196話 合格祝い
大樹の木陰亭にて、郁人達は
いつもの一角で食事していた。
郁人、チイト、ジークス、ポンドといった
いつものメンバーに加え、篝もいる。
「加入試験合格おめでとう!篝!」
「改めて、よろしくお願いします
カガリ殿」
「あぁ。こちらこそよろしく頼む」
なぜなら、試験合格の祝いをしている
からだ。
「合格おめでとう。
あのような過酷な試験を乗り越えた
君が加わるのは心強い」
ジークスは祝いの言葉を告げると、
尋ねる。
「俺とも1度手合わせを頼みたいが
よいだろうか?」
「俺も孤高と呼ばれているあんたの
実力は気になっていた。
俺からもよろしく頼む」
篝はジークスの言葉に頷き、
和気あいあいとしているなか……
「………………」
チイトだけが不機嫌だった。
眉間にシワを寄せて、
不機嫌オーラ全開である。
「あいつ、本能で突破するとか
なめてるのか?
俺達が頑張って考えたのを脳筋
クリアとかふざけてる」
頭を使ってクリアしろよ
とチイトは不満げだ。
「それに、パパに絶対べったりで
ベタベタするでしょ。
あいつ昔からパパにベタベタしすぎて
嫌だから、加入試験難しくしたのに……」
「チイト」
そんなムスッとしたチイトの頭を
郁人は撫でる。
「そんなに嫌なのに合格パーティに
付き合ってくれてありがとうな」
「……だって、パパのご飯食べれるし」
〔あいつ、加入してもしなくても
付きまとうのは変わらないと思うわよ。
あんたが不機嫌になることは決定事項ね〕
その光景が目に浮かぶわ
とライコは述べた。
「………たしかに、あいつ合格しても
しなくても絶対に付きまとうな。
なら、目の届く範囲にいたほうが
警戒しやすいか」
ライコの言葉にハッとしたあと、
チイトは顎に手をやる。
<貴様もたまに、本当にごくたまに
良いこと言うな、駄女神>
〔一言余計なのよあんたは!!〕
(なんだろ……?
こういうの懐かしい気がする)
チイトとライコの言い合いに
ふと懐かしさを感じた郁人。
そこへ、篝が声をかける。
「おい。パーティ内でルールとか合ったり
するのか?」
「ルール?」
きょとんとする郁人にジークスが説明する。
「パーティを組む者達はパーティ内での
ルールを決めるらしい。
前衛後衛の役割や、報酬の分け前に
ついてなどもあるそうだ」
「そうなんだ!」
「……お前、そんなことも
知らなかったのか?
パーティで迷宮行ったりしたとき
どうしてたんだ?」
説明を聞いて目をぱちくりさせた
郁人に篝は呆れた様子だ。
「どうしてたっけ……?」
「振り返りますと、チイト殿と
ジークス殿が攻めていき、私とユー殿が
マスターを守っていますな」
「イクトを守ることを前提とし、
他の役割は考えないで突き進んで
いた気がする」
「まず、パパと一緒に迷宮行ったの
ドラケネスぐらいじゃない?
屋敷の迷宮はパパ不在だったし」
皆がそれぞれ振り返るなか、
篝は目を見開いたあと口を開く。
「…………お前ら今まで何してたんだよ。
夜の国に行ってただろ」
「夜の国は依頼があったから
迷宮に行ってないよ」
「じゃあ、ドラケネスの迷宮だけで
一気に上に行ったのか……?!
どれだけ狩ったんだよ!」
「これくらいだな」
額に手を当てる篝にチイトは六法全書並に
分厚いファイルを差し出す。
「チイトいつの間に用意してたんだ?!」
「パパが魔物とか気になるときあるかも
って、暇なときにファイリングしてた」
すぐに渡せるように用意してたんだ
とチイトは笑う。
「青いページは俺がパーティを
組んでないときに狩ったので、
赤いページはパーティ加入してからのだよ。
赤いページにはジジイとポンドが
狩ったのも一応載せてる。
いつ狩ったかもわかりやすいように
してるよ」
「チイトすごいな!
