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204話 帰すため海へ 




   歩くと、さくさく音がついてきて、

   磯の香りが鼻に届く。

   まだシーズンではないため、人もまばら。

   湖のように静かな海だ。


   「綺麗な海だな」

   「そうだねパパ!」

   〔本当に綺麗だわ。夏本番になったら

   人で溢れるでしょうね〕

   「この海はプリグムジカも近い為、

   もっと人がいると思っていたのだが……」

   「シーズンではないからか?」

   「結構静かなのですな」


   久しぶりの海に心を弾ませながら、

   郁人は浜辺を歩く。


   メパーンを海に帰すために郁人達は

   海に来ていた。


   「地図で見たとき、思ったより距離が

   あったから早く行けるか疑問だったん

   だけど……」

   〔あれには驚いたわよね〕


   郁人は移動手段を思い出す。


   「まさか、大きな"蜘蛛"に乗るなんてな」

   「そうか。イクトはあれに乗るのは

   初めてだったな」

   

   海にはしゃぐ郁人を微笑ましく見ていた

   ジークスは説明する。


   「俺達が乗った巨大な蜘蛛は

   "バレットスパイダー"と言って、

   現在地から目的地までを結んだ糸を

   つたって素早く移動する魔物だ。

   馬車よりも速く、しかも安全な為

   遠くに行く冒険者や商人が使うことが

   多いんだ」   

   「見た目が怖いからと利用する奴は

   少ないがな」


   ほとんど冒険者専用だなと篝は

   ジークスの説明に付け足した。


   「たしかに、大きくて驚いたけど

   そこまで怖くは無かったぞ?」

   〔あたしは見た目が無理ね……。

   それに、あんなデカいと安全だと

   わかっててもヒヤヒヤするわ〕


   あの大きさは無理っ! とライコは

   声を震わせた。  

   

   「待機所が空いていたのは見た目にも

   理由がありそうですな」

   「俺はありだけどな、バレットスパイダー。

   こんな綺麗な海に早く行けるしさ」


   母さん達を連れて遊びに来れるし

   と郁人は告げた。 


   「綺麗なのはこの海がクラーケンの領域

   だからだよ。ゴミを捨てれば食われるから

   綺麗なんだ」

   「……そんな理由だったのか」


   先程まできらめいて見えた海がおどろ

   おどろしく思え郁人は身を震わせる。


   「それでゴミ箱もないのにとても綺麗

   なんですな」

   「周辺に店もあるが、あまり海の近くに

   ないのはクラーケンの影響か」


   ポンドとジークスは納得だと頷く。

   頭に乗るメパーンを見て郁人は不安になる。


   「この近くからプリグムジカに行くらしい

   けど行けるのか? メパーンは……大丈夫

   なのか?」

   〔領域を横断するんじゃないでしょうね?〕


   顔を青ざめる郁人にチイトは告げる。


   「大丈夫だよ。ここからと言っても

   領域を遠回りして行くらしいし、クラーケン

   は妖精族は食べないから。それに出たら

   また食べればいいよ。美味しかったでしょ?

   クラーケンのカルパッチョ」

   「……美味しかったな」

   「待て?! クラーケンを食べたのか?!」


   チイトが初めて作ってくれた料理を

   思い出した郁人に、篝が肩を掴む。


   「彼が出した料理の1つにあったな。

   たしかに美味かった」

   「……ジークス殿も食べたのですな」


   食感も良かったと頷くジークスにポンドは

   固まる。


   「そこまで怯えなくてもいいよ。

   ただデカいだけだし。目についた船を

   潰して遊んでるだけだから」

   「船を潰して遊んでるのかぁ……」

   「それに、人がここまでいないのは

   プリグムジカで問題が起きてるからだよ」


   怯えの基準が違うことに郁人は

   頬をかいていると、チイトが続ける。


   「行く前に軽く調べてみたけど、

   今プリグムジカで病気が流行ってるんだ」


   チイトはスキルでスクリーンを出すと

   症状を画像付きで説明する。


   「原因は未だに不明で、突然倒れる人も

   いれば、次第に意識がなくなっていき、

   昏睡(こんすい)状態になるんだって。被害の多くは

   地元民らしいよ。怖くて観光客は来ない

   そうだけど」

   「それは怖い病気だな……」

   〔あたしも行きたくなくなるわよ、

   そんな病気が流行ってたら〕


   郁人は息を呑み、ライコは思わず呟いた。


   「そんな状況で貧弱になった郁人を誘う

   奴があるか? 誘うタイミングを考えろ」


   招待状を寄越したエンウィディアに

   篝は舌打ちし、ジークスは口を開く。


   「行く予定をずらしたほうがいいのでは?」

   「そこは問題ないそうだ。

   あいつが……”昏睡程度でガタガタ

   ほざくな。それに、テメエらに影響は

   欠片もねえから、さっさと来い”

