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203話 看板娘(?)の誕生




   大樹の木陰亭、午後の営業を開始したと

   同時に客が押し寄せる。

   職種もバラバラで明らかに上流階級の

   者までおり、比率は女性が多い。


   「いらっしゃいませ……」


   女性客の目当ては後光が見えるほどの

   神々しい笑みを浮かべるメランだ。


   「心が洗われるよう……!」

   「御布施したい……!」


   涙を流しながら手を合わせたり、

   財布を取り出す女性までいる。


   「すげえ女の客が増えたよな」

   「最初はあいつ目当てで、料理食ったら

   さらにハマる奴までいるそうだ」

   「女将さんの料理は絶品だからな」


   それを遠巻きに見ていた冒険者は

   呟いていた。


   「まあ、俺は女将さんという女神に

   会えたら……」

   「追加の注文はいかがでしょうか?」


   後ろから聞き慣れない声が聞こえた。


   「さっき市場で美味しい海鮮が手に入った

   ので、よかったらどうです?」


   振りかえると、人形と見間違えるほどの

   美しい少女がいた。


   「生の魚を食べるのに驚くかもしれねえけど

   新鮮だから大丈夫! ショーユっていうのに

   付けるとうまっ……美味しいんですよ!」


   絹糸のような金髪にインナカラーに

   ピンクを入れた美少女はニコッと

   小悪魔めいた笑顔を魅せる。


   「どうです? 食べません?」

   「いっいただきますっ!!」

   「俺もっ!!」


   大樹の木陰亭に看板娘(?)が誕生し、

   彼らの目当てが増えた。

           

   ーーーーーーーーーー


   大樹の木陰亭が繁盛しているなか、

   郁人の自室にて、全員遅めの昼食を

   いただいていた。


   「こっそり見てたけど、本当に

   すごい人だったな」

   「彼の眷属目当ての客も増えそうだ」

   〔情緒不安定のファンもいたわよ。

   あいつを拝んでて怖かったわ……〕


   口々に感想をこぼすのは大樹の

   木陰亭の事だ。


   メランが入ってから、女性客が

   圧倒的に増えたのだ。


   宿泊客も女性が増えているらしく、

   料理も好評なようで、更に女性客が

   増えているそうだ。

   ジークスやチイト、ポンド見たさで

   来ている者もいるとか……。


   「母さん嬉しそうだったな。

   今まで女性客少なかったから」


   郁人はライラックの嬉しそうな顔を

   思い出し、自身も嬉しくなる。


   「これからも増えていくのは

   間違いないでしょうな。

   眷属のデュラン殿でしたか?

   あの方目当ての客も増えそうですから」

   「俺の知ってる眷属は人と見間違える

   くらいじゃねえぞ」

   「それを言うのでしたら私もでしょうな」

   「……そうだった。あんたは従魔。

   しかもスケルトン騎士だったな」


   常識が壊れそうだと篝は頭を抱えるが、

   ある光景が目に留まった。


   「……なあ、あれはいいのか?」


   篝が指差す先には……


   「うぅ……ノーイエのいじめっこ」


   泣きじゃくりながら紙と向き合うデルフィ

   が居た。ペンを小さい手で持ちながら、

   頑張っている。


   「量……いっぱい。ノーイエは……

   いじめっこ」


   ぐすぐすと泣くデルフィを

   ユーがじっと見ている。


   〔あいつ泣きながら紙と向かい合って

   るわね〕

   「デルフィ、ノーイエさんに出された

   宿題をしてなかったみたいなんだ」

   「ノーイエ? 誰だそいつ」


   新しく聞く名前に篝は尋ねた。


   「新しく入ったデュランさんと

   同じでメランの眷属なんだ。

   メランに教えてもらおうとデルフィは

   お願いしたけど、メランは大樹の

   木陰亭で忙しいからさ。

   生前教師でもあったノーイエさんに

   代わったそうだ。

   オキザリスやオーナーにも教えて

   もらってるって、メランが言ってた」


   郁人が答えると、机に向かうデルフィが

   抗議する。


   「もう! メランってば、ママに

   言わないでって言ったのに!!」


   頬を膨らませるデルフィだが、

   ユーにドスドスと突っつかれる。

   手を動かせと言わんばかりだ。


   「いひゃい! 先代もいじわるする!!」


   デルフィは泣きじゃくりながら、

   頑張って机に向かう。


   「あいつ、やっぱり引き継いで

   なかったんだね」


   チイトがデルフィを見て呟いた。


   「引き継ぐって?」


   キョトンとする郁人にチイトは説明する。


   「妖精は体の機能が低下したら、

   新しい体に魂を移動するんだ。

   魂は妖精の籠に入って、新しい体を

   構築して生まれ変わるんだよ」


   前の体は妖精の籠に利用されてるよ

   とチイトは説明する。


   「体が出来たら前の記憶を引き継いで、

   前と同じ名前で同じように生きるか、

   もしくは新しく生きるか選択するんだ」

   「なんだろ……強くてニューゲーム

   みたいな感じだな」


   聞いた感想をそのまま郁人は口にした。

   チイトは郁人の言葉に頷く。


   「たしかに、それみたいだね。

   前の外見は勿論、ステータスや強さを

   そのまま引き継げるし」

   〔前が騎士だったら、生まれ変わっても

   騎士として生きていくみたいにね。

   強さは勿論、見た目もそのままで

   生きていくのが多いわ〕

   

   チイトの説明に、ライコも付け加える。


   「……こいつ、なんでそんなことを

   知っている? そもそも合っているのか?」


   (いぶか)しげな篝にジークスは告げる。


   「彼がイクトに間違えた事を教える

   筈が無い」

   「チイト殿がマスターに嘘は

   つきませんから」


   ポンドも同意した。

   3人を他所に、チイトは説明を続ける。


   「こいつの場合は、新しく生きていく

   ことを選択してるよ。チラッと見たら

   見た目や地位、強さ以外は引き継いでる

   ようだし。見てみる?」


   チイトは許可を得ず、指で四角を描くが……


   「ダメー!!」


   飛んできたデルフィはあわててチイトの

   指を掴む。


   「ママを驚かせたいもん!