あとで見せてもらってもいいか?」
「もちろん!」
郁人はチイトの頭を撫で、
撫でられたチイトはご満悦だ。
〔改めて見ると、どんだけ狩った
っていう話しよね〕
ライコは思わず呟いた。
「………………これだけ狩ってたら
上にいくのは当然だな」
ファイル、特に赤いページ部分を
少し流し見しただけでも
わかるくらいだ
と篝は呟く。
「ドラケネスでお前らが単独で狩った
と記載されてる魔物は1人で狩れるもん
じゃない。
まず、お前らが行ったドラケネスの
迷宮は初手でいく迷宮じゃねえ」
高ランクな魔物が多い迷宮だからな
と篝は告げる。
「それにドラケネスの迷宮の
スタンピードは並のパーティでは
耐えられないと言われている。
だから、ドラケネス王国の騎士達が
相手するが……
あんた達だけで相手したのか」
初迷宮でスタンピードに遭うとか
災難でしかないんだぞ
と篝は頭を抱える。
「しかも、きちんとスタンピードを
抑えるのに成功か。
これは上にいくのも納得だ」
「では、篝殿も加入されますし
これからパーティ内での決まり事など
決めますかな?」
「別になくて良いと思う。
決めたら枷になる気がする」
ポンドの言葉にジークスは話す。
「俺と災厄はイクトを守るという
共通事項があるからパーティが
成立している部分がデカい。
更に決めていけば……
俺が言うのもアレだが成立しなく
なりそうだ」
「たしかにな。パパが嫌がるから
戦ってないだけだし。
決まり事を決めて守らなかったら
守らないほうが悪いって斬るかも」
「よし! 俺達は今まで通りにいこう!」
「えぇ! そのほうがよろしいかと!
カガリ殿にはあとで私から分け前などに
ついても説明しますので!」
「……お前ら今までよく成立してたな」
ジークスとチイトが静かに火花を
散らしているのを見て、郁人とポンドは
宣言した。
篝は呆れ果ててしまっている。
「まあ、成立してるなら別にいい。
おい、お前の部屋に物を置くから
鍵を貰っても?」
篝は郁人に手を出した。
「いいよ。鍵を渡すのは加入したらって
約束してたからさ。
でも、なんで荷物を?」
キョトンとしながら郁人は篝に
鍵を手渡した。
鍵を受け取りながら篝は答える。
「なんでって一緒に暮らすからだ。
前に大人になったらルームシェア、
同棲する約束してただろ。
本来ならもっと早めだったが
お前の妹がうるさくて
先延ばしになっていたがな」
疑問を持たれることに目を丸くした
篝だったが、その両肩に2人が待ったと
手を置く。
「鍵を渡す約束してた事に驚きだが、
パパは約束を守るから鍵を渡した事に
関しては100歩、いや1000歩譲るが
同棲は認めない」
「前の世界での約束をここにまで
持ち越すことは無いと思う。
前は前。今は今だ。
彼にも今、一緒に暮らしている
ユーやデルフィもいる。
彼らの許可をとってないのだから、
同棲は認可できない」
チイトとジークスは断固として認めない
と態度で示す。
そんな2人に篝は眉をしかめる。
「お前らの許可はいらないだろ。
郁人、約束してたんだ。
一緒に暮らしてもいいだろ?」
「いいけ……」
〔あんたやめなさい。
これ以上口にしたら2人、とくに猫被りが
暴れるから。
一旦、あの謎の生き物と白いのに
許可取らないとって誤魔化しなさい〕
ライコの言葉にチイトを見ると
目が剣呑な光を宿していた。
なので、郁人はライコの指示に従う。
「えっと、今はユーやデルフィと
暮らしてるからあの子達の許可を
とってからかな?」
「そうか。たしかに先住民の許可はいるな」
篝はしぶしぶといった様子で
納得してはいないだろうが、認めたようだ。
<マスター、認めるのは止めたほうが
よろしいかと。
認めると特にチイト殿が暴れますので>
(……うん、わかった。
チイトの目が怖くなってるし)
ポンドにも忠告をうけて、郁人は頷いた。
「まあ、許可があろうが無かろうが
俺は勝手に気配遮断で入るがな」
「その能力はもっと別のときに
活かせばいいんじゃないか?」
「犯罪行為に使うな、ストーカー常習犯」
篝の言葉に2人はツッコミを入れた。
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