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232話 少年の正体




   「テメエはなにしてやがんだ?

   休憩だろうが楽譜に目を通せ。

   なにヘンテコなもんを見てやがる」


   アマポセドが語るエンウィディアの

   素晴らしさを聞いていたが、途中で

   額に青筋を走らせたエンウィディアが

   来て中断された。


   (一生続きそうだったから、正直助かった……)


   終わりが見えないトークに冷や汗を

   かいていた郁人は胸を撫で下ろす。


   「だって旦那様のことを全然わかって

   ないんですもん!! だからイクトちゃんに

   旦那様をわかってもらおうと思って!!」

   「テメエに俺の何がわかる? そもそも俺を

   知った気でいるのが不愉快だ」

   「イクトちゃんよりは知ってますー!!

   僕がポリシーを曲げてまで旦那様のことを

   知ってもらおうとした事を誉めてください

   よお! 僕はガチ同担拒否勢なんですよ!!

   そんな僕が教えようとしたんですよ!!」

   「テメエのポリシーなんざ知るか!

   土、いや海に還しとけ!」


   互いの主張を言い合う2人に止めようか

   悩む郁人。


   (あれ?)


   扉の隙間からクリュティが覗いていた。

   目が合うとこちらを手招きしてくる。

 

   郁人はこっそりクリュティのもとへと

   向かう。


   「どうかしたのか? リアーナさんは?」


   しゃがみこみ、クリュティに視線を

   合わせながら尋ねた。


   「ちょっとイクトさんにお話があったから。

   こっちに来て、こっちにお庭があるから。

   細かいとこは変わってなくてよかった」


   クリュティは郁人の腕を掴み、引っ張る。

   その足取りに迷いはなく、目的地へと進む。


   (………ここに詳しいのか?)


   案内が無ければいまだに迷う郁人に

   疑問が浮かぶ。


   そんな郁人をよそにクリュティは庭へと

   足取りを早める。


   「着いたよ! ここ、ここ! 座って!」


   クリュティは庭のベンチに座り、

   隣に座ってとペチペチ叩いた。


   「うん」


   郁人はそのまま隣に座る。


   「それで、話って?」

   「……その、首にかけてるものに

   ついてなんだけど」


   チラチラとヘッドホンを見ながら、

   何度も深呼吸をしてクリュティは尋ねる。


   「もっと見たいから……貸してください!

