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212話 彼の神殿

 



   突然のことに郁人は理解が追い付かない。


   「いきなり何が!? みんな……!!」


   郁人はチイト達に手を伸ばしたが、

   届かない。


   視界が泡まみれになり、思わず目をつぶる。


   「なに目をつむってんだ。開けて見てみろ」

   「……え?」 


   エンウィディアに言われるまま、

   まぶたを開けると目の前には神秘的な

   空間が広がっていた。


   「綺麗……!」


   思わず声を漏らしてしまう美しさだ。


   白と水色が基調とされた、存在すること

   息をすることすら、ためらってしまう程の

   神聖さがそこにあったからだ。


   〔あんたを転移で自分の神殿に移動させた

   みたいだけど……この神々しさはなんなの

   ……?!〕


   ライコは思わず声をあげた。


   「ようこそ、クソ奏者サマ。我が根城へ。

   ここは広間だ。ここから各フロアへと

   行けるようになっている」


   エンウィディアは郁人を見下しながら

   説明する。      


   吹き抜けの広間には青いカーペットが敷かれ

   カーペットに導かれるように視線をやれば、

   エンウィディアの言う通り、各フロアへと

   続く廊下が見えた。


   が、郁人には廊下以外に目をひかれる

   ものがあった。


   「パイプオルガンだ! 実物を初めて

   見た!!」

   〔しかも、かなり大きいわよ!

   中央にあるから柱と間違えそうだわ!〕


   広間の中央に存在する、見上げるほど

   とても大きなパイプオルガンだ。

   パイプオルガンも白と青を基調としており、

   神殿と調和している。


   「壁に埋め込まれているイメージがあった

   けど、中央に置いたらこんな感じになるの

   か。音はどう響くんだろ? 気になるなあ」


   初めて見るパイプオルガンに郁人は

   目を輝かせ、パイプオルガンへ駆け寄る。 


   「このパイプオルガンはいろいろと

   こだわって作らせた自信作だ。

   じっくり見るのはあとにしろ」

   「ちょっ……!!」


   エンウィディアはそう告げると、

   郁人の腕を掴み、廊下をズンズン進む。   

    

   進むと、途中から外廊下へと変わる。


   外廊下はひやりとした沈黙が支配し、

   コツコツと靴の音だけが響いている。


   絵画などの目立った装飾はないが、

   殺風景とは感じられない。


   なぜなら、廊下から見える海中の景色が 

   1枚の絵画のようだからだ。


   景色も合わさり、外廊下で見ても

   まるで海中にいるかと錯覚させる。

   透き通った雰囲気とともに、神々しさを

   感じられた。


   〔本当になんなのこの神々しさ?!

   それだけこいつが神格を持っていると

   いうの?! でも、認めてないのになぜなの

   よ?!〕


   あー! もうっ! 訳がわからないわ!!

   と、声色からしてライコは頭をかき

   むしっていそうだ。


   海中の景色に見惚れる郁人に

   エンウィディアはあるものを渡す。


   「テメエの部屋へはあとで来るのが

   案内する。これがその鍵だ」

   「俺の部屋って……冷たっ!?」


   その鍵はとても冷たく、氷を触っているかの

   ようだ。


   「なんでこんなにひんやりしてるんだ?」

   「俺の準備が出来次第、そっちへ行って

   やる」


   質問に答えず、言いたい事だけ告げると、

   エンウィディアは再び泡となり消えて

   いった。転移したのだ。


   (………性格が全然違うんだよなあ)


   自身が設定したエンウィディアとは正反対の

   性格に何かあったのかと郁人は頭をひねる。


   黙りこんだ郁人を心配して、ユーが

   頬にすり寄る。


   「ありがとう、ユー。

   ……って! いつのまに?!」

   「マスター! 大丈夫でしたか?」


   ユーの登場に驚く郁人の影からポンドが

   現れた。


   「ポンドまでっ! どうしてここに?!」

   「従魔契約を結んでますからな。

   マスターの魔力を追ってユー殿とこちらへ」


   契約を結んでいるから出来る事ですな

   とポンドは微笑む。


   「チイト殿達はあのまま馬車でホテルへと

   向かっております。今回、私とユー殿以外の

   者達はそばに居ないほうが良いとチイト殿が

   言われましてな」

   「そうなのか!?」

   〔あのファザコンが?!〕


   ずっとあんたのそばを独占したがる

   あの猫被りが?! とライコは声をあげた。


   「でも、どうしてそばにいないほうが

   いいんだ?」


   目を丸くし、不思議がる郁人にポンドは

   告げる。


   「そのチイト殿から伝言ですが……

   “本当はそばに居たいけど、俺やジジイ、

   ストーカーが居たらパパの歌の練習を

   邪魔しそうだから……隣にいれなくて

   ごめんね" だそうです」

   

