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215話 特訓後の料理




   用意された部屋の床には浜辺に

   打ち上げられた魚のような郁人がいる。


   「これだけ疲れるなんて……」


   息をするのもやっとという雰囲気だ。


   ユーが疲労で起き上がれない郁人に

   ストローで水を飲ませている。


   「あり……がと……ユー」


   郁人は礼を告げると、グゥとお腹の音が

   鳴った。


   「お腹減った……ガッツリしたの

   食べたい……回復してから作ろ……」

   「マスター! 私が作りますから!

   私が作りますので少々お待ちを!!」


   あわててポンドはキッチンに入った。


   〔どれだけスパルタなのよ、あいつ……〕


   特訓を見ていたライコは思わず呟いた。


   ーーーーーーーーーー


   オペラ座でエンウィディア達の演奏を

   聞いたあと、スパルタ教育が始まった。


   『まずは呼吸法の正しいやり方だ。

   きちんとやれよ、やれ』

   『テメェならもっと高音だせるだろ?

   俺の腹と喉に触れて振動感知して真似ろ』

   『楽譜の見方ぐらい覚えてるだろ。

   忘れてんなら絞める』

   『ピアノをやったら次はヴィオラだ。

   は? 弾き方知らねえ? 今から叩き込め』

   『なんだその貧弱さは?

   そこらの稚魚よりねえぞ』

 

   発声練習は勿論、腹式呼吸の正しいやり方、

   音楽に慣れる為にと、様々な楽器に触れ、

   実際に演奏したり、体力が必要だと運動も

   したりとノンストップでやり続けたのだ。


   「気絶しなかったのが奇跡だな……」


   なんとか息を落ち着かせた郁人は

   ほっと息を吐く。


   (師匠に言われた通り、体操や柔軟を

   しといて良かった……!)


   肩を上下させながら、起き上がろうとした

   郁人だが、床から離れられない。


   (………この床、なんとも言えない感触だな。

   フローリングや大理石とは違うし……。

   このまま寝てもいいかも……)


   肌に吸い付くような心地好さに郁人は

   目を閉じてしまう。


   意識を手放してしまいそうになったとき


   「ぐっ?!」


   突然、背中に重みを感じた。


   見るとユーがのしかかっていた。

   尻尾を立て、目の前まで来ると頬をつつく。


   〔行儀悪いって言ってるんじゃない

   かしら? 疲れているのはわかるけど、

   絨毯(じゅうたん)も無い床で寝たらあとで

   体が痛くなるわよ〕


   体が休まらないわとライコは告げた。


   「ごめん、ユー。寝ないからな。

   ただ倒れてるだけだから。

   起き上がれるようになったら起きるから」

   「マスター、お疲れのようですが

   腹が減ってはなんとやら。

   ちゃんと食べないといけませんな」


   鼻腔をくすぐる良い匂いとともに、

   ポンドがやって来た。


   ユーが反応して、尻尾を振る。


   「体力回復のためにも召し上がらないと

   なりません」

   「うん、わかった」


   郁人は起き上がろうと頑張るが、

   やはり動かない。


   「起きろ……俺の体……!」


   力を込めているとふわりと浮遊感を覚えた。

   ユーが触手で郁人を抱えたのだ。


   抱えたままポンドが用意したテーブルまで

   運んでゆき、丁寧に椅子に座らせた。


   「ありがとう、ユー」


   郁人の言葉にユーは嬉しそうに尻尾を振る。


   「ユー殿は本当に不思議ですなあ。

   背中の触手もいろんなものがあるよう

   ですし」


   ポンドはユーを見ながら、郁人の前に

   料理を用意した。

   郁人は用意された料理を見て目を

   キラキラと輝かせる。


   「ポンド、用意してくれてありがとう!

   すごく美味しそう!」


   テーブルに用意されたのは、キャベツと

   ソーセージのコンソメスープ、焼き肉丼、

   デザートにはカットされたフルーツだ。


   「もう少しこったものを作ろうかと

   考えたのですが……料理はまだ未熟でしてな。

   私でも出来そうなものを作らせて

   いただきました」


   疲れたときには肉が1番と笑う。


   「本当にありがとう! すごく嬉しい!」


   郁人はポンドに礼を告げた。

   ユーも美味しそうだとヨダレを垂らす。


   「ユー殿のはこちらです」


   ポンドは焼き肉が大量に乗った丼を

   テーブルに乗せる。


   「ユー殿はたくさん食べられますからな。

   ユー殿用にお肉も特別に用意しました。

   分厚く切ってますので噛みごたえも

   ありますかと」

   「良かったな、ユー!」


   嬉しそうに跳び跳ねるユーは、首に

   ナプキンを巻いて食べる準備万端だ。

   今か今かと合図を待っている。


   その姿を微笑ましく思いながら、

   郁人は手を合わせる。

   ポンドとユーも手を合わせた。


   「いただきます!」

   「いただきます」


   郁人は丼に手を伸ばし、肉にかぶりつく。


   瞬間、肉汁が口内に流れ込み、

   ほどよい油が箸のスピードを早める。

   ユーもキラキラと嬉しそうにしながら

   勢いよくがっつく。


   「美味しいっ!! ご飯と相性抜群!!」

   「マスターが料理を振る舞われる際に、

   楽しんでいる理由が分かりました。

   美味しく食べてもらえると心が弾みますな」


   美味しいと食べる郁人の姿にポンドは

   微笑みながら、自分の丼をいただく。


   「本当にありがとうポンド!