   お願いします!!」

   「? いいよ」


   郁人がヘッドホンを手渡すとクリュティは

   受けとり、じっと見つめる。


   「それヘッドホンっていうんだ。珍しい?」

   「うん。珍しいよ。でもね、僕が見てるのは

   それが理由じゃないよ」


   クリュティは頬をかきながら話す。


   「その……これから懐かしい気配が

   したから」

   「懐かしい?」


   意外な言葉に郁人はきょとんとした。

   クリュティは頬を赤らめ、話していく。


   「僕ね、なんでここに居たかとか、

   僕自身について覚えてないんだけど。

   その……懐かしい気配、あのこについては

   覚えてるんだ」


   クリュティはもじもじと恥ずかしそうに

   しながら語る。


   「あのこに会ったのはすごい前なんだけど

   鮮明に覚えてる。僕より細いし小さいし、

   力を入れたら軽く折れそうなほどとても弱い

   のにひと目見て、一生勝てないって思った

   んだ」


   あんな事を思ったのは初めてだった

   と目元を赤くする。


   「今まで会ったどのこよりもとっても

   キラキラしてて。ピンクの髪がフワッと

   してて、笑った顔は更にキラキラして、

   もう目が離せなくなって……。

   それで話しかけたくても、僕ってば乱暴者

   だったしあのこより大きかったから……」


   僕の評判も悪かったし……

   とクリュティは呟く。


   「それで怖がらせちゃうかと思って

   話しかけることすら出来なかった。

   でも、話してみたかったし、せめて

   友達になれたらいいなって思った」


   あのこを思い出すクリュティは

   とろけそうな笑みを浮かべている。


   「あのこに近づきたくてなにか出来ないか

   必死に考えて考えて、プレゼントを渡そう

   かとも思ったんだけど、僕は力が強い

   から……。触っただけで壊れちゃった」


   パキンってあっけなく壊れたよ

   とクリュティは寂しそうに呟く。


   「それで思ったんだ。このまま触れたら

   あのこも壊しちゃうんじゃないかって。

   手元にあったものみたいに破片に

   しちゃうんじゃないかって……。

   そう考えただけで息が止まりそうに

   なった。心がいたくていたくて……

   本当に怖かった」


   クリュティは顔を青ざめ、自分を

   抱きしめる。


   「だから、僕はあのこの為に出来ることを

   しようと思った。僕は乱暴者で力だけしか

   取り柄がなかったから、あのこに迷惑を

   かける、酷いことする奴らを倒せばいいって

   僕は思った。だから、僕はそんな奴らを

   倒して倒して倒して倒して倒して……

   でも、僕でも倒せない奴がいた」


   クリュティは拳を握りしめる。


   「負けて本当に悔しかった。

   あのこに酷いことするんじゃないかって

   あのこの笑顔が曇るんじゃないかって

   思うと嫌だった。本当に……嫌だった。

   あのこの記録だけは奪わせない。

   あのこへの想いだけは僕のものだから。

   だから、奪われる前に少しだけ力を

   切り離したんだ……」


   クリュティはヘッドホンを抱き締める。


   「この想いだけは……僕の大事な……

   大事な宝物だから」

   「クリュティくん……」

   「これ、見せてくれてありがとう」


   クリュティはヘッドホンを郁人に返す。

 

   「おかげで元気が出た。本当にありがとう」

   「…………クリュティくん」

   「なに?」

   「本当は覚えてるんじゃない?

   自分のことをさ」


   話を聞いていて、郁人は確信した。


   (あのこの事しか覚えてないって

   言ってたけど、そのときの自分に

   関してはっきり覚えてる感じが

   するんだよな)


   話している素振りからそのように

   感じたのだ。 


   (ヘッドホンから懐かしい気配がすると

   言っていたし、乱暴者で負けて力を

   奪われたとなると、心当たりがあるのは

   この海にいた"荒ぶる神"。

   エンウィディアに負けた、あの神だ)


   郁人がじっと見つめると、観念した

   クリュティはため息を吐く。


   〔………覚えてはいるよ〕

   「っ?!」

   

   頭の中に響く、目の前にいるクリュティの

   声に郁人は目を見開く。


   〔思考を読ませてもらった。

   今からはこうして回答しようか。

   あいつに気づかれたらマズイからさ。

   君も考えるだけでいいよ。話さなくていい〕  


   クリュティは口元に人差し指をあて、

   静かにと伝える。    


   〔そして、君の考えは当たっている。

   僕は以前、荒ぶる神と呼ばれたモノだ〕

   (生きていたんだな……!)

   〔なんとかね。神としての力とかが

   奪われただけだから。もう僕は神ではない。

   "神"だったもの。この世界では異物に

   近いかな?〕


   こうしてここに居るのは奇跡に近い

   とクリュティは告げる。


   (じゃあ、どうして覚えていないって

   ウソをついたんだ)

   〔あそこでは覚えてないって言った方が

   良かったんだ。じゃないと、僕はもうここに

   居ない気がしたから〕

   (居ないって……!?)

   〔多分、殺されてたんじゃないかな?

   あいつ、絶対に僕を恨んでるだろうし〕


   あははと笑うクリュティに郁人は

   言葉が出ない。


   (殺されてたってどういうことだ?!

   まず誰に殺されるんだ?! エンウィ

   ディア? もしくはアマポセドさん?

   だとしてもなんで……!?)


   頭をぐるぐる回転させる郁人に

   クリュティは告げる。

 

   「イクトさん、内緒にしてくれる?」

   「勿論! 内緒にする!」


   郁人は宣言し、堅く頷いた。


   「ありがとう! あの……また良かったら

   へっどほんを見てもいい?」

   「いいよ」

   「ありがとう! イクトさん!」


   クリュティは柔らかい笑顔をみせた。


   「あっ、お迎えが来たみたいだね」

   「迎え?」


   そこへ郁人を探しに来たフメンダコが

   泳いできた。


   「ありがとうね、イクトさん」

   「いいよ。またお話しよ」

   「うん! …………………………」


   じっと見つめてくるクリュティに

   郁人は尋ねる。


   「どうしたの?」

   「………イクトさん、そのくっつけてるの

   なに? 頭のなんだけど……」

   「くっつけてる?」

   「イクトさん、しゃがんで」


   不思議に思いながら郁人は言われた通りに

   しゃがんだ。


   「これだよ、これ。頭についてるの?

   いや、これは……」


   クリュティが郁人の頭に触れた瞬間


   ー ブツリ


   なにかが切れた音とともに郁人は

   意識を失った。




ここまで読んでいただき

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