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221話 昨夜の出来事




   それは昨晩のことである。


   「パパにはちゃんと食べてもらわないと。

   肉だけだとあきそうだから、魚とかも

   いるな。和食も恋しくなる可能性も

   あるから味噌も入れておこう。

   米も絶対にいるな。うん、絶対にいる。

   あと、栄養バランスのためにも野菜も

   必要だ」  


   チイトはホテルの部屋で郁人が食べる

   食糧の整理をしていた。


   すると……


   「おい! チイト!!」


   扉を勢いよく開けた音と同時に、篝と

   ジークスが入ってくる。


   「なんだ騒々しい。部屋のノックくらい

   しろ。忙しいから入ってくるな」


   夜だというのに迷惑だとチイトは眉を

   しかめる。


   2人はそんなチイトを気にせず要件を

   伝える。


   「忙しいとか言ってる場合じゃない!

   呼び出しが来たんだ!」

   「呼び出し?」

   「この国の女王からだ。先程、近衛兵が報せ

   を届けに来てな」


   ジークスがチイトに手紙を手渡す。


   「“明日の昼、13時にマリーヌ宮殿前に

   来られたし“……あぁ、あれが理由か」


   チイトはどこか納得した様子で

   手紙を燃やす。


   「明日、迎えが来るそうだが……

   君は呼ばれた理由を知っているように

   見えるな」

   「知っているなら教えろ。俺には

   さっぱりだ」


   なぜいきなり国のトップに呼び出される?

   と篝は顎に手をやる。


   「……面倒事はとっとと済ませるに限る。

   説明も面倒だ」


   チイトは長いため息を吐いたあと、

   宙に浮きながら2人の頭を掴む。


   「今から流し込んで連れていく」

   「は? ………っ?!」

   「一体なにを? ぐっ?!」


   2人はいきなり頭に情報を流し込まれ、

   気持ち悪さから口を押さえる。


   「女王は……いるな。転移も女王の近くに

   あれがあるなら難なくできる」 


   顔を青ざめる2人のことは気にせず、

   チイトは瞬間転移を使う。


   ホテルの1室には誰もいなくなった。


   ーーーーーーーー


   スターライトクラゲが暗い海を照らし、

   まるで星空の中にいるのだと錯覚させる。

   そんな海の星空に包まれたプリグムジカ。


   昼間は魚達が泳ぎ、人魚達も悠々と

   過ごしていたが、淡い光、家の灯りが

   ポツポツと街を照らし、静寂が包んでいる。   

   

   そんなプリグムジカでも神殿を思わせる

   荘厳さがある宮殿、マリーヌ宮殿。


   人魚達は日々の感謝を込めて目を閉じ、

   両手を重ねて頭を垂れる、

   偉大なる女王が君臨する宮殿だ。


   宮殿のとある一角、よりいっそう神聖さを

   感じさせる場、玉座にはマリンリーガルズが

   いる。


   夜の国のマリンリーガルズとは違い、7mを

   優に越す巨体に、3mほどの長い(ひげ)

   揺らめかせ、白銀の鱗は虹の輝き放ち、

   玉座の間を尚、神聖な空間にしている。


   そのマリンリーガルズの頭に王冠があり、

   威圧感と神気は凄まじいものだ。


   マリンリーガルズ、彼女がプリグムジカを

   統べ、崇められる存在だと見て、肌で感じ

   取れる。

  

   ー 「女王陛下」


   マリンリーガルズを女王陛下と呼び、

   (ひざま)ずくは神官の装いをした男。

   髪をきっちり撫であげ、いかにも

   堅物そうな神官は跪きながら述べる。


   「明日にあの者達がやって参ります。

   こちらの箱の中身についてとあの事を

   詳しく聞かねばなりません」


   神官は自身が持つ、兵から貰い受けた

   箱を見る。 


   「……が、あの歩く災厄もおりますので

   警戒は最大レベルに上げております。

   女王陛下の周囲には……」

   「ーーー♪」


   マリンリーガルズが神官の後ろを見て

   なにかを告げた。


   それは言葉ではなく1つの音、メロディだ。


   端から聞けば、涼やかなメロディだが、

   神官はメロディが告げる意味を理解し

   目を見開く。


   「もう来ているとおっしゃるのですか?!

