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228話 その神父はヘラっと笑った




   神殿の中庭で、郁人達はコーヒーを

   いただいている。


   「えっと………どういう状況?」

   「私にもさっぱりですな……」


   ポカンとする2人の視線の先には……


   「旦那様!! なんで来客、しかも大事な人

   が来ることを僕に教えてくれなかったん

   です?! ひどい、ひどすぎる……!!」


   白と黒のツートンカラーの髪が特徴的な

   オレンジの丸いサングラスをかけた

   胡散臭い雰囲気を漂わせる神父が

   ひどいひどいと涙ぐみながら眉間に

   シワを寄せるエンウィディアにコーヒーを

   入れていた。


   ーーーーーーーー

   

   『旦那様あああああああああああ!!!!』


   エンウィディアとリアーナが火花を

   散らしていたとき、映画の1シーンさながら

   顔の前に両腕をクロスさせた神父が

   窓ガラスをぶち破って入ってきたのだ。


   『酷いじゃないですかあ!!

   大事な人と2人きりになりたいからって

   この僕を引き剥がそうとするなんて!!』

   『テメェは遠くに行ってたはずだ。

   どうし……あぁ、このじゃじゃ馬が

   連絡したんだったな』

   『はーい、俺っちの仕業でーす』 


   窓ガラスを割ってきた神父は涙目で

   抗議し、エンウィディアはリアーナを

   睨みつけ、リアーナは舌を出して煽る。


   『マスター、ご無事ですかな?』

   『うん、大丈夫。ありがとう』

    

   飛んできた窓ガラスの破片から郁人を

   守っていたポンドは目をぱちくりさせる。


   『ところで……どちら様でしょうか?』

   『エンウィディアの知り合い?』   


   誰だろうとぽかんと口を開ける郁人。

   視線に気付いた神父は目をやる。


   『はじめまして! 遠路はるばる神殿に

   来られたお客様方!

   荒々しい登場してしまいすいません!

   窓を壊しても海水は入ってこないんで

   ご安心を!』


   神父は綺麗な一礼をし、ヘラリと笑う。


   『今からお茶の用意をしますんで!

   お客様をもてなすのが遅れた名誉挽回

   させてね!

   あっ! ちなみにコーヒーはお好き?

   苦手なら紅茶も用意できますんで!』


   そう伝えると神父は郁人とポンドの

   腕をとり、庭に連れ出した。


   ーーーーーーーー


   (神父さんに連れ出されたけど

   エンウィディアとどういう関係なんだ?)   


   連れ出された郁人達は神父が用意した

   コーヒーをいただきながらエンウィディア

   と神父のやり取りを見る。  


   「おい。コーヒーにテメエの涙が

   入りかけてんぞ」

   「これは僕の悲しみです。入ったら

   そのまま飲んでください」

   「誰が飲むか!!」


   気色悪いと吐き捨てるエンウィディアに

   神父はますます涙ぐむ。


   「あの神父さんは?」

   「窓ガラス割っての登場に驚いたの

   ですが……」

   「あの人はアマポセド。ここの神父さーん」


   首を傾げる郁人にリアーナが答えてくれた。


   「神父っつうより、執事のほうが

   近いかもね~。あいつが掃除に洗濯

   とかの家事や、キラキラくんのリサイタル

   交渉を受け持ったりしてるからさ~」


   コーヒーを一気に飲み、クッキーを

   頬張ったリアーナは立ち上がる。


   「じゃ、俺っちは帰るわ。

   追加分はまた持ってくるからさあ。

   ばいばーい」


   リアーナはヒラヒラと手を振りながら

   去っていった。


   「……追加分ってなんです?

   あの子、家具職人なんで家具なのは

   たしかですけど」

   「テメエが知る必要はない」

   「またそんな事言って!!

   配置するの僕なんですよ!!」

   「もうやった」

   「どうせ適当に置いただけでしょ!

   インテリアの配置とか考えずにぽんぽん

   置くんだから! 旦那様は!!」


   報連相は大事! と神父は訴える。


   「あっ! 自己紹介遅れてごめんね!

   僕はアマポセド。堅苦しいのは嫌だから

   気軽にポセちゃんとでも呼んでくれたら

   いいよ?

   ……あ~うん、待って、思ったより

   似合わないから、やっぱなしで!」


   ヘラっと笑いながら手をひらひら振った。


   「俺は郁人です。この子はユーと言います。

   よろしくお願いします、ポセちゃん」

   「私はポンドと言います。

   よろしくお願いいたします、ポセちゃん」

   「無しって言ったじゃん、僕!

   2人意外とノリ良いのね?!

   てかっ、あんたが噂のイクトちゃん?!

   リアーナ嬢が教えてくれた自覚なしの

   あのイクトちゃん!!」


   目をカッと見開き、アマポセドは郁人を

   指差す。まるで見定めるようにジロジロと

   見たあと、アマポセドは口を開く。


   「いやあ~、話は旦那様からいろいろと

   聞いてたけどさあ……。

   てっきり僕はおんな……いってえ!!」


   アマポセドが言おうとした瞬間、

   エンウィディアが思い切りアマポセドの

   爪先を踏んだのだ。


   「何すんですか旦那様!!」

   「テメェはとっとと帰れ」

   「僕の居場所はここですー!

   旦那様の隣ですぅー!!」


   踏まれた足をさすりながら、

   片足立ちで抗議する。


   「旦那様、本当に酷いですよ!!

   旦那様の大切な人を招くなら

   前もって準備したっていうのに!!

   飾り付けして、横断幕に大歓迎!!

   とか書いて風船飛ばしたり……!!

   この神殿、温かみがないから花とか

   ずらーっと飾ったりしてさ!

