217話 プリグムジカを覆うモノ
憑き物が落ちたような兵達はただ困惑する
ばかり。
「俺達はたしか兵舎にいたよな?」
「体調が悪くて、休んでたはず……」
「なんで鎧を身につけてるんだ?
ベッドで寝てたんだが……」
兵達は頭上にはてなマークを浮かべる。
「さっきまでの様子と全く違うな」
「チイト、お前なにしたんだ?」
変わりぶりにジークスと篝も口をポカンと
開ける。
「おい」
そんな中、チイトは篝の言葉を無視しつつ、
憮然とした態度で兵のもとへ進む。
「貴様らプリグムジカの兵だな。
なら、これをマリンリーガルズに渡して
おけ」
空間から手紙と箱を兵の1人に投げ渡す。
「とっととこの国にまとわりつく音、
呪いをなんとかするんだな。でなければ、
貴様らは再び呪いの操り人形となるだろう」
「まっ……待ってくれ! 今なぜここにいる
かもわからない上、いきなりそのような事を
言われても……?!」
「呪いとはなんのことだ!?」
「ひい?! 歩く災厄が居るぞ!!」
「あの方!? もしや孤高じゃないか!!」
ざわつく兵達をよそに、チイトは指を
鳴らす。
瞬間、先程までざわついていた兵達は
こつぜんと消えた。複数の声が消えて、
静寂が空間を包む。
「………彼らはどこへ?」
「ホテルの外に出しただけだ」
ジークスの問いに答えながら、チイトは
もう1度指を鳴らし、風を起こして空気を
入れ替える。
「汚れを持ち込むとは……ゴミらしいと言う
べきか」
わざとらしいため息を吐くチイトに、
ジークスは尋ねる。
「すまないが、説明をしてもらえる
だろうか? なにがなんだかさっぱり
なんだが」
「俺もさっぱりだ。音とかなんなんだ?」
篝も同意し頷いた。
「……………」
そんな2人にチイトは眉をしかめながら、
仕方ないと口を開く。
「汚染と音の原因、発生源は同じだ。
この国は来る前に言ったように感染者が増し
危機的状況にあるのは覚えているか?」
「あぁ。原因不明の病に苦しめられている
ことは知っている」
「昏睡状態になり、最悪2度と目を覚まさ
ないやつだろ?」
ジークスと篝は自身の知っている内容を
告げた。
「その病の原因がこの国を取り巻く
"呪い"だ」
「呪いだと!?」
「病気じゃねえのか?!」
驚く2人をよそにチイトが説明していく。
「病と判断されているが、これは呪いだ。
病と錯覚してしまうほど巧妙なな。
この呪いが音となり、汚染を拡大させて
いる。国の護り、水中の酸素を作るサンゴが
汚染されてしまったことが1番の痛手だな」
この国の要の1つがやられたからな
とチイトが呟く。
「マリンリーガルズがサンゴの対処を
している間にも呪いの音はプリグムジカを
包み込み、住人が汚染されているんだ」
「もしや、感染者……いや汚染された者が
住人に多いのは……」
「こんな呪いに覆われたところに
ずっといれば汚染されるだろ」
解呪の魔道具や呪いに耐性が無い限りな
とチイトは告げた。
「汚染が進めば、眠りに落ちた瞬間
呪いの操り人形となる。先程のゴミ共は
俺が壁にぶつけたことで目を覚ましたが、
どんどん汚染が進めば、衝撃を与えても
起きなくなり、衰弱して最終的に生を終える
ことになるな」
病として認識しているから対処が後手に
まわっているようだがとチイトは告げた。
「君はそこまでわかっているのか……?!
いつからわかっていたんだ?!」
「あのネチネチ野郎が病が蔓延している
国に呼ぶとは思えなかったからな。
そこから情報を集めてある程度推測し、
国に見たときには断定していた」
呪いだと断定して調べればわかることだ
とチイトは簡単なことのように告げた。
「君はいろいろとスゴイとしか言いようが
ないな……」
「原因はわかったが、その肝心の音、
呪いは聞こえねえぞ」
ジークスはチイトのスゴさに頭を抱え、
篝は耳を澄ませながら首を傾げた。
「モスキート音と例えたらわかるか?
