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198話 一夜明けてのこと

 



   篝の加入試験から一夜明け、

   ソータウンの病院には

   患者が大量に搬送されていた。


   あまりの多さに診療所にまで

   搬送されていく。


   その患者には共通点がある。


   共通点は、全員が冒険者であり、

   体は傷だらけ、目を虚ろにしながら呟き、

   叫んだり、いくら抑えても暴れる点だ。 


   他にもじつは共通点があるのだが、

   1番わかりやすい共通点は……


   「窓に窓に……!!」

   「……あ……あ……く……ふ……」

   「あはははははははははははははははははは

   はははははははははははははははは!!!!」


   全員が発狂していることだ。


   「もう! どうしてこんなに正気を

   失っちゃってるの?!

   冒険者だからスタンピードが原因かと

   思ったけど発生してないみたいだし!

   なにが原因なの?!」


   アマリリスは慌ただしい状況のなか、

   看護師達に指示していく。


   「その患者さんはまだマシなほうだから

   隣の部屋に運んで!!」

   「はい!」 

   「そこの患者さんは身心共に危険な状態

   だからこちらへ連れてきてちょうだい!

   悪化している方から処置していくわ!!」

   「かしこまりました!」


   アマリリスの指示を聞いた看護師達は

   行動に移る。


   「コラ! 暴れないの!

   治りたいなら大人しくって、

   聞こえてないわよね……」


   暴れる患者を抑えたアマリリスは

   ストロメリアにお願いする。


   「メリアちゃん! このままだと看護師達が

   怪我しちゃう可能性があるわ!

   だから、もう実力行使も辞さない!!

   抵抗されたら力づくで大人しくさせて!

   けど、加減はしてちょうだい!

   ほどほどによ!」

   「わかりました。処置していきます」


   アマリリスの言葉にストロメリアは頷くと、

   手袋をはめ直し、暴れる患者の意識を

   物理で奪っていく。


   「なんで一気に患者が増えたのかしら?

   ……考えても仕方ないわね。

   目の前の患者の診なくちゃ」


   アマリリスは考えるも首を横に振り、

   目を閉じると深呼吸をし、両頬を叩く。


   「よし! 頑張っちゃうわ!!」


   目を一気に開けて気を引き締めると、

   患者の処置を行っていった。


   ーーーーーーーーーー


   早速依頼に向かったベアスター以外は

   ギルドに集まっており、登録を済ませた

   篝は腕を組む。


   「あの加入希望者達も無理だな。

   チイトやジークスの腰巾着になる気が

   満々だ」

   「マスターが羨ましい、腰巾着め

   とぼやいていた方もおりましたが……

   そのように見ていたとは(はなは)だしいもの

   ですな」

   「君の実力を引き出しているのは

   彼だというのに」


   篝の言葉に、ポンドとジークスも同意した。


   朝方、ジャルダン側から声をかけられた

   加入希望者が大勢詰めかけていたのだ。


   ジャルダン側が声をかけたのは、

   おんぶに抱っこする気満々の者達である。


   他にも、フェランドラの言う

   “ギルドをなめてかかる者“も居た。


   が、その者達は全員、メランが管轄する

   屋敷へと連れられ見事に発狂して

   帰ってきた。


   発狂した冒険者達は病院や診療所に

   搬送されたが、復帰は難しいだろう。


   「全員が傷だらけで発狂してたけど……

   本当に大丈夫なのか?」

   「別にいいんじゃない?

   パパの事を馬鹿にしてたんだし。

   俺がやってもよかったぐらいだよ」


   全員串刺しにしてもいいぐらい

   とチイトが告げた。


   〔この猫被りに串刺しにされるよりは

   大丈夫よ〕

   「気にすんなモヤシ! こいつが動くよりは

   遥かにマシなんだからな!」

   

   万能クリスタルくんを仕舞いながら

   告げるフェランドラの顔は清々しい。

  

   「あいつら、自身のランクが低いのが

   気に食わねえからって、職員を金で

   釣ろうとするわ、グチグチいちゃもん

   つけてきたりよ」


   こっちはちゃんと仕事してるっつうの

   とフェランドラは舌打ちする。


   「てめえらが他から獲物を横取り

   してるから上がらねーんだっつの。

   無駄に良いとこの家の奴もいて

   めんどくさくて仕方なかったんだ。

   あー、マジで清清したわ」


   フェランドラの笑顔は青空ように

   澄み渡り、晴れやかだ。

   よほど苛立っていたのが見てわかる。

   

