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206話 彼女は諦めないようだ




   海の近くにあるアイスクリーム屋

   “カラフルジェラート“。


   女性の人気が高く、特に夏限定の

   アイスクリームは毎朝長蛇の列が

   出来るほど。


   その夏限定商品“フラワージェラート“は

   買い占められていたが……


   「いらっしゃいませー! フラワー

   ジェラートはいかがでしょうかー!」


   赤い花と剣のマークを付けた男達が

   フラワージェラートを配っている。


   「食べれてよかったわ!」

   「買い占められたときは今日食べれないん

   だって悲しかったけど、本当に良かった!」


   客達は頬をゆるませ、嬉しそうに

   笑いながら食べている。


   「ほら、あんたも配りなさい!!

   それが終わったら作るの手伝って!!」

   「ひゃ……ひゃい!!」


   カラフルジェラートの制服を着たベロペロネ

   は額に汗をかきながら必死に働いていた。


   ーーーーーーーーーー


   郁人は説教し、ベロペロネ達を店の人に

   謝罪させた。


   その後、ベロペロネ側と店側が郁人達

   立ち会いのもと話し合った結果、

   ベロペロネ達は買い占めたフラワー

   ジェラートの分の材料費を支払い、 

   買い占めた分だけフラワージェラートを

   一緒に作り、迷惑をかけた客に配る事に

   なった。


   商品を求める客の気持ち、店側の気持ちを

   わからせる為にだ。


   「ベロペロネさん手が止まってるわよ!!

   ほら! こうやって盛り付けるの!!」

   「はいー!!」


   ベロペロネにとって初の接客業になる。


   店の活気、客の対応に追われながらも

   笑顔で勤めなければならない。


   ベロペロネは冒険者であり、蝶よ花よと

   甘やかされて育ったご令嬢。

   あまりの忙しさに大混乱。


   「ベロペロネさん!! こっちに来て!!」

   「ひゃいー!!!」


   ただただ言われるがまま、指示に従うのみ。


   その光景を海辺のベンチでフラワー

   ジェラートを食べながら観察する郁人達。

  

   「店側も考えたものだな。

   あれなら買い占めた品がどれほど求められ、

   愛されているかわかるだろう」


   あれだけ必死になって働いたらな

   とジークスは告げる。


   「わざわざこれの為に遠くから来た

   客もいたからな。落ち込んでいた客も

   満足そうだ」


   喜ぶ客を見ながら篝はフラワージェラートを

   口に含む。


   「これで気持ちがわかったらいいんだけど」

   「お嬢様も流石に身をもって体験すれば

   理解されると思います」


   フラワージェラートを食べる郁人のそばに

   執事が立っていた。


   髪を七三に分け、執事服を着こなした

   青年だ。フラワージェラートを食べながら

   青年はにこやかに微笑む。


   「話し合いの場に間に合って本当に

   良かったです」


   篝が携帯で呼び出した、ベロペロネの

   専属執事“カーディ“だ。


   〔この執事、もと冒険者なんてね。

   全然見えないわね!〕 

   (そうだな。立ち振舞いからして

   ずっと執事なのかと思ったし)

   

   ライコの意見に郁人は同意した。

  

   「私がクフリウス様に呼ばれて離れた途端に

   お嬢様は好き勝手するようになりまして……

   冒険者時代の仲間の協力を得ながら

   探していましたが、会えてよかったです」

   

   胸を撫で下ろしたカーディは篝に

   感謝を告げる。


   「カガリ、連絡ありがとうございます。

   おかげで合流出来ました」

   「約束していたからな。それにしても、

   止める奴を付けなかったのか?」

   「いえ、付けてはいたのですが……」


   カーディは横目で使用人の金髪の男を見る。


   「すいません。俺では止められません

   でした……」


   肩を落とす金髪の男にカーディはため息を

   吐く。


   「全く、妹が居るから年下の扱いには

   慣れてると息巻いていたというのに」

   「本当にすいません。妹に尻に敷かれてたの

   忘れてました……」

   「ちょっとカーディ!! 何で貴方は

   手伝わないのよ!!」


   ベロペロネは涙目でこちらに来る。


   「予想以上にバタバタして大変なん

   だから!!」

   「そのバタバタしているお店で他のお客様を

   押し退けて買い占めた挙げ句に薬を盛ったり

   粗末に扱ったお嬢様の責任ですので」

   「うぐっ?!」


   正論を言われてぐうの音も出なくなる

   ベロペロネ。


   「……災厄様。ストーカー被害に悩んで

   おられでしたら……」


   カーディがこっそり耳打ちした。


   内容は聞き取れないが、チイトは

   鬱陶しそうにしていたが素早く瞬きした。


   「……成る程な。試してみてもいい」


   頷いたチイトは携帯を取り出す。


   「お嬢様、チイト様の女性の好みが

   わかりましたよ」

   「嘘っ?! 好きなタイプ?!」


   疲れきっていた表情が嘘のように晴れやか

   になる。


   「好み、いえ好きな方はこの方だそうです」


   チイトは携帯の画像を見せる。

   

   〔こいつ好きな子いたの?!

   あたしも気になるわ!〕

   (どんな子なんだろ?)

