に覆われた国である。


幾度か魔物が国に侵入しようと

襲いかかり牙を向けてきたが、

それに耐え、侵入を許さないできた

高くそびえ、ソータウンを護っている

壁だ。


しかし、チイトは軽く跳び越えたという。


「だってこの壁、ただ高いだけだもん。

上空から来る敵に対処してないし、

すごく無防備だったから飛び越えたんだ。

実践するから見ててね」


チイトは無邪気に笑いかけると、

少し後ろに下がり、壁に向かって

走り出した。

ぶつかる寸前で勢いよく大地を踏み締め


ーそして消えた。


「え!?消えた!!」

〔嘘っ?!どこに行ったの!?〕

「パパー!こっちこっち!!」


周囲を見渡し、チイトの姿を探すと、

上から声が聞こえた。


見上げれば遥か高い壁の上に

チイトはいた。

目を細めなければ見えないが、

無邪気に手を振っている。


「魔術で強化せず、自身の脚力だけで

あそこまで行くとは……」


ジークスは息を呑み、チイトの身体能力に

圧倒される。


郁人やライコは目で追えていなかったが、

ジークスには追えていたからわかる。


ー壁には触れず、たった1度の跳躍(ちょうやく)だけで

高くそびえる壁の上に立った事を。


ー息が上がってない事から

チイトが余裕で壁を軽く跳び越えたのは

真実だと。


「彼の実力は計り知れないな。

……俺も頑張らなくては」


ジークスは郁人をちらりと見て、

拳を握りしめた。


「?

どうかした?」


視線に気付いた郁人が近づく。

尋ねられたジークスは首を横に振る。


「なんでもない。

ただ……

もっと力をつけなければ守れない

と思っただけさ」


ジークスは郁人に手を伸ばす。

が、(さえぎ)られた。


「パパに触れるな」


いつの間にか戻ってきていた

チイトによって弾かれたのだ。


〔こいつ、いつの間に降りてきてたの?!〕


息を呑むライコや目を丸くするジークスをよそに、

チイトは2人の間に割り込み、ジークスを(にら)む。


「君は音もなく帰ってこれるのか」

「着地のことか?

あれくらいの高さの壁だ、音もなく

できるに決まっているだろう」


余裕だとチイトは告げた。


「それにしても……

この壁は本当に見た目だけだな。

だから侵入を許されるんだ」


チイトは息を吐きながら壁を見据える。


「できるのはチイトくらいだから。

この周辺に空を飛ぶ魔物は生息して

いないから魔物が入ることはないぞ」

「……入るのが俺や魔物だけとは

限らないけどね」

「それって……」

〔猫被り、どういう……〕

「イクトちゃん!」


2人がチイトの発言内容に言及(げんきゅう)

しようとしたが、聞き覚えのある

柔らかな声が響いた。


「母さん?!」


そこにはライラックがいた。

後ろにはフェランドラ、アマリリス、

ストロメリアもいる。


「お見送りに来たの。

みんな一緒にね」


ゆったりと優しい笑みを浮かべ、

駆け寄ると郁人を抱き締めた。


「気を付けてねイクトちゃん。

絶対に無理はしちゃダメよ」

「わかってるよ母さん」


郁人が頷いたのを確認すると、

優しく頭を撫でてから離れる。

そして、ジークスとチイトに頭を下げる。


「ジークスくんチイトくん、

イクトちゃんをお願いします。

勿論、2人も無理しちゃダメだからね」

「はい、わかっています」

「パパを守るのは当然だ」


ライラックの願いに、

ジークスは頷き、チイトは鼻で笑う。


「よっ!

カランや親父は仕事だからな、

2人の分まで見送りに来たぜ。

……って、お前ら随分軽装だな」


近づいたフェランドラが3人の

装備を見る。


郁人は手ぶらで、チイトもマントの

上からでもわかるが何も持っていない。

荷物所持はジークスだけだが、

背中の大剣と腰につけたポシェット

くらいだ。


「俺の(かばん)は迷宮で見つけた魔道具で、

空間魔術が施されている。

見た目のわりにはよく入るんだ」


問いにジークスがポシェットを

見ながら答えた。


〔流石、迷宮産だけあって優秀な性能ね。

調べたけど、かなり良い魔道具だわ〕

(迷宮産は優秀なものが多いのか?)

〔多いわよ。

迷宮産は迷宮に漂う魔力が偶然、

形となったものなの。

だから、魔力(イコール)性能な

魔道具になるのよ〕


ライコは分かりやすいように説明する。


〔迷宮の魔力は純度が良いから、

性能はそりゃ優秀よ。

どんな魔道具になるかはランダムで、

使える物もあれば、ヘンテコなのもあるわ〕

(そうなんだ)


