213話 案内された部屋
「まさか、エンウィディアの手に国の存亡が
かかってるなんて……夢にも思わなかった
な……」
やばい、胃が痛くなってきた……
と、どんよりする郁人。
「そうでしょうな。一個人の手に国の行く末
が握られているなどと私も思いませんでした
から。私も出来る限りのことはさせていただ
きます。共に頑張りましょう」
〔あたしもあんたのサポートするのだから!
そこまで思わなくても大丈夫よ!
ほら! 謎の生き物も応援してるわ!〕
そんな郁人を励ますポンド、ライコ。
ユーも郁人の頬にすり寄り、大丈夫だと
伝えていた。
「ありがとう、みんな」
郁人はポンド達の言葉に胃の痛みが
和らいでくる。
そんな中、フメンダコは部屋の前にまで
来ると郁人を指差したあと、部屋を指差す。
「えっと……ここが俺の部屋なのかな?」
フメンダコは頷くと、フワフワと去って
いった。
「案内ありがとうね。ここが俺の部屋
か……」
郁人は去っていくフメンダコにお礼を
告げて扉を見ると、両開きの扉でとても
大きく、1人のための部屋がこの先にある
とは思えない。
「個人の部屋しては明らかに大きすぎ
ないか? 会場の扉に見えるけど……」
不思議そうにしながら、郁人は鍵穴に
鍵を差しこみ、回すとカチャリと音が響く。
開いたと感じた郁人はドアノブに触れ、
開けようとしたが……
「ビクともしないなっ?! なんで!?
え? 開いた音はしたから、開いたと
思うんだけど……?」
〔どれだけ重いのよ、この扉?!〕
郁人が全力で押しても開かない。
引くのかと思い、引いても開かない。
「ポンド……チャレンジしてもらっても
いいかな?」
「構いませんとも」
了承したポンドが扉を押してみると、
ゆっくり開いた。
「これは……マスターの力では難しいでしょ
うな。開け閉めの際は、私かユー殿に
お任せしたほうがよいでしょう」
「次からはそうするよ」
〔なんでこんなに重いのよ?
黒鎧と謎の生き物がいなかったら
こいつが苦労することは丸わかりじゃない。
もしかして……〕
ライコがなにか呟いているなか、
ポンドはそのまま扉を開ける。
「…………すごい」
扉の向こうには白と水色で統一された、
とても清廉な部屋があった。
置かれている家具はシンプルだが、
誰も踏んではいない雪原を思わせる
ものがある。
部屋の中央にはピアノと琴があり、
よく見れば壁に様々な楽器が収納され、
本棚には楽譜や音楽にまつわる資料など
がある。
〔部屋の雰囲気は高級ホテル顔負けね。
シンプルなのに飽きさせないとうか、
神々しさがあるというか……。
でも、音楽に関するもの多すぎじゃない?
こいつに歌わせるのが目的だからでしょう
けど。それにしても……なにか違和感が?
なんなのかしら?〕
「………………」
ライコが不思議そうにしているなか、
ポンドがただつっ立っていることに
気付いた。
「………るほど。私がいないといけない
訳ですな」
あごに手をあて、ポンドは何か呟いている。
「ポンド?」
郁人に声をかけられてポンドはハッとする。
「申し訳ありません、マスター。
綺麗すぎて見とれていたようですな、私は」
ハハハとポンドは笑う。
「大丈夫か? ちょっと休憩しよう。
あそこにティーセットあるし」
郁人は近くのテーブルに置いてあった
茶器に触れる。近くの棚には茶葉なども
あった。
「コーヒーもあるな。頭を整理したいから
一緒に飲まないか?」
「はい、一緒に飲みましょう。ですが、私が
淹れさせていただきますのでマスターは少々
お待ちを。最近、美味しいコーヒーの淹れ方
を覚えましたからな」
キッチンは……あそこですな
と、ポンドは茶器を手に取ると、
キッチンへと向かった。
「ありがとうポンド」
郁人は向かうポンドの背中に礼を告げ、
テーブルを準備する。
「あれ? いつの間に!?」
すると、いつの間にか見覚えのある音符海牛
がテーブルにいた。背中にホールのフルーツ
タルトが乗ったお盆を乗せて、テーブルに
ゆっくり下ろす。
切られていたようで、タルトを1ピース
別の皿に乗せて郁人をじっと見つめる。
〔その子、海辺でシャインベリー食べた子
じゃないかしら?
