227話 窓ガラスが割れる音が響いた
リアーナはあっ!と声をあげたあと、
キョロキョロと見渡し、納得する。
「君がここにいるってコトは……
なるほど。道理であいつがいない訳だあ~。
普段なら呼ばなくてもやって来るしい。
よっぽどキラキラくんは君を独占したかった
んだねえ〜」
あいつに連絡しとこ、とリアーナは
尻ポケットから携帯を取り出し、
メッセージを打つ。
「あいつ?」
〔誰のことかしらね?〕
疑問符を浮かべる郁人をよそに、
リアーナはポンドに話しかける。
「そこのイケメンも苦労してるでしょ~。
あのキラキラくんはひねくれくんだから」
「素直ではないのはたしかですな」
あははと笑いながらポンドは頬をかく。
「フワフワくんもキラキラくんみたいな
厄介なのに愛されちゃってね~」
口を片手で隠しながらかわいそお
と郁人を見た。
「愛されてるって……俺?」
自身を指差して郁人は首を傾げてしまう。
「うわぁ……気付いてないの?
ますます連絡しとかねーと。
いや、もうしてたわ」
携帯をまた出そうとしたリアーナはやめる。
「まあ、キラキラくんも分かりにくい
からねえ。仕方ないけどさあ〜……
まあ、蹴られてむしゃくしゃしてるし、
話しちゃお~っと」
悪巧みをした子供のようにニヤリと笑うと、
リアーナは口を開く。
「キラキラくんってばさ、前に
君の悪口言った連中を全員キュッと
絞めちゃってんの。
もういっそ死んだほうがマシって思える
くらいにさあ」
あれはすごかったよ~とリアーナは笑う。
「俺っちてば、たまたまその場に
いたけどマジですごかったよお。
だって、マジでキレてたもん。
“貴方様が心惹かれる方は、
貴方様が思う程の価値があるのか?“
って、嘲られてもう大激怒」
キレた瞬間、空気が一気に冷たく
変わったもん、と思い出したのか
リアーナは寒くて両腕をさする。
「“それは俺が決めることでテメエらが
決めることじゃねえ“って言いながら
そいつらを蹴りあげて、骨がグシャグシャに
なるまで踏みにじってさあ。
まさに地獄絵図って言葉がピッタリ!」
「エンウィディアがそんな……!?」
聞いた郁人は顔を青ざめる。
「あいつが止めに入るまでもう酷かったよ。
目も当てられないってこの事を言うんだな
あって理解したね。しかもさあ、より苦し
める為にわざと死なないように調整してた
しさあ」
見ててゾッとしたもんとリアーナは
ニヤニヤし、ライコは太鼓判をおす。
〔……調べたけど本当だったわ。
あの俺様人魚、本当にグシャグシャに
したのね。メパーン達がマナティを連れ
てきて治療したから死んではないけど
精神は……みたいな状態らしいわ〕
ライコの言葉に郁人は声をうわずらせる。
「………エンウィディアが、本当に?」
「そうだよお。あいつ君の前では
態度に出してないだけえ~」
態度に出せば1番楽なのにねえ
と、再び口を開く。
「しかも、君が来る前に君専用の部屋を
用意して、俺っちに君のための家具とか
作るように依頼したりさあ……。
極めつけはコレかな?」
リアーナは自身の足を指差す。
ポンドは首を傾げながら尋ねる。
「足がどうかしたのですかな?」
「あのね〜プリグムジカは観光業も
盛んだから人魚とか泳げる種族以外は
歩けるように工夫してるけどさあ。
ここは神殿だよお。海中神殿!