   って昨日言われたから」

   「言われたって誰に……?」


   尋ねたとき、胸ポケットに居たユーが郁人の

   頬をつつく。


   「どうしたんだ?」


   ユーが尻尾で示す先には色鮮やかな

   トッピングが乗ったスイーツのお店が

   あった。メパーンも気になったのか

   じっと見ている。


   「行ってみてもいいか?」


   郁人が尋ねるとチイトは頷く。


   「いいよ。行こ行こ!」

   「俺も何の店か気になる」

   「行きましょう」

   「……アイスクリーム屋か?」


   ユーが指した場所へ進むと、篝の言う通り

   アイスクリーム屋であった。

   "カラフルジェラート"という店名で、

   好きなサイズと味を選び、好きな

   トッピングを組み合わせれるようだ。

 

   しかし、肩を落としている人々の姿が

   多く見られる。


   〔どうしたのかしら?〕

   (聞いてみよう)


   郁人はその中の1人に話を聞いてみる

   ことにする。


   「あの、どうかされましたか?」

   「え?」


   尋ねられた女性は目をパチパチさせた。


   「皆さんすごく落ちこんでいるよう

   ですが……」

   「あぁ、そりゃ気になるわよね。

   これだけの人が肩を落としてたら」


   不思議そうな郁人に納得した女性は

   説明する。

   

   「この店は夏が近くになると数量限定の

   アイスクリームを出すの。

   "フラワージェラート"って名前で

   すっ……ごくかわいくて美味しいのよ!!」


   女性はアイスクリームについて

   情熱たっぷりに話しだした。


   「さっぱりしたアイスクリームを飾るように

   花びら型のクッキーがついて、フルーツも 

   これでもかってくらいに乗せられていてね!

   まるで花を食べてるみたいで、食べたら

   幸せな気持ちになるの!! あたしは

   それを毎年食べたくてこの近くに引っ越して

   きたのよ!」


   女性は瞳を輝かせ力説した。

   が、一転して肩を落とす。


   「今日がその発売初日だったのに、

   あいつらが全部買い占めていったの!」


   女性は拳を握りしめ、歯を見せる。


   「あいつら?」

   「お揃いの赤い花と剣のマークのバッジを

   付けた集団よ! お嬢様が求めているから

   とか言って!! 1人1つまでと決まってる

   のに!! 店員さんが注意しても並んでる

   人は違うからとか文句言って買い占め

   たの!! そして! 全員が同じ女の子に

   プレゼントしてたわ!!」


   買い占めなんてあり得ない!!

   と女性は地団駄を踏む。


   「それは酷いですね……」

   〔常識がないわね。集団で買い占める

   なんて……〕


   聞いていたユーはムッとし、メパーンが

   眉間にさらに皺を寄せた。


   「でしょ!! 店側もあのマーク付けた

   集団はこれからは入店禁止にする

   みたいだし、次は大丈夫と思うわ。

   貴方達も明日来たら大丈夫よ!!

   ……今日食べたかったのにい!!」


   悔しそうに女性は去っていった。


   「他の方々と同じ内容でしたので

   買い占めが原因なのは確定ですな」


   他の客にも話を聞いて、帰ってきたポンド

   が告げた。


   「さっきの人、アイスの話をしてるとき

   目が輝いてた。それだけ美味しいアイス

   だったんだろうな。食べたかったなあ……」


   郁人とユーはしょぼんとする。


   「……赤い花と剣のマークか」


   呟いたチイトは顔をしかめた。


   「心当たりがあるのか?」

   「……嫌なね」


   郁人は尋ねると、頷きながらチイトは

   心底嫌そうな表情を浮かべた。


   「あれに会いたくないし。パパ、早く行こ。

   メパーンを海に放すんでしょ?」


   噂をしたら来そうだと、チイトは眉を

   しかめながら郁人の腕を掴み足早に歩く。



   「見つけたーーーー!!!!」



   語尾にハートマークがついている声が

   耳に届いた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

面白いと思っていただけましたら

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー


バレットスパイダーにて海へと向かっている中、

郁人は瞳を輝かせる。


「まるで新幹線みたいだ!

乗る空間も綺麗だし、揺れたりしないから

良いな!」


バレットスパイダーにはしゃぐ郁人は

外の景色を見ていた。

ユーも興味津々で外を見ている。


「ユーやワイバーンには乗ったこと

あるけどまた違った乗り心地だな!」

「その2種のほうがレアだぞ」


ユーなんてとくにレアだろ

と篝は呟いた。


「パパはいろんな魔物に乗ってみたい?」


チイトの質問に郁人は頷く。


「乗れたら乗ってみたいな!

魔物に乗るなんて滅多に無いだろうし!」

「じゃあ、機会があれば

俺が乗ってみて楽しかったの紹介するね!」

「………彼のおすすめに不安しか

感じないのだが」

「マスターを乗せるのですから

危険なものではないと思いますよ?」


チイトのおすすめに

頬に汗をつたらせるジークス。

ポンドも大丈夫だと告げるが、

少し不安そうであった。


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