表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
257/377

226話 聞こえる可能性が出てきた 




   郁人はエンウィディアの部屋で授業を

   受けている。


   ー 「そこはもっと大きな声でやれ」


   ー 「発音が違え。書いてやっただろうが。

   きちんとやりやがれ」


   ー 「姿勢が崩れてるぞ。背筋を伸ばせ。

   そんなへにょへにょな姿勢で声が出る訳

   ねーだろ」


   「は……い……頑張り……ます……」


   エンウィディアの指導は考える暇も

   与えないほどに、ユーがあわてるほどに

   スパルタであった。


   郁人は気力でついていっており、

   ユーから渡された冷たい水を飲みながら

   スパルタ授業を耐えている。   


   「また歪んでるぞ。腹に力入れろ」


   舌打ちしたあと、郁人の腹を片手で

   ぐっと押す。


   「ぐえっ」


   力強く押され、空気を勢いよく吐き出して

   しまう。


   「力入れろつってんだろ」

   「これでも……入れてるんだって……」


   訴えるもエンウィディアの押さえる手は

   ぐっと押し続ける。

   痛みはないのだが、圧迫感が強くなり

   息がし辛くなってきた。


   「………エンウィディア?」

   「………………」


   姿勢の歪みを言われた通りに直した

   はずだが、手を退けられる気配がない。


   しかも、触れられた部分が冷たく

   なっている。


   (なんだろう……体を冷水に浸してる

   みたいだ……なぜか寒く感じる……)


   まるで水に頭から入ったかのように

   全身が冷えていく。


   「……エンウィディア!」


   背筋がぞくりとし名前を呼ぶが反応はない。

   手がこのまま腹にズブズブと入っていき   

   そうだ。


   「エンウィディア!」

   「っ!?」


   郁人がもう1度呼んだ瞬間、ユーが

   エンウィディアの手を叩き落とした。


   「……随分と過保護なもんだな」


   叩き落とされた手をぶらりとさせながら、

   エンウィディアはユーを見る。


   「………馴染めば体力だって気にする

   必要はねえっつうのに。

   おい、次はピアノに合わせるぞ。

   また水でも飲んどけ」


   エンウィディアはポソりと呟いたあと、

   指示を出してピアノのもとへ向かう。

   その姿をじっと見たあと、ユーは

   水を背中のチャックから取り出すと   

   郁人の頬にすり寄る。


   「心配してくれてありがとう」


   郁人は水を受け取り、飲む。

   ユーに触れられた部分から暖かさが

   広がっていく気がした。


   「しばらく抱っこしててもいい?」


   郁人が尋ねるとユーは頷き、尻尾を

   振りながら抱きついた。


   〔あんた大丈夫? なんかこう……見てる

   あたしもゾクッとしたし……〕

   (大丈夫だけど、なにがしたかったんだ?

   力入れてたんだけどまだ足りないのか?

   それにしても……ちょっと怖かったな……)


   まるで海の底へと沈んでいくようだった

   と郁人はブルリと体を震わせ、ユーを

   抱きしめる。


   〔本当になんだったんでしょうね?

   でも、気をつけるに越したことはないわ。

   あんたは用心……〕


   急にライコの声が遠くなり、首元が

   軽くなった。


   「………………」


   いつの間にか目の前に来ていた

   エンウィディアがヘッドホンを

   掴んでいたからだ。


   「エンウィディアどうしたんだ?

