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貰えなかったら、渡すまで


1日遅れですが、ホワイトデー! です!



   これは、彼らが小学5年生の頃の話……


   ホワイトデーが近くなったある日、

   篝は自室で1人、悩んでいた。



   (……あいつからのチョコが欲しかった)



   それは郁人からチョコを貰えなかった

   ことだ。


   バレンタイン当日、篝は結構な量のチョコを

   貰えた。クラスメイトから他校の子までと

   本当にいっぱい貰えたのだ。


   『お前……モテすぎだろ!』

   『羨ましいを通り越して、怖い……。

   量がエグくて』


   と見ていたクラスメイトが思わず呟くほど。


   あまり甘いものが得意じゃない、

   しかも下足箱や机にぎゅうぎゅうに

   入れられていて、授業が始まるまでに

   片付けるのが大変だったり、いろいろと

   苦労した彼にとっては複雑だ。


   しかも、後日あることに気付いたのだ。


   (あいつ、妹に頼まれて一緒に作っていた……

   妹がお兄ちゃんにバレンタイン協力して

   もらったから、お兄ちゃんにお返ししないと

   と言っていたからな)


   あいつの作るものは美味いから食べたかった

   と篝は悔しがる。


   (しかも、バレンタインだからこだわって

   いたとも言っていた。

   ……食いたかった、あいつのチョコ。

   妹のを手伝っただけだろうが、

   それでもほしかった……)


   郁人の作ったチョコが欲しい篝は考える。


   (今回は貰えなかったのだから次こそは

   ほしい。なら、どうするか……)


   しばらく考えた篝だったが、思いついた。



   ー (貰えなかったなら、こちらから

   渡せばいい!)



   ーーーーーーーーーー


   ホワイトデー当日


   家に帰ろうと、郁人は下足箱で靴を

   履き替えている。


   「おい」


   そこへ声がかかった。

   聞き覚えのある声に郁人は振り向く。


   「篝だ! 一緒に帰ろ!」

   「当然だ。

   ……なあ、このあと空いてるか?」

   「? 空いてるけど、どうかしたのか?」

   「なら、ちょっと時間をもらう。

   さっさと行くぞ。見つかったら厄介だ」

   「なにがって……ちょっと待って!

   靴をちゃんと履かせて!」


   自身の腕を掴み、ズンズン進む篝に郁人は

   慌てながらも靴を履いてそのまま連れ去ら

   れる。


   しばらく進んだあたりで腕を離して

   もらった郁人は尋ねる。


   「なあ、篝。見つかったら厄介って

   なんだよ?」

   「……バレンタイン渡したから、

   お返しがほしいって追いかけられるんだよ」


   頭をかきながら、篝は説明する。    

 

   「下足箱や机に入ってた、誰からか

   わからねえもんにお返しできる訳が

   ねえだろ。知らねえ奴からのなんて

   食ってねえから感想も言えねえしな。

   まあ、わかってても返す気はねえが」  

   「なんで? お返ししたほうがいいよ」 


   せっかく貰ったんだから

   と告げる郁人に篝は口を開く。


   「友達でもねえのになんで返さなきゃ

   いけねえんだよ。それに、もらいたい奴から

   もらえてねえのに返す余裕なんてある訳が

   ない」

   「もらいたい奴?」


   誰だろうと郁人が尋ねる前に篝は足を

   止めた。


   「着いたぞ」


   篝が足を止めたのは高い塀のあるとても

   大きな家、いや屋敷と呼ぶほうがふさわ

   しいだろう。立派な西洋風の屋敷だ。


   とても大きな屋敷に郁人は目を丸くした。


   「わあ! 大きな家! こんな大きな家、

   はじめて見た!」

   「ここは俺の家だ」

   「そうなの?!」


   郁人は目をぱちくりさせるが、

   篝は気にせず、鍵を取り出す。


   「あがってもらいたいが、今日は姉貴達が

   いるからまた今度あがってもらう。

   だから、ちょっと待ってろ」


   姉貴達に見付かると面倒だから

   と、篝は鍵の門扉(もんぴ)を開けると、屋敷まで

   走っていった。


   「? どうしたんだろ?」


   きょとんとしながら、郁人は言われた通り、

   待つことにした。


   屋敷の花壇に郁人の目が留まる。


   「篝が育ててるのかな?

   それとも家族の誰かかな?

   花壇の花、とっても綺麗だなあ。

   なんて名前の花なんだろ?」


   図鑑とかで見たらわかるかな?

