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229話 蹴り開けられた瞬間、彼は不機嫌さが一気に増した




   ポンドを見送った郁人は現在、

   エンウィディアに俵担ぎされて

   廊下を進んでいる。


   「どこに行くんだ?」

   「メシを食う部屋だ。あいつが食うなら

   きちんとした場所でといつもうるせえ

   からな」


   エンウィディアは郁人の疑問に答えるが

   足を止めることはない。


   「そうなんだ。

   で、なんで俺は担がれているんだ?」

   「テメエがちんたら歩くからだ。

   担がれたくなかったら足を伸ばせ。

   遅えんだよ、テメェは」

   「たしかにエンウィディアに比べたら

   足短いけどさ! 普通だからな! 俺!」

   「ピーピーわめくな。

   声だすなら歌のときにしろ」


   エンウィディアは片手で自身の耳を塞ぎ、

   眉間のシワを深める。


   「………エンウィディアはどうして

   そんなに俺の歌にこだわるんだ?」


   郁人は聞きたかった。

   どうして自身の歌にこだわるのかを。


   (ただ単に歌を聞きたいなら、俺以外、

   ポンドやリアーナさん、アマポセドさんにも

   教えたりするはず……)


   特に、ポンドなんて良い声してるから

   歌声を聞きたくなると思うし……

   と郁人は考える。


   (けど、エンウィディアは俺の歌に

   こだわっている。それに、俺がエンウィディ

   ア達を描いていたときにはもう音楽に触れ

   ていなかったからな。いつ聞いたのかも

   気になる……)


   疑問をぶつけられたエンウィディアは

   片眉をあげたあと、口を開く。


   「…………たんに俺が聞きたいだけだ。

   テメエはただ歌えば良い。あのときみてえ

   にな」

   「あのとき……?」


   キョトンとしていると前からドドドドと

   駆けつける音が聞こえる。


   「旦那様ああああああああああ!!!!!」


   アマポセドだ。

   慌てた様子でエンウィディアのもとへ

   やってきたのだ。その表情は思い詰めており

   信じられないと顔に書いてある。


   「どうしたんですか?」

   「なんだ騒がしい。静かに来れねえのか」


   アマポセドの様子にきょとんとする郁人。

   エンウィディアは舌打ちする。

   そんなエンウィディアに臆することなく

   アマポセドは尋ねる。


   「旦那様!! イクトちゃんが歌わなかった

   らもう歌わないってマジ?!

   演奏もやんないの?! あんなに素晴らしい

   音楽をもう聞けないの?!」

   「やらん。こいつが歌わねえ限りな」

   「嘘でしょ?! 旦那様は自分がどう呼ばれ

   ているか知ってるよね?! プリグムジカの

   国宝! この世に降り立った楽神ですよ!

   旦那様が演奏しなくなったら

   どれだけの人が絶望するとお思いなん

   です?!」

   「呼び名なんぞどうでもいい。

   雑魚が絶望しようが知ったことじゃねえ」


   顔を青ざめるアマポセドの言葉に

   どうでもいいと吐き捨てるエンウィディア。


   「マジで?! 冗談だと言ってよ!?

   ……いや、旦那様は性格的に嘘も冗談も

   言わねーもんな」


   アマポセドはショックでしゃがみこむと、

   髪をくしゃりとさせる。


   「……………………マジかよ。

   僕、旦那様の音楽が大好きなのに。

   あんなに素晴らしいものがもう聞けなくなる

   なんて……」


   しばし落ち込み、考え込んだあと

   アマポセドは勢いよく立ち上がる。


   「……そうだ!! 旦那様!!

   僕にも教えてくださいよ!! 歌!!」

   「は?」


   唐突なお願いにエンウィディアは

   片眉をあげる。


   「旦那様はイクトちゃんに歌って

   もらいたいんでしょ? あのときみたいに!

   でも、今のままじゃ楽しくないんじゃない?

   1人でずっと歌わされてるだけなんだし。

   なら、僕も一緒に歌えば楽しくて、

   嫌なことも忘れるっしょ!」


   ね! ね! とアマポセドは郁人に迫る。


   「イクトちゃんだって1人でやるより

   良いでしょ?」

   「……そうですね」


   頷いて! お願い! と目で訴えかけられ、

   郁人は頷く。


   「ほら! 旦那様!! いいでしょ!!

