230話 見てはいけないと両目を塞がれた
豪勢な料理が並ぶテーブルには
エンウィディアとアマポセド以外に
郁人、ポンド、ユー用の食器が用意
されていたが、さらに2つ増えていた。
「ごめんね~この子落ちてたからさあ。
しかも、神殿の近くだったから
キラキラくんの知り合いかと思ってえ」
カルパッチョを豪快に頬張るリアーナ。
「ねえねえ! このお魚さんなあに?
どうやって食べるの?」
横には透き通った銀髪に深い蒼の瞳を
キラキラさせた6歳くらいの少年が
座っていた。
「これはね~メガロドスらしいよお。
で、これはこうやって食うんだよお。
できる~?」
リアーナは楽しげに笑いながら手慣れた
様子で手本を見せる。
「わかった。教えてくれてありがとう!」
手本を見ながら少年は真似して頬張る。
「すごーい!! 美味しいー!!」
「……………ねえ、旦那様にイクトちゃん。
あれなに?」
アマポセドがイラつきを一切隠さずに
尋ねた。
エンウィディアはどうでもいいと
吐き捨てる。
「知らん。誰だあのチビ」
「リアーナさんが外に落ちてたって
連れてきたみたいですよ」
「それにしても、落ちていたとは……
迷子でしょうか?」
郁人が代わりに説明し、ポンドは
顎に手をやる。
「この神殿には許可が無いと入れませーん。
神殿の周囲もそうでーす」
知らない奴が入るなんてありえませーん
とアマポセドは断言する。
「……だとするとまさかあいつか?
生きてたの? たしかに、生きてる可能性は
あったけどさあ、マジ最悪だあ……。
顔も見たく無かったのにさあ」
なにかをぶつぶつ小声で呟き、目を細めた
アマポセドは少年に近づき、頭を掴む。
「………お前、名前は?」
「ほえ?」
「名前だよ。な・ま・え!」
「名前? 俺の名前は………なんだろ?」
「あれ? わかんない?」
頭をひねる少年に目を見開くリアーナ。
「名前……俺の……名前は……」
少年はしばらくうなっていたが、
あっ!と声をあげる。
「えっとね……俺の名前は………
多分、クリュティ!」
これが俺の名前! と笑う少年クリュティに
アマポセドは笑う。
「そっかークリュティくんかあ~。
なら、とっととおうちに帰ろうねえ~!」
「ちょっ?! ストップ!!」
「なにしてんのお?!」
アマポセドはなんとクリュティの頭を
掴んで投げ捨てる体制に入った。
郁人とポンドが立ち上がる前にリアーナが
クリュティをアマポセドから助ける。
「こんな稚魚を投げ捨てようと
するなんてさあ、ヒドくない?
どういうつもり?まじでなにしてんのお?」
「なにって不審者をこのまま居させる訳
にはいかないでしょ?
だから放り投げようとしてんの」
「稚魚相手になにムキになってんの?
お前?」
眉間に皺を寄せたリアーナがクリュティを
アマポセドから守るように抱きしめる。
「この稚魚ちゃんは俺がしばらくは
面倒みるから。ここにずっと居させる訳
ねえじゃん。こんな敵意むき出しにする
奴が居る場所に。食ったら帰るから。
だから、安心してね。
お・こ・ちゃ・ま・ちゃん」
「あんたに言われたくないんだがなあ?