   だからダメー!!」

   「………」


   抗議するデルフィを冷たい目で

   見つめるチイトに郁人は声をかける。


   「チイト。本人がそう言ってるから。

   楽しみにしとくよ」

   「別に驚きはしないが……」


   仕方ないとチイトは見せるのをやめた。


   「もう! 宿題終わらせようと

   頑張ってるのに!」


   邪魔しないでよねと言いたげな様子で

   デルフィは戻ると机に再び向かう。

   しばらくすると尻尾がシナシナになる。


   「えへへ……紙真っ白……」

   「デルフィ殿、あきらめてませんか?」


   ポンドが思わず苦笑した。


   「うぅ……頭がパンクしそう……」


   涙目になるデルフィに郁人は

   思い付いたようにホルダーから

   クッキーを取り出し、皿に盛り付ける。


   「……はぁ」


   郁人がすることを察知したチイトが

   ホットミルクを空間から取り出す。


   「パパは甘いよ」

   「ありがとうチイト」


   ため息を吐くチイトの頭を撫でたあと、

   ホットミルクとクッキーを持って

   デルフィに近づく。


   「勉強を自分からしたいなんて偉いな。

   少しずつしたら終わるから、頑張れ」

   「ママ……!!」


   デルフィは涙をにじませると、

   ホットミルクを飲む。


   「ありがとうママ! 俺頑張る!!」


   クッキーを頬張り、ペンを走らせる。


   「やれるならさっさとやれ」

   「マスターの応援に気分が

   乗ったのでしょうな」


   舌打ちするチイトをポンドが宥めた。


   「うぜえ」

   「あっ、メパーン」


   メパーンがふよふよと飛びながら

   どこからか帰って来た。


   「どこに行ってたんでしょうな?」

   「洗面台とかではないだろうか?

   少し濡れている気がする」


   ポンドははてと首を傾げ、

   ジークスは見た印象を述べた。


   「メパーンは時々水に触れないと

   しおれるらしいからな。

   しおれている姿も少し気になぶっ?!」


   メパーンは篝の顔に突撃すると、

   昼食のハムを奪い食べ始めた。


   「勝手に人のを奪うな!!」


   説教する篝をよそに、メパーンは

   郁人の肩に乗ってパンを見つめる。


   「……食べて大丈夫なのか?」

   「大丈夫。メパーンは雑食だから」


   チイトの言葉を聞き、郁人はパンを

   ちぎってメパーンの口元に持っていく。


   「うぜえ」


   メパーンは手から食べ、頬張ると

   勝手に郁人のコーヒーを飲む。


   「コーヒーも飲めるの?!」

   「主と食の好み似るらしいし、

   そいつの主の影響だろうね」


   メパーンが飲むって聞いたことないから

   とチイトは告げた。


   コーヒーを飲んだメパーンはどこからか

   ハープを取り出し歌いだす。

   言葉はわからないが、どこか懐かしい

   メロディだ。


   「歌詞はわかりませんが、良いメロディ

   ですな」

   「妖精の言葉なのだろうか?」

   「うぜえ以外も話せるんだな」


   ポンド、ジークス、篝はそれぞれ感想を

   呟く。


   「メパーンの主もいるみたいだし、

   早く海に帰してあげないとな」

   〔そうよね。心配してるだろうし〕


   ライコは郁人に同意した。


   (それにしても……このメロディ

   どこか引っかかるような)


   傷が開くようなヒリヒリとした感想を

   郁人は抱いた。


   「こいつの主って……」


   チイトは1人、考えた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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ーーーーーーーーーー


デュランが働く姿を陰から見守る姿が3つ。


「無事働けているようです。

よかったですね、旦那様、奥様」

「……………」


2人に声をかけるノーイエ、見守っている

首無し騎士、浮いている手首だ。


「ここの手伝いをしたいと言われた際は

驚きましたが、見事に仕事をこなして

おります」


良かったですねと告げるノーイエに、

手首はノーイエの手のひらに指で書く。


「奥様はご子息が働いている姿を

額縁に入れたいのですね。

でしたら、こちらで撮影するのは

いかがでしょうか?」


ノーイエはカメラを取り出す。


「こちらカメラというものです。

このカメラを向けて、このように

ボタンを押せば……」


ノーイエは実演しながら、デュランの

働く姿を写真に収めた。


「このように撮影できますし、

撮影した光景は写真として額縁に

入れれますよ」

「………」


カメラに首無し騎士は驚きながら

絵を描く動作をする。


「はい。絵を描かなくてもこちらさえ

あれば働く姿を飾ることが出来るのです」


首無し騎士はその言葉に驚き、

手首はカメラに触れている。


「撮影されますか?

どうぞ、少し重いですのでお気をつけて」


手首はカメラを受け取ると、デュランの

撮影をした。

首無し騎士もカメラに興味津々だ。


「旦那様もどうぞ撮影を。

このような慶事はたくさん

撮影したほうがいいですから」


ノーイエは穏やかに微笑んだ。


「もう……お父様ったらあんなに撮って!

お母様もはしゃいでるし、先生も

止めろよな!」


口ではそう言いながらも、

デュランの表情はとても嬉しそうだった。




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