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224話 その声はとても冷たかった




   エンウィディアの登場に郁人は目を見開き、

   ライコは声を上げる。


   〔こいつ、いつの間に?! もしかして、

   助けに来てくれたの!?〕

   (たぶん……そうかも。でも、本当にいつ

   の間に来たんだ?!) 


   助けてくれたエンウィディアの背中を

   郁人は思わずじっと見てしまう。


   「がっ……!!」


   蹴り飛ばされた彼女が壁にぶつかる音と

   ともに、崩れる音が遠くで聞こえた。


   「なんでここにいる? あいつの客か?

   ……いや、そういえば俺が依頼していたな」


   忘れていたとエンウィディアは舌打ちを 

   したあと、郁人のもとへ来ると郁人に

   巻き付き吊り上げていた鎖をパキンッと

   いとも簡単に握り潰す。


   その様子にライコは驚きの声をあげる。


   〔簡単に握り潰したわよ!? どんな握力して  

   るのよ?!〕 

   「うわあっ?!」


   落ちた郁人は頭から落ちると思ったが、

   いくら経っても衝撃はこない。


   「………」

   「エンウィディア……」


   エンウィディアがしっかり抱き止めて

   くれたからだ。


   助けてくれた事に目をぱちくりさせながら

   郁人は礼を告げる。


   「ありがとう。助かったよ」

   「………クソうぜえ」


   床へ乱暴に郁人を降ろすとエンウィディアは

   蹴り飛ばした彼女のもとへ足を進める。


   その背中からは冷たい空気、まるで深海に

   いるような光の届かない、真っ暗な重圧を

   感じた。


   (このままだとヤバイ気がする……。

   エンウィディアを止めないと……。

   俺の足も少しおかしい気がするけど……)


   エンウィディアの様子から不穏な気配を

   感じ取った郁人は立ち上がり、足の感覚に

   違和感を覚えながらエンウィディアのもとへ

   進む。 


   すると、胸ポケットにいたユーが飛び出すと

   大きくなって郁人を背中に乗せた。


   「え? ユー? 俺は大丈夫だから

   降ろして……」  


   不思議そうな郁人は降りようとしたが、

   ユーは尻尾を郁人の腰に巻き付けて

   降りるのを拒む。


   「……わかった。ユーに甘えるよ」


   ユーの雰囲気から察した郁人はなぜ乗せられ

   たのかわからぬまま背中に乗ったままでいる

   ことにした。


   ユーはそのままエンウィディアのもとへ

   進む。


   「テメェの仕事は人様の家で殺傷沙汰を

   起こすことか?」


   近付くごとにエンウィディアの様子が

   不穏なことか明らかだ。


   蹴り飛ばされて意識がもうろうとし、

   床にうずくまる彼女をエンウィディアは

   見下ろしたまま、告げる。


   「テメェの仕事は依頼された品を作り、

   届けることだ。それは俺の記憶違い

   だったか? なあ?」


   坦々とした口調で話しているが声色は

   肌を切り裂くように冷たい。

   聞いてるこちらが凍えてしまいそうだ。


   「テメェの仕事すらも出来ねえようじゃ

   家を出るなんて夢のまた夢だな。テメェの

   言うつまんねえお城で一生過ごしてるんだな

   オヒメサマ?」


   しゃがむと、エンウィディアは彼女の首を

   片手で絞めながら立ち上がった。


   「……あ……ぐ……」


   首を絞められたまま持ち上げられた彼女は

   なんとかもがきながら、逃げ出そうと

   何度も蹴りをいれるがエンウィディアは

   びくともしない。


   「エンウィディア!!」


   郁人はユーから降りてエンウィディアを

   止める。


   「もう大丈夫だから! 落ち着いて!」


   首を絞める行為を止めようと郁人は

   腕に触れるが、びくともしない。


   「これ以上したら死んじゃうから!」

   「………………………はぁ」


   郁人は彼女をなんとか助けようとしていると

   わざとらしいため息を吐いたエンウィディア

   は彼女から手を離した。


   「……かはっ」


   ドサリと落ちた彼女は吸えなかった酸素を

   一気に吸って咳き込む。


   「大丈……」


   郁人は彼女に駆け寄ろうとしたが出来な

   かった。


   「……………」


   エンウィディアに(たわら)担ぎされたからだ。


   「あれ? エンウィディア?」

   「……………」

   「どうかしたのか? おーい?」

   「……………」


   呼び掛けに答えず、エンウィディアは

   俵担ぎをしたまま歩みを進めた。


   (どこに行くんだろ?)