癇癪お・ひ・め・さ・ま?」
「アァ??」
一触即発な雰囲気が部屋に漂う。
「御2人共、食事の場で喧嘩沙汰は
よろしくないと思いますな」
「神殿に不審者連れてきたこっちが
悪いと僕は思いまーす」
「ガキ相手にムキになるお子ちゃま野郎の
ほうが悪いでーす」
ポンドに注意されても2人は火花を
散らしながら、にらみ合う。
「あの……その……ケンカは……」
自身を挟んで頭上で火花を散らす2人に
クリュティは泣きそうだ。
「2人とも落ち着いて……聞こえてないな」
「どうしましょうか?」
「はあ……」
郁人が声をかけても、2人には聞こえて
おらずポンドと悩んでいると、眉間の
皺を増やしたエンウィディアはネックレスに
ついたとても小さな竪琴に手を掛ける。
「不思議ですな!」
「知ってるとはいえ、目にしてみると
やっぱり驚くなあ」
すると、竪琴は標準サイズとなったのだ。
ポンドは目を見開き、郁人は口をぽかんと
開けた。
〜♪
エンウィディアの指が琴線をなぞる。
悲しげながらも胸を打つ音色が響き渡り、
音に耳が、心が、全てが奪われる。
その場にいる全員が音色を聞こうと
全神経をかけて集中し、音色が響くごとに
心が洗われていく。
(………本当にきれいな音色だ)
郁人は耳に焼き付けようと聞くことに
集中する。
(あれ……このメロディ……?)
聞いていて、郁人は気付く。
(あのときの楽譜のメロディだ……!)
悲しくも心惹かれてしまうあのメロディ。
郁人が明るいメロディに変えてしまった
あの楽譜のものだ。
(成る程な。楽譜を見ただけでもすごいと
思ったけど、聞くと更にわかるな……)
郁人は曲の素晴らしさに息を呑む。
しばらくして、場が静まった頃合いで
エンウィディアは演奏をやめる。
「ったく、手間かけさせんじゃねーよ。
とっとと食うぞ」
聞き惚れている者達をよそに平然と
エンウィディアは食べ出した。
「本当にすごかった!」
「1度聞いてはおりましたが……
本当にすごいですな! エンウィディア殿の
演奏は……!!」
郁人とポンドはすごいと拍手する。
ユーも小さな手でぱちぱち拍手している。
「いやあ~間近で聞くのと観客席で
聞くのとはやっぱ違うね~」
「おにいちゃんの音楽すごいねえ!
音がキラキラしてる!!」
リアーナとクリュティは目をキラキラと
輝かせエンウィディアを見ている。
エンウィディアの演奏に聞き惚れ、
皆が絶賛しているが、1部は違う。
「あぁ……!! 旦那様の……生演奏……
ひさびさ……本当にしゅごい……!!」
色がつくなら桃色だろう、吐息を
こぼしながら、波打ち際に打ち上げられた
魚のようにビクビクと震える体を
両腕で抱きしめ、恍惚とした表情の
アマポセドが床に倒れていた。
そんな異様な光景に郁人は尋ねる。
「アマポセドさんどうしたんだ?
様子が変だけど……」
「しっ! マスター見てはいけません!」
「でも……」
「マスターはユー殿を見てください!
今はユー殿だけを見ましょう!
ほら、ユー殿がかわいいポーズを決めて
ますよ! これはしっかりと見なければ!」
ユーがポンドの肩の上でキュルンと
可愛いポーズをとっている。
ポーズをとったあと、ユーは背中から
ボールを取り出すとそのボールに乗り
器用に立ってみせた。
「マスター、シャッターチャンスですよ!
ユー殿が私の肩の上で器用にボールに
乗ってますので! なんと! ジャグリング
もはじめました! これは本当にスゴイです
な! 私もきちんと見たいぐらいです!」
「本当にたまらないよおっっ!!」
「なあ……本当に……」
「マスター!! 見ても聞いてもいけま
せん!! 私がチイト殿達に怒られます
ので! 特にチイト殿にキュッと絞めら
れます!」
郁人はポンドに耳を塞がれた。
追加でポンドはアマポセドを見ないように
郁人の両頬を包んでユーだけを見るように
固定する。
「うわあ……相変わらずだねえ、あの人。
キラキラくんの演奏ってこんな効果も
あんの?」
「ある訳ねえだろ。こいつがただ
キメえだけだ」
クリュティが見ないように両目を手で
覆いながらリアーナはエンウィディアに
尋ねた。
エンウィディアはすぐに否定し、触れるのも
嫌なのかアマポセドを放置した。
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