   「お役に立てたのなら……光栄です。

   屋敷の彼らも……大勢で来て……

   くださるのは……久々だと……

   とても……はしゃいで……ました。

   また……次回が……あるなら……

   是非……歓迎する……そうです……」

   「どうして定期的に来ることが

   安全に繋がるんだ?」


   郁人が尋ねると、メランはオドオドと

   視線をそらしながら、質問に答える。


   「その……あの屋敷……には……

   人形狂いに……殺された人以外に……

   人形狂いだと……疑われ……

   死んだ人も……屋敷に……います。

   その人達は……寂しい……んです。

   人が……恋しくて……一緒………に……

   遊びたい……んです。

   だから……定期的に来ないと……

   寂しさとか……気持ちが……爆発して……

   暴走……してしまう……です」

   「なるほど。だから定期的になのか」

   〔暴走で命を奪われかけるなんて

   真っ平ごめんだわ〕


   郁人は説明に納得し、

   ライコは嫌だと告げた。


   「面倒事が一気に消えてマジで

   スッキリしたわ。

   ありがとな、クマ野郎!」

   「……それ本当に感謝……してます?」


   背中を叩くフェランドラにメランは

   思わず呟いた。


   「……郁人」

   「? どうした?」


   篝は郁人の腕を掴み、ギルドの隅へ行き

   皆と距離を取ると口を開く。


   「お前に聞きたいことがある」

   「なんだ?」



   ー「……お前、妹を覚えているか?」



   「へ?」


   突然の質問に郁人は目を丸くする。


   「お前のことを思い出したときから

   気になっていた。

   お前は未だに思い出せない記憶が

   あるとは聞いている。

   が、お前は妹を大切にしていた。

   まるで自分の娘のように世話を焼いていた

   妹を今まで思い出さないのは

   おかしいだろ」


   何回お前は父親かと言いたくなったか

   と篝はぼやく。


   「まず、俺からしたらお前が

   妹の名前を口にしないのはおかしい。

   お前ならば絶対に妹の名前を

   口にしているはずだ。

   思い出さないとしても、なにかの拍子で

   ポロっと声に出しててもおかしくない。

   それに……」


   篝は眉間にシワを寄せる。


   「俺も妹とは長い付き合いだが……

   名前もだが、顔すらわからないんだ。

   ……おかしいと思わないか?

   俺はお前のことを無自覚ながらも

   覚えていた。思い出した。

   なのに、妹のことは思い出せない。

   居たのはハッキリわかるんだが、

   姿や声がさっぱりだ」


   腕を組みながら、必死に思いだそうと

   篝は頭をひねる。


   〔そういえばそうね。

   あたしもあんたから妹さんの名前を

   聞いたことはないわ。

   あたしがあんたから聞いたのは

   あんたと双子で美人でホラーが苦手。

   あと、あんたが世話を焼いてたくらいね〕


   ライコも確かにと同意した。


   「妹のことだろ?

   勿論……覚え……て……」


   郁人は口に出そうとした。

  

   「ーーーーーー」


   が、声にならない。


   (俺の妹は……どんな姿をしていた?)


   妹の姿に(もや)がかかる。


   (どんな姿でどんな声をしていた……?!

   話さない日はなかったのに……

   会わない日なんてなかったのに……!!)

   

   あんなに、毎日ずっと一緒に居たのに

   姿は勿論、声もわからない。


   (なんでだ?! 俺はどうして

   思い出せない?!

   まず、篝に指摘されるまでなんで

   気づかなかったんだ……?!

   おかしいだろ!!

   どうして……どうして……?!)


   いくら頭をひねっても思い出せない。

   そんな自分に、郁人は吐き気を覚える。



   (俺の……妹は…………?!)



   突然、テレビの砂嵐が脳裏に浮かぶ。


   『ーーーーー!!!!』


   砂嵐からは悲しい、胸を締め付けられる

   音が響く。

   必死に何度も何度も何度も、

   子供が親を求めるような悲痛な音だ。

   悲しい音に、郁人は手を伸ばそうとする。


   が、出来ない。


   答えることすらも出来ない。

   どこからか桜の花弁が散る。


   (あれ……これ……桜……なのか……?)

   

   いや、桜ではない、これは……。



   「パパっ!!」



   自分を求める声が聞こえた。




ここまで読んでいただき

ありがとうございました!

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よろしくお願いします!


ーーーーーーーーーー



腰巾着規希望者が屋敷へ向かった頃、

ベアスターは篝に声をかけていた。


「カガリさん、でしたわよね。

少しお願いがあるのですが……」

「内容による」

「私はこのギルドや付近のことを

あまり知りません。

ですので、詳しい方を教えていただけませんか?

その方と組んで依頼の道中に

教えてもらえたらと」

「なるほど。

そういった事なら……あいつがいいな。

あいつは色々と詳しい。

それに、あいつならお前の腰巾着に

なろうとはしないからな」

「そこまで気遣っていただき

感謝しますわ」


ソータウンのことや、ジャルダンの

冒険者のことはあまり知りませんでしたので

とベアスターは感謝する。


「清廉騎士の異名を持つあんたと

手合わせしたかったからな」


紹介する礼にしろよ

と篝はコンタットで紹介相手に

了承をとる。

 

「わかりましたわ。

手合わせの際、加減はしませんわよ」

「加減などこちらからお断りだ。

……返事がきたが、タイミング良かったな、

あんた。

あいつ暇だったからすぐに来るそうだ」

「それは良かったですわ。

相手はどのような方なのです?」

「以前、迷宮であの魔道具が見つかった際に

あんたを俺のところへ案内した奴だ。

名前はグルーシスという」

「まあ!あの方ですのね」


初対面という訳ではありませんわね

とベアスターはホッと息を吐く。


「初めて会う方は私を見ると緊張するので

少し申し訳なかったのですが

安心しましたわ」

「異名持ちだからだろうな」


異名を持つのはそれだけ凄腕の証拠

だからなと篝は呟く。


「おーい!カガリ!

組んでほしい新人って……だれ……」


そこへ篝に呼ばれて青年、グルーシスが

やってきた。


「こいつだ。

ジャルダン所属になって、ソータウン周辺の

ことなど知らない新人だ」

「お久しぶりですわね。

ジャルダン所属となりました、

ベアスターと申します。

いろいろと教えていただけると

ありがたいですわ」


ベアスターを見て固まる青年に

篝は気にせず紹介し、ベアスターは

お辞儀した。


「………新人なんてもんじゃないだろう!!」


俺が凄腕冒険者の清廉騎士さんに

教えれることなんてないだろうが!!

とグルーシスは叫んだ。


その後、グルーシスはベアスターに

押されて依頼に同行することになる。


「よろしくお願いしますわね、

グルーシスさん。

教えを乞う立場ですし、先輩もしくは先生と

お呼びしたほうがよろしいかしら?」

「恐れ多いですので、呼び捨てで

お願いします!!」


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