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219話 朝から心臓に悪い




   「…………!」

   「…………」


   なにやら揉めている声が聞こえ、顔を

   ペチペチと叩くものもいる。


   「ん……」


   今にも引っ付きそうな目蓋を上げて、

   郁人は目を覚ます。

 

   顔を叩いていたのはユーのようだ。

   だが、なぜかあわてている様子で尻尾で

   どこかを指し示している。


   「おはよう、ユー。そんなにあわてて

   どうした……」 


   指し示された先、視界に飛び込んだのは 

   眉をしかめていかにも不機嫌ですオーラを

   出しまくるエンウィディアに、口を一文字に

   結び警戒しまくるポンドだ。互いに睨み合っ

   ており、どちらかが一歩でも動けば開戦しそ

   うである。


   「どうかしたのかっ?!」


   いかにもな雰囲気に頭が一気に覚醒した。


   「マスター、おはようございます」

   「…………」


   起きた郁人にポンドは何事も無かったように

   にこやかに挨拶した。

   対してエンウィディアは鋭い舌打ちをする。


   「うん、おはよう……じゃなくて!

   なんで2人は睨み合ってたんだ?!」


   ポンドのにこやかさに流されそうになったが、

   流されまいと首を振り、疑問をぶつけた。


   「マスターの部屋からマスターとユー殿以外

   の気配を感じまして()せ参じたところ、エン

   ウィディア殿がまだお疲れのマスターを無理

   やり起こそうとしておりましたので」


   睡眠はきちんととらなけば疲れはとれません

   からなとポンドは説明した。


   「疲労を蓄積していけばマスターが

   倒れてしまう可能性だってありますので。

   阻止させていただいておりました」

   「………クソうぜえ」


   エンウィディアはポンドを睨みつけた後、

   部屋を去っていった。

   睨まれたポンドは気にすることなく、

   郁人に声をかける。


   「さて、マスター。食べる前に顔を洗い

   ましょう。今日もスパルタだと思いますので

   朝食も腕によりをかけた品をご用意しており

   ますから」

   「……わかった」

   〔なんだったの? さっきの雰囲気は……〕


   ポンドに背中を押され、洗面所へ進む。

   ライコの声から脳裏にはてなマークを

   飛ばす姿が浮かんだ。


   「私は朝食の用意を済ませますので、

   マスターは顔を洗って髪も整えてきてくだ

   さい。身だしなみはどんなときだろうとし

   なくてはなりません」

   「うん。ありがとうポンド」


   洗面所から立ち去るポンドの後ろ姿に

   郁人は手を振る。


   「本当になんだったんだろ……?」

   

   郁人は先程の睨み合いを思い出しながら

   顔を洗っていく。

  

   〔あら? あんたどうしたの?〕


   突然、ライコが声をかけた。


   (なにがだ?)

   〔首と喉の青いやつよ、青いやつ。

   ほら、鏡を見てみなさい〕

   「青いやつ?」


   言われた通りに見てみるとたしかに青いもの

   があった。触ってみると固く、ツルツルして

   いる。


   「なんだろこれ? かさぶた?

   いや、でも明らかに違うし……

   とれるかな?」

 

   剥がれるか挑戦してみるが、もともと

   肌の1部だったように剥がれる気配はない。


   「嘘っ?! 手にまで?!」


   首に触れた際に手のひらに違和感を覚えて

   みれば、手のひらにもあった。


   「昨日は無かったのに……。

   いったいどうして……?」


   おかしいと首を傾げる郁人の肩にユーが

   乗る。


   「ユーさっきは起こしてくれてありがとう

   な。……やっぱり、ユーも気になるよな」


   ユーは青いものが気になるのかじっと見て

   いた。


   「本当になんなんだろ、これ。

   もしかして、プリグムジカで流行ってる

   病気か? いやでも、あれはたしかこんな

   のが出来るものじゃなかったはず……。

   ……調べたら出てくるかな?」


   携帯で調べてみようと郁人が取り出した。


   が……


   「あっ?!」


   ユーが尻尾でつつくとポロリと簡単に剥がれ

   落ちたのだ。剥がれた箇所は傷1つなく、

   先程まで青いものがついていたとは思え

   ない。


   〔あっさり剥がれたわね!〕

   (なんなんだ、これ……)


   ポカンとしている間に喉や手のひらに

   あった青いものもユーが尻尾でどんどん

   剥がしていく。


   「剥がしてくれてありがとうな。

   ……気になるからチイトに聞こうかな?