   しかもしかも、僕の心を卑下にして

   神殿から遠ざけようとしちゃって!!」


   ハンカチで涙を拭いながら話す。


   「音楽以外関心0の氷点下な旦那様から

   “テメエの作ったメシを食いたい“とか

   言われたらそりゃ頑張っちゃうでしょ!!

   材料からこだわりまくろうと狩りに

   出ちゃうでしょ!!

   僕を遠ざけるのが本当の狙いのくせに!!」


   のせられちゃった僕の馬鹿馬鹿!!

   と床に崩れる。


   「頑張って狩ってきた僕が馬鹿みたい

   じゃん!!

   僕の気持ちを(もてあそ)んで……! この僕誑し……!!」

   「クソうぜえ」

   「なんて氷点下な視線……!!

   まるで深海の暗さと冷たさを思わせる!

   でも僕、負けない……!!

   これを見せて変えてみせるから……!!」


   涙を乱暴に拭いながら、手をかざす。

   すると、その手に付けられたブレスレットが

   光ると空間が歪んだ。


   「これが僕の旦那様への真心を形に

   したものですっ……!!」

   「でかっ!?」

   「これは……もしやメガロドスでは?!

   会ったら最期と謂われる!」


   空間から見えるそれはとても巨大な、

   大きな生き物だった。

   クジラのように見えるが、特徴から

   サメだとわかる。

   生きていた頃に会えば、死を覚悟した

   だろう。


   「そう!! これはメガロドス!!

   よく知ってるな、ポンドちゃん」


   正解! とヘラっと笑うと、

   エンウィディアを見る。


   「この魔物は“メガロドス“!!

   体長27mの超大型! 長年泳いできた体は

   引き締まっていて、食べ応えは抜群!!

   噛めば噛むほど味わいが良くなる!!

   最初は白身のあっさりした淡白さを味わえ、

   次に脂の乗った赤身へと変わる!!

   まさに1匹ですべての魚を味わえる

   究極の魚!! 僕は旦那様の為に!!

   超超頑張って獲ってきました!!」

   「………すごい美味しそう」


   話を聞いただけで郁人はヨダレが

   出そうになる。

   ユーはもうヨダレを垂らしていた。


   「マスターは食に関心が強いですからな。

   私も味は気になりますが」

   「駄目だよ。旦那様のものなんだから」


   食べたそうな気配にアマポセドは

   ピシャリと断る。


   「俺は食に興味ねえ。

   それに俺の気を引くポイントが

   どこにある?」


   関心を示さないエンウィディアに

   アマポセドは人差し指を振る。


   「ちっちっちっ、旦那様が食に

   興味ないのは承知してます。

   ここからが旦那様向け!!

   メガロドスの肉を食えば喉の乾燥を防げ

   喉の天敵である風邪予防にもなります!

   そしてなんとこのメガロドスは弦楽器、

   管楽器などの全ての楽器を作れる材料に

   なるんですよ!!」

   「………ほう」


   片眉をあげ、エンウィディアが反応する。


   「しかも、脂は楽器を磨くのに使えて、

   骨はあのパイプオルガンをパワーアップ

   できるものになりまあす!

   すごいでしょお!!」

   「………………食うからとっととよこせ。

   あと、喉にも良いならこいつにも

   食わせろ」

   「ちぇー。了解いたしましたよ、旦那様」


   アマポセドは唇を尖らせたあと、

   (うやうや)しく礼すると、ポンドの腕を掴む。


   「解体すんの手早く済ませたいから

   こいつ借りるわ。その剣でスパパっと

   やっちゃってくんない?」

   「魚の魔物を斬ると剣が錆びるので

   抵抗が……」

   「ちゃんとタオルも用意するから」

   「連れてこられた時も思いましたが

   本当に力強いですな!?」


   ポンドはそのまま引きずられていった。


   「えっと……気をつけてね?」


   郁人はその姿を見送ることしか

   出来なかった。


   ーーーーーーーー


   「いやあ~メガロドス獲ったはいいが

   消費に時間かかっちまうだろうし、

   食い手は多いほうがいいかね」

   「たしかに、とても大きいですからな」

 

   僕は旦那様だけに食べてほしかったけど

   と呟きながらアマポセドは進み、

   ポンドもその後ろに続く。


   <僕はあんたのご主人の食い物に神気

   混ぜる気ねーから。

   できるだけ2人になるのも阻止してあげる>

   「!?」


   突然頭に流れ込んだ言葉にポンドは

   目を見開く。


   <これから食い物は僕が管理しますんで。

   そこら辺は安心しな。

   ま、あのフメンダコ達も勝手にやってる

   からそれは止められねーけど>


   驚くポンドをよそに、アマポセドは続ける。


   「ま、これからも引き続き頑張れば」


   振り返り、アマポセドはヘラっと笑った。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーー


ライコは恵みと平和神について

さらに調べる。


「恵みと平和の神は、プリグムジカにて

信仰され、誕生した海の神である。

とても大きな白いクジラの姿をし、

クラーケンや凶暴な魔物が迫ると

国を背中に乗せて安全な場所に避難したり

していた。

え……? 背中に乗せるてっなに?」


どんな状態?

とライコは首を傾げる。


「えっと、他には……

人の姿になれるが滅多にならなかった。

性別がないと言われており、

音楽をとても好いていた。

じゃあ、マリンリーガルズが音楽を

好きなのはこの神の影響かしら?」


資料を漁りながら、ライコは呟く。


「ますますあの派遣された神がなぜ

恵みと平和の神を倒したのか気になるわね。

前の担当が指示したのかしら?

でも、平和と恵みの神が世界に悪影響を

及ぼすようなことはしなそうなのに……」


なぜなのかしら? とライコは首を傾げた。


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