   とても申し訳なさそうでした

   とポンドは告げる。


   「あと……"パパはあいつの性格の豹変ぶりに

   驚いてるかもしれないけど、それはパパが

   原因だから。原因がわかれば、あいつの

   要望も叶えられるかもしれないね?

   コンタットは出来るから、気軽に連絡しても    

   大丈夫だよ“ との事でした」

   「…………………マジかあ」


   原因は自分にあると言われ、ますます

   頭はこんがらがる。


   (俺……何かしたのか?!

   でも会ったのは今日が初めてだし、

   あいつの悪口を言った覚えもないし……

   何が原因なんだ……?!)


   うなっている郁人の腕を誰かがつついた。


   「ん?」


   見ると、ワタのようにフワフワした

   メンダコらしきものがこちらを見ていた。


   「メンダコ?」

   「こちらはたしか……

   フメンダコでしたかな?

   メロディーをこのフメンダコに

   口ずさめば楽譜を書いてくれる

   そうです」


   手元に紙などがなくても記録できる

   音楽家ならほしがる魔物ですな

   とポンドは説明した。


   「ただフメンダコはとても警戒心が強く、

   相手を気に入らなければ近づくことも

   許しはしない、とても気難しい魔物だと

   聞きましたな」

   「そうなんだ。でも、ここにいるって

   ことは、さっきエンウィディアがあとで

   来るって言ってた子かな?」

   「影から聞いてましたがそうでしょうな。

   エンウィディア殿と契約しているので

   しょう。エンウィディア殿の言う事を

   聞いてるようですし、とても懐いて

   いるのでしょうな」

   

   2人の会話を気にせず、フメンダコは

   ふわふわ浮かび、廊下を進む。


   ある程度進むとこちらを振り向いた。


   「着いて来いということでしょうな」

   「だな」


   郁人達はフメンダコの後をついていく。


   「それにしても、とても神々しい場所

   ですな。神殿とは知ってはいましたが、

   まさかこれ程までとは……」


   ポンドは見渡し、息をのむ。


   「あの方はそれほどまでに力がある

   という事でしょうが……。

   どういった方なのですかな?」


   尋ねるポンドにライコは同意する。


   〔あたしも気になるわ。どんな奴なの?

   いや、どんな奴だったの?〕


   2人の質問に郁人は答える。


   「エンウィディアは女の子が夢みる白馬の

   王子様をイメージしたな。誰に対しても

   優しくて、思いやりのある感じの。

   音楽が大好きで、皆を感動させる素晴らしい   

   演奏を奏でるんだ」

   「……………性格が違いませんか?」


   白馬の王子という単語にポンドは頬をかく。


   「そうなんだよな……。

   チイトが言うには俺が原因らしい

   けど……さっぱりでさ」

   〔それに、どうして悪に堕ちたのかも

   気になるわ。どうして堕ちたのよ?〕


   ライコの問いに口を開こうとしたとき、

   ポンドがあっ?! と声をあげる。


   「重大なことをお伝えし忘れて

   おりました!」

   「重大なこと?」


   ポンドはあわてて口を開く。


   「“ちなみに、あいつが演奏しなくなれば

   いずれ国は海の藻屑に成り果てるよ。

   俺はどうでもいいけど、パパは

   気にしそうだよね“だそうです!」

   「………………うそお」


   国の存亡までエンウィディアの音楽は

   握っているの……

   と郁人は呼吸ができなくなった。   


   「嘘と思いたいですが、チイト殿がマスター

   に嘘をつく訳がありませんからな」


   ポンドは眉を下げる。


   〔………調べたら本当だったわ。

   これは書類通さなかった影響じゃなく、

   未来ノートにこの事が載ってるもの……。

   理由はまた調べたら教えるわね。

   あたしも出来る限りのことはするわ〕


   だから、頑張りなさい

   と、ライコは郁人にエールを送った。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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