   いきなりヘッドホンを掴んで……」

   「…………不快な音が聞こえた気がした」


   ヘッドホンを一瞥(いちべつ)すると、

   郁人の首元に戻す。


   「水を飲んだんなら、ちんたら突っ立って

   ねえで練習するぞ」


   ピアノの前に座り、エンウィディアは

   弾く準備に入る。


   〔………まさか、こいつ聞こえてるの?〕

   (聞こえてないと思うけど……………多分)

   〔本っっっっ当にあんたの作った

   キャラ恐ろしいわ……!!!〕


   怖すぎるわよ! とライコは声を震わせる。


   〔もっと警戒上げるとか、もうこれが

   限界なんですけど!! 大丈夫かしら……〕

   (………エンウィディアが居るときは

   控えたほうがいいかもな)

   〔そうね。警戒するに越したことは

   ないもの。あんたの様子は見守っておくけど

   声をかけるのは控えるわね。その間に

   マリンリーガルズの件ももう少し調べて

   おくわ〕


   勉強不足だったことを痛感したもの

   とライコは呟いた。


   「なにボーッとしてんだ。

   調律は終わってる。とっととすんぞ」

   「ごめん。わかった」


   エンウィディアに注意されながら、

   郁人は頷いた。


   ーーーーーーーー


   スパルタ授業も終わりに近づき、

   郁人が疲れきっていると


   「マスター、飲み物をお持ちしました」

   「ありがとう、ポンド」


   ちょうどいいタイミングで、ポンドが

   ドリンクを持ってきた。


   「おや? エンウィディア殿は?」


   ポンドは辺りを見渡し、尋ねた。


   「エンウィディアはいつの間にか

   どっか行っちゃって……」


   どこに行ったんだろ? と郁人は頬をかいた。 


   ポンドが来るほんの数分前にフラりと

   消えた。

   あれ? と驚いていたときに

   ポンドが来たのだ。

 

   「エンウィディア殿の分も用意

   していたのですが……」

   「見いつけたあ」


   バタアンと勢いよく開く音とともに

   聞いたことのある声が聞こえた。


   「あっ!」

   〔さっきのヤバイ子じゃない!!〕


   開けた相手は先程、郁人を鎖で絞め上げた

   女性だった。


   「おや? 先程の……」

   「ポンドも会ったのか?」


   ポンドの言葉に郁人は目をぱちくりさせる。


   「音符海牛殿とメパーン殿達に

   いきなり呼ばれ、なにかと来てみれば

   倒れられておりましてな。

   音符海牛殿とメパーン殿達の誘導のもと、

   医務室へ運ばせていただきました」

   「そうだったんだ!」

   〔……医務室あるのね、ここ。

   じゃあ、なんでこいつ自分の部屋に

   運んだのよ? もしかして、自分以外の

   誰かが彼女を治療することがわかって

   たから鉢合わせないようにしたの?〕


   どれだけこいつを1人にしたいのよ

   とライコは呟いた。


   「あ~さっきの鎧じゃん。

   さっきはあんがとね。てか、鎧の下ってば、

   そんなイケメンだったんだ! カッコいい

   じゃん! 目の保養〜!

   で、そこのフワフワ」

   「え? 俺?」


   郁人はポップキャンディで指されて、

   首を傾げる。


   「そ、君がフワフワ。

   キラキラくんのお気にだったんなら

   先に言ってよお。危うくコロコロされかけた

   じゃんかあ」


   俺っちは頑丈だから死ななかったけど

   と唇を尖らせて文句を言う。

 

   「マスター、この女性とは面識が?」

   「ここで練習する前に会ったんだ」


   ポンドの問いに郁人は答え、

   話を続ける。


   「彼女に鎖で掴まったところを

   エンウィディアが助けてくれたんだ」

   「どうしてそのような状況に?」  

   「それは俺にもわからないかな……」


   なんでかはさっぱりと郁人は頬をかく。


   「神殿内でそのような事があったとは……。

   そばに居れず申し訳ございません。

   ちなみに、その時に私を呼ばれましたか?」

   「うん。呼ぼうとしたらエンウィディアが

   来てくれた」

   「成る程、そうでしたか。何はともあれ

   マスターが無事で良かったです。

   ……道理で呼ばれた瞬間、従魔のパスを

   自身の魔力で遮り、マスターのもとへ

   向かうことを阻止し、殺意を私に向けた

   訳ですな」


   少し遠い目をしたポンドは小声で

   ポソりと呟いた。

   聞き取れなかった郁人は不思議そうに

   見る。


   「? どうかし……」

   「それとお、さっきはごめんねえ」


   いつの間にか近づいていた彼女が

   眉を八の字にする。

   