   知ってそうな気がするし」


   落ちた青いものを拾おうとしたが、

   ユーに先回りされる。


   「ユー、それがなにか気になるし、

   調べたいから貰ってもいいか?」


   尋ねた郁人にユーは嫌だと体を横に振ると

   背中に仕舞ってしまった。

 

   〔こいつ、背中にためらいなく収納

   したわね。収納しても問題ないってこと

   かしら?〕

   「ユー、駄目か?」


   お願いするが、ユーの意思は変わらない。


   「マスター、具合でも悪いのですかな?」


   出るのが遅い郁人を心配し、ポンドが

   扉越しに声をかけた。


   「大丈夫! すぐに出るから!」


   郁人は慌てて顔を洗い終えて、ナランキュラ

   スからの教え通りに肌と髪のケアをしたあと

   急いで飛び出した。


   「おや、ユー殿も一緒に洗っていたの

   ですな。ユー殿もおはようございます」


   ポンドはテーブルセットを終えており、

   にこやかに笑う。


   「今日はサバとレモンのサンドイッチと

   1個丸ごと使ったオニオンスープになり

   ます。スープにピリッとアクセントが欲し

   かったら、あの赤い調味料も用意しており

   ますので遠慮なくおっしゃってください。

   ちなみに、デザートにはフルーツヨーグルト

   がありますよ」

   「わあっ! すごいよポンド!」


   郁人はテーブルの料理に目を輝かせる。

   ユーも嬉しそうに尻尾を振り、自身に

   用意された席に勢いよく進む。


   〔サバのサンドイッチ、野菜も入ってるし

   ヘルシーでいいじゃない! 玉ねぎ丸ごと

   って本当にそのままね!?〕

   (玉ねぎを丸ごと使ったスープって

   トロッとしていて美味しいんだよな!)


   郁人はウキウキしながら椅子に座った。


   「喜んでいただけて光栄ですな」


   郁人達の様子を微笑ましく見ながら

   ポンドは飲み物をだす。


   「こちら、野菜ジュースになります。

   チイト殿からいただいたミキサーで

   作らせていただきました」

   「本当にありがとう! 至れり尽くせり

   だな!」

   〔すごい健康的な朝食ね!

   羨ましいわ……!〕


   ライコが感嘆の声をあげた。


   「いただきます!」

   「いただきます」


   郁人達は手を合わせていただく。


   目を輝かせながら郁人はサバのサンドイッチ

   に手を伸ばし、思い切り頬張る。


   野菜のシャキシャキ感に、サバの油と

   レモンの酸味がマッチして口の中に

   美味しさが広がる。


   「美味しい……!!」

   〔本当ね! レモンのスライスがあるから

   酸っぱいのかと思ってたけど、程好くて

   良いわ! すっごく美味しい!〕


   味覚を共有したライコも思わずはしゃぐ。


   ユーも尻尾を振りながらもりもりと

   食べ進めていく。


   「作った甲斐があったというものですな。

   チイト殿とレイヴン殿に感謝しなくては」

   「チイトとレイヴンに?」

   「はい。じつは、マスターに渡す前に

   試しに使ってみてほしいと、チイト殿と

   レイヴン殿が共に作った調理器具を

   いただいたのです。玉ねぎを丸ごと

   使ったスープは電気圧力鍋を使いました」

   「電気圧力鍋?!」

   〔またハイテク持ち込んだわね!

   あいつらは!!〕

   「魔石の魔力を電気に変えてそれを貯蓄し、

   鍋に活用とは……生活に役立ちますな!」


   初めて使ったときは驚きましたな!

   とポンドはハハハと笑う。


   「圧力鍋かあ。篝の家にあったから

   使わせてもらったことあるけど便利だった

   もんなあ」

  

   使い心地を思い出しながら郁人は

   オニオンスープをいただく。

   玉ねぎの持つ甘味とスープの香ばしさは

   ホッとする。


   「ポンド本当にありがとう」

   「チイト殿やレイヴン殿にも礼を言って

   あげてください。あの御2方はマスターに

   喜んでいただきたくて作ったのですから」

   「わかった」


   頷く郁人は見たあと、ポンドはサンドイッチ

   を口に含み、満足げに頷いた。


   (美味しく出来たときって嬉しいよな。

   俺も初挑戦で作った料理が美味しかったら

   嬉しいもんな)


   ポンドの心境を察した郁人は共感し、

   サンドイッチに手を伸ばすと


   (ふにゃ?)


   ゼリーのような弾力性のあるものに

   触れた。不思議に思いながら視線をやる。


   「あっ!?」


   そこには郁人のサンドイッチを頬張る

   フメンダコがいた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーーーー


ライコは起こしたユーを思う。


「あいつ、夢の中から起こすこと

出来るのね……。

しかも、夢から現実でなにが起きてるか

把握してたし……。

本当になんの生き物なのよ……」


あの猫被りはどんな生き物を作ったのよ

と頭を抱える。


「とりあえず、夢魔は確定ね。

夢からでも現実を把握できるのは

夢魔かその夢魔が許可した者くらいだもの。

……他にもなにが混ざっているのか

考えただけで背筋が凍りそうだわ……!」


あいつのことだからえげつないの

混ぜてるわよ

とライコは肩を抱く。


「まあ、イクトに懐いてるぶんは安全ね。

守ろうと頑張ってるもの。

こいつの手綱も頑張って離さないでよね」


ライコは郁人にエールを送った。



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