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205話 彼の地雷を踏み抜いた




   声のする方向を見ようとした郁人だったが、

   チイトが両頬に触れて(はば)む。


   「パパ、見たら目が腐るよ」

   「チイトくーん!!」

   「でも、チイトが呼ばれて……」

   「あっちで綺麗な景色が見られるんだって」

   「わあっ?!」

   

   チイトは無視して、郁人を片手で抱えると

   そのまま進む。


   「無視しないでよー!!」


   声の主はチイトの後ろから迫り、抱きつこう

   とするもあっさりかわされる。


   「きゃあっ!!」


   声の主、赤い髪にハツラツとした若さに

   輝く少女はそのまま砂浜に顔からダイブ

   してしまった。


   「お嬢っ!」

   「大丈夫ですかい!? ベロペロネ嬢!!」


   慌てた様子でどこからか現れた

   大勢のいかつい男達が声の主に駆け寄る。

   胸元や腕章には赤い花と剣のマークが

   付いていた。


   (もしかして……?!)


   郁人がハッとしていると、ベロペロネと

   呼ばれた少女は立ち上がり、チイトを見る。


   「あたしの抱擁(ほうよう)をかわすなんて!!」


   抗議されたチイトだが汚物を見るような

   目つきで、鋭い舌打ちをする。


   「自ら汚いものに触れようようとする馬鹿が

   どこに居る?」

   「うぅっ……!! このあたしにそんな視線

   を向けるなんて……!!」


   少女は頬を赤らめながら服についた

   汚れを払う。


   「そんなとこも素敵……!!冷たいところも

   本当に良い……!!」

   〔え? こいつ大丈夫??〕


   息を荒くする少女にライコは引き気味だ。


   「……こいつ“赤槍のベロペロネ“か!」


   ベロペロネを見た篝がハッとする。


   「たしか……槍の名手と名高いクフリウスの

   愛娘だな。娘も槍の使い手と聞いていたが

   この子が……」


   思い出したジークスはベロペロネを見る。


   「ベロペロネは使用人であり、パーティ

   メンバーでもある者達を大勢引き連れて

   いると聞いていたが、この者達がそうなん

   だろう」

   「これだけのメンバーがいる方は珍しい

   ですな」

   「使用人全員がクフリウスにしごかれて

   鍛えられているとも聞いたことがある」


   ジークス、ポンド、篝がそれぞれ呟く中、

   それを気にせずチイトに熱い視線を送る

   ベロペロネ。


   「チイトは彼女を知ってるのか?」


   目がハートのベロペロネを見て郁人は

   尋ねた。

   うんざりした様子でチイトは口を開く。


   「どんな奴かは知らない。こいつが

   一方的に俺の事を知っていて、しつこく

   付きまとってくるんだ」

   「あたしはベロペロネ! 何度も自己紹介

   してるのに!」

   「誰も頼んでないし、貴様の名前なぞ

   覚える気にもならん」


   舌打ちするチイトに、ベロペロネは

   頬を更に赤らめる。


   「あぁ……!! その態度……!!

   たまらないわっ……!!」

   「……これだけ惚れられるきっかけは

   あったんじゃないか?」


   うっとりと見つめる姿にどんなきっかけが

   あったのかと郁人は尋ねた。


   「本当に何もしてないよ。

   初めて会ったとき、勝負しろって

   しつこく付きまとってきたんだ。

   俺が無視し続けてもあまりにしつこいし、

   ムカついて蹴り飛ばしたらこうなってた」

   「どうしよ? 聞いても彼女がチイトに

   惚れた理由がわからない」


   なぜ? と郁人は首を傾げる。


   〔冷たい態度が好きなのかしら?

   だとしても、あたしにはわからない

   嗜好だわ……〕


   ライコがわからないと呟くなか、

   ポンドも尋ねる。


   「偶然にでも助けたりなどは……?」

   「全くない。あまりに鬱陶(うっとう)しいから

   迷宮や魔物の巣窟に放り込んだり、

   蹴り飛ばしたり、魔法でふっとばした」

   「暴力的ですな?!」

   「惚れる要素がどこにもねえ」

   「なぜ彼女はあんなに?!

   むしろ嫌いになるくらいだが!!」


   あまりの内容に全員がなんでと頭を抱える。


   「なんでと思う方がおかしいわ!

   あたしはチイトくんの強さに惹かれたの!!

   容赦の無い攻撃に、無慈悲な目!!

   冷たい態度にあたしは惹かれたの!!

   思い出しただけで心臓がドキドキして……

   もう最高っ……!!」


   両頬に手をあてながら、体をくねらせる

   ベロペロネ。


   「吊り橋効果とあるが、その恐怖と

   胸の高鳴りを勘違いしたのでは?」

   「もしくは、チイト殿が被虐趣味に

   火をつけてしまったのでしょうな」

   「もしかして……こいつか?」


   考察を話し合うジークスとポンド、

   篝は思い出したように携帯を触っている。


   「久しぶりに会えたチイトくんに

   プレゼントがあるの!」


   空気をあえて読まずベロペロネは

   カバンからあるものを取り出す。


   「……あれって」

   〔数量限定のじゃないかしら!