   〔さあ? あたしにもわからないわ。

   でも、あの黒鎧より真っ先に来たわね

   こいつ〕


   驚いたわとライコは告げ、郁人も同意する。


   (本当にびっくりした。エンウィディアは

   近くに居たのかな?)

   〔だとしたら、彼女が先に気付きそうじゃ

   ない? 彼女が探してたのはたぶん、こいつ

   でしょ? キラキラくん? の特徴と一致

   してるし〕

   (たしかに、気配がとか言ってたから

   俺より気付きそうだな)


   ねえちゃんの気配がとか言ってたし

   とイクトは告げる。


   〔もしかして、あんたの動きをずっと

   見張ってたりして。あんたの音をずっと

   聞いてて、異変に気付いて助けに来たとか〕

   (それはないんじゃないか?

   そばにいる時ずっと不機嫌そうだし)

   〔可能性は充分あるわよ。それに神の権能を

   持っていたら、自分の神殿内のことは……〕


   「なにごちゃごちゃ考えてやがる」

   「ふぎゃ?!」


   苛立った声とともに、放り投げられた。


   「あれ? 柔らかい……」


   顔面から着地したが痛くはない。

   むしろ、とても柔らかい。


   顔を上げれば、そこは本棚で壁が

   埋め尽くされた部屋だった。


   「ここは……?」


   本棚以外には部屋の中央にピアノもあるが、

   生活に必要なものは最低限しかなく、郁人が

   下ろされたのはこの部屋に人が住んでいると

   わかる数少ない証明であるベッドの上だ。


   「エンウィディア、ここは……」

   「俺の部屋だ。そこでじっとしてろ」


   ひと睨みしたあと、エンウィディアは

   部屋を出ていった。


   〔ここ、あいつの部屋だったのね。

   生活感0過ぎない? 図書館かと思った

   わよ! ベッドがあるからまだ生活してるの

   はわかるけど。あっ! 本棚の本、全部楽譜

   だわ!!〕

   (………本当だ! すごい数がある!)


   本をよく見てみると全てファイリングされた

   楽譜だった。


   「これだけあるんだな、楽譜……。

   あっ、机の上にもあるな」


   ベッド脇にある机の上にも楽譜がある。


   「エンウィディアは楽譜を書いてるのか……。

   完成はしてるけど、タイトルはまだ

   決まってないみたいだな」


   郁人は楽譜のメロディを指でなぞる。


   「それにしても……悲しい感じの曲だな。

   なにをイメージして書いたんだろう?

   レクイエム? それとも悲恋かな?」

   〔あんた、楽譜が読めるの?〕


   楽譜を見ながら顎に手をやる郁人に

   ライコは尋ね、郁人は頷く。


   (うん。昔とった杵柄(きねづか)っていうのかな?

   小さい頃はよく楽譜を見てたから)

   〔今でも読めるのすごいわね。

   あたしには記号が羅列してるようにしか

   見えないわよ〕


   ちんぷんかんぷんだわとライコは告げる。


   ユーも楽譜を覗き込み、不思議そうに

   している。

 

   「楽譜のメロディが気になるのか?」


   尋ねるとユーは頷いた。


   「えっと、メロディはこんな感じだな」


   郁人は手拍子と足踏みでメロディを

   表現する。その音に乗ってユーは体を

   揺らした。


   「~~~♪」


   かなり小さくだが、郁人は声でもメロディを

   表現していく。


   〔……なんか悲しいわね、このメロディ。

   なんというか……こう……振り向いて

   貰えないというか……こっちに気づいて

   貰えない……みたいな悲しさを感じるわ〕


   ライコは聞いた感想を述べていく。


   〔あんたがさっき、レクイエムか悲恋の

   どちらか考えてたけど、たぶん悲恋を

   イメージしたんじゃないかしら?〕


   悲しげな声でライコは呟き、ユーも悲しそう

   にしている。


   「……ここをこうしたら、少しは楽しそうに

   なるぞ」


   郁人は楽譜を指でなぞりながら、

   楽しげなメロディを紡ぐ。


   〔本当だわ! 楽しいわね!〕

   「それにここをこうしたら……」


   郁人は楽譜に書かれたものを少しアレンジ

   したメロディを奏でだす。

   

   〔報われた感じのメロディになったわ!

   ハッピーエンドを迎えたみたい!〕 


   声をあげたライコはメロディに合わせて

   手拍子する。ユーもいつの間にか持っていた

   タンバリンを取り出して叩く。


   「~~~♪」


   部屋は楽しげなメロディに満たされる。

   心を弾ませ、暖かくしていく、優しげな

   ひだまりのようなメロディ。   



   ー「おい」



   そこへ氷よりも冷たく、背筋が凍りつく

   声がした。





ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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