   ですが、指示したのは……」



   ー 「来てやったぞ。

   マリンリーガルズ、プリグムジカの女王」



   神官は聞き慣れない、氷のように冷たく、

   感情が一切感じられない声に背筋をゾクリと

   させ、勢いよく振り返り、目を見開く。


   「なぜここに……?!

   一体どうやって……?!」


   振り返った先には、"歩く災厄"チイト。

   "孤高"と謳われるジークス。

   最近パーティに加入したという

   "影なき傭兵"篝がいた。


   驚く周囲をよそに、チイトは辺りを

   見渡し、鼻で笑う。


   「ここが貴様の神殿ならびに宮殿か。

   こうもたやすく入れていいものか?」


   あいつの神殿のほうがいろいろと

   施されているぞとチイトは告げた。


   「戦いに来たわけではないんだ。

   警戒は緩くて当たり前だろう。

   しかも、来るのは明日だからな」 

   「……まずこのように来ること事態が想定外

   だろう。勝手に入ってしまい、申し訳ない。

   彼を止めるのは至難の業なんだ」


   気持ち悪さが治まった篝はあきれながら

   告げ、ジークスは謝罪した。


   「………っ!!」


   チイトの深海よりも深く冷たい瞳に

   神官は息が出来ない。


   警備の騎士達も女王を護ろうと動きたいが、

   足に(いかり)をつけられたように動けない。


   歯がガチガチと鳴り、心臓の鼓動は耳元で

   動き続ける。恐怖で心も体も支配される。

   

   "ここから 逃げだしたい、意識を手放して

   早く楽になりたい"と考えで頭がぐちゃぐちゃ

   になる。


   「――♪」

   「なんだ? 解いてほしいか?

   これにも耐えれないとはなあ?」


   情けないものだなとわざと首を横に

   振りながら、チイトは指を鳴らす。


   「っ……!!」

   「かはっ……!!」 


   瞬間、解放されたと感じたと同時に

   騎士達と神官は膝をつく。

   力いっぱい息を吸い、息を吐いて

   やっと生きていることを実感する。


   「………君、もしや」

   「なに、軽く威圧しただけだ。

   プリグムジカの兵は女王を、国を護るため

   常日頃鍛えていると聞いていたからな。

   とんだ拍子抜けだ」

   「俺達は感じなかったが」

   「貴様達は後々面倒になると思って

   威圧はかけていない」


   パパに告げ口する可能性もあると

   チイトが告げると女王を見る。


   「で、女王よ。俺を呼び出した理由は

   わかっている。どちらから聞きたい?

   汚染か? 貴様の娘の居場所か?」

   「――――♪」

   「国を優先するか。良いだろう。

   汚染は書いてあった通りだ。

   抗体はこいつらが作るのを頼んでいる。

   出来次第、こいつらに届くぞ」

   「――♪」


   女王とチイトは話しているが、

   篝達にはわからない。


   「………女王が何言っているか、俺には

   さっぱりなんだが。お前わかるか?」

   「残念ながら、俺にもわからない」


   篝はジークスに尋ねたが、ジークスも

   首を横に振る。


   「…………女王はメロディを言葉として

   いらっしゃるのだ。メロディがわからな

   ければ……女王の意思は伝わらない」


   女王に跪いていた神官は咳き込みながら、

   なんとか立ち上がろうとする。


   「大丈夫か?」

   「肩を貸そう」

   「……貴公らに感謝を」


   神官はジークスと篝の手を借り、

   ようやく立ち上がることが出来た。

   2人に礼を告げたあと、口を開く。


   「女王のメロディがわかる者は……

   親族と仕える者達のみ。メロディを理解する

   のにも相当の時間を……費やすのだ。

   ……なのに、なぜ歩く災厄は……」

   「彼に関しては彼はこういう者なんだと

   諦めたほうがいい」

   「……あいつは何でもアリらしいからな」


   ジークスは今までの経験から、篝は

   設定や今までの経緯を知っている為に

   目を遠くした。


   「この話題は直接、目にしたほうが

   わかりやすいだろ」


   チイトが告げた瞬間、空中にモニターが

   浮かび上がった。



ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーー


チイトはじつは、兵達に渡した箱に

魔力でマークを付けていました。

そのマークから位置を特定し、転移を

可能とするので、チイトは転移できたのです。

 

女王が呼ばなければ、呪いの早期解決のために

チイトから女王のもとへ直接出向くためにです。


「解決したら、パパが褒めてくれる

可能性があるからな。

それに、こんな汚い空気の中に

ずっといるのも嫌だ」




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