観光客とかが来る街とかじゃないん
だからさあ。中に入ったとしても
歩くんじゃなくて泳ぐに決まってん
じゃん」
キラキラくんは水中でも歩いて移動
してるけど、とリアーナは告げる。
「それを人魚じゃない君が過ごしやすい
ように、中を歩けるように神殿内を
君のために設定し直したみたい。
俺っち来たときびっくりしたもん。
だって、普段はヒレで泳いでいけるのに
入った瞬間、強制で2足歩行にされたん
だからあ」
フワフワくんってば愛されてんね~
と笑った。
「………あいつがそこまで」
郁人をエンウィディアの行動に
ただただ驚く。
そんな郁人にリアーナは手を合わせて
お願いする。
「だから、キラキラくんの事を嫌わないで
あげて。万が一、嫌ったりでもしたらこの
国マジで終わるもん。終〜了〜。
サンゴが拗ねてお母様は過労でパタンって
倒れちゃう」
「…………嫌わないよ。
だって、エンウィディアは俺の家族だから」
スパルタが理由で嫌ったりはしないから
と郁人は告げた。
「俺が嫌われてる訳じゃないのは
わかったから安心したかな」
「……あの態度では嫌われていると
思われてもおかしくはないでしょうな」
郁人の言葉にポンドは頬をかく。
「キラキラくんってば、どんだけ
ひねくれちゃってんだか」
リアーナはありえねえと息を吐く。
そんなリアーナにポンドは尋ねる。
「ところで、お母様が過労で倒れる
とおっしゃっておりましたが。
なぜなのですかな?」
「あれ? 言ってなかったけ?」
キョトンとしたリアーナだが、
咳払いをして紹介する。
「俺っちのお母様はマリンリーガルズ。
つまりこの国の"女王様"。俺っちはその娘
の1人だよ。で、君の持ってる鱗。その鱗
を渡したマリンリーガルズの妹でーす」
「………えぇー?!?!」
「姫様なのですかな?!」
イエーイとピースするリアーナに
郁人とポンドは驚きの声をあげた。
〔嘘っ! 彼女、姫様だったの!?
だから俺様人魚はオヒメサマって
言ってたのね! てか、夜の国のマリン
リーガルズも王族ってこと?!〕
ライコも気付いてなかったようで、
同じく驚きの声をあげた。
「そこまで驚く~?
あれあれ、君は気付いてたんだねえ」
リアーナはユーを見てあははと笑う。
ユーはリアーナの耳を指差した。
「成る程。これで気付いたんだ。
君ってばかしこいねえ~。
かしこい君にはキャンディあげちゃおう」
「耳がどうかしたのか?」
不思議そうな郁人にリアーナは
ユーにキャンディをあげながら説明する。
「俺っち、いやマリンリーガルズはさ、
人型になると耳に紋様があんの。
見える? 赤いやつ?」
「あっ、本当だ」
「まるで彫られたようですな」
耳を見せてもらうと、鱗と波模様が
彫られている。
「これ、自然だから。地だから。
これがあると王族のしょーちょーなの。
君ってばすごいねー。
知ってるのはごくわずかだと
思ってたけど、どうやって知ったの?」
「それは俺にもわからないかな」
「ユー殿も不思議な方ですからな」
リアーナはユーに尋ねるが、
ユーは答えずキャンディをガリガリと
頬張る。
郁人とポンドも不思議そうにユーを
見つめていると
ー 「さっきから聞いてりゃ
好き勝手にほざきやがって」
ドスの効いた声が後ろから聞こえた。
「さっきの蹴りだけじゃ足りなかったか?
なんならもう1発いるか?」
「エンウィディア?!」
「聞いていらしたようですな……」
額に青筋を走らせたエンウィディアが
仁王立ちしていた。
郁人は目をぱちくりさせ、
ポンドはエンウィディアの様子で
理解したのか苦笑した。
「アハッ! 蹴りはいらねえし。
むしろ感謝してほしいなあ。
キラキラくんの態度ってばわかり辛い
んだからさあ。好きな子はいじめちゃう
お子ちゃまなんだしい」
「減らず口ってのは死んでも治らないと
聞くが試してみるか、テメエでな」
リアーナは煽り、エンウィディアから
ブチッとキレた音がする。
「2人共、落ち着いてください!」
「落ち着いて!」
ポンドと郁人が慌てるなか、ユーが
なにかに気付いたのかじっと外を見つめ、
郁人の頬をつつく。
「ユー? どうかしたのか?」
ー「旦那様あああああああああああ!!!」
心からのシャウトとともに隣の窓ガラスが
ガシャァンと勢いよく割れた。
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