説明に納得していると、フェランドラが

尋ねる。


「で、お前らはなんで持ってないんだ?」

「持つつもりだったんだけど……」

「パパに荷物を持たせるなんて

有り得ないからな。

俺の空間に入れた」


郁人は頬をかき、チイトは胸を張る。


「いや、荷物ぐらい持たせろよ。

旅はなにが起こるかわからねえんだ。

はぐれたりしたら終わりだろうが」


フェランドラが頭をかきながら、

鞄からあるものを取り出し2人に渡す。


「これは……?」

「ギルドに入った新人に渡してる

アイテム袋だ。

ジークスのよりは劣るが空間魔術が

施されている。

だから、これに荷物入れろ」

「ありがとうフェランドラ」

〔こういった袋は便利だものね。

初心者の冒険者には嬉しいアイテムだわ〕


郁人はフェランドラから受け取り、

感謝を告げた。


「なら、これにアイテム袋を入れるといい」


ジークスが突然話しかけ、あるものを渡す。


それは一見、太腿(ふともも)に巻くタイプの

ガンホルダーに見える。


「ガンホルダーに見えるがこれも

立派な鞄でな。

これなら両手が塞がることはなく、

物もすぐに取り出せるだろう。

俺からも装飾品を渡すと言ったが、

実用性もあるほうがいいと思い、

用意したんだ」


ジークスは微笑みながら話す。


「両足に巻くタイプだから、

片方は必需品入れ、もう片方は

冒険用と分けて使えたりもする。

君に受けとってほしい」

「気にしなくてよかったのに。

ありがとな、ジークス」


郁人は受け取り、両足に装備した。


〔似合ってるじゃない。

英雄候補センス良いわね〕


ライコが郁人の姿に太鼓判を押す。


「意外と軽いし、動きやすいな」


郁人は軽くジャンプしたりと動きやすいか

確認した後、チイトに尋ねた。


「ホルダーに入れるから荷物いいか?」


チイトは郁人をじっと見たあと呟く。


「……似合ってるけど、ジジイからのだし

ムカつく。

……よし、なら」


貰ったアイテム袋を片手に、

チイトはしゃがむとホルダーに手を伸ばす。


「うわっ?!」


すると、ホルダーとアイテム袋が光を放ち、

2つは混ざっていく。


「これも追加して、少しかけるか」


郁人が驚きで心臓が高鳴っている間に

自身も貰ったアイテム袋を手に取り、

光に放り込むと陣が浮かび上がる。


「よし、これでいいな」


チイトが手を放すと陣は消え、光は収まり

あるのはホルダーのみとなった。

出来映えに頷きながらチイトは

立ち上がる。


「……チイトなにしたの?」


突然の事に頭が追い付いつかない中、

何とか口を開いた。


「ジジイからのプレゼントに袋2つを

融合して、更に空間魔術をかけたんだ。

見た目の割にかなりの量が入るし、

重さも感じないようにしたから」


空間から郁人の荷物を取り出し

丁寧に入れていく。

まるで荷物がホルダーに吸い込まれて

いくようだ。


「すごいな。

本当に重さも感じない。

どれくらい入るんだ?」


試しにジャンプしてみても

重さはまるでない。

その事に郁人は目をぱちくりさせた。


「キマイラ1頭は余裕で入るよ」

「えげつないなこれ……

ありがとうチイト」


無邪気に説明しながら目を輝かせる

チイトの頭を撫でる。


〔錬成まですぐできるとか……

しかも入る量も有り得ないわよ?!

下手すれば国宝級の魔道具じゃない!!〕


ライコができた結果に悲鳴をあげる。


「イクトちゃんよかったわね」

「彼の行動に驚いていたら

心臓がもたないな」

「これ、盗まれたりしても

おかしくねえぞ」


ライラックは微笑み、ジークスは苦笑し

フェランドラは眉をひそめる。


「問題ない。

盗みを働こうとした輩の腕が

切り落とされるようにも施してある」

「物騒過ぎるからすぐ解除しような」

〔タイミング悪かったら目の前で

凄惨な現場を見ることになるわね〕


残酷な仕組みが施されている事実に

顔を青ざめながら解除を要求した。


「ちぇー……

わかったよ」


渋々といった様子で解除し始める

チイト。


「……様子をみてましたが、

体調面に問題はないようですね」


しばらく観察していた美女がこちらへ来る。


白桃色のセミロングから覗く

三つ編みで長髪だと分かる、

陶器のようになめらかな白い肌を持つ、

まるで人形のような美女。

“ストロメリア“が近づいてきた。


ストロメリアは淡々とした、

アナウンサーのような口調で話しかける。


「これを渡しておきます。

この中には常備薬や今まで

貴方が世話になった薬も入れています。

少しでもしんどさを覚えれば

使うように」

「ありがとうございます」


ストロメリアから救急箱を貰い、

ホルダーに入れる。


「帰ってきたら必ず診察に来なさい。

私も夫も、貴方が旅に出るのは

心配なのですから」

「はい。絶対に行きます」


郁人はストロメリアに頭を下げると

少し後ろにいるアマリリスに近づく。


濃紺に見える紫がかった髪に頬の傷、

(あご)髭に鋭い眼光と、ただ者ではない雰囲気を

(かも)し出した体格の良い、白衣を着た伊達男。

“アマリリス“は心配だと訴える目で

郁人に注意する。


「自己管理を(おこた)っちゃダメよ。

いっちゃんは自分を(ないがし)ろに

しがちなのだから。

しんどくなったらすぐに言うこと。

いいわね?」

「はい、先生」


アマリリスは注意をし、郁人は頷き答えた。


「あたしの息子に会うことがあったら

よろしくね。

あのうさ息子ったらどこにいるか

さっぱりなのよ」


あの子ったらと、頬に手を当て息を吐く。


「たしか、俺と同い年でしたっけ?」

「そうよ。

おばあちゃん譲りで、ウサミミの

生えた子なの。

あの子ったら手紙すらくれないのだから

元気なのか心配だわ」

「もし会ったら、連絡をとるか

会いに行くように伝えますね。

ところで……」


郁人は気になったことがあり、

それを尋ねる。


「先生……

なんで足下を氷で固めてるんです?」


アマリリスの足下は氷でがっちりと

地面に固定されているのだ。


真剣な面持ちでアマリリスは理由を語る。


「……ハンサムガイに押し掛けない為よ。

お見送りに来たのだから、

迷惑をかけない為にも

奥さんに動けないようにして

貰ったの」


もう1人、ハンサムガイがいたら

ヤバかったわ

とアマリリスは呟く。


「理由はわかりましたけど、

氷はやり過ぎでは……」



ー「お待たせしました父上」



郁人が全て言い切る前に門が開き、

聞き覚えのあるバリトンボイスが

聞こえた。




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