   「どのような方でしょうな?」


   ライコや郁人、ポンドも気になって画面を

   見る。


   「……いつの間に?!」


   郁人は思わず声を上げた。


   画面に写っていたのは、郁人が変装して

   デルフィと親子限定メニューを食べに

   行った姿だ。

   

   <俺の記憶を携帯に画像として

   送ったんだ。フルコーデ記念にね>


   チイトは以心伝心で郁人に伝えた。


   「……………………」


   画面をじっと見つめたベロペロネは

   自分の胸に手をあてた。

   圧倒的格差に目が虚ろになっている。


   「綺麗だろ?」


   チイトは自慢げに次の画像も見せる。

   月のように淡く、物静かな笑みを

   浮かべる姿だ。


   「もしや……この方、ソータウンに現れた

   貴婦人では?」

   「……貴婦人?」


   ベロペロネは画像に圧倒されながらも

   尋ねた。


   「えぇ。お嬢様を探してソータウンに

   立ち寄った際にお見かけしました。

   とてもお綺麗でしたので覚えております」


   あんなに目を引く御方はそうそう

   いませんからとカーディは続ける。


   「立ち振舞いも優雅で、光り輝く美しさを

   もった上品な御方でした。

   今思いますと……災厄様の服装に似通った

   ものを感じますね」

   「たしかに……角やドレスも

   チイトくんに似てるような……

   もしかして……チイトくんの……!?」

   

   ベロペロネはサッと顔を青ざめる。


   「だから、貴様のようなストーカー

   なんぞに興味ない。

   ほら! パパ! あっちで食べよう!」


   チイトは郁人の腕を取り、立ち上がらせると

   引っ張って走り出した。


   「マスター! チイト殿! お待ち下さい!」

   「ポンド!見ようとした瞬間に、 

   なぜ布で目を隠したんだ?!」

   「巻き付けた状態で引っ張るな!!

   首がもげるだろ!!」


   ポンドは2人の後を追う。


   なぜか顔を布で巻き付かれた2人は

   引きずりながら。


   (貴婦人って呼ばれてたんだな……

   って、なんで2人の顔に布を?)

   <パパの変装写真を見たら五月蝿そう

   だからね。ほら、メパーンを早く帰して

   海で遊ぼう!>


   チイトは無邪気に笑った。


   「恋人がいても、あたしチイトくんの事

   諦めないんだからああああ!!!」


   が、後ろから聞こえた声にチイトは

   舌打ちした。


   〔猫被りのこと相当好きみたいね。

   少しはぐらついたりしなかったの?〕


   ライコの問いにチイトは珍しく答える。


   <行く先々にストーカーのように現れ

   薬を盛るのは当たり前。

   俺に触れようと人海戦術まで用いて

   無理やり触ろうとしたり、婚姻届に

   勝手に名前を書いて役所に送ろうと

   する奴のどこを好きになれと?>

   (………………)

   〔……………〕


   あまりの内容に絶句してしまう郁人と

    ライコ。


   そんな郁人達を知らず、ポンドは口を開く。


   「チイト殿がベロペロネ殿を

   殺めていなかったのは意外ですな」

   「攻撃したら顔を赤らめて喜ぶ奴を

   俺が直々に殺ると思うか?」

   「……それは、ガチですな」


   気色悪いと吐き捨てるチイト。

   ポンドは苦笑するしかない。


   郁人達はそのまま海へと向かう。


   「いい加減離してくれないか!」

   「この布を取れー!!」


   2人が解放されるのは海に着いたとき

   になる。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


「材料がないから作れないのよね……」

「作るにしても時間が……」


買えなかった客への対応に悩んでいると……


《どうやら、お困りのようで》


そこへ突然、声が聞こえた。


《材料ならうちにあるかもしれないぜ?》

「もしかして……」


郁人は慌てて携帯を取り出すと

画面にはレイヴンが写っていた。


「レイヴン?!」

《ぬし様、お久しぶりでございますれば。

いやあ、ナデシコからぬし様方が海へ行くと聞き、

スキンケアセットなどを渡すよう頼まれまして》


はい、こちらでございますれば

と携帯からスキンケアセットが出てきた。


「ありがとう、レイヴン」

《きちんとしないと、あいつがうるさいですよ?

で、材料とかならうちでも扱ってるぜ。

ぬし様、画面を》

「わかった」


郁人は画面を従業員へ向ける。


《ほい、こちらがうちで取り扱ってる

果物ですよ?

ジェラートなら、こういった機器もあるぜ。

届くのも最短だあ》

「あっ!このフルーツよ!!」

「こんな機器まであるの!!」


従業員は目を丸くしながら、

画面を見ている。


「材料費などはこちらで払います。

気になった機器もあれば、お嬢様の

ポケットマネーで支払いますので。

レイヴン様でしたね?請求先はこちらに」

《はいよ!》

「ちょっと!カーディ!勝手に……」

「お嬢様は理解されておりませんが、

冒険者には知名度というものがございます。

悪い評判が広まれば、依頼も減りますし、

ギルドも仕事を頼まなくなります。

お嬢様が好き勝手振る舞ったおかげで

大変だったんですよ?」

「……………そうなの?」

「はい。迷惑を被った人達が押し寄せて

きましたので。

ですので、お嬢様は覚悟したほうが

よろしいかと?

奥様がお待ちですから」

「………うわああああん!!」


カーディの言葉にベロペロネは泣いた。



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