年を取れば聞こえなくなるあれだ。
そのような類の音だから、貴様には
聞こえなくて無理はない」
「お前は聞こえているのか?」
「ずっと聞こえている。あのネチネチ野郎が
演奏した際は、あいつの演奏で音が消えて
汚染は少し軽くなっていたがな」
「もしや、彼が完全に演奏をやめれば……」
ある考えにジークスは顔を青ざめ、
チイトは頷く。
「この国は呪いによって終わるな。
あいつの神殿は呪いを弾いているため
あそこ以外だが」
「では、その汚染源をなんとか
しなければ……!!」
「音の所在を探すぞ!」
動くジークスと篝をチイトは制止する。
「無駄だ。汚染源を見つけても、犯人を見つ
けない限り、また仕込まれて終わりだ。
音、呪いも全方位から聞こえるからな」
呪いをかけた相手を潰さない限り
終わらないなとチイトが告げた。
そんなチイトにジークスは口を開く。
「………私達に出来ることはないのか?」
「パパのサポートだ。パパを眷属にさせない
のは当然だが、パパにこの事を知らせるな。
知らせたらパパは歌うどころじゃなくなり、
エンウィディアは怒って演奏すらしない
だろう」
それ以外ないと告げるチイトに2人は
尋ねる。
「俺は肉を切る以外に出来ることは
ないのか? 彼が知れば心労になってしまう
ことは避けたいんだ」
「その汚染を薄めるにはどうしたらいい?
出来る限りのことはしたい。あいつが聞いて
いたら気にするだろうからな」
「…………とんだもの好き共だ」
チイトは長いため息を吐いた。
「自ら厄介事に突っ込んでいくなど……。
俺があのゴミが去った後に言った事を
覚えているか?」
「たしか……汚れを持ち込むだったか?」
「そうだ。汚染した者に触れればそいつも
汚染されるからな。ならば、汚染した者達に
抗体を飲ませれば少しはマシになるだろう
よ。触れても汚染されることはなくなる」
呪いが病のフリをしていることを利用する
とチイトは告げる。
「まだ初期段階なら飲めば、呪いを弾くこと
も可能となる。抗体などはシトロンに作って
もらえ。ここにウィルスとして物質化させた
呪いがあるからな」
チイトは2人にそれを投げ渡す。
「送るのはそちらでやれ。携帯で送れる
だろ? たしか、あいつの助手が買ったと
聞いたぞ」
「俺が彼の連絡先を知っている!」
「すぐに送るぞ! ありがとうチイト!」
「感謝する!」
「勝手にしてろ」
チイトはうるさいと眉をしかめながら、
もう1つの部屋に入っていった。
ーーーーーーーーーー
チイトの携帯から声がする。
《……わざと通話のままにしましたな?》
「情報交換する手間が省けただろ?」
通話をきったフリをし、ポンドに聞かせて
いたのだ。
「パパが歌えるようになるまで、絶対に
騒動に気づかれるな。余計な心労を与えたく
ない」
《かしこまりました。
しかし……意外ですな》
ポンドは理由を話す。
《マスター以外はどうでも良いチイト殿が、
ジークス殿やカガリ殿に助言をし、手伝い
をして、兵達を無傷で帰すとは……》
「助けなかったりしたらパパが悲しむだろ?
パパは雑草にも優しいから、菌を放って
おいてゴミ共が絶命したら気にするしな。
それに……」
《それに?》
「手伝ったらパパは褒めてくれる」
《………チイト殿らしいですな》
意外ではなかったとポンドは苦笑した。
「パパの側を出来るだけ離れるなよ」
《かしこまりました》
「………今回だけだぞ」
チイトのいかにも不満だというのが
声から丸分かりだ。
《わかっておりますとも。信頼は
裏切りません》
ポンドは安心してほしいと頷いた。
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「私達もなにか対策をしたほうがいい
のでは?」
「解呪の魔道具か……持っていたか?」
ジークスはあごに手をやり、篝は自身の
ポシェットを漁る。
「そこは俺が勝手にしといた。
だから問題無い」
「は?」
「……それはいつの間にしたんだ?」
チイトの言葉に目を丸くする篝。
ジークスも驚きながら尋ねた。
「ホテルに着いたときにだ。
貴様らがソファに座った瞬間にかけた。
だから、貴様らが呪いに触れたとしても
勝手に解呪されるぞ」
「……本気で気づかなかったぞ」
「なぜ私達に解呪をかけたんだ?
君が心からの善意でかけたとは考えにくい」
思い出してもかけられた瞬間がまったくない
篝。ジークスは疑問をぶつける。
「パパが神殿にいる間、俺達の拠点はここと
なる。俺は呪いが効かないから問題ないが、
貴様らもこの国に居続ければ汚染される
確率は高くなるだろう。俺はそんな汚い
ゴミを拠点に入れるのは不愉快極まりない。
だから、勝手にかけた」
汚物と一緒の拠点など絶対に断る
とチイトは告げる。
「それに、貴様らが呪いにかかったと
パパが知ったら確実に心配する。
俺以外のことでパパが心を配る事など
絶対に嫌だ!」
パパが考えるのは俺のことだけでいい!
とチイトは断言した。
「………善意からではないのは理解した」
「こいつらしいな」
なぜか安心したなとジークスは呟き、
篝は頷いた。