   良いって言わない限りずっと旦那様に

   へばりつきますから!!

   べったりぐっちょりねっちょりと!!」


   腕を広げ、怪しげな手の動きをさせながら

   エンウィディアににじり寄る。


   「…………………」


   そんなアマポセドに心底嫌そうな顔をした

   エンウィディアは鋭い舌打ちをしたあと、

   口を開く。


   「……いいだろう。

   ただし、やるからには手は抜かねえぞ」

   「よっしゃあ!!」


   ガッツポーズを決めたアマポセドは   

   ヘラっと笑う。


   「こうなったら超特急で作って歌の練習だ!

   待っててねー!!!」


   イエーイ!とはしゃぎながら、

   嵐のようにアマポセドは戻っていった。


   「……ごめんな。エンウィディア。

   1人が良かったか? 俺が頷いちゃった

   から……」

   「どうでもいい。テメエは歌のことだけ

   考えてろ」 

   「おわっ?!」


   エンウィディアは目的の部屋に着いたのか

   扉を蹴り開けると、郁人を床に落とした。


   「ありがとう、ユー」


   落とされた郁人はユーが大きくなって

   クッションとなったので傷1つない。

   郁人は降りると、ユーを抱っこして

   頭を撫でた。


   そんなユーは郁人を丁寧に扱えと

   エンウィディアを睨むが、暖簾(のれん)に腕押し。

   手応えはない。


   エンウィディアはドカッと椅子に座り、

   郁人をチラリと見ると隣の椅子を指差す。


   (……座れってことかな?)


   郁人はユーを抱っこしながら近付き、

   おそるおそる隣の椅子に座る。


   (ここがダイニングか……。

   とても広いな。まるでお城の1室みたいだ。

   ドラケネスでリナリアさん達と食べたときを

   思い出すなあ)


   郁人はキョロキョロと部屋を見渡す。


   「うわっ?!」


   すると突然、エンウィディアによって

   頭をガシリと片手で掴まれた。


   「え? なに?」

   「…………………………」


   混乱する郁人の頭を掴んだまま、

   エンウィディアは微動だにしない。


   (どうかしたのか……?

   キョロキョロ見てたのが嫌だったのか?

   それとも、頭を掴みたかっただけ?

   このまま沈黙もな……あっ!)


   居心地が……と考えていると

   郁人は思い出した。


   「エンウィディア」

   「なんだ?」

   「神殿の中を歩けるようにしてくれて

   ありがとう。リアーナから聞いたんだ。

   気を遣ってくれてありがとう」


   リアーナから聞いていたので、

   郁人は感謝を伝えた。


   「俺泳げないから本当に助かった。

   溺れなくてすんだから、本当にありがとう」

   「………」

   「俺、教えてもらえるまで気を遣って

   くれてたのに全然気付かなかった。

   だからさ、ここの事とかエンウィディアの

   事をもっと教えてほしい」


   郁人はエンウィディアの瞳をまっすぐ見る。


   「ここにいつから居たとかさ。

   いろいろ聞きたいんだ。いいかな?

   ………………ダメ……か?」


   不安になりながらも郁人は尋ねた。


   (エンウィディアがここでどうしてたとか

   全然知らないからな。さっき、エンウィディ

   アが国宝とか楽神と呼ばれていたこともだ。

   俺に気遣ってくれてたのだって、言われて

   初めて気付いたし)


   海中神殿でなんで歩けるのかすら疑問に

   思わなかったからなと郁人は思い出す。


   (エンウィディアは設定とは違う感じに

   なっているけど、俺が創り上げた、

   俺のキャラに変わりはない。

   だから、もっと知りたい)


   そうすれば、エンウィディアのことや

   歌へのこだわるのかもわかるだろうと

   郁人は考えたのだ。


   「………………………………………ハア」

   「エンウィディア?」


   長いため息を吐いたエンウィディアは

   頭から手を離し、頬に手を伸ばした。



   「ねえ~外にこんなん落ちてたんだけど

   さあ~」



   届く寸前、リアーナの声とともに

   扉が蹴り開けられた。




ここまで読んでいただき

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