そのタルト、あんたに食べて欲しいん
じゃない?〕
意図を汲んだライコは告げた。
「綺麗なタルトだな! これは……ザクロ
かな? ……食べていいのか?」
問いに音符海牛は頷き、目を輝かせる。
「ポンドが来てから食べるからな。
ちょっ?! フォークを押し付けないで!」
今食べて! とせがむようにタルトを
フォークに刺して、頬にぐいぐい押し
付ける。
「………わかった。じゃあ、1口だけ先に
いただくから」
押しに負けて郁人は口を開く。
音符海牛は嬉しそうにアーンと
フォークに刺したタルトを口に
入れようとした。
が……
「あっ」
ユーがパクリと食べてしまった。
いつの間にか1ホール全て平らげている。
「こらっ! ユー!!
皆の食べたらダメじゃないか!!」
抱えられたユーは素知らぬ様子で
もぐもぐ頬張る。
音符海牛は抗議するように跳ねているが、
ユーは完全に無視だ。
「どうされました?」
コーヒーポットなど用意したポンドが
戻ってきた。
「いや、ユーが音符海牛が用意してくれた
フルーツタルトを全部食べちゃってさ……。
ごめんな」
「いえ、気にされることはありませんよ。
ところで、その音符海牛殿が見当たらない
のですが……」
「あれ?」
部屋を見渡したが姿が消えている。
〔さっきまで居たのに……どこにいったの
かしら? そういえば、どこから来たのか
しらね、あの海牛〕
(たしかにな……あの扉を開けられるとは
思えないし、この神殿内なら出入り自由
だったりするのか?)
不思議そうな郁人にポンドは口を開く。
「用意してくださった礼を告げたかった
のですが……。
とりあえず、少し休憩しましょう。
いきなりの事が連続でありましたからな」
テーブルにコーヒーの入ったポットを置き、
郁人とユー、自分のカップに注ぐ。
「さあ、どうぞ。スイーツも用意しました
ので」
「ありがとうポンド。
このお菓子は? すっごく美味しそう!」
席についた郁人は目を輝かせながら菓子を
見た。ユーもよだれを垂らしている。
「こちらは“ばうむくーへん“と
呼ばれるものだそうです。
ちょこれえとでコーティングしており
中にはむーすも入っているそうです」
ポンドはスイーツの説明をする。
「黄金の錬金術師と呼ばれる方が
作られたスイーツだそうですよ。
カタログにありましたので、購入しました」
「スイーツコーナーも増えたんだな!」
〔あいつ、魔道具とかだけじゃなく
食べ物まで手を広げたのね……〕
郁人は目をぱちくりさせ、ライコは
思わず呟いた。
「意外と大きかったですので、マスター達と
共にいただきたいと思いましてな」
ポンドは微笑みながら郁人とユー、
自身の分を切り分け、皿に乗せる。
「ユー殿の分はもちろん大きめですな」
今か今かと待っているユーにポンドは
微笑む。ユーは大きめのを貰い、尻尾を
振った。
「ユーは本当にいっぱい食べるな。
……もうちょっとご飯増やしたほうが
いいかな? いただきます!」
「いただきます」
1ホール食べても余裕な姿に量について
考えながら、バウムクーヘンを口に入れる。
「うん! 美味しい!!」
チョコとムースのほろ苦さ、バウムクーヘン
の生地の甘味がマッチし、フォークが進む。
コーヒーの酸味とも合うため、ぴったりの
スイーツだ。
「お口に合ったようで良かったです」
ポンドも口許を綻ばせ、また1つと食べて
いく。
「ユー殿にも喜んでいただけたようですな」
「だな」
尻尾を振りながら、もりもりと食べていく
ユーを見て、2人は食べていく。
「邪魔するぞ」
ゆったりとした穏やかな空間に、固いものが
ぶつかる音と不機嫌な声が響いた。
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