   「え?」

   「君、姉ちゃんの友達だったんだねえ。

   メパーン達から話聞いたよお。

   俺っちてばさ~姉ちゃんのことになると

   猪突猛進~的な? 他の可能性とかもう全く

   考えなくなるお馬鹿ちゃんになっちゃう訳。

   ほんっとにごめん」


   両手を合わせて真摯(しんし)に謝ってきた。


   「麻痺とか大丈~夫?

   あれさあ、どんどんシビビってなっちゃう

   毒仕込んでたんだけど」

   「エンウィディアが処置してくれたから

   大丈夫です」

   「へえ~あのキラキラくんがねえ……」


   目をぱちくりさせた彼女だが、

   悪戯な笑みを浮かべた。


   「あっ! 自己紹介忘れてたあ~。

   俺っちはリアーナ。君らは?」

   「俺は郁人です。

   この子はユーで、隣はポンドと言います」

   「マスターに仕えております、ポンドです。

   以後、お見知りおきを」


   ユーとポンドは1礼をした。


   「こちらこそよろしくぅ」


   リアーナは無邪気に笑った。


   「ところで、お姉ちゃんって……」

   「あっ! 俺っちてば喉カラカラだから

   それちょうだい!」

   「構いませんよ。エンウィディア殿にもと

   思ったのですがいなかったので」

   「やりい~」


   郁人の質問に気づかず、リアーナは

   無邪気に笑うとドリンクを一気に飲む。


   〔なんか気分屋みたいね、この子。

   また、あんな風にならないように

   気をつけなさい〕

   (うん。気をつけるよ)


   ライコの言葉に頷き、郁人もドリンクに

   手を伸ばした。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!


ーーーーーーーー



ライコは書類と向き合っていた。


「恵みと平和の神があの神に敗れたあと、

プリグムジカ自体は放置されてたんだ……。

信仰していた神がいなくなっても、

プリグムジカはなんとか頑張ってたのね」


ライコは書類を読んでいく。


「前の神から与えられた知識と国の護り

であるサンゴを頼りに生き延びてきたん

だわ。けど、あいつは戦闘に特化した神

だから、その荒ぶる気に同調して凶暴な

魔物がどんどん増え始めた」


海は神に影響されやすいからと告げる。


「そこになぜか生き残っていたマリンリー

ガルズが現れて、プリグムジカを護り

はじめたのね。属していた神の行動を

見習って……」


ライコは恵みと平和の神の資料を見る。


「へえ~この神はあたしやあの神と違って

派遣された訳じゃなく、最初から世界に

いた神なんだ! 昔は人々の信仰が盛んだっ

たから誕生しやすいって聞いてたけど本当

だったのね!」 


今は人々が神の名を騙って勝手な行動する

から表舞台に出なくなり、誕生することも

なくなったからと呟いた。


「でも……どうしてあの神は恵みと平和の神

と戦ったの? 海は広大だから複数の神がいた

ほうが管理しやすいのに……。派遣された 

瞬間、すぐに恵みと平和の神を倒しに行って

るのはなぜなの? 派遣した前の担当がなにか

言ったのかしら?」


戦闘に特化した神の行動にライコは

疑問を持つ。


「それに……恵みと平和の神に属していた

種族一覧にはマリンリーガルズの名前は

たしかに無かった。でも……」


ライコは一覧にある謎の空白に

目を留める。


「ここ……うっすらだけど書いてあった

痕跡があるのよね……。

消しゴムで消せる訳じゃないのに……

誰が消したの? 前の担当とか?

だとしたら理由はなんなの?」


ライコは頭をフル回転させ、理由を

考え始めた。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