表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
253/366

222話 もう1つの話題




   《相変わらずと言うベきか……

   貴様は自己中心的なところがあるぞ。

   いや、あり過ぎるな》

 

   モニターが空中に浮かび上がると同時に

   耳、いや心を震わす蠱惑な声が空間に響く。


   《全く……唐突に要件だけ伝えた挙句に

   電話とは。時間を考えろ》


   声の主は呆れたように息を漏らした。

   その吐息さえも心を震わせ、惑わせる。


   《我が君関連以外で電話をしてくるな、

   チイト》


   モニターに映されたのはフェイルートだ。


   長いまつ毛に(ふち)取られた瞳はチイトを

   見据えていた。

   柳眉(りゅうび)をひそめる姿も妖しく、その美しさに

   周囲は息を止めてしまう。

   1つ1つの動作に瞳も心も奪われてしまう。

   モニター越しでも、フェイルートの

   美貌と色香は()せることはないのだ。


   「あいつは……フェイルートか」


   フェイルートの美貌と色香に意識を 

   飛ばされそうになったが、篝は耐え抜いた。


   「君は耐えたか。本当によかった」


   ジークスはほっと息を吐く。


   「前も耐えたことがあるからな。

   ……それに、すごいものを知ってる気が

   してな。こう……いろいろとヤバイものを」


   篝は覚えていなくとも、郁人(女)バージョンの

   記憶を体が覚えていた。

   ゆえに、耐え抜いてみせたのだ。


   「ん? 待て。君は(・・)ということは……」

   「あぁ。他の者は耐えれなかったようだ」


   ジークスは周囲を見渡す。


   「なんて美しい……!!」

   「ほああああああああ!!」

   「あんな綺麗な存在がこの世にいた

   なんて……!!!」

   「あっ……あっ……あぁぁぁぁ!!」


   マリンリーガルズの護衛達は皆、

   フェイルートの美貌を前にして発狂、

   もしくは意識を飛ばしていた。

 

   「モニター越しでもこれとはな……」

   「相変わらず……というべきか?」

 

   フェイルートの色香が引き起こした

   惨状を目の当たりにして篝は息を呑み、

   ジークスはフェイルートが大樹の木陰亭に

   来たことを思い出した。     


   「……なんとか耐えきれたか」


   声のする方を2人が見ると、額から血を

   流した神官がいた。


   「おい! 大丈夫か?!」 

   「血が出ているぞ!」


   ジークスと篝は血に気付き、声をかけた。

   

   「これを使うといい。手当てしないよりは

   マシだろう」

   「ありがとう」


   ジークスはハンカチを取り出し、神官に

   差し出した。それを受け取り、ハンカチで

   傷を塞ぐ神官の姿を見て、篝は告げる。


   「お前、発狂しないためにわざと

   怪我したな。痛みで耐えるために」

   「……声が、彼の顔が見えた瞬間、

   とっさに頭を床に打ち付けたんだ。

   おかげ意識を飛ばすことに耐えられた」


   神官は痛みでなんとかフェイルートの

   色香に耐え抜いてみせたのだ。


   「……女王を前に色香で屈するなど

   出来る筈がない!」

   「たしかに、妻の前で色香で意識を

   飛ばすのは面目無いだろうな」

   「妻?」


   ちらりとこちらを見たチイトの言葉に

   目を白黒させる篝。

   神官も目をぱちくりさせた。


   「なぜその事を……?!」

   「代々、神官の中で最も信仰が厚く、優れた

   者がマリンリーガルズの夫となるのだろ?」

   「……知っているのは神官希望者のみ

   なんだが」


   驚愕の色が浮かぶ神官の表情からみて

   真実ということは明らかだ。


   「……こいつは何でも知っているのか?」

   「かもしれないな……」


   目を丸くしながらチイトを見る篝に、

   ジークスは苦笑した。


   《それにしても、娘か……》


   チイトと話し終えたフェイルートは額に

   手をやる。


   《あの子、やはり言わずに来ていたのか。

   連絡をとるように言っていたのだが》


   全くとフェイルートは息を吐くと歩き出す。


   画面は部屋から廊下に出て、迷いなく

   進んでいる。


   《ん? 色香大兄どうしたんだ?

   携帯を小鳥モードにして、しかも、

   ビデオ通話を起動させてるなんざ珍しい》


   仕事中だったのか、タブレットを

   操作しながらレイヴンが声をかけた。


   《今、海のあの子のご両親と通話中だ。

   どうやら、今までどこにいるかすら

   連絡をしてなかったようだ》 

   《あちゃ~。まあ、彼女も家に連れて

   帰られるのが嫌だったんじゃね?