   もうつかれてヘトヘトだったのが

   回復していくよ」

   「そう言われると光栄ですな。

   マスターは晩までぶっ通しでしたから」

   「えっ?! そうだったのか?!」


   もう晩だったという事実に郁人は

   目をパチクリさせる。


   〔ここに居たらわからないわよね。

   この神殿があるエリアは明るさが

   ずっと同じだもの〕


   日付感覚が狂いそうだわとライコはぼやく。


   (ライコ、よかったら朝とか昼とか

   教えてもらってもいいかな?)

   〔いいわよ。あたしに出来るのは

   これぐらいしか無さそうだしね〕


   音楽はてんで駄目だからと告げた。


   「マスターの回復のためにも、

   こちらがよろしいかと?」


   ポンドはポシェットから調味料を

   取り出した。

   見たことの無い瓶に郁人は首を傾げる。


   「それは?」

   「チイト殿からマスターに使ってほしい

   といただきました。マスターの体温を

   高める効果もあるそうです」

   「そうなんだ! じゃあ、少しだけ……」


   ウキウキしながら郁人は丼にかける。


   赤というより、紅に近い色合いで

   見てるだけで暑くなりそうだ。


   「……かけ過ぎたかな?」


   頬をかいたあと、ゆっくり口に入れる。


   「……んっ?!」

    

   瞬間、舌を程よく刺激する辛さ。

   体の内側から温める熱。自然と流れる汗。


   「クセになりそうっ!!」


   郁人は目を輝かせながら、

   どんどんかきこんでいく。


   「ユーもかけるか?」


   美味しいぞと薦めるとユーは首を

   横に振ると、もっとかけてみたら?

   と郁人の丼に更にかけた。


   「かけてた部分を食べちゃったからな。

   ありがとう、ユー」


   郁人はユーを撫でたあと、嬉しそうに

   頬張る。


   〔それなにかしらね? 見たことないわ〕

   (俺も気になる。何の調味料だろうな?)


   郁人は気になりながらも、また口に頬張る。


   「では、飲み物を持ってきましょう。

   味が濃いものを食べると飲みたくなり

   ますからな」

   「俺が行くから、ポンドは」

   「マスターは食べて、体力回復に

   努めてください」


   席を立とうとする郁人をポンドは防ぐ。


   「このあと、風呂に入られますでしょう?

   回復しきっておらず、私が手伝ったとなれば

   チイト殿の怒りを買うに違いありません」


   私がキュッとされますなとポンドは

   雑巾を絞る動作をみせる。


   「そんな大袈裟な……。

   チイトは怒ったりしないよ」

   「………夜の国でマスターが特訓の疲労から

   また倒れられたとき、マスターの風呂を

   誰が手伝うかでもめ、皆様が武器を

   構えようとしておられましたな」


   アハハと乾いた笑いを浮かべるポンド。

   遠い目をしていることから、その時を

   思いだしているのだろう。


   〔目が死んでるわよ、こいつ……。

   おとなしく甘えときなさい〕


   ライコはポンドを見て告げた。

   郁人もそうしたほうがいいと察し、

   ポンドにお願いする。


   「ポンド、飲み物お願いします」

   「えぇ、かしこまりました。

   察していただき、ありがとうございます」


   ポンドは爽やかに微笑むと、

   キッチンへと向かった。





   「……無事に食べてもらいました。

   ですので、しばらくは安全かと」


   ポンドは携帯を取り出し、報告した。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーーーー


ポンドはあわててキッチンに立つと、

食材を用意する。

食材はチイトが渡してくれたものだ。


(マスターはガッツリしたものを食べたいと

おっしゃってましたし、チイト殿もマスターに

出来るだけあれを食べさせろと言っておられ

ましたからな)


ポンドはその食材をまな板に乗せた。


(マスターがいつも楽しそうに作られて

いましたから、いずれ作ってみようかと

このレシピ本を買っていて正解でしたな)


カタログから買っていた黄金の錬金術師

監修のレシピ本をポンドは開いて、

確認する。


(揚げ物は私にはまだ早いですし、

焼くことにしましょう。

スープはあっさり系統にして、

デザートは……流石に時間が足りませんし

カットしたフルーツを皿に盛りましょうか)


ポンドは作るものを決めると

料理にとりかかった。



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