   と、しばらくしゃがんで花壇を

   見ていると門扉が開く音がする。


   「悪いな。待ってもらって。

   退屈だっただろ」


   篝が戻ってきたのだ。

   後ろ手になにか持っている。


   「大丈夫だよ。篝の家の花壇、綺麗

   だからさ。見てたら退屈しなかったから」 

   「そうか。なら良かった。

   ……これ、やる」


   ぶっきらぼうに渡されたのは

   1本の白い薔薇と小瓶に入った

   色とりどりの金平糖だ。


   「えっ?! 俺に!

   嬉しいけど、急にどうしたの?」


   突然のプレゼントに郁人は戸惑いながら

   尋ねた。


   篝は気恥ずかしそうに答える。


   「……その、俺がもらいたい奴は

   お前だったんだよ」

   「俺?」


   目をぱちくりさせる郁人に篝は

   目をそらしながら答える。


   「お前の作ったの美味いだろ。

   甘いのがあまり得意じゃねえ俺でも

   食えるし。バレンタインにお前が妹を

   手伝ったって聞いて、お前の作ったもの

   だったら欲しかったって……思ったんだ」


   お前の料理の美味さは知ってるからな

   と篝は呟く。


   「で、次からお前の貰いたいから

   どうするかって考えて思いついた。

   ホワイトデーに渡せば次のバレンタインは

   貰えるだろうってな。お前は律儀だから、

   貰ったらちゃんと返すだろ?

   だから、用意した」


   篝は渡したものを指差す。


   「薔薇はおふくろにバレンタインに

   貰いたかった奴に渡したいって言ったら

   育てていたのをくれたんだ。

   金平糖は俺のお気にいりでな。

   甘さもちょうど良いし、香りも良いんだ。

   だから……次のバレンタインは……

   お前の……俺に……くれ……ないか?」


   目元を薄く赤らめ、視線をそらし、

   次第に声が小さくさせながらも告げた。


   「篝、ありがとう」


   そんな篝に郁人はふわりと笑いながら、 

   礼を告げる。


   「俺の料理を気に入って貰えて嬉しいよ。

   プレゼントも驚いたけど、ありがとうな!」


   薔薇も綺麗だし、金平糖も美味しそう!

   と郁人は花を飛ばす。


   「でも、いっぱい貰ってるのに

   俺のがほしいなんてな。

   俺は手伝っただけなんだけど……

   妹のじゃなくていいのか?」

   「あぁ、お前のがいい。

   だから、薔薇と金平糖を用意したんだ」 


   お前のだって最初から言ってるだろ

   と篝は告げる。


   「わかった。じゃあ、作るよ。篝の分をさ。  

   それにしても、篝は俺の料理好きなんだな!

   プレゼントも用意する程だし」

   「……あぁ、そうだな。

   俺も驚くくらいに……な」


   料理を気に入ってもらえて嬉しい!

   とぴょんぴょん跳ねる郁人を

   篝は眩しそうに見つめ、口を開く。


   「だから、責任もって作れよ」

   「わかった! 篝の胃袋を掴んだ

   責任をとって美味しいの作るから!」


   期待しててくれよな! 篝!

   と郁人は無邪気に笑う。


   見ていると胸に光が差し込むような、

   あどけない笑顔。


   「……っ!!」 


   篝が郁人と初めて会ったときと同じ、 

   無邪気な笑顔に篝はじっと見てしまう。

   

   「篝?」


   固まってしまった篝に郁人は話しかけた。

   

   「どうしたんだよ? 急に動かなくなって」

   「……お前には他にもとる責任はあると

   思っただけだ」


   ハッとした篝は顔をうつむかせ、

   熱くなった顔が見せないようにした。


   「ほかって? なんのこと?」

   「さあな? 自分で考えろ。

   そうだ。せっかくなら庭を見るか?

   おふくろが育てている薔薇園があるんだ」 

   「いいの?!」

   「庭なら姉貴達のいる部屋から

   見えねえしな」

   「やった! あっ! でも、篝のお母さんの

   許可はとらなくていいのか?」

   「いつでも友達を連れて観に来ていい

   って、言ってたから大丈夫だ。

   ほら、行くぞ」

   「うん!」 

           

   篝に手を引かれ、郁人は門扉をくぐった。


   「あの子が篝の言っていた子ね!

   白薔薇も持ってるし間違いないわ!」

 

   庭園を望める部屋で、紅茶を飲みながら

   篝の母親が見守っていたことを2人は

   知らない……。

  

 

 

ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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