   連絡入れなかったのもそれじゃねえの》

   《全く……》

   《あっ! 俺様もついてこ!

   なんか楽しそうだしなあ!》


   フェイルートはどんどん進み、その後ろを

   声を弾ませたレイヴンもついていく。


   《着いたぞ。ここに彼女がいる》

   《寝てないといいんですけどねえ?》


   着いた先は、幻想的な泉であった。


   ひらりと蝶が飛び交い、海の色をした

   花がふわりと揺れている。

   月明かりが差し込む場面は絵画か写真にでも

   残しておきたいほどに美しい。


   《遅くにすまないね。出てきてもらえる

   かい?》


   フェイルートが泉に近づいた瞬間、

   水飛沫が舞い散る。


   《―――――♪》


   マリンリーガルズだ。


   水で自身を包み込み、ひらりと宙に舞うと

   嬉しそうにフェイルートの周囲をくるくる

   回る。


   「ヒルダ!」


   神官が目が溶けるのではないかと言う程

   泣き出す。モニターに向かい手を伸ばし、

   嬉しさに声を震わせた。


   「無事だったのだな……!!

   良かった……良かったっ……!!」

   「―――――♪」


   女王のマリンリーガルズもメロディを歌う。

   言葉はわからないが安堵していることが

   伝わってくる。


   《えっと、無事だったのねって

   言ってるんだな? これ?》

   《そうだ。マリンリーガルズはメロディで

   伝えるからな。

   なら……――――♪》

   「! ―――――♪」


   フェイルートがメロディを紡ぐと、

   女王はハッとしたあとメロディを紡ぐ。


   「………なんで喋れるんだ?」

   《ありゃ? おたくもしかして篝?》


   不思議そうな篝にレイヴンが声をかけた。


   「なぜ俺の……お前レイヴンかっ?!」


   気づいた篝はレイヴンを指で指す。


   「お前全然違うじゃねえか!!

   性格や表情とか違うだろ!!」

   《ここには前から来てんだ。変わるに

   決まってんだろ~》


   カラッと快活にレイヴンは笑う。


   「そうなのか? いや、だが……」

   「彼は君の知っている通りの姿では

   ないのか?」

   

   腕を組み、頭を(ひね)る篝にジークスが尋ねた。


   「それは……」

   《てか、篝は変わってねーんだな!

   ぬし様の行くとこ、絶対ついてくとことか!

   よっ! ストーカー野郎!!》

   「誰がストーカーだ!! 護衛とか

   ボディーガードとか言い方あるだろ!

   まず、あいつの親友だ!!」

   「たしかに、君は護衛に近いだろう。

   1番の親友は私だが」

   「おい! それは聞き捨てならねえぞ」


   篝はジークスに食ってかかった。

   その間、神官は娘に尋ねる。


   「なぜ出ていったのだ!!

   何も言わずに、なぜ……!!」

   《―――――♪》

   「この者の側に居たいから……だと……?!

   お前結婚したのか!! 父と女王の許可なく!!」


   神官は額に青筋を走らせ、激昂する。


   「お前はまだ子供だ!! そんな子供に

   手を出す奴などロクな奴じゃない!!

   《――――――――!!》

   「手も出されてないし、結婚ではなく、

   契約だと?! 契約を結んだのか?!

   お前はプリグムジカの次期女王と

   なるんだぞ!!」

   《――――――!!!!》

   「妹達は居るが、妹達はお前を支えたい

   と言っているんだ!!」

   《―――!!!》

   「側に居られるだけでいいと……

   ここには俺は勿論、母、妹達も居るんだ……

   それでも……この者の側に……!!」


   神官は歯を食い縛ったあと、フェイルートを

   見る。

 

   「娘をお前なんかに渡しはしない

   ぞおおお!!!!」

   「………なんで自宅に娘の彼氏を

   連れてこられた父みたいになっている?」

   「それは俺にもわからないな」


   娘は渡さない……!!と涙を流しながら

   息巻く神官を見て、言い争いをやめた

   篝とジークスは不思議そうにしていた。


   《ーーーー♪》

   「ー♪ーー♪」


   神官を無視したフェイルートは女王と

   話しており、チイトはあきたのか携帯を

   いじっている。


   《ありゃま! 珍しい空間になったもんだ!

   ついてきて正解だったかねえ?》


   空間にレイヴンの笑い声が響いた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

ブックマーク、評価(ポイント)

よろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