   見た目が聞いたのと一致してるわ!〕


   取り出したのは先程の女性が力説していた

   アイスだ。

   特徴も一致し、赤い花と剣のマークを

   付ける使用人の姿から買い占めた者達だと

   疑いようがない。


   「これをチイトくんに渡したくて……!!

   受け取って!」


   ベロペロネは頬を染めながらチイトに

   差し出した。


   「…………」


   しばらく見ていたチイトだったが、

   指を動かして魔法でアイスを浮かせると


   「ふんっ!!」


   ベロペロネの後ろにいた使用人の顔面に

   ぶつけたのだ。


   「チイトっ?!」


   突然のことに呆然としていた郁人だが、

   更に驚くことになる。


   「お嬢――!!」


   ぶつけられた使用人は頬を赤らめながら

   ベロペロネに飛びつこうとしたのだ。


   すぐ他の使用人達に取り押さえられたが

   様子があまりにおかしい。


   「やはり薬を入れていたか」


   チイトは舌打ちをした。


   「薬って?」

   「惚れ薬だよ。あいつ、毎回俺に

   食べ物に渡すんだけど、それに薬を

   仕込んでるんだ。俺には効かないけど、

   口に入れるのも嫌だからね」

   「今回はうまくいくと思ったのにー!!!

   こうなったら、全部にかけてやるん

   だから!!」


   ベロペロネはムッとしながら、

   たくさんのアイスをカバンから取り出す。


   「いっぱいあるし、なくなったら

   すぐ買えばいいもの、こんなもの!」

   「……毎回チイトに薬を盛ったものを

   渡してたんだ。しかも、買い占めて

   たくさんの人に迷惑をかけてまで買った

   アイスをこんなものって……

   チイト、降ろして」

   「うっ、うん」

   〔どうしたのよ?〕


   なにかを感じ取ったチイトは言う通り

   郁人を降ろした。


   「聞いてもいいかな?」


   郁人はベロペロネのもとへと進み、尋ねる。


   「君はひと口でも食べた?

   チイトに薬を盛るためだけに買ったの?」


   郁人に気づいたベロペロネはどうでも

   良さそうに、郁人を見ないで答える。


   「食べてないわ。別にこんなの食べたく

   もないし。チイトくんが甘いもの好き

   という情報を得たから買っただけだもの」

   

   あたしは辛いものが好きだから

   と買い占めたアイスに薬をかけようとする。


   が、郁人は素早く薬を取り上げた。

 

   「ちょ?! 何する……」

   「座りなさい」

   「は? なんであたしが……」


   ベロペロネは初めて郁人を視界に入れた。


   「ーーー!!!!!!」


   瞬間、体が固まる。


   蛇に睨まれたカエルのように動かない。

   全身が凍ったのかと思うほどに動かない。


   なぜなら、能面のような表情に体が震えて

   しまうほどの冷たい怒りを漂わせていた

   からだ。   

   

   「ねえ? 聞こえなかったかな?」

      

   郁人は無表情で口を開く。



   ー「座 り な さ い」



   「ひゃ……ひゃい!!」


   ベロペロネはあまりの圧に従ってしまう。


   「そこの人達も全員」

   「ひぃっ!」

   「すぐに座りますっ!」

   

   使用人達はすぐさま膝をついた。


   郁人の吹雪のように凍てつく怒りを

   浴びたベロペロネは後に語る。



   ー "あれはお母様がキレたときに

   似ていた"と……



   ーーーーーーーーーー

   

   ベロペロネ達を冷たいトーンで

   説教する郁人を見ながら篝は呟く。


   「かなり頭にきたようだな。

   あいつは食い物、人が作ったものを

   粗末に扱われることを嫌うからな。

   薬も盛ってるようじゃ……

   これは長くなるぞ」


   あいつがあのモードに入ったらな

   と篝は思い出していた。


   「パパが俺のために怒ってる……!!」


   頬を紅潮させたチイトは郁人を見つめる。


   「イクトは君に薬を盛ったものを

   渡したことに関してもだが、

   料理を粗末に扱うことなどにも

   怒っているから、君のためだけでは

   無いと思うが……」

   「ジークス殿、良いではないですか」


   考えを述べるジークスにポンドは苦笑する。

   いつの間にか、ポンドの肩にいたメパーン

   は目を丸くしていた。


   〔……こいつ、説教モードになったり

   するのね。事実しか述べてないのが

   怖いわ……〕


   ライコは思わず声を震わせた。


   胸ポケットに居たユーは郁人の声が

   あまりに冷たいので呆然としていた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


活動報告にてリクエスト企画について